極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

未来の労働価値

2018年10月09日 | 政策論

  



                                              

第40章 「道」とは何か
つねに対立する状態を含み、対立する状態へと転じようとする。それが「道」の運動法則である。
つねに消極を守ることによって、限りない積極に通ずる。それが「道」の作用の形式である
万物をその根元に遡って行けば、「有」すなわち物一般に到達する。その「有」のさらに根元と
なるのは、「無」というより表現しようのないある物である。それが本体としての「道」である。

反・弱・無 本章には、老子哲学の根本である「道」に対する認識が、すべて集約された形で

られている。すべての対立を止揚する単一存在としての「道」から、弁証法的な運動か生まれ、

さらにその運動法則に基づいて、無限の想像力が生まれるのである。


第41章 「大器は晩成す」

正真正銘の士(立派な人物)は、「道」を問けば、熱心に実行する。どうにか士といえる程度の
人は、「道」
を聞いても、半信半疑である。士とは名ばかりの連中は、「道」を間くと、腹を抱
えて笑いだす。
だが、こんな連中の物笑いにならないようでは、「道」とはいえない。

古人もいったではないか。 
「真に明るい道は、賠く見え、真に前進している道は、後退しているように見え、真に平坦な道
は、けわし
く見える。高い徳は、低く見え、真の白さは、汚れて見え、広大な徳は、欠けている
ように見え、堅固な徳
は、その場限りに見え、変わらぬ徳は、うつろいやすく見える。またとな
く大きい四角は、角が見えず、ま
たとなく大きい器は、完全な器とは見えず、またとなく大きい
音は、耳に聞こえず、またとなく大きい形は
判別できない」
「道」は、われわれの感覚を超えた存在である。ただ、万物を生々発展させる根元として、その
存在を疑う
ことはできないのである。

<またとなく大きい器は完全な器とは見えない〉 いわゆる「大器晩成」なる語の出典はこれで
るが、現在では意味を取り違えて用いられている。成語には、えてしてこのような例が多い。

 ● 読書日誌:カズオ・イシグロ著『忘れられた巨人』 No.16  

   

第3章
三人が到着したとき、長屋には誰一人見当たらなかった。だが、アイバーが厨房に入っていって
しばらくすると、年配の女が二人、パン、蜂蜜、クッキーと、ミルクと水の入った水差しを持っ
て出てきた。アイバー本人も、小さく切り分けた鶏肉の皿を運んできた。アクセルとベアトリス
は感謝してその朝食を食べはしめた。

二人とも、食べてみて初めて自分がいかに空腹だったかに気づき、しばらくは黙々と食べていた。
アイバーはそんな二人の向かい側にすわり、遠い目をして、じっと何か考え込んでいた。やがて
ベアトリスが言った。

「サクソン人の村は重荷ではありませんこと、アイバー?少年が無事に戻り、鬼も退治されたわ
けですけど、同族のもとに戻りたいとは思いませんか」

「あれはただの鬼ではないぞ、ベアトリスさん。このあたりでこれまで見たこともない生き物だ。
あれが門の外をうろつかなくなったと思うだけで、心底ほっとする。だが、少年はまた別問題だ。
戻りはしたが、とても安全とは言えない」長屋の中はまた三人だけになっていたが、アイバーは
テーブルに身を乗り出し、声を低くした。一あなたの言うとおり、こんな野蛮人となぜ暮らしつ
づけるのかとよく思うよ。鼠穴に暮らすほうがましだ、ともな。あの勇敢な旅人は-昨夜、あれ
だけのことをしてくれた男は-わしらのことをどう思うだろうか」

「何かあったのですか、長老」とアクセルが尋ねた。「わたしたちも、昨晩、笥火のところにい
ましたが、争いが起こりそうと見て引きあげました。なので、何かあったか知りません」

