極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

止まらない温暖化

2017年05月13日 | 環境工学システム論

          
        隠公四年、州吁(しゅうく)の乱とその後 / 鄭の荘公小覇の時代

 

                              


     ※ 四年春、衛の公子州吁が桓公を殺して、みずから位についた。おりから
       魯の
隠公は、先年の宿(国名)における宋の殤(しょう)公との盟約を
       更新する時期が近づいていた
ので、その準備をすすめていたところであ
       った。そこへこの報せである。そこで隠公は予定を変更し
て、とりあえず
              同年夏、殤公と清(衛の邑)で略式の会合を行なった。当時、宋は鄭と
       反目し
ていた。すなわち、先年、殤公が位についたとき、公子馮(ひょ
       う)は鄭に出奔
したが、公子に同情した鄭は、かれを宋に送り入れよう
       と画策していたのであ
る。さて衛の州吁が位につくと、一つには先君荘
       公が鄭に受けた怨みをはら
し、また一つには諸侯の信用をかち得ることで、
       民衆の反感をやわらげるため、宋に使者を派遣して、こう申し入れた。

       「今こそ鄭を討って、邪魔な存在をとり除くとき。もし貴国が立ち上が
       るなら、及ばずながらわが国
も助勢をくり出し、陣・蔡両国とともにお
       味方いたす所存である」
宋は、この申し出を受諾した。当時、衛と陣・
       蔡両国とは同盟関係にあった。かくて、宋、衛、陣、蔡の四カ国は鄭を
       攻撃した。鄭の都城の東門を囲むこと五日で、この戦いは終わり、連合
       軍は兵を引き揚げた。「あれで、衛の州吁は君主がつとまるだろうか」
       魯の隠公が首をかしげると、大夫の衆仲が答えた。「人民の反感をやわ
       らげるのに徳に頼るなら話はわかりますが、力に頼るとはきいたことか
       ありません。力に頼れば、あたかも糸がもつれるように、事態をますま
       す悪くするだけです。州吁のように、武力を特んで残虐にふるまえば、
       結果は明らかです。人民からは見放されるし、まわりの近親者からは孤
       立して、とうてい君位を全うすることはできません。武力は火のような
       ものです。使い方をあやまると、かえってわが身を火傷させてしまうの
       です。もともと州吁は主君を殺し、武力を侍んで人民に臨んだ男です。
       ところが、かれは反省して徳を身につけようとしないばかりか、いぜん
       として力に頼って事を行なっているのですから、とうてい罪は免れませ
       
 

       秋になって、諸侯はふたたび郎を攻めた。わが魯に対しても、宋公から
       助勢を求めてきたが、隠公
は断わった。そのとき、困ったことが起きた。
       公子の羽父が隠公のところへやってきて、軍を率いて
諸侯の軍に加わり
       たいと言ってきたのである。隠公は許さなかったが、羽父は執拗に言い
       はって、
うとう出陣してしまった。『春秋経』で、「車(羽父のこと)、
       師を帥る」と記録しているのは、羽父の行動を非難しているのである。
       秋の戦いでは、諸侯の軍は鄭の歩兵を敗走させ、稲を略奪して引き揚げ
       た。


May 08, 2017:Paris 1.5°C target may be smashed by 2026

【急加速する地球温暖化】

● Interdecadal Pacific Oscillation(IPO)今後10年間に地球温暖化が加速すると予測

メルボルン大学の地球物理学研究書によると、今後10年間に地球温暖化の急激に加速する可能性があ
ると予測している。
1999年以来、マイナス期にあったが、2014年、2015年および2016年の連続した暖
かい年が記録され地球温暖化の加速が進行しているる。
2031年までに地球温暖化対策の目標値である
1.5℃を突破する可能性が高いことを示しているとする。同報告書では、
世界がパリ条約の目標を
達成を望むならば、政府は温暖化ガス排出量削減だけでなく、大気から炭素を除去すべきで1
.5℃
の限界を超えると、地球温暖化を抑えその水準以下に制御する必要であると主張。

IPOは、10〜30年の期間にわたりゆっくりとした変化そのもに影響し、熱帯太平洋の海洋温度は異常と
なる、この地域以外の北南の地域では異常に冷たくなっている。過去には、1925-1946年から1977-19
98年にかけ、これらは両方とも、世界の平均気温が急激な上昇期間であった。世界は気温が下がった
1947年から1976年にかけ逆の経験をする。IPOの最近の今世紀の否定的な特徴は、世界平均の表面温
度が遅い速度で上昇し続けている。このため"政策立案者は、1.5℃にどれほど急速に接近している
ことを認識しなければいけない。排出削減の課題は本当に喫緊であるという。

May. 9, 2017

 

 No. 17

【RE100倶楽部:太陽光発電篇】

● クラウドファンディング中:世界初のSolarGaps社製スマートブラインド

ウクライナの発明家Yevgen Erik が設立したSolarGap社のスマートなソーラーブラインドは、屋内生活
に革命を起こすかもしれない。同社によれば、外部設置することで10平方フィート(約0.93平方メート
ル)窓あたりで最大100ワット、内部設置の場合、最大50ワット発電でき、余剰電力は貯蔵、電力会社
に売電でき
、また南向きの窓を備えた3部屋のアパートメントでは、1日あたり600ワット時または約
4キロワット/日も発電できる。また、このスマートブラインドは簡単に家庭用機器に電力供給できる、
発電状況がスマートフォーンやパソコンでリアルタイムでチェックすることができ、また、太陽の自動
追尾でブラインドの角度変更や上下動開閉の遠隔操作もできる。
 

  May 12, 2017

 Oct. 13, 2017

 

  Company Overview of SolarGaps

   Pledged of  $50,000 gold: June 15 2017

現時点では、量子ドットハイブリット型なのか、ペロブスカイトハイブリット型太陽電池なのか不詳
(要調査)。このようなアイデアは国内特許で出願されているので抵触する可能があるものの、商品
として開示されたのは世界初となる。都会などのパネル設置が困難な空間では、このように、廉価、
薄膜で散乱光吸収型は最適である、例えば、氷点下から百℃の対応で、耐久性が10年以上で変換効率
20%以上という基本仕様を満たせば、革命的に世界のエネルギー環境は一変する。その前駆体を担
うのがこの商品ではないかと考えている。これは楽しいことである。下記に、関連特許を参考掲載す
る(すでにこのブログで掲載済み)。

 

 ♞ doi:10.1038/nenergy.2016.157:Doctor-blade deposition of quantum dots onto standard window glass for
   low-loss large-area luminescent solar concentrators

 

    

 読書録:村上春樹著  『騎士団長殺し 第Ⅰ部』    
   
 

    25 真実がどれほど深い孤独を人にもたらすものか 

 「あなたに折り入ってひとつお願いしたいことかあるのです」と免色は言った。
  その声音から、彼はその話を切り出すタイミングを前々からずっとはかっていたのだろうと私
 は推測した。そしておそらくはそのために私を(また騎士団長を)この夕食会に招待したのだ。
 個人的な秘密を打ち明け、その頼みごとを持ち出すために。

 「それがもしぼくにできることであれば」と私は言った。
  免色はしばらく私の目をのぞきこんでいた。それから言った。「それは、あなたにできること
 いうよりは、あなたにしかできないことなんです」
 
  突然なぜか煙草が吸いたくなった。私は結婚するのを機に喫煙の習慣を断ち、それ以来もう七
 年近く、煙草を一本も吸っていない。かつてはヘビースモーカーだったから、禁煙はかなりの苦
 行だったが、今では吸いたいと思うこともなくなっていた。しかしこの瞬間、煙草を一本口にく
 わえてその先端に火をつけられたらどんなに素敵だろうと、ずいぶん久しぶりに思った。マッチ
 をする音まで間こえてきそうだった。 

 「いったい、どんなことなのでしょう?」と私は尋ねた。それがどんなことかとくに知りたいわ
 けではなかったし、できれば知らずに済ませたかったが、話の流れとしてやはりそう尋ねないわ
 けにはいかなかった。

