狸便乱亭ノート

抽刀断水水更流 挙杯消愁愁更愁
          (李白)

一句鑑賞文

2006-06-03 15:34:59 | 日録

 よしきりに夜明けの早き沼の宿 作者(T・Yさん)   

 この作者のT・Yさんは、町の民生委員という役職を長年やっておられ、非常にお忙しい方だと漏れ伺っている。句会も投句のみで、ほとんど会には出てこられない。

 この沼の宿とは何処を指すのかは、想像の域を越えないけれど、雰囲気から推して、ボクが泊ったことのあるあの宿の事ではないだろうか? 
 恐らく役職の研修で泊った宿のことであろう。

 ボクも某俳句会の集まりで、ある湖畔の国民宿舎に1泊したことがあった。そのとき句会に出す俳句をひねるのに、手帳とエンピツとを持って、早暁の湖岸にかかる木道の辺りを散策したものであった。
「よしきり」が兼題ではなかったのだが、頭に浮かんでくるのは、湖岸に群生した葦の間から聞こえてくる水鳥のさかんな鳴き声だけである。

鳴き声が「ぎょぎょし」と聞こえるので、俳人は「行々子」というのだそうだ。このときボクもT・Yさんに似た句を考えたような記憶がある。

 句会で、今年はじめて民生委員になったという方と一緒になった。次のような会話を交わした覚えがあるので、なお更記憶が鮮明だ。

小生:「民生委員はいろいろ仕事があるそうでたいへんでしょう。」
某氏:「引き受ける人がなくて、とうとう押っ付けられてしまったが、やる気ならこんな忙しい役はないし、やんなければ何もやらなくてそれで済む。あんまりやりすぎると、肩をたたかれるし、適当にやろうと思っている。町の議員なんか、月に2~3回しか出ないで、高給を取り、更に議会に出れば費用弁償が貰えるんだって…。キョウサントウだって、協賛党のほうが得だから、近ごろはたいへんオトナしくなってしまった。どだい何にもやらないほうがよく思われるし、町のためにもなるんだそうな」
小生:「なるほど、思い当たります」

 ボクはこの俳句から、彼女があまりにも真面目すぎるので、「アカだから…」などと陰口をたたかれていることなどを思い浮かべ、この町の民主主義の実態に思いを致すのであった。