「引きあげてくれてよかったよ、お二人さん。ここの異教徒どもは、互いの目を扶り出しかねな
いほど興奮していたからな。見知らぬブリトン人二人を間近に見つけたりしたら、どんな扱いを
したことか……思っただけで身の毛がよだつ。少年はエドウィンと言う。無事に戻って、最初は
村全体が喜んでいたんだがな、女たちが少年の体に小さな傷を見つけた。わしも他の長 老と一
緒にそれを確かめた。胸のすぐ下にちょっとな。子供が転んだときにできるかすり傷くらいのも
のだ。だが、女どもは――少年の親族までもだ――それが噛み傷だと言い張って、今朝にはもう
村全体がそれを噛み傷だと呼んでおる。わしは本人の身の安全を考えて、エドウィンを小屋に閉
じ込めておかねばならんかった。それでもだ、仲間も家族も、誰も彼もがドアに 石を投げつけ、
引きずり出して殺そうとする」

「なぜですの、アイバー」とベアトリスが尋ねた。
「霧のせいなの?あの少年がどんな恐怖にさらされたばかりなのか、みんな忘れてしまったのか
しら」
「そうだったらどんなにいいか、ベアトリスさん。今回はみんなが全部覚えているようなんだ。
異教徒どもは自分たちの迷信しか目に入らん。要するに、悪鬼に噛まれた者はいずれ悪鬼に変わ
ると信じ込んでおる。この村の内部に悪鬼が生まれ、悪さの限りを尽くす、とな。だから、あの
少年を怖がる。この村にいるかぎり、あの少年の運命は悲惨だ。ウィスタン殿が教ってくれない
ほうがよかったということにさえなりかねん」

「ですが、長老、良識のある村人だってきっといるのではありませんか」とアクセルが言った。
「いても、ごく少なかろう。それにだ、一日や二日は制止できても、無知な者どもがのさばり出
すのにさほどかかるまいよ」
「では、どうすれば、長老?」
「あの戦士もお二人に劣らんほど心配してくれてな、今朝はずっと相談に乗ってくれていた。で、
わしは一つの提案をした。ひどい押しつけだとは思ったがな、この村を出るとき、少年を連れて
いってくれまいかと頼んだ。そして、ここから十分に遠いどこかの村に世話を託して、新しい人
生を始める機会を与えてやってくれまいか、とな。村のために命を賭してくれた人に――しかも
その直後に――こんなことを頼むのは心底恥ずかしいが、ほかにできることを思いつかん。ウィ
スタン殿は、王から頼まれた用事の途中で、馬の怪我や昨夜の問題ですでにだいぶ後れているら
しいが、この提案を考えてくれている。わしは、まずあの少年がまだ無事かどうかを確認して、
ウィスタン殿の決定を聞きにいかれぼならん」アイバーは立ち上がって、杖を取った。「発つま
えに、さよならでも言いにきてくだされ、お二人さん。まあ、いまの話を問いてしまったら、一
目散に逃げ出したくなっても無理はないとは思うがの……」

 
アイバーの姿が戸口を抜け、日当たりの良い中庭を去っていくのを、アクセルはじっと見送った。
「ひどい話だ、お姫様」と言った。

「ええ、アクセル。でも、わたしたちには関係ない。ここでぐずぐずするのはやめましょう。今
日の道は険しいもの」
食べ物とミルクはとても新鮮で、二人はしばらく黙って食べつづけた。や
がてベアト
リスが言った。