 「簡単に言いますと、あなたに彼女の肖像画を描いていただきたいのです」と免色は言った。

  私は彼の口にした文脈を順の中でいったんばらばらに解体し、もう一度並べ直さなくてはなら
 なかった。とてもシンプルな文脈だったのだけれど。

 「つまり、あなたの娘さんかもしれないその女の子の肖像画を、ぼくが描くということですね」

  免色は肯いた。「そのとおりです。それがあなたにお願いしたかったことです。それも写真か
 ら起こしたりするのではなく、実際に彼女を目の前に置いて、彼女をモデルにして絵を描いてい
 ただきたいのです。ちょうど私を描いたときと同じように、あなたのうちのスタジオに彼女に来
 てもらって。それが唯一の条件です。どのような描き方をするかはもちろんあなたにお任せしま
 す。好きなように描いていただいてけっこうです。あとのことは一切注文はつけません」

  私はしばらくのあいだ言葉を失ってしまった。疑問はいくつもあったが、いちばん最初に順に
 浮かんだ実際的な疑問を私は目にした。「しかし、どうやってその女の子を説得するのですか?
 いくら近所に住んでいるとはいえ、まったく見ず知らずの女の子に『肖像画を描きたいからその
 モデルになってくれないか』と持ちかけるわけにもいかないでしょう」
 「もちろんです。そんなことをしたら径しまれ、警戒されるだけです」
 「じやあ、何か良い考えをお持ちなんですか?」

  免色はしばらく何も言わず私の願を見ていた。それからまるで静かにドアを開けて、奥の小部
 屋に足を踏み入れるみたいに、おもむろに口を間いた。「実をいいますと、あなたが一番よく知
 っています。そして彼女もあなたのことをよく知っています」
 「ぼくは彼女のことを知っている?」
 「そうです。その娘の名前は秋川まりえといいます。秋の川に、まりえは平仮名のまりえです。
 ご存じでしょう?」

  秋川まりえ。その名前の響きには間違いなく聞き覚えがあった。しかしその名前と名前の持ち
 主とが、なぜかうまくひとつに結びつかなかった。まるで何かにブロックされているみたいに。
 でも少しして記憶がはっと戻ってきた。

  私は言った。「秋川まりえは小田原の絵画教室に来ている女の子ですね?」
  免色は肯いた。「そうです。そのとおりです。あなたはあの教室で、講師として彼女に結の指
 導をしています」

  秋川まりえは小柄で無口な十三歳の少女だった。彼女は私の受け持っている子供のための絵画
 教室に通っていた。いちおう小学生が対象とされている教室だから、中学生である彼女は最年長
 だったが、おとなしいせいだろう、小学生たちに混じっていてもまったく目立たなかった。まる
 で気配を殺すように、いつも隅の一方に身を寄せていた。私が彼女のことを覚えていたのは、彼
 女が私の亡くなった妹にどこか似た雰囲気を持っており、しかも年齢が妹の死んだときの年齢と
 だいたい同じだったからだ。

  教室の中で秋川まりえはほとんど口をきかなかった。私が何かを話しかけてもこっくりと肯く
 だけで、言葉はあまり口にしない。何かを言わなくてはならないときは、とても小さな声で話し
 たので、しばしば聞き返さなくてはならなかった。緊張が強いらしく、私の顔を正面から見るこ
 ともできないらしかった。ただ絵を描くのは好きなようで、絵筆を持って画面に向かうと目つき
 が変わった。両目の焦点がくっきり結ばれ、鋭い光が宿った。そしてなかなか興味深い面白い絵
 を描いた。決して上手というのではないが、人目を惹く絵だった。とくに色使いが普通とは違う。
 どことなく不思議な空気を持った少女だった。

  黒い髪は流れるようにまっすぐ艶やかで、目鼻立ちは人形のそれのように端正だった。ただあ
 まりにも端正過ぎるために、顔全休として眺めると、どことなく現実から乖離したような雰囲気
 が感じられた。客観的に見れば顔立ちは本来美形であるはずなのに、ただ素直に「美しい」と言
 い切ってしまうことに、人はなんとな座戸惑いを抱くのだ。何かが――おそらくある種の少女だ
 ち
が成長期に発散する独特の生硬さのようなものが――そこにあるべき美しい流れを妨げている
 のだ。でもいつか、何かの拍子にそのつっかえが取り払われたとき、彼女は本当に美しい娘にな
 るかもしれない。しかしそれまでには今しばらく時間がかかりそうだった。思い出すと、私の死
 んだ妹の顔立ちにもいくらかそういう傾向があった。もっと美しくてもいいはずなのに、とよく
 私は思ったものだ。

 「秋川まりえはあなたの実の娘であるかもしれない。そしてこの谷間の向かい側の家に住んでい
 る」と私は更新された文脈をあらためて言葉にした。「彼女にモデルになってもらって、ぼくが
 その肖像画を描く。それがあなたの求めていることなのですか?」
 「そうです。ただ個人的な気持ちとしては、私はあなたにその絵を依頼しているわけではありま
 せん。私はあなたにお願いしているのです。絵が出来上がったら、そしてもちろんあなたさえよ
 ろしければ、私がそれを買い取らせてもらいます。そしていつでも見られるように、このデスク
 に飾ります。それが私の求めていることです。というか、お願いしていることです」

  しかしそれでもまだ、私には話の筋が今ひとつ素直に呑み込めなかった。物事はそれだけでは
 終わらないのではないかという微かな危惧があった。
 「求めておられるのは、ただそれだけなのですか?」と私は尋ねてみた。
  免色はゆっくりと息を吸い込み、それを吐いた。「正直に言いますと、もうひとつだけお願い
 したいことがあります」
 「どんなことでしょう?」
 「とてもささやかなことです」と彼は静かな、しかし僅かにこわばりの感じられる声で言った。
 「あなたが彼女をモデルにして肖像画を描いているときに、お宅を訪問させていただきたいので
 す。あくまでたまたまふらりと立ち寄ったという感じで。コ皮だけでいい、そしてほんの短いあ
 いだでかまいません。彼女と同じ部屋の中にいさせてください。同じ空気を吸わせてください。
 それ以上は望みません。また決してあなたのご迷惑になるようなことはしません」

  それについて考えてみた。そして考えれば考えるほど、居心地の悪さを感じることになった。
 何かの仲介役になったりすることを私は生来苦手としている。他人の強い感情の流れに―――そ
 れがどのような感情であれ、巻き込まれるのは好むところではない。それは私の性格に向いた役
 柄ではなかった。しかし免色のために何かをしてやりたいという気持ちが私の中にあることもま
 た確かだった。どのように返事をすればいいのか、慎重に考えなくてはならない。

 「そのことはまたあとであらためて考えましょう」と私は言った。「とりあえずの問題は、そも
 そもそも秋川まりえが絵のモデルになることを承諾してくれるだろうかということです。それを
 まず解決しなくてはなりません。とてもおとなしい子供ですし、猫のように人見知りをします。
 絵のモデルになんかなりたくないと言うか心しれません。あるいは親が、そんなことは許可でき
 ないというか心しれません。ぼくがどういう素性の人間なのかもわからないわけですから、当然
 警戒もするでしょう」

 「私は絵画教室の主宰者である松嶋さんを個人的によく知っています」と免色は涼しげな声で言
 った。「それに加えて、私はたまたまあの教室の出資者というか後援者の一人でもあります。松
 嶋さんがあいだに入って口を添えてくれれば、諾は比較的円滑に進むのではないでしょうか。あ
 なたが間違いのない人物であり、キャリアを積んだ画家であり、自分かそれを保証すると彼が言
 えば、親もおそらく安心するでしょう」
  この男はすべてを計算してことを進めているのだ、と私は思った。彼は起こりそうなことをあ 
 らかじめ予測し、囲碁の布石のように、ひとつひとつ前もって適切な手を打っておいたのだ。た
 またまなんてことはあり得ない。

  免色は続けた。「日常的に秋川まりえの世話をしているのは、彼女の独身の叔母さんです。父
 親の妹です。前にも申し上げたと思いますが、母親が亡くなったあとその女性があの家に同居し
 て、まりえの母親代わりをつとめてきました。父親には仕事があり、日常の世話をするには忙し
 すぎますから。ですからその叔母さんさえ説得すれば、ものごとはうまく運ぶはずです。秋川ま
 りえがモデルになることを承諾したときには、おそらく彼女が保護者としてお宅まで付き添って
 くるはずです。男が一人暮らしをしている家に、女の子を単独で行かせるというようなことはま
 ずないでしょうから」
 「でもそううまく秋川まりえがモデルになることを承諾してくれるでしょうか?」
 「それについては任せてください。あなたさえ彼女の肖像を描くことに同意してくだされば、あ
 とのいくつかの実務的な問題は私か手をまわして解決します」

  私はもう一度考え込んでしまった。おそらくこの男はそこにある「いくつかの実務的な問題」
 を「手をまわして」うまく解決していくことだろう。もともとそういうことを得意としている人
 物なのだ。しかしそこまで自分かその問題に――おそろしくややこしく入り組んだ人間関係に
 深く関わってしまっていいものだろうか。そこにはまた免色が私に明かした以上の、計画な
 り思惑なりが含まれているのではあるまいか?

