僕の家内は招き猫が好き

個人的なエッセイ?

「公衆電話」 星降る街

2018年01月15日 | Wish
「ちょっと、車を止めてよ」
私は、ハンドルを握る家内に声をかけました。

車は閑静な住宅地のいっかくに、ゆっくりと停車しました。

「たしか、このあたりに公衆電話が、あったのだけど」
私は、ひとり言をいいました。

先日、里寺のお手伝いで九州に帰ったときのことです。

車窓を流れる景色を眺めていると、私はある出来事を思い出しました。
それは、今も私の心にせつなく淡い香りとともに、大切にしまってある風景でした。

最近、公衆電話を見なくなったと思いませんか。

昔はタバコ屋さんの店先や公園、街角のいたるところに設置されていたのに、
気がついてみると取り外されています。

「風情がなくなったな」
負け惜しみと知りつつも、私はいつもそう思っています。

昔、一家に一台しか電話のない時代がありました。
その時代の学生は、親の目を盗み、ビクビクしながら異性に電話をしていました。

私も長電話をして、何度も叱られ、近くの公衆電話まで走った記憶があります。

高校時代。
私は、ある女性に恋をしました。

片想いでした。
けれど、いつも胸をときめかせていました。

受話器の向こうから 聞こえる涙声 
君は 何をなくした・・・

この詩にあこがれ、いつかこんな女性に、めぐり逢いたいと思っていました。

初秋の匂いが忍び寄る、ある日の夕方。

私は、彼女に恋の告白をするため、ホンダ・スーパーカブに跨り、
空き地の片隅にぽつんとたたずむ、電話ボックスに急ぎました。

夕陽が、とてもまぶしく見えました。
受話器を上げ、カードを入れました。

紙に書いた電話番号を押して、彼女の声を待ちました。
鼓動が激しくなり、心臓が破裂しそうでした。

ときとして電話は、人の生命の声を紡ぎだすことがあります。

「僕と、つきあってほしい」
身体の奥から声を振り絞りました。

しかし、受話器に押し当てた私の耳に届いたのは
「ノー」という答えでした。
  
私は受話器をゆっくりと置き、電話ボックスを出ました。
唇をかみしめてドアを閉めたとき、彼女への想いも静かに消えていきました。     

暮れていく、街。
遠くで鳴きだす虫たち。

電柱に灯る明かりがにじんで見えました。

私は、スーパーカブのアクセルをふかし、闇に向かって走りました。

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