「昨夜、アイバーが霧について言っていたことはぽんとうなのかしら、アクセル。わたしたちの
物忘れは、神様ご自身のせいだってこと……」 
「どう考えたらいいのかな、お姫様」
「ね、アクセル、今朝、目が覚めるとき、あることを思いついたの」
「何をたい、お姫様」
「ただの思いつきだけど、神様はわたしたちがしたことの何かに怒っているんじゃないかしら。
それとも恥じているとか……」
「ほう、おもしろい考えだ、お姫様。だが、それならわたしたちを罰すればいいのに、なぜ忘れ
させるんだろう。ほんの一時間前に起きたことを、ばかみたいに」
「わたしたちを-わたしたちのしたことを-深く恥じて、ご自身でも忘れたがっていたら?その
人がアイバーに言ったように、神様が覚えていないなら、わたしたちが忘れても不思議じゃあり
ませんよ」
「神をそれほど恥じ入らせるとは、わたしたちはいったい何をしたんだろう」
「わからないけど、でも、あなたやわたしがしたことじゃないのは確かですよ、アクセル。神様
はわたしたちをいつも愛してくださったもの。神様に祈れば――祈って、せめて大切ないくつか
のことくらいは思い出させてくださいって願えば――聞き届けてもらえるかもしれない」

外で笑い声がした。アクセルが少し首を仲ばすと、中庭で子供たちが遊んでいるのが見えた。小
川に置かれた二つの平らな岩でバランス遊びをしている。見ている間にも一人が水中に落ち、け
たたましい笑い声が起こった。

「さあな、お姫様。修道院の賢人なら、ひょっとして何か説明できることがあるのかもしれない
が・・・・・・。ところで、今朝、目が覚めたときのことと言えば、わたしも思い出したことがあるよ。
おまえがそういうことを考えていたのと同じころかもしれない。ちょっとした記憶、単純な記憶
なんだが、重い出してとても嬉しかった」
「あら、どんなことかしら、アクセル?」
「市場か祭りだ。二人でそこを歩いていた。村なんだが、わたしたちの村ではなかったな。おま
えはあのフード付きの明るい緑色のマントを菅ていた」
「それはきっと夢ですよ、あなた。それか、ずいぶん昔の話。だって、緑のマントなんて持って
いませんもの」
「確かにずいぶん昔のことだ、お姫様。夏だったが、二人がいた場所には冷たい風が吹いていて、
おまえは風よけに緑のマントをまとった。フードはかぶっていなかったな。市が立っていたのか、
何かの祭りだったのか。丘の斜面にある村で、村に入ったとき、囲いの中に山羊がいた」
「で、わたしたちはそこで何をしていたの、アクセル」
「腕を組んで、ただ歩いていた。すると、突然、行く手に見知らぬ人が現れた。村の男だと思う。
おまえを一目見ると、まるで女神でも見ているみたいに目が隨せなくなった。覚えているかい、
お姫様?若い男だ。もちろん、そのころはわたしたちも若かったんだが……こんな美しい女は見
たことがない――男はそう大声で言って、手を仲ばし、おまえの腕に触れた。覚えていないかい、
お姫様?」

「なんとなく思い出すような気もしますけど、はっきりとは………あの酔っ払いのことを言って
いるのかしら」
「少しは酔っていたかもしれないが・・・…さてな。言ったように、何かの戻いの日だったからな。
とにかく、その男はおまえを見て、目を丸くした。こんなに美しい人を見たことがないと河った」
「じゃ、やはりずいぶん昔のことですよ。あなたが焼きもちを焼いて、その人と喧嘩した日のこ
とでしょう。村から追い出されそうになった日……」
 一そういう記憶はないな、お姫様。いま思い出せているのは、おまえが縁のマントを看ていた
ことと、何かの祭りの日だったこと、そしてその男が言ったことだ。おまえの保護者だと見て、
わたしに向かってこんなことをI河った-なんたる美女、絶世の美女だ。君、大切に守ってやら
んといかんよ、と」
「何となく思い出しましたよ。でも、やはり焼きもちを焼いて、喧嘩したんじゃなかったかしら」

「そんなことをするはずがないさ。だって、その男の言葉に鼻高々だったし、いまでも思い出と
嬉しさがこみ土げてくる。絶世の美女と言ったんだよ。そして、大切に守ってやらんといかんよ、
とも言った」
「鼻高々でもあり、焼きもちも焼いたんですよ。相手は酔っ払いなのに、向かっていったんじゃ
なかったかしら」
「わたしが覚えているのとは違うな、お姫様。まあ、冗談のつもりで、焼きもちを焼いたふりを
したのかもしれない。だが、あの男に悪意がなかったことくらいはわかったと思うよ。とにかく、
今朝はそんなことを思い出しながら目が覚めた。ずいぶん昔のことなのに」