 「ぼくの正直な意見を言ってかまいませんか? 余計なことかもしれませんが、あくまで常識的
 な見解として問いていただきたいのです」と私は言った。
 「もちろんです。なんでも言ってください」
 「ぼくは思うのですが、この肖像画のプランを実際に実行に移す前に、秋川まりえが本当にあな
 たの実子なのかどうか、調べる手立てを講じられたほうがいいのではないでしょうか? その結
 果もし彼女があなたの実子でないとわかれば、わざわざそんな面倒なことをする必要はないわけ
 です。調べるのは簡単ではないかもしれませんが、たぶん何かうまい方法はあるはずです。免色
 さんならきっとその方法くらい見つけられるでしょう。ぼくが彼女の肖像画を描けたとしても
 そしてその結があなたの肖像画の隣にかけられたとしても、それで問題が解決に向かうわけじや
 ありません
  
  免色は少し間を置いて答えた。「秋川まりえが私の血を分けた子供なのかどうか、医学的に正
 確に調べようと思えば調べられると思います。いくらか手間はかかるでしょうが、やってできな
 くはありません。しかし私はそういうことをしたくないのです」
 「どうしてですか?」
 「秋川まりえが私の子供なのかどうか、それは重要なファクターではないからです」

  私は目を閉ざして免色の顔を見ていた。彼が首を振ると、豊かな白髪が風にそよぐように揺れ
 た。それから彼は穏やかな声で言った。まるで頭の良い大型犬に簡単な動詞の活用を教えるみた
 いに。

 「どちらでもいいというのではありません、もちろん。ただ私はあえて真実をつきとめたいとは
 思わないのです。秋川まりえは私の血を分けた子供であるかもしれない。そうではないかもしれ
 ない。でももし仮に彼女が私の実の子供であったと判明して、そこで私はいったいどうすればい
 いのですか? 私が君の本当の父親なんだよと名乗り出ればいいのですか? まりえの養育権を
 求めればいいのですか? いや、そんなことはできっこありません」
 
  免色はもう一度軽く首を振り、膝の上でしばらく両手をこすり合わせた。まるで寒い夜に暖炉
 の前で身体を温めているみたいに。そして話を続けた。

 「秋川まりえは今のところ、父親と叔母と一緒にあの家で平穏に暮らしています。母親は亡くな
 りましたが、それでも家庭は――父親にいくらか問題はあるものの――比較的健全に運営されて
 いるようです。少なくとも彼女は叔母になついています。彼女には彼女なりの生活ができあがっ
 ています。そこに出し抜けに私がまりえの実の父親だと名乗り出て、それが真実であることが科
 学的に証明されたとして、それで話がすんなりうまく収まるでしょうか? 真実はむしろ混乱を
 もたらすだけです。その結果おそらく誰も幸福にはなれないでしょう。もちろん私も含めて」
 「つまり、真実を明らかにするよりは、今の状況をこのままとどめておきたいと」

  免色は膝の上で両手を広げた。「簡単に言えばそういうことです。その結論に達するまでには
 時間がかかりました。しかし今では私の気持ちは固まっています。『秋川まりえは自分の実の娘
 かもしれない』という可能性を心に抱いたまま、これからの人生を生きていこうと私は考えてい
 ます。私は彼女の成長を、一定の距離を置いたところから見守っていくことでしょう。それで十
 分です。たとえ彼女が実の娘であるとわかっても、私はまず幸福にはなれません。喪失がより痛
 切なものになるだけでしょう。そしてもし彼女が自分の実の娘ではないとわかったら、それはそ
 れで、別の意味で私の失望は深いものになります。あるいは心が挫けてしまうかもしれない。ど
 ちらに転んでも、好ましい結果が生まれる見込みはありません。言わんとすることはおわかりい
 ただけますか?」
 「おっしやっていることはおおよそ理解できます。論理としては。でももしぼくがあなたの立場
 にあるとすれば、やはり真実を知りたいと思うはずです。論理はさておき、本当のことを知りた
 いと望かのが人間の自然な感情でしょう」

  免色は微笑んだ。「それはまだあなたがお若いからです。私ほどの年齢になれば、あなたにも
 きっとこの気持ちがおわかりになるはずです。真実がときとしてどれほど深い孤独を人にもたら
 すかということが」
 けて日々眺め、そこにある可能性について思いを巡らせること――本当にそれだけでかまわない
 のですか?」
  免色は肯いた。「そうです。私は揺らぎのない真実よりはむしろ、揺らぎの余地のある可能性
 を選択します。その揺らぎに我が身を委ねることを選びます。あなたはそれを不自然なことだと
 思いますか?」

  私にはそれはやはり不自然なことに思えた。少なくとも自然なこととは思えなかった。不健康
 とまでは言えないにせよ。しかしそれは結局のところ免色の問題であって、私の問題ではない。
  私はスタインウェイの士の騎士団長に目をやった。騎士団長と私の目が合った。彼は両手の人
 差し指を宙に上げ、左右に広げた。どうやらくその返答は先延ばしにしろ〉ということらしかっ
 た。それから彼は右手の人差し指で左手首の腕時計を指さした。もちろん騎士団長は腕時計なん
 てはめていない。腕時計のあるあたりを指さしたということだ。そしてもちろんそれが意味する
 のは、〈そろそろここを引き上げた方がいい〉ということだった。それは騎士団長からのアドバ
 イスであり、警告だった。私はそれに従うことにした

 「あなたのお申し出についての返答は、少し待っていただけますか? いささか微妙な問題です
 し、ぼくにも落ち着いて考える時間が必要です」
  免色は膝に置いた両手を宙に上げた。「もちろんです。もちろん、ゆっくり心ゆくまで考えて
 ください。急がせるつもりはまったくありません。私はあなたに多くのことをお願いしすぎてい
 るかもしれない」

  私は起ち上がって夕食の礼を言った。

 「そしてあなたが求めているのは、唯一無二の真実を知ることではなく、彼女の肖像画を壁にか 
 「そうだ、ひとつあなたにお話ししようと思って、忘れていたことがあります」と免色は思い出
 したように言った。「雨田典彦さんのことです。以前、彼がオーストリアに留学していたときの
 話が出ましたね。そしてヨーロッパで第二次大戦が勃発する直前に、彼がウィーンから急速引き
 上げてきたことについて」
 「ええ、覚えています。そんな話をしました」
 「それで少しばかり資料をあたってみたんです。私もそのあたりの経緯にいささか興味があった
 ものですから。まあずいぶん古い話ですし、ことの真相ははっきりとはわかりません。しかし当
 時から噂は囁かれていたようです。一種のスキャンダルとして」
 「スキャンダル?」
 「ええ、そうです。雨田さんはウィーンでとある暗殺未遂事件に巻き込まれ、それが政治的な問
 題にまで発展しそうになり、ベルリンの日本大使館が動いて彼を密かに帰国させた、そういう噂
 が一部にはあったようです。アンシュルスの直後のことです。アンシュルスのことはご存じです
 ね」

