ひとこと・ふたこと・時どき多言(たこと)

〈ゴマメのばーば〉の、日々訪れる想い・あれこれ

月明かりの中の、二つの情景。

2016-10-16 06:27:32 | 日記
秋雨前線や、台風の影響で、今年の「十五夜」の月は
見えなかったところが多かったようです。
幸い、当方は雲が広がってはいたものの、眺めることができました。

その後、十六夜 立ち待ち 居待ち、などの月も顔を見せぬまま……………
雨模様の夜空を見上げ、月明かりの辺りを探ってみたりして。
そして、ひと月が過ぎ、ここに来て、旧暦9月15日の お月様が
「こんばんは」
と、顔を出してくれました。

先だって宮沢賢治作品講座に出たこともあって、賢治の作品を読み直したりしています。
作品の最後に、月の情景描写がある作品を二つ。

『フランドン農学校の豚』
フランドン農学校で飼われている豚は、自分は価値あるものだと思っています。
ある日、校長は、王の発令による「家畜撲殺同意調印法」に基づき、
死亡承諾書への捺印を豚に求めます。
豚は拒否。
心労の為に豚は瘦せてしまいます。
校長は、強引に死亡承諾書に捺印させ、
畜産学の先生は、肥畜器で豚を肥えらせます。
そして八日後、豚は体を洗われ、翌日の朝、雪の庭へ連れ出されて殺されます。
  《……………………………………………………
   ……………………………………………………
   さて大学生諸君、その晩空はよく晴れて、金牛宮もきらめき出し、
   二十四日の銀の角、つめたく光る弦月が、青じろい水銀のひかりを、
   そこらの雲にそそぎかけ、そのつめたい白い雪の中、戦場の墓地のように
   積みあげられた雪の底に、豚はきれいに洗われて、八きれになって埋まった。
   月はだまって過ぎて行く。夜はいよいよ冴えたのだ。》
怖い話です。
人間の有用の為に、殺された豚(家畜)は、
〈白い雪の中、戦場の墓地のように積みあげられた雪の底〉
に、洗われ八つに分解されて埋められたのです。
月はだまって過ぎて行きます。
夜はいよいよ冴えたのでした。

対比される賢治の作品に、『なめとこ山の熊』があります。
猟師の小十郎は、熊を捕って暮らしを立てていますが、
好きで熊を殺しているわけではありません。
一月のある日、小十郎は、熊を撃ちに山に入りますが、逆に熊に殺されます。
薄れていく意識な中で、
小十郎は「お前を殺すつもりはなかった」という熊の声を聞くのです。
そして、それから三日たった晩、月は氷の玉のように空にかかり、
雪は青白く明るく水は燐光をあげています。
  《白い雪の峯々にかこまれた山の上の平らに、黒いおおきなものが、
   たくさん環(わ)になって集まって、各々黒い影を置き、
   回々(フイフイ)教徒の祈るときのようにじって雪にひれふしたまま
   いつまでも動かなかった。
   そして、その雪と月のあかりで見ると、いちばん高いところに
   小十郎の死骸が半分座ったようになって置かれていた。
   思いなしかその死んで凍えてしまった小十郎の顔は、まるで生きてるときのように
   冴え冴えして、何か笑っているようにさえ見えたのだ。
   ほんとうにそれらの大きな黒いものは、参の星が天のまん中にきても
   もっと西へ傾いて、もじっと化石したようにうごかなかった。》

同じ月明かりの中に描き出される二つの情景。
『フランドン農学校の豚』は、屠られた「豚」を照らす月の光。
そして、『なめとこ山の熊』は、生と死の調和の情景を照らす月光。
どちらも、「在る」ものなのでしょう。

今、月が出ています。
冴え冴えと、天空に。
さまざまな世界を照らして。
                                〈ゴマメのばーば〉
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4 コメント

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なめとこ山の熊🎵 (雀(から))
2016-10-16 07:20:17
あの最後の場面、何かの折りにふと浮かぶ大好きな作品です👮
月明かり (A.S(たわごと的オピニオンの))
2016-10-16 07:40:57
少し寒い朝です。
月明かりを浴びると、人の感性は色々と変化するような気もします。優しくなったり、残虐にすらなったりと。でも、出来るなら前者のままできっと居たいのでしょうに。社会生活の中できっと個々人の心も影響を受けずにはいられないのでしょうね。
今日も昨日と同じように昼間は温暖になってくれれば良いのですが。
今日も、いい天気でした。 (ゴマメのばーば)
2016-10-16 16:25:38
 (雀(から))さま。
賢治の作品では一番好きな作品です。
今日もいい天気でした。
見えるようで、見えない。 (ゴマメのばーば)
2016-10-16 16:37:39
(A.S(たわごと的オピニオンの))さま。
月の光って、何かしら見えていない世界が感じられる気がします。
見えるようで、見えなくて。
今晩も、月が見られそうです。

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