「あなたの記憶がそうなら、それでいいのではないかしら、アクセル。この霧があるかぎり、ど
んな記憶も貴重ですもの。逃さないよう、しっかりとどめておかないと」
「あのマントはどうなったんだろう、おまえが大切にしていたマントは」
 

                         カズオ・イシグロ著『忘れられた巨人』

                                     この項つづく                            

【社会政策トレッキング:バラマキは正しい経済政策である 13】  

 Yutaka Hrada, Wikipedea 

第2章 ベーシック・インカムの思想と対立軸
第11節 アジアの共産化をもたらした日本のアジア侵略
結果的に見れば、日本のアジア侵略こそが、アジアの共産化をもたらした。近衛は1937年6
月に首相となると、「北支事変」というそれまでの公式呼称を9月には「支那事変」と変更
し、
日中戦争の拡大を認めた。翌38年1月には、「爾後国民政府を相手とせず」の声明を発表
した。
戦争をしてその相手を相手としないのなら、和平交渉はできなくなる。1938年11月には、
日本が中国の
主要部分を抑えた以上、和議を請うて日本と協力せよという東亜新秩序声明を発表
39年1月に辞職する。
その後は、平沼騏一郎、阿部信行、米内光政が首相になるが、40年7
月に再び首相となる(近衛が首相を辞任していた間、1940年3月には汪
兆銘政権が樹立され
蒋介石を中心とする中国との和平の途が絶たれた)。

近衛は、内政にお
いては、38年には、国家総動員法や電力国家管理法を成立させ、経済の戦時
体制を導入し、
日本の国家社会主義化を開始した。再び首相になると、アジアを欧米の植民地支
配から解放
し、日本を盟主とする共存共栄の新秩序を建設しよう(日本の勢力下に置こう)とい
う「大東
亜共栄圈」構想を発表した。しかし、少なくともフィリピンが、日本よりアメリカの植
民地で
あったほうがましだったと思ったことは間違いない。山本七平は、フィリピンの人々は、
アメ
リカ軍捕虜が移送されるときには花を投げたが、日本車捕虜が移送されるときには石を投げ
と書いている(山本七平「石の雨と花の雨と」、『一下級将校の見た帝国陸軍』文巻文庫、1
987
年)。

 NDC分類 396.21

近衛はさらに、1940年8月、全政党を解散させ、議会制民主主義を破壊し、9月、日独伊三
国同盟を締結した。41年7月には、フランスのヴィシー政権からインドシナの権益を奪い、南
部仏印進駐を実行した。

その後、1941年10月に近衛は来降英機に首相の座を譲る。考えてみると、ここまで来て対
米戦争を止めるのも難しく、銀縁は12月には真珠湾攻撃に踏み切る。そのとき、頼りのナチス・
ドイツのソ連への快進撃は止まり、戦線は膠着状態になりつつあったのだが。 第二次世界大戦
で日本が占領した、中国、ベトナム、ラオス、カンボジアは共産化し、インドネシアは、あと一
歩で共産化、マレーシアは、あと二歩で共産化という状況に陥り、フィリピンではかなり共産ゲ
リラがはびこり、ビルマ(現ミャンマー)では事実上の共産政権が成立した。日本の統治下の朝
鮮では、北は共産化し、朝鮮戦争によって、南もあと一歩という状況になった(現在も危ういの
かもしれない)。満洲はもちろん共産化した。近衛こそは、結果としてもっとも成功した世界革
命的共産主義者だった。その淵源が、近衛の「英米本位の平和主義を排す」にあったことは明ら
かだ。