 「一九三八年におこなわれたドイツによるオーストリアの併合ですね
 「そうです。オーストリアはヒットラーによってドイツに組み込まれました。政治的なごたごた
 の未に、ナチスがオーストリア全土をほとんど強権的に掌握し、オーストリアという国家は消滅
 してしまった。一九三八年三月のことです。もちろんそこでは数多くの混乱が生じました。どさ
 くさに紛れて少なからぬ数の人が殺害されました。暗殺されたり、自殺に見せかけて殺されたり、
 あるいは強制収容所に送られたり。雨田典彦がウィーンに留学していたのはそのような激動の時
 代だったのです。噂によれば、ウィーン時代の雨田典彦には深い件になったオーストリア人の恋
 人がいて、その繋がりで彼も事件に巻き込まれたようです。どうやら大学生を中心とする地下抵
 抗組織が、ナチの高官を暗殺する計画をたてていたらしい。それはドイツ政府にとっても、日本
 政府にとっても好ましい出来事ではありませんでした。その一年半ほど前に日独防共協定が結ば
 れたばかりで、日本とナチス・ドイツとの結びつきは日を追って強くなっていました。だからそ
 の友好関係を阻害するような事態が持ち上がることは極力避けたいという事情が、両国ともにあ
 りました。そしてまた雨田典彦氏は若いけれど、日本国内では既にある程度名を知られた画家で
 もあり、それに加えて彼の父親は大地主で、政治的発言力を持つ地方の有力者でした。そういう
 人物を人知れず抹殺してしまうわけにもいきません」

 「そして雨田具彦はウィーンから日本に送還された?」
 「そうです。送還されたというよりは、救出されたと言った方が近いかもしれな
 い。上の方の〈政治的配慮〉によって九死に一生を得たというところでしょう。そんな重大な容
 疑でゲシュタポに引っ張られたら、仮に明確な証拠がなかったとしても、まず命はありませんか
 
 「しかし暗殺計画は実現しなかった?」
 「あくまで未遂に終わりました。その計画をたてた組織の内部には通報者がいて、情報はすべて
 ゲシュタポに筒抜けであったということです。だから組織のメンバーは一網打尽に逮捕されてし
 まった」
 「そんな事件があったら、かなり大きな騒ぎになっていたでしょうね」
 「ところが不思議なことに、その話はまったく世の中に流布していません」と免色は言った。
 「スキャンダルとして密かに囁かれていただけで、公的記録も残されていないみたいです。それ
 なりの理由があって、事件は関から関へと葬られたらしい」

  とすれば、彼の絵『騎士団長殺し』の中に描かれている「騎士団長」とはナチの高官のことだ
 ったのかもしれない。あの絵は一九三八年のウィーンで起こるべきであった(しかし実際には起
 こらなかった)暗殺事件を仮想的に描写したものなのかもしれない。事件には雨田典彦とその恋
 人が関連している。その計画は当局に露見し、その結果二人は離ればなれになり、たぶん彼女は
 殺されてしまった。彼は日本に帰ってきてから、そのウィーンでの痛切な体験を、日本画のより
 象徴的な画面に移し替えたのだ。つまりそれを千年以上昔の飛鳥時代の情景に「翻案」したわけ
 だ。『騎士団長殺し』はおそらくは雨田具彦が自分自身のために描いた作品だったのだろう
 彼は青年時代の厳しく血なまぐさい記憶を保存するために、その結を自らのために描かないわけ
 に はいかなかった。だからこそ彼は描きあげた『騎士団長殺し』を公にすることなく、堅く包
 装して家の屋根裏に人目につかないように隠していた。

  あるいは日本に戻ってきた雨田具彦が、洋画家としてのキャリアをきっぱりと捨て、日本画に
 転向することになった理由のひとつは、そのウィーンでの事件にあったのかもしれない。彼は過
 去の自分白身と決定的に離別したかったのかもしれない。

 「あなたはどうやってそれだけのことを調べられたのですか?」と彼は尋ねた。
 「私が実際にあちこちを歩き回って調べたわけではありません。知り合いのある団体に頼んで調
 査してもらったんです。ただそうとう昔の話になりますし、話のどこまでが確実な事実なのか責
 任は持てません。しかし複数のソースにあたったから、基本的には情報として信頼できるはずで
 す」
 「雨田典彦さんにはオーストリア人の恋人がいた。彼女は地下抵抗組織のメンバーだった。そし
 て彼もその暗殺計画に加わることになった」
  免色は首を少し傾けた。そして言った。「もしそうであればなかなか劇的な展開ですが、事情
 を知る関係者はほとんど死んでいます。真実が正確にいかなるものであったか、もはや我々には
 知るすべもなさそうです。事実は事実として、そういう話にはだいたい尾ひれがつくものです。
 しかしいずれにせよメロドラマのような筋書きだ」
 「彼自身がどの程度深くその計画に関係していたかまではわからない?」
 「ええ、そこまではわかりません。私はただメロドラマの筋書きを勝手に思い描いているだけで
 す。とにかくそのような経緯で雨田典彦氏はウィーンから追放され、恋人に別れを告げて――あ
 るいは別れを告げることさえできず――ブレーメン港から客船に乗せられ日本に帰国しました。

 戦争中は阿蘇の田舎にこもって深い沈黙を守り、戦後まもなく日本画家として再デビューを果た
 し、人々を驚かせた。これもまたなかなかにドラマチックな展開です
  そこで雨田典彦についての話は終わった。

  来たときと同じ黒いインフィニティが家の前で静かに私を待っていた。雨はまだ断続的に細か
 く降り続き、空気は湿って冷えていた。本格的なコートの必要な季節がすぐそこまで近づいてい
 る。
 「わざわざおいでいただき、とても感謝しています」と免色は言った。「騎士団長にもお礼を申
 
し上げます」

  こちらこそお礼を申し上げたい、と騎士団長が私の耳元で囁くように言った。しかしもちろん
 その声は私の耳にしか届かない。私はもう一度免色に夕食の礼を言った。本当に素晴らしい料理
 だった。堪能しました。騎士団長も感謝しているようです。

 「食事のあとでつまらない話を持ち出して、せっかくの夜を台無しにしたのでなければいいので
 すが」と免色は言った。
 「そんなことはありません。ただお申し出については、もう少し考えさせてください」
 「もちろんです」
 「ぼくは考えるのに時間がかかります」
 「それは私も同じです」と免色は言った。「二度考えるよりは、三度考える方がいい、というの
 が私のモットーです。そしてもし時間さえ許すなら、三度考えるよりは、四度考える方がいい
 ゆっくり考えてください」

、                                    この項つづく
 

    

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

四番バッター中谷?!

2017年05月12日 | 環境工学システム論

          
          隠公三・四年、衛の州吁(しゅうく)の乱 / 鄭の荘公小覇の時代

 

                              


         ※ 鄭と衛とが、鄭の共叔段(きょうしゅくだん)の乱をきっかけに
           不和になる。鄭が内乱に悩まされたように、当時衛でも、荘公の
           跡目相続をめぐって、腹ちがいの公子同士が反目し合っていた。
           この反目は、ついに州吁(しゅうく)のクーデターとなって火を
           吹き、さらに国際問題がからんで、衛没落の一因ともなる。

         ※ 佳人薄命:衛の荘公は斉国から太子得臣(とくしん)の妹を夫人
           に迎えた。その夫人が荘姜(そうきょう)である。彼女は評判の
           美人であったが、不幸にして子供ができなかった。かの『碩人』
           (せきじん)の詩は、衛の詩人が彼女の薄幸を哀しんで賦(ふ)
           したものである。荘公は陣国からも夫人を迎えた。その夫人が
           (れいき)である。孝伯(こうはく)は彼女の生んだ子である
           が、不幸にして夭逝した。そこで荘公は厲嬀の侍女戴嬀(たいき)
           に子を生せた。これが桓公である。荘姜はこの桓公をわが子とし
           て育てた。ところで荘公には、もう一人愛妾に生ませた子がいた。
           公子州吁(しゅうく)である。荘公に可愛がられたが、乱豪者で
           あった。荘公が別段叱ろうとはしないので、夫人の荘姜は州吁
           憎んだ。大夫の石碏(せきさく)が心配して荘公を諌めた。「真
           に子を愛する親は、わが子を教えさとし、悪に走らぬようにする
           と申します。驕慢、奢侈、淫乱、放逸は身を誤るもとですが、
           吁
さまの身にはこの四つの悪徳がしみついています。もとはと申
           
せば、あなたが州吁さまを溺愛なされ、過分な禄位をあたえたか
           らで
す。ゆくゆくは州吁さまを太子に立てる腹づもりであります
           ならば、今からその旨お決めください。今の状態では、州庁さま
           はあなたのご
寵愛につけこんでますます勝手に振るまい、やがて
           はわが国に禍いをひき起こすことでしょう。寵愛
を受ければ、つ
           い増長して人にへりくだることができなくなりますし、そうなれ
           ば人を人とも思わな
くなり、自分を抑制できなくなるものです。

