狸便乱亭ノート

抽刀断水水更流 挙杯消愁愁更愁
          (李白)

地名「木葉下町」

2005-09-28 09:26:37 | Weblog
ボクは運送屋という商売をつい最近まで経営していた。使用人を監督する立場の責任者でありながら、零細店ゆえ自らもトラックの運転を、しばしばやってのけた。勿論地場トラックであり、配送先が殆ど近県のみに限られていたから、やらざるを得なかったし、出来たようなものである。

そして得意先の運送品目は、殆んどが建設会社の資材運搬であった。随分、怒られたり、怒鳴られたりは、したけれど、延着だとか、水濡れだの、商品破損での法外もない額の損害弁償などといった実害の例は殆どやらずに済んだ。(全くなかったわけではない。それは後日の話のタネに取っておく)零細運送屋としては比較的恵まれた方だったかもしれぬ。
しかしこれが今日の主題ではない。
トラックの運転をしていて出会った、読めない地名についての変哲もない話である。

ボクが今まで通った道路で、変わった地名の一例を挙げれば、茨城県から船橋に向かう途中「神々廻」という処があるのを、御存知の方も多いかとは思うが、(千葉県白井町にある)これを神々廻(ししば)と読む。それはかなり難しい読みの部類だろうと思う。

地名にはこんなオモシロい漢字の表現が沢山あって、いままでに出会った難読の地名を、ここで何も調べずに思い出した順に列挙すれば、

神鳥谷(しととのや)栃木県小山市
高道祖(たかさい)茨城県下妻市
月出里(すだち)茨城県江戸崎町
土器屋(かわらけや)茨城県新治村
手子生(てごまる)茨城県つくば市
木葉下町(あぽつけちょう)水戸市
などが浮かんでくる。

これらの難読の地名は、地図上でも、道路に立っている地名標識にも読み仮名や、ローマ字発音表示が、有ったとしても稀であり、実際車を運転しながら見るのでは、それにばかりに注意ができないから、読めない場合が多かった。
そこで帰ってから、調べることになる。

▼「大漢語林 鎌田 正・米山寅太郎 大修館書店」
で「神」、「高」、「月」、「土」、「手」部を引けばこれらは簡単に解決できた。ただ「木葉下町」だけが、どうしても分からなかった。それには大漢和辭典で調べるほかに途はない。

ところが、である。これは地名のことではないけれど、かつてボクは浅草の浅草寺で、ヤマサ醤油の絵画などが展示してある室内に、「黒」偏に「鳥」の旁の漢字を見つけたことがあった。「くいな」とルビが振ってあったのだが、珍しい漢字なので手帳に書き写してきた。(このパソコンのIMEパットの「手書き」を使っても出てこない漢字である)
この字を確かめる為、ボクは購ってから一度も開いたことのない、 

▼「大漢和辭典全13巻 諸橋轍次 大修館書店」
を紐解くことになった。
しかし、結果的にこの「くいな」は部首索引でも、音訓でも、総画検索でも出てこなかったのだ。誇張して云えば、このことだけで約半日を潰したことになる。
前記「大漢語林」や、

▼「角川大字源 尾崎雄二郎・都留春雄・西岡弘・山田勝美・山田俊雄編 角川書店」
で調べても、両方の辞書では簡単に見つけることができたのにである。

大漢和辭典といえば、《二十五万人と九億円かけた漢和辞典》云々と、

▼「辭書漫歩 惣郷生明 朝日イブニングニュース社」
に詳しく書かれている。後に、

▼「東洋学術研究所編・大漢和辞典語彙索引 大修館書店」 
も同書店から出版された。この中からたった1字を拾うことはたいへんな作業であることは間違えない。

さて地名「木葉下町」の読みに戻る。これを大漢和で調べるとなると、また半日が潰れることになるのは確実である。そして必ず見つかる保障はない。
ボクは、この際、

▼「関東圏広域道路地図 1:50,000 人文社」
の巻末地名索引(総ルビ)で納得するしかなかった。