※ 近衛文麿が共産主義者だったとはこれまた飛躍し曖昧で、齟齬があるように思える。参考と
して『近衛文麿は共産主義者だったのか』 永井俊哉ドットコム 2006.9.1 を掲載する。歴史的な
考察は別の機会にゆだねる。


第12節 存在しえなかったABCD包囲網
なお、ついでながら1941年、アメリカ、イギリス、中華民国、オランダが、日本に対して経
済制裁、ABCD包囲網をしいたことが、日本を戦争に向かわせる要因になったと言われている
が、それはありえない。オランダは1940年5月15日にすでにドイツに降伏しているからだ
(フランスは1940年6月22日に降伏〔ヴィシー政権の成立〕)。ドイツを通じてオランダ
の植民地であるインドネシアから石油を買うことができたはずで、ABCD包囲網など存在しえ
ない。もちろん、オランダには亡命政府があり、亡命政府とその支配下のインドネシアは連合国
側にいたが、亡命政府が、実効的にインドネシアを支配することなどできない。ドイツに降伏し
たオランダの傀儡政権を通じて、インドネシアから石油を買えばよかっただけだ。おそらく、日
本の参戦を求めるために、ドイツがそうするのを拒否したのかもしれない。あるいは、ドイツが
ヨーロッパ大陸の大部分を征服したのを見て、それにあやかろうと戦争をしたがった日本の軍部
が、あえて筒単にできることをできないとしたのかもしれない。

第13節 明治の元勲の富の認識
近衛は、富は略奪から生まれると考えていたが、明治の元勲たちは、富は創造できるものと正しく
認識していた。1871年、維新後の国内秩序も安定しないなか、明治政府は、岩倉具視(18
25~83)を全権大使として、維新の立役者、木戸孝允(1833~77)、大久保利通18
30~78)、伊藤博文(1841~1909)ら総勢48人と言われる大使節団を欧米に送っ
た。彼らは、アメリカの経済的成功を次のように見た(原文のカタカナをひらがなに改め、濁点
を補った)。

 欧洲自主の精神、特に此地(アメリカ――筆者)に鍾り、其事業も自ら卓落豁達にて、気力
 甚だ旺なり、英国人之を察せず、印度卑弱の民と同視し、其膏沢を吸はんとせしは、宜なり
 無敗をとりしこと、……自主の力を用ふる自在にて、益欧洲人民の営業を起す地となりし…
 自主の諭と、共和の議とは、欧洲にも充ちたれども、……只米国は純粋の自主民集りて、真
 の共和国をなす、……此驚くべき国利を増進したるは、……其首領となる士君子が、自主の
 精神、他に優れ実用の学術を教へたる功なり。(久米邦武編『特命全権大使米欧回覧実記』
 1、243、245頁、岩波文庫、1977年、原著1878年)

 NDC分類 295.3

すなわち、明治維新の指導者は、経済発展の要諦は、人民における自主の精神と実用の学問の普
及だと認識している。草莽の志士として、下級武士からのし上がり天下の権を取った人々は、富
を創造する力も、強国としての力も、人々の自由を拡大することから生まれると正しく認識して
いた。自主の民の強さを理解してもいるのだ。イギリスがアメリカを搾取しようとして敗退した
のは、インドとは異なる自主の民の強さを理解していなかったからだと言っている。これが、昭
和期の日本と異なる、明治日本の正統イデオロギーである。明治の藩閥政府は、権力を握り続け
ようとはしていたが、人民の自由が国を富まし、さらには国を強くするとさえ認識していた。

 NDC分類 332.53

第14節 ウォオール街を占拠する人はいても……
富の正当性は、2008年の金融危機後のアメリカでも疑われている。下火にはなったが、ウォ
ール街を占拠せよ、1%の人々が富を独占している、99%の普通の人々がないがしろにされて
いる、とアメリカの若者は怒っている(実際、アメリカでは上位10%の人が70%以上の資産
を持っているようだ。FRB,Survey of ConsurnerFinance2010,Table 4より計算)。自由市場を信
奉するシカゴ大学ファイナンス学部のスター教授、ルイジ・ジンガレス教授も、歪んだ報酬シス
テムが、自由市場への信頼を蝕むと書いている(『人びとのための資本主義-市場と自由を取り
戻す』序章、若田部昌澄監訳、栗原百代訳、NTT出版、2013年)。