           君子が犯してはならない悸逆(はいぎゃく)行為は六つ(六逆)
           あります。❶卑しい身分でありながら、身分の貴い
ものを排除す
           ること、❷若輩でありながら、年長者を押しのけること、❸疎遠
           な関係でありながら、近親
者を押し隔てること、❹新参者であり
           ながら、古参考を排斥すること、❺小禄者でありながら、高禄者
           を
押えつけること、❻邪しまでありながら、正しいものを迫害す
           ること、以上の六つであります。
これに対して、君子が守るべき
           順道は、同じく六つ(六順)あります。❶君主は義を守ること、
           ❷臣下
は忠誠を尽くすこと、❸父は子を慈しむこと、❹子は親を
           大事にすること、❺兄は弟を愛すること、❻弟は兄
を敬うこと、
           以上の六つであります。
この順道を棄てて悸逆に走るのは、禍い
           を招くもと。為政者は、禍いのタネをとり除くことが義務
である
           のに、かえってそれを育てるとは、みずから墓穴を掘るようなも
           のではありませんか」
  
           
だが、荘公ほとりあわなかった。それよりも石碏にとって頭の痛
           いことは、わが子の石厚(せきこう)までが州吁にとりいるよう
           になり、かれがいくらとめてもきかないことであった。やがて、
           桓公が太子に立つと、碏石は隠居を申し出た。

 

 No. 16

【RE100倶楽部:波力発電 日本初のシステムが実証稼働】

今月12日、東京都・伊豆七島の1つである神津島の沖合で、日本初の波力発電システムの実証試
が始まった。三井造船が開発を進めているシステムで、海面に浮かんだフロートが波で上下運動
する
エネルギーを機械的に回転運動に変換して発電する。☈開発した波力発電装置は、海面に浮か
んだフロ
ートが波で上下運動するエネルギーを、機械的に回転運動に変換。この力で発電機を回転
させて発電
する仕組み。ポイントアブソーバー式とも呼ばれる方式で、海底にアンカーを設置して
係留索を使って固定している。装置の定格出力は3.0kW(キロワット)、全長約13m、フロート直径
2.7m、空中重量は約10tだ。実証期間中の平均発電量は600W(ワット)を想定する。

 May 10, 2017

● 発電コストの解析

✪豊富かつ24時間利用できる自然エネルギーとして期待される波力発電。普及のカギはコストだ。
発電システムそのものの費用に加えて、生み出した電力を地上に送電するためのコストも掛かる。
沿岸から遠くなるほど強いエネルギーを得やすくなるが、それに比例して送電コストも大きくなる。

☈そこで最近では港の防波堤付近など、沿岸に近いエリアに設置するタイプの波力発電システムの
実証が進んでいる。2016年11月には岩手県の久慈市にある「久慈港」で、日本で初めて電力会社の
系統に接続する波力発電所が実証稼働。

 Oct. 16, 2016

東京大学・生産技術研究所が中心となって開発した波力発電所で、海底に設置する基礎部分の上
に建屋
を建設し、その中に建屋に発電機を収めている。その下にぶら下がるように設置している板
(ラダー)が、
波を受けて振り子のように運動し、発電機を回転させて発電する。発電能力は43kW
で、平均して10kW程度
の発電を見込む。
  Apr. 17, 2015

異なる方式の波力発電システムでは、NEDOが15年に秋田県酒田市の酒田港で実証試験を行っ
ている。これは港の護岸に直接取り付ける方式のシステムで、海面の上下の動きにより気流を生み
出し、タービンを回転させて発電する仕組み。既設の護岸に後付けできるようにすることで、設置
コストの低減を狙っている。

※ 革命的な波力発電システムについての考察は後日掲載してみる。

 

【ネオコン倶楽部:有機ELデバイスの高効率化】

 

5月11日、九州大学らの研究グループは次世代有機EL素子の発光材料として注目される熱活性化
遅延蛍光(
TADF)を出す分子(TADF分子)の発光メカニズムを解明したと発表。その概要は、❶
次世代有機EL材料(熱活性化遅延蛍光分子)の発光メカニズムを先端分光技術で解明、❷分子の励
起状態や種類、エネルギーに着目し、高い発光効率の分子構造を発見、❸次世代有機EL材料の新し
い設計指針として貢献、低コスト・高効率な有機ELデバイスの実現に期待できるというもの。

✪有機ELは、有機分子が電流によりエネルギーが高い励起状態になり、それがエネルギーの低い基
底状態に戻る際に発光する現象を利用するが、TADF(熱活性化遅延蛍光は、室温の熱エネルギー
の助けを受けて有機EL分子が放出する蛍光のことで、現在の有機ELに不可欠な希少金属が不要なこ
とから低コスト化、高効率化の切り札とされている。TADF発光には分子の二つの励起状態が関わり、
それらの状態間のエネルギー差ΔESTが室温の熱エネルギー近くまで小さいほど、発光効率が高いと
考えられている。しかし、室温の熱エネルギーではTADFの発光が困難なはずの分子でも、100%に
近い高い発光効率を示す事例が報告されるようになり、発光メカニズムの詳細な解明が求められて
いた。

✪九大はこれまでに、熱により三重項状態を一重項状態へと逆変換して蛍光を放出するTADF分子を
設計・開発し、12年にありふれた元素である炭素、窒素、水素だけからなる有機化合物で、ほぼ
百%の発光効率を示すTADF分子を初めて開発、当時、高い発光効率を実現できたのは緑色蛍光の
TADF分子、その発光メカニズムの詳細も不明であった。


DOI: 10.1126/sciadv.1603282Evidence and mechanism of efficient thermally activated delayed fluorescence
promoted by delocalized excited states

一方、産総研では、これまでに太陽電池や光触媒などに使われる電子材料の光機能のメカニズム
の解明を目指し、材料の励起状態での光吸収を100フェムト(10兆分の1)秒からミリ(1000分の1)秒まで
の幅広い時間領域において、紫外光から可視光、赤外光までの広い波長領域で測定できるポンプ・
プローブ過渡吸収分光法の開発に取り組んできた。

今回、両者は九大が設計・開発した有機分子について、ポンプ・プローブ過渡吸収分光法を用いて
それらの発光メカニズムを解明。これまでの研究では見過ごされてきた各分子の一重項状態と三重
項状態の種類(励起種)とエネルギーに着目して検討を行った。

着実に1つ1つ問題点を解決していることが見て取れます。なにごとも基礎研究が大事。

 

    

 読書録:村上春樹著  『騎士団長殺し 第Ⅰ部』    
   
 

   24.純粋な第一情報を収集しているだけ 

  私はそれについて考えてみた。免色の言うことはまだうまく理解できなかった。私は騎士団長
 の方にさりげなく目をやった。騎士団長はまだその飾り棚の上に腰掛けていた。彼の顔にはどの
 ような表情も浮かんでいなかった

    免色は続けた。「暗くて狭いところにI人きりで閉じこめられていて、いちばん怖いのは、死
 ぬことではありません。何より怖いのは、永遠にここで生きていなくてはならないのではないか
 と考え始めることです。そんな風に考えだすと、恐怖のために息が詰まってしまいそうになりま
 す。まわりの壁が迫ってきて、そのまま押しつよされてしまいそうな錯覚に襲われます。そこで
 生き延びていくためには、人はなんとしてもその恐怖を乗り越えなくてはならない。自己を克服
 するということです。そしてそのためには死に限りなく近接することが必要なのです」

 「しかしそれは危険を伴う」
 「太陽に近づくイカロスと同じことです。近接の限界がどこにあるのか、そのぎりぎりのライン
 を見分けるのは簡単ではない。命をかけた危険な作業になります」
 「しかしその近接を避けていては、恐怖を乗り越え自己を克服することはできない」
 「そのとおりです。それができなければ、人はひとつ上の段階に進むことができません」と免色
 は言った。そしてしばらくのあいだ何かを考えているようだった。それから唐突に  私から見
  ればそれは突然の動作に思えた――席から立ち上がり、窓のところに行って、外に目をやった。

