黒岩氏は、同じ佐川町の出身で親しかった四歳年下の植物学者・牧野富太郎に沖縄の植物の標本をたびたび送ったという。
牧野氏にしても、遠い沖縄からの植物は興味をひいたことだろう。牧野氏は「黒岩恒氏採集琉球植物」という著述もある。
黒岩氏は、動物にも強い関心を持ち、昆虫を採集して北海道帝大の松村松年教授に送っていたという。黒岩氏自身が沖縄の動植物、新種の発見と報告を行っている。
なにしろ、「クロイワ」の名前がついた動植物は数十種類もあるそうだ。
例をあげてみる。クロイワカワトンボ、クロイワゼミ、クロイワニイニイ、クロイワツクツク(いずれもセミ)、クロイワハゼ、クロイワトカゲモドキ、クロイワラン??。
この中では、クロイワトカゲモドキというのを地元のテレビの映像で見たことがある。
形は普通のトカゲだが、驚いた動作をすることで知られている。長い舌を出して、自分の眼をペロッとなめて掃除をするのだ。
眼が汚れたので掃除をしたのか、はたまた暑いからなめて涼しくしたのか、その動作の意味はよくわからない。それにしても、面白い癖がある動物だ。いまでは絶滅危惧種になっている。
クロイワゼミは、沖縄本島と久米島にだけ分布している。色や形、生態は国内の他のセミとは異なり、特異な存在だという。黒岩氏が最初に報告し、一九一三年に新種として発表されたそうだ。
クロイワニイニイは、沖縄諸島と奄美諸島に分布している。黒岩氏によって学術的な発見がなされて、同氏の名前がついた。ツクツクボウシと亜種関係にあるクロイワツクツクもやはり同様のようだ。
クロイワカワトンボは、西表島と石垣島だけに分布している。陰湿な渓流に集団で生息しているという。沖縄の昆虫類の解明に貢献した黒岩氏の名にちなんで、この名称がついているという。
リュウキュウアユは、黒岩氏の名前がついているわけではない。しかし、アユは本土の川にはたくさんいて昔から有名だが、沖縄では北部の山原の川にアユがいることを、生物学的に明らかにしたのは、黒岩氏である。
一九二七年(昭和二年)に動物学雑誌に発表した論文の中で、北部の河川の主要な種としてアユをあげているそうだ。
山原の川にいるアユを明らかにしたことは、当時の新聞で取り上げられ、有識者の間で話題になったという。ただし、開発によって河川が汚れ、アユがいなくなったといわれるのは残念だ。
黒岩氏は、海外、県外から沖縄に適した野菜や植物を導入することにも熱心だったようだ。
一八九二年(明治二五年)に、清国大丸ナス、キャベツ、温州ミカンを導入し、一八九六年(同二九年)には台湾から相思樹を導入した。相思樹は、薪炭材として植栽したり、農地防風林として最初に活用したという。
観葉植物の花木として知られるクロトンは、一九一〇年(明治四三年)に黒岩氏がシンガポールから導入したそうだ。
さらに地学関係では、黒岩氏は『地質学雑誌』に「沖縄島について」「石垣島について」「久米島について」それぞれ、発表している。
石垣島には、一八九八年(明治三一年)一二月に、小学校教員検定試験のために渡航し、主務のかたわらで、島の地理の大要を観察したという。別の仕事で離島に出張しても、島の地理、地学について調査する熱心さがうかがえる。
HN:沢村 月刊誌「高知人からの転載」
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