これに対して、保守派は、不毛な階級闘争を引き起こそうとしている、成功者を妬む落ちこぼれ
の集まりと批難している。しかし、占拠派の若者たちも、アップルのあるクパティーノ、グーグ
ルのあるサンノゼ、マイクロソフトのあるレドモンドを占拠せよとは言わない。

ここには、アップルやグーグルやマイクロソフトは富を創造したが、ウォール街は富を創造して
いないではないかという批判がある。もちろん、これら企業の創造した富が、その冨を創造した
人々の貢献度に応じて公正に分配されたかどうはわからない。しかし、これらの企業は世界を変
え、世界はこれらの企業に恩恵を受けている。私が、本書をパソコンで書くことができるのも、
これら企業のおかげである。

もちろん、ハイテク企業ばかりでなく、通常は、銀行や証券などの金融業も富を創造している。
素晴らしいアイデアや技術があっても、そこに資金が流れなければ富は創造できない。資金を融
通している金融業が、自分自身で富を創造していないとしても、富の創造を手助けしているのは
確かである。

ただし、ハイテク企業への抗議活動もある。例えば、所得の高い人たちが増えて不動産価格が上
がると、長年暮らしてきた住民が家賃を支払えなくなって出ていかざるをえなくなる。このよう
なとき、昔ながらの住民が新しく来た高所得の住民たちに反感を持つ場合もある。サンフランシ
スコの家賃はグーグル、フェイスブック、アップル、ヤフーといったハイテク大手企業のために
高騰している。これらの企業は、エアコンの効いた無縁LAN完備の快適なバスを運行し、自社
の従業員を勤務先に送り届けている。住民はこのバス停に集まり、これら企業ヘの抗議集会など
を行っている(土方細秩子「米国でエスカレートするグーグルなどIT企業ヘの反感」、『エコ
ノミスト』2014年6月17日号)。

住民活動家は、ハイテク企業が来ないよう新規のオフィスビルを建設できないようにすることな
どを求める燭台が多いようだが、これは市の発展を阻害するものだ。むしろ、新しい住宅を増や
すべきだ。シアトルでは、住宅の供給を増やしたことで、サンフランシスコほど不動産価格が上
がらなかったという(エンリコ・モレッティ『年収は「住むところ」で決まる-雇用とイノベー
ションの都市経済学』227頁、第5章より「町のグレードが上がると困る人たち」、池村千秋
訳、プレジデント社、2014年、参照)。

 NDC分類 366.025

第15節 富の正当性が疑われている
ウォールストリートの投資銀行が、本当に富の創造を手助けしたかには疑問が投げかけられてい
る。サブプライムローン関連証券という怪しげな証券を売って、世界を混乱に陥らせたにもかか
わらず、売った人は巨額のボーナスをもらっておさらばしている。危機に陥った投資銀行は、納
税者の負担によって助けられている。このボーナスは、富の創造の手助けをしたご褒美とは言え
ないというわけだ。

あまり注目されていないようだが、ウォール街占拠派のプラカードに「法人格を廃止せよ」とい
うスローガンがあった。法人という存在によって、経営者の責任は制限されている。金融機関に
リスキーな行動をさせないために自己資本を増大させるという規制が、たびたび強化されてきた
。自己資本を提供させれば慎重になる、自己資本は失敗したときのバッファー(緩衝)にもなる
という考えに基づいてのことだ。しかし、自己資本は株主の金であって、経営者の金ではない。