   Icarus


 「まだ少しばかり雨が降っているようですが、たいした雨じゃない。少しテラスに出ませんか?
 お見せしたいものがあるんです」

  私たちは食堂から階上の居間に移り、そこからテラスに出た。南欧風のタイル張りの広々とし
 たテラスだった。我々は木製の手すりに寄りかかるようにして、谷間の風景を眺めた。まるで観
 光地の見晴台のように、そこから谷間を一望することができた。細かい雨はまだ降っていたが、
 今ではほとんど霧に近い状態になっていた。谷を挟んだ向かいの山の家々の明かりは、まだ明る
 くともっていた。同じひとつの谷を挟んでいても、反対側から眺めると風景の印象がずいうもの
 

  
テラスの一部には屋根が張り出していて、その下に日光浴用、あるいは読需用の寝椅子が置か
 れていた。飲み物や本を載せるための、グラス・トップの低いテーブルがその隣にある。縁の葉
 をつけた観葉椅物の大きな鉢があり、ビニールのカバーをかぶせられた丈の高い器具のようなも
 のが置いてあった。壁にはスポットライトもついていたが、そのスイッチは入れられていなかっ
 た。居間の照明もほの暗く落とされていた。

 「うちはどのあたりになるのでしょう?」と私は免色に尋ねた。

  免色は右手の方向を指さした。「あのあたりです」

  私はそちらの方に目をこらしてみたが、家の明かりがまったくついていないことと、霧のよう
 な雨が降っていることのために、うまく見定められなかった。よくわからないと私は言った。



 「ちょっと待ってください」と免色は言って、寝椅子のある方に歩いて行った。そして何かの器
 具の上にかぷせられたビニールのカバーを取り、こちらにそれを抱えて持ってきた。三脚付きの
 双眼鏡らしきものだった。それほど大きなものではないが、普通の双眼鏡とは違う不思議な格好
 をしていた。色はくすんだオリーブ・グリーンで、形状の無骨さのせいで測量用の光学機器のよ
 うに見えなくもない。彼はそれを手すりの前に置き、方向を調整し慎重に焦点を合わせた。

 「ご覧になってください。これがあなたの往んでおられるところです」と彼は言った。


  私はその双眼鏡をのぞいてみた。鮮明な視野を持つ倍率の高い双眼鏡だった。量販店で売って

 いるようなありきたりのものではない。霧雨の談いヴェールを通して、遠方の光景が手に取るよ
 うに見えた。そしてたしかにそれは拡が暮らしている家たった。テラスが見える。私かいつも座
 っているデッキチェアかおる。その奥には居間があり、隣には拡が絵を描いているスタジオがあ
 る。明かりが消えているので家の中まではうかがえない。しかし昼間なら少しは見えるかもしれ
 ない。自分の住んでいる家をそんな風に眺めるのは(あるいは覗くのは)、不思議な気持ちのす
 ることだった。

 「安心してください」と免色は拡の心を読んだように背後から声をかけた。「ご心配には及びま
 せん。あなたのプライバシーを侵害するようなことはしていません。というか、実際にあなたの
 お宅にこの双眼鏡を向けたことはほとんどありません。信用してください。拡の見たいものは他
 にあるからです」
 「見たいもの?」と拡は言った。そして双眼鏡から目を難し、振り返って免色の顔を見た。免色
 の顔はあくまで涼しげで、相変わらず何も語っていなかった。ただ夜のテラスの上で、彼の白髪
 はいつもよりずっと白く見えた。
 「お見せします」と免色は言った。そしていかにも馴れた手つきで双眼鏡の向きを少しだけ北の
 方に回し、素早く焦点を合わせた。そして▽歩後ろに下がって拡に言った。「ご覧になってくだ
 さい」

Military Binoculars

  私は双眼鏡をのぞいてみた。その丸い視野の中に、山の中腹に立っている膳洒な板張りの住宅
 が見えた。やはり山の斜面を利用して建てられた二階建てで、こちらに向けてテラスがついてい
 る。地図の上ではうちのお隣ということになるのだろうが、地形の関係で互いに行き来する道は
 ないから、下から別々の道路を上ってアクセスしなくてはならない。家の窓には明かりがついて
 
いた。しかし窓にはカーテンが引かれており、中の様子まではうかがえなかった。しかしもしカ
 -テンが開けられていたら、そして部屋の明かりがついていたら、中にいる人の姿をかなりはっ
 きり目にできるはずだ。これだけ高い性能を有する双眼鏡ならそれくらいはじゆうぶん可能だろ
 う。

 「これはNATOが採用している軍用の双眼鏡です。市販はしていないので、手に入れるのに少
 しばかり苦労しました。明度がきわめて高く、暗い中でもかなり明瞭に像を見定めることができ
 ます」

  私は双眼鏡から目を難し免色を見た。「この家が免色さんが見たいものなのですか?」
 
 「そうです。でも誤解してもらいたくないのですが、私は覗きをやっているわけではありませ

 ん」

  彼は最後に双眼鏡をもう一度ちらりとのぞき、それから三脚ごと元あった場所に戻し、上から
 ビニールのカバーを掛けた。

 「中に入りましょう。冷えるといけませんから」と免色は言った。そして我々は居間に戻った。
 我々はソファと安楽椅子に腰をかけた。ポニーテイルの青年が顔を見せ、何か飲み物はほしいか
 と尋ねたが、我々はそれを断った。免色は青年に向かって、今夜はどうもありがとう、ご苦労様、
 二人とももう引き上げてもらってけっこうだ、と言った。青年は一礼し引き下がった。

  騎士団長は今ではピアノの上に腰掛けていた。真っ黒なスタインウェイのフル・グランドに。
 彼はその場所が前の場所より気に入っているように見えた。長剣の柄についた宝玉が明かりを受
 けて誇らしげにきらりと光った。

 Steinway Grand Piano Model A

「今ご覧になったあの家には」と免色は切り出した。「私の娘かもしれない少女が住んでいます。
 私はその姿を遠くから、小さくてもいいからただ見ていたいのです」

 私は長いあいだ言葉を失っていた。

 「覚えておられますか? 私のかつての恋人が他の男と結婚して生んだ娘が、あるいは私の血を
 分けた子供であるかもしれないという話を?」
 「もちろん覚えています。その女性はスズメバチに剌されて亡くなってしまって、娘さんは十三
 歳になっている。そうですね?」

  免色は短く簡潔に肯いた。「彼女は父親と一緒に、あの家に住んでいます。谷の向かい側に建
 ったあの家に」
  頭の中にわき起こったいくつかの疑問を整ったかたちにするのに時間が必要だった。免色はそ
 のあいだじっと黙して、私か感想らしきものを口にするのを辛抱強く待っていた。
  私は言った。「つまりあなたは、ご自分の娘かもしれないその少女の要を日々双眼鏡を通して
 見るために、谷間の真向かいにあるこの屋敷を手に入れた。ただそれだけのために多額の金を払
 ってこの家を購入し、多額の金を使って大改装をした。そういうことなのですか?」

  免色は肯いた。フ兄え、そういうことです。ここは彼女の家を観察するには理想的な場所です。
 私は何かあってもこの家を手に入れなくてはなりませんでした。他にこの近辺に建築許可の下り
 そうな土地はひとつもなかったものですから。そして以来、毎日のようにこの双眼鏡を通して、
 谷間の向かいに彼女の姿を探し求めています。とはいってもその姿を目にできる日よりは、目に
 できない日の方が遠かに多いのですが」
 「だから邪魔が入らないように、できるだけ人を入れないで、一人でここに暮らしておられる」

  免色はもう一度肯いた。「そうです。誰にも邪魔をしてもらいたくない。場を乱してほしくな
 い。それが私の求めていることです。私はここで無制限の孤独を必要としているのです。そして
 私の他にこの秘密を知っているのは、この世界にあなた一人しかいません。こんな微妙なことは
 迂闊に人に打ち明けられませんからね」

  そのとおりだろう、と私は思った。そして当然ながらこうも思った。じやあどうして今、彼は
 私にそのことを打ち明けているのだろう?

