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BAR 無人島 5 エピソード1 最終話

2011年05月01日 | BAR 無人島
このゴールデンウィーク中に僕たちの娘は2歳になります。
大きな病気やケガもなく、元気にスクスクと育ってくれていること、あらためて、有難いことだなぁと思います。

1歳の誕生日には僕らからのプレゼントは何もなかったのですが・・
今回は、数日前にたまたま立ち寄った子供服のお店にかわいいTシャツがあったので、奥さんと相談して奮発しました。
3900円!
僕らが娘のために買ってあげたものの中での最高価格です。

そして、プレゼントはもう一つ。
僕らがお気に入りの近所のケーキ屋さんで、娘が大好きなアンパンマンの絵が描いてある誕生日のケーキを予約してあります。
これは、ジジババからの指令です。

二本並んだローソクを、力強く吹き消してくれることを期待しています。




では、超久しぶりの「BAR 無人島」です。
一応、第一話は終了になりますので、時間のある方は一話から読み返してみたりしていただけると嬉しいです。




「BAR 無人島 5 エピソード1 最終話」

店を出ると、ひんやりとした夜気が火照った頬を優しくなでた。
佳世はふり返えると、無人島と書かれたその店の塗装もすっかり剥げ落ち、ゴツゴツとした木の質感が剥き出しになった扉を眺めた。
そっと近づき、右の掌を浮き彫りになっている無人島という文字に押し当てると、この店で経験した様々なことが思い出された。
そして、それらがまるで学生時代の思い出のように思えることに、佳世は自分の今の年齢を考えて、少し笑った。

その時、自分はもうこの店に来ることはないだろうというイメージがひっそりとやって来て膨らみ、やがて雨の雫が柔らかい土に吸い込まれるように、自分の中のどこかに落ち着いた。

今すぐにこの街を離れるわけではないし、今の仕事を放り出したりはしない。
自らが提唱し、始めたプロジェクトであり、命を削ってとまでは言わないが、プライドをかけて全身全霊で取り組んできたという自負のある仕事である。
この仕事だけは、何があっても最後までやり遂げなければならない。
それに、この街を離れることや、故郷に帰るといったことを固く決意したわけでもない。
それでも、佳世には、自分がこの店にもう来ることはないということがわかった。それを事実として理解することができたのだ。

扉から右手を離し、コートのポケットに無造作に突っこむと、名残惜しさを断ち切って、そのドアに背を向ける。
前から男がやって来て、佳世の左手をすり抜けた。下を向き黙々と歩く男は佳世に気づかなかったが、佳世には見覚えがあった。
案の定、男はBAR無人島の扉の奥に吸い込まれて行った。何度か店で顔を見たぐらいで話したことはない男だった。

佳世は自分の今立っている位置、先ほどよりも少し店から離れた位置でもう一度、BAR無人島をゆっくりと眺めてみた。

胸にこみ上げてくるものを感じ、瞬きと深呼吸を続けているうちに、佳世は気づく。眼前の光景が、先程とはガラリと大きく変わってしまっているのだ。佳世は大きく目を見開いた。
そして、すべてが理解できた時、佳世は全身の毛が波打つのを感じた。

自分の意思でここへ来たのではなかった。自分は何かに導かれたのだ。

その瞬間、それがもう佳世の中では、厳然たる事実となった。
この店のある路地もこの店の佇まいも、佳世が自分から一人で訪れるような場所では決してない。
今となっては、自分の立っている回りの景色には、違和感しか感じえない。
どうして今まで気がつかなかったのだろうか、答えのない疑問があふれ出る中、ただ一つくっきりと感じられたことは、この事実の前では、自分は余りにも無力でちっぽけな存在だということだった。

しかし、佳世にとってそれは、わりとすぐにどうでもよくなった。
自分をここへ導くことができたのが、あのマスターかもしれないし、もっと大きな力が自分とマスターを引き合わせてくれたのかもしれない。
でも、それよりも今の佳代にとって重要なことは、自分がこれからも生きねばならないということが決定されたというシンプルな現実が、しっかりとした質感を持って今ここにあるということだった。
自分はこの状態へ導かれたのだ。自分には、これからも生き続けるということが課されたのだ。

それでも彼女は以前の佳世ではもうなかった。
今の佳世にはその事実を息苦しく感じるようなこともすでになく、自分の人生がそうなったのなら、それを当然のこととして素直に受け止めるということができるようになっていた。
そして、同じ生きるのなら精一杯悔いのないように生きてやろうという気持ちになっている自分に気づいて、佳世は気恥ずかしさのようなものさえ感じたりもしたが、それでも微笑んでしまえるほどの余裕が、佳世の中に生まれていた。

でも、おそらく多くの人はこうやって生きているし、生きてきたのだ。今やっと自分は皆と同じスタートラインに立つことができたのだ。
清々しい気分で見上げた都会の夜空は、いつものようにどんよりとしていたが、嫌な気は全くしなかった。その時佳世は、生きるということのダイナミックな躍動感を全身で感じていた。





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2 コメント

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HAPPY BIRTHDAY! (SLIDESWIMMER)
2011-05-02 18:34:06
子供は3才までに親に一生分の幸せを与えてくれるっていうぐらい可愛い時期やし目一杯接してあげてや。みてる間に相手してもらわれへんようなるし(笑)俺とこはGW中に結婚20年目に突入します。お互い歳とったなぁ。
ありがとう! (GOMBO)
2011-05-06 21:40:40
オレはめっちゃ可愛がってるつもりやけど、娘はママの方が全然好きでへこむ。
もうすでにオレとは風呂に入ってくれへんで(笑)
20年目なんやな、すごいやんか。
おめでとう!
確かに歳はとったけど、まだまだ先は長いし、今度は父親トークができるのが楽しみやわ。

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