経営者は、利益を得たら自分のおかげ、損が出たら株主の負担という条件で勝負ができる。儲か
ったときには何百匝円のボーナス、損をしても辞めるだけですむ。投資銀行の経営者がサブプラ
イムローン関連証券に投資したのも、勝ったときには掛け金を得られ、負けても自分は掛け金を
払わなくてもよいという制度があるからだ。しかも、金融機関を破綻させるのは難しい。すると
経営者は勝てば自分の手腕、負ければ株主と納税者の負担という条件で賭けができる。

階級闘争は不毛である。金持ちを貧しくすれば社会全体の富が減少するだけだ。しかし、そもそ
も富を創造していない金持ちを貧しくしても社会全体の富は減少しない富は詐欺と略奪で生ま
れたものであって創造されたものではないと思われれば社会は危うくなる。それは、先に見た近
衛の考えがアジアと日本を災厄に巻き込んだことで明らかだ。豊かな人々が、自ら、富は明ら
かに創造されたものであると認識されるためのルールを作ることが必要になるのではないか。

※なるほど、ここで近衛文麿の思想とウォール街占拠が漸近すなわちクロスオーバーするという
わけで、これから論考の目的の"未来の労働価値"へとつづくのだがどうなるのか?

Apr. 27, 2018

第16節 報酬返還の議論
なぜか日本で注目されていないが、金融危機の原因の一つは、経営者の報酬制度にあるという議
論がヨーロッパで盛んになっている。もちろん、過大な金融緩和、不十分な規制、自己資本の不
足などが、世界金融危機の原因の一部であることを否定しているわけではない。このような議論
の主導者の一人であるミラノエ科大学のマルコ≒ジョルジーノ教授は、「どうして企業が破綻し
経営者が金持ちになるのか、信じられない」という。

(もちろん金融危機にはさまざまな原因があるが)私は私的利益と公的利益の非対称性を指摘し
たい。金融機関の経営者による決定で、誰が利益を得たのかということだ。金融の混乱は、金融
機関の経営を委任された者が金融機関本来の利益のために行動しなかった、「代理人問題」によ
って生じたと考えている。つまり、危機の原因は企業統治が適切でなかったことにある。……企
業の目的と経営者の報酬にはミスマッチがある。報酬政策こそが企業統治の要であり、企業統治
の不備が金融危機をもたらすのだ。(「金融危機は企業統治のミスによって生じた」、『週刊東
洋経済』2014年7月19日号)

確かに、例えば、破綻したリーマン≒フラザーズのリチャード・ファルドCEO(最高経営責任
者)は、2000年から解雇されるまでに3億5000万ドルの報酬を得ていたが、会社が破産
しても別に返さなくてよい。2008年から始まる世界金融危機が、リーマンショックから始ま
るとされていたとしてもだ。


              原田 泰著 『ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるか』

 Oct. 19, 2017
Amazon, Apple, Google and Facebook will all go away within 50 years, says author

                                     この項つづく 
 

 ● 今夜の一曲

Taylor Swift "Delicate"  
Writer:Taylor Swift / Max Martin / Karl Johan Schuster

This ain't for the best
My reputation's never been worse, so
You must like me for me
We can't make
Any promises now, can we, babe?
But you can make me a drink

Dive bar on the East Side, where you at?
Phone lights up my nightstand in the black
Come here, you can meet me in the back
Dark jeans and your Nikes, look at you
Oh damn, never seen that color blue
Just think of the fun things we could do
'Cause I like you

This ain't for the best
My reputation's never been worse, so
You must like me for me
Yeah, I want you
We can't make
Any promises now, can we, babe?
But you can make me a drink

Is it cool that I said all that?
Is it chill that you're in my head?
'Cause I know that it's delicate (delicate)
Is it cool that I said all that
Is it too soon to do this yet?
'Cause I know that it's delicate
Isn't it? Isn't it? Isn't it? Isn't it?
Isn't it? Isn't it? Isn't it? Isn't it?
Delicate

 

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