 「じやあ、どうして今ここでぼくにそれを打ち明けるんですか?」と私は免色に尋ねてみた。
 「何か理由があってのことなのでしょうか?」

  免色は脚を組み直し、私の願をまっすぐ見た。そしてひどく静かな声で言った。「ええ、もち
 ろんそうするには理由があります。あなたに折り入ってひとつお願いしたいことがあるのです」                                

                                                          この項つづく



金本阪神の二年目、好調な5月である。好調に比例してTVへの露出度が上がりこれがまた好循環
する。その先には日本シリーズ優勝、その先はバブル疲労がまっている(これは老婆心ですが)。
ふと、目を惹く選手が中谷将大(まさひろ)選手――93年1月5日生まれ、阪神タイガースに所
属する福岡県小郡市出身のプロ野球選手、外野手、内野手、捕手。10年のドラフト会議で、阪神
タイガースから3巡目で指名で、捕手として入団、背番号は60。身長187cm、体重89kgという体格
で、捕手としては遠投120メートルの強肩が持ち味。しかし、高校通算で20本塁打を記録するほど
の長打力を生かすために、阪神への入団後に捕手から外野手へ転向した。掛布雅之からは、「手足
が長く、実際にスローイングが正確なことから新庄剛志のような素質を感じる」との理由で「小新
庄(こしんじょう)」と呼ばれる。前書きは置いておき、4番バッターの風格が備わっているとい
うのが印象である。福留、糸井、中谷を中軸に高山などの若手、鳥谷などのベテラン・中堅を揃え、
投手陣が頑張れば、あの85年のゴールデンドリームが再現する。ただし、人気に引きずられずに
風通しをよくしておけば、金本タイガースは5年、いや10年の黄金期に突入すること間違いない。

    

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ハンフォード核廃棄物施設緊急事態

2017年05月10日 | 環境工学システム論

          
             鄭、衛の不和   /   鄭の荘公小覇の時代


                                                                                                              

      ※  秋八月、紀国の人が夷の国を伐った。しかし、夷の国からわが魯にその
        報告がなかった。だから『春秋経』には記録されていないのである。
         また、稲虫が発生したが、災害を及ぼすには至らなかったので、このこ
        とも記録されていない。恵公在位の晩年に、魯国は宋国の軍隊を黄(宋の
        邑)で敗った。隠公は即位すると、宋に対して和睦を求めた。『春秋経』
        に「九月、宋人と宿に盟った」とあるのは、このようにして国交をひらい
        たことをいっている。 

         冬十月の庚申の目、恵公を改葬した。隠公はその葬式に参列しなかった
        ので、記録していない。恵公が亡くなったとき、魯は宋と戦っており、ま
        た太子は幼かった。このように葬礼にいくつか欠ける条件があったので改
        葬したのである。衛侯も魯に来て会葬に参列したが、隠公に会わなかった
        ので、そのことも『春秋経』に記されていない。

         鄭国における共叔段の乱で、共叔の子の公孫滑(こうそうんかつ)は衛
        の国に出奔した。衛は滑の後押しをして鄭を伐ち、廩延(りんえん)の地
        を占領した。鄭は周王の兵と虢(かく)国の兵をひきいて衛国の南方の地
        を攻めるとともに、邾国に援兵を要語した。邾の国君(儀父)は魯から出
        兵させようと、ひそかに魯の大夫である公子予にたのんだ。予は隠公に許
        しを求めた。しかし隠公は許さなかった。予はあくまで我を通して、つい
        に手兵をひきいて出て行った。そして邾・鄭と翼(邾の地)で盟を結んだ。
        『春秋経』にその事件を記していないのは、隠公の兪によったのではなか
        ったからである。
         新しく幽門を作ったが、『春秋経』に記していないのは、やはり隠公の
        命によったのではないからである。

         十二月、祭の国君(伯爵)が魯国を訪問した。しかし周王の命によるも
        のではなかった。衆父(魯の公子益師の字)が亡くなったとき、隠公は小
        斂の式に立ち会わなかった。だから『春秋経』には「公子益師卒す」とあ
        るのみで、日を記さなかった。

      ※ 鄭のお家騒動は解決したものの、抹殺された段の子が衛に亡命したことか
        ら両国は不和となった。これが次の事件(隠公二年の条)への伏線となる。
        〈小斂〉:
死者の遺骸に衣を着せるのを小斂といい、棺に入れるのを大斂
        という。
 

  May 9, 2017

● ハンフォード核廃棄物施設でトンネルが崩壊

9日火曜日の朝、1989年以来、ハンフォードの9基の原子炉の浄化作業が進められている施設で、
放射性汚染物質貯蔵用トンネルの20フィート長の部分が崩壊し、何百人もの現地労働者が避難す
る事態が発生したとワシントンポストが報じた(Gillian Brockell/The Washington Post )。これによ
り、米国エネルギー省は、放射性物質と機器を保管するために使用されたトンネルの洞窟の後に、
ワシントンのハンフォード核廃棄物貯蔵場所で緊急事態宣言を発した。 規模な複合施設の200東エ
リアでは、約3000人の労働者が被害を受けたと地元メディアが報じている。その避難勧告対象は
ロードアイランドの約半分のサイト全体に及ぶ。また、KING-TV
によると、プルトニウム - ウラン
抽出工場(PUREX)付近のトンネルの一部が近くの道路工事により発生した振動で崩落した可能性
が高いとが報じている。また、ワシントン州生態学部のランディ・ブラッドベリー広報担当者は、AP通信に対
し、崩壊時に負傷した労働者はなく、放射線は検出されていないと述べている。 
 

Emergency declared at US Hanford nuclear waste site after tunnel collapse — RT America, Published time: 9
May, 2017 16:34

 

 No. 14

 May 8, 2017

【RE100倶楽部:サンフランシスコ・ベイエリア高速鉄道公社】

BARTBay Area Rapid Transit:サンフランシスコ・ベイエリア高速鉄道公社)は、輸送機関が再生可能エ
ネルギー源からさらに多くの電力を直接購入し積極的な導入指針を採用。将来のエネルギー購入を
導く新しい卸売電力リスク分散政策を承認したことを公表。
ほとんどの交通機関は、地域のプロバ
イダーから電力購入する必要があり、15年に承認されたカルフォルニア州法により、BARTは 電
源選択が自由度が大きくなる。この
地区は独自の電力リスク分散の構築を行ってきたが、引き続き
PG&Eから配送サービスを受ける。BARTの現在のリスク分散上は、PG&Eの典型的な大口顧客と比
較し、二酸化炭素排出量において78%もクリーンだが、太陽光発電、風力発電、小型水力発電所
などの再生可能エネルギー源より多くの電力を得ることに意欲的であり、しかもBARTのコストは、
大規模なPG&Eの顧客と比較して18%も低くなる。
BARTに以下のように新しい電力危機分散目
標を設定している。

  1. 2017年~2024年までの平均排出係数は100 lbs-CO2e / MWh以下であること
  2. 2025年までに少なくとも対象の再生可能エネルギー資源から50%、少なくとも低炭素源ゼ
    ロから90%のであること
  3. 2035年までに炭素源ゼロから100% であること
  4. 2045年までに対象の再生可能エネルギー源から100%であること

これらの目標は、BARTが2030年までに現状の再生可能危機分散基準を50%超過する見込みであり。
この地区はまた、BARTが包括使役顧客として支払う予定の料金と比較して、長期的な経費優位性を
維持する見込みである。
BARTの担当管理者(ホリー・ゴードン)は、再生可能エネルギー供給コス
トが近年大幅に低下し、他の供給源との既存料金に漸近していことから、積極的で現実的なクリー
ンエネルギー目標が設定できるチャンスであると話す。
BARTは毎年約40万メガワット時間(MW
h
)の電力を使用。 これはAlameda市の使用電力よりもわずかに多く、BARTは北カリフォルニアで
最大の電力顧客の1つとになる。同沿岸高速鉄道公社(
BART)は、5月に再生可能電力供給業者と
調整に入る。

 Wikipedia

 

【RE100倶楽部:世界最大のオランダ海洋風力発電稼働】 

今月9日、オランダの関係者らは、世界最大のオフショア風力発電所の1つとして、150基のタービ
ンが北海で稼働委したことを公表。これにより、今後15年間、オランダ北部の海岸から約85キ
ロ(53マイル)離れたジェミニのウィンドパークは、約150万人のエネルギー需要をまかなう。
風力発電で約600メガワットの発電容量(785,000世帯分)、二酸化炭素排出量125万トン削減
するものあり、再生可能エネルギーの総供給量の約13%、風力発電の約25%を占める。また、
このプロジェクトは、カナダ独立再生可能エネルギー会社Northland Power、風力タービンメーカー
Siemens Wind Power、オランダの海洋請負業者Van Oord、廃棄物処理会社HVCの4企業体で、総額
28億ユーロ(30億ドル)が投資されている。

オランダの化石燃料はエネルギー依存の割合は約95%を占めるが(経済省の2016年報告)、オラ
ンダ政府は、2020年に風力や太陽光発電などの再生可能エネルギー源により14%、2023年には、
16%をカーボンニュートラル化する。

※ Shell-led consortium to build 700MW offshore Dutch wind farm、
   https://phys.org/news/2016-12-shell-led-consortium-700mw-offshore-dutch.html

  May 8, 2017

【RE100倶楽部:蓄電池市場は25年に4.7倍】

8日、富士経済は、電力貯蔵システム向け二次電池の世界市場調査結果を発表。それによると16年の住
宅用、非住宅用、系統用を合計した二次電池の世界市場は1649億円。今後は全ての分野で市場が拡
大し、25年の市場規模は2016年比で4.7倍の7792億円に拡大すると予測。池の種別として今後大
きく伸びるとするのは、リチウムイオン二次電池(LiB)。低価格製品を展開する韓国系や中国系メ
ーカの台頭で単価が大幅に下落、さまざまな用途での採用が増えている。従来は想定されていなか
った数十~数百MWh(メガワット時)や長時間出力用途での採用も増えると分析する。NAS電池やレ
ドックスフロー電池は現状、実証実験での採用が中心だが、今後は系統設備の安定化用途で6時間
以上の長周期用途はNAS電池、4時間程度の中長周期用途はレドックスフロー電池の採用が多くな
ると予測(詳細は、上グラフダブクリ参照)。

Apr. 27, 2017

【ネオコン倶楽部:原子一個の電気陰性度の測定に成功!】

東京大学の研究グループは、原子間力顕微鏡を用いて、固体表面上の原子一つひとつに対して
電気
陰性度を測定することに成功する。同一の元素でも、周囲の化学環境(どの元素とどのよ
うに結合して
いるか)が異なる場合は、電気陰性度が変化することを実証。このことで、応用
上重要なさまざまな触
媒表面や反応性分子の化学活性度を原子スケールで調べられる見通し。

 

上図のように、化学の重要な基本概念である電気陰性度をこの装置で原子スケール測定できる
ことを世界で初めて発見。測定対象として、酸素原子を(上図2b)酸素を吸着させたシリコン
表面で測定、対象原子のうち酸素原子上では大きな結合エネルギーが働き(図2c)。針の材質
はシリコン、針先端のシリコン原子と表面の酸素原子のあいだにシリコン-酸素間の極性共有
結合が形成(示唆)。同様の測定を表面のシリコン原子上で行うと、シリコン-シリコン間に
形成する共有結合エネルギーが見積もれる(上図2c)。このような二種類の結合エネルギーの
関係を系統的に調べた結果、これらのエネルギーの関係はポーリングの式により説明できるこ
とが分かる。さらに、ポーリングの式は原子間の電気陰性度差と結び付き、個々の原子の電気
陰性度の見積が可能であることも分かる。酸素だけでなく、ゲルマニウム、スズ、アルミニウ
ムの他の元素の電気陰性度も測定する(図3a)。

❶触媒研究に用いられる遷移金属(チタンや鉄など)のセラミックス(酸化物や窒化物など)
表面の各原子や、表面に吸着した単一有機分子の官能基の化学活性度、❷従来のAFMによる元
素識別法は主に第4族の元素に限られていたが、より多くの種類の元素を識別できる、❸触媒
表面や有機分子の化学活性度を評価し、AFM観察によって化学反応を追跡し、そして、反応に
よって生じた最終生成物の分子や原子を元素識別できることになるという。これは実に面白い
革命的な発見だ。

Electronegativity determination of individual surface atoms by atomic force microscopy, DOI:10.1038
/NCOMMS15155

 

 

 

    

 読書録:村上春樹著  『騎士団長殺し 第Ⅰ部』    
   

   23.みんなほんとにこの世界にいるんだよ

   免色がリモート・コントロールを使って、程よい小さな音で音楽を洗した。聞き覚えのある
 ューベルトの弦楽四重奏曲だった。作品D八〇四。そのスピーカーから出てくるのはクリアで粒
 立ちの良い、洗練された上品な音だった。雨田典彦の家のスピーカーから出てくる素朴で飾りの
 ない音に比べると、違う音楽のようにさえ思える

  ふと気がつくと、部屋の中に騎士団長がいた。彼は書架の前の踏み台に腰を下ろし、腕組みを
 して私の絵を見つめていた。私が目をやると、騎士団長は首を小さく振り、こちらを見るんじや
 ないという合図を送ってよこした。私は再び絵に視線を戻した 

 「どうもありがとうございました」私は椅子から起ち上がり免色にそう言った。「掛けられてい
 る場所も言うことはありません」 

  免色はにこやかに首を振った。「いや、お礼を言わなくてはならないのはこちらの方です。こ
 の場所に落ち着いたことで、ますますこの絵が気に入ってしまいました。この絵を見ていると、
 何と言えばいいんだろう、まるで特殊な鏡の前に立っているような気がしてきます。その中には
 私がいる。しかしそれは私自身ではない。私とは少し違った私自身です。じっと眺めていると、
 次第に不思議な気持ちになってきます」 

  免色はシューベルトの音楽を聴きながら、またひとしきり胆石のうちにその絵を眺めていた。
 騎士団長もやはり踏み台に腰掛けたまま、免色と同じように眼を細めてその絵を見ていた。まる
 で真似をしてからかっているみたいに(おそらくそんな意図はないのだろうが)。
  免色はそれから壁の時計に目をやった。「食堂に移りましょう。そろそろ夕食の用意が整って
 いるはずです。騎士団長が見えているといいのですが」

  私は書架の前の踏み台に目をやった。騎士団長の姿はもうそこにはなかった 

 「騎士団長はたぶんもうここに来ていると思います」と私は言った
 「それはよかった」と免色は安心したように言った。そしてリモート・コントロールを使ってシ
 ューベルトの音楽を止めた。「もちろん彼の席もちやんと用意してあります。夕食を召し上がっ
 ていただけないのはかえすがえすも残念ですが」 

  その下の階(玄関を一階とすれば、地下二階に相当する)は貯蔵庫と、ランドリー設備と、運
 効用のジムに使われていると免色は説明してくれた。ジムにはトレーニングのための各種マシン
 が揃っている。運動をしながら音楽が聴けるようになっている。週に一度、専門のインストラク
 夕ーがやってきて、筋肉トレーニングの指導をしてくれる。それから往み込みのメイドのための
 ステュディオ式の居室もある。そこには簡易キッチンと小さなバスルームがついているが、現在
 のところ誰も使っていない。その外には小さなプールもあったのだが、実用には適さないし手入
 れも面倒なので、埋めて温室にしてしまった。でもそのうちに二レーン二十五メートルのラップ
 プールを新たに作ることになるかもしれない。もしそうなったら是非泳ぎに来てください。それ
 は素晴らしいと私は言った。

  それから我々は食堂に移った。   

  Giuseppe Verdi, Ernani (2000, Madrid)

    24.純粋な第一次情報を収集しているだけ

  食堂は書斎と同じ階にあった。キッチンがその奥にある。横に長いかたちをした部屋で、やは
 り横に長い大きなテーブルが部屋の真ん中に置かれていた。厚さ十センチはある樫村でできてい
 て、十人くらいはコ皮に食事ができる。ロビン・フッドの家来たちが宴会をしたら似合いそうな、
 いかにも頑丈なテーブルだ。しかし今、そこに腰を下ろしているのは陽気な無法者たちではなく、
 私と免色の二人きりだった。騎士団長のための席が設けられていたが、彼の姿はそこにはなかっ
 た。そこにはマットと銀器と空のグラスが置かれていたが、あくまでしるしだけのことだった。
 それが彼のための席であることが儀礼的に示されているだけだ。

  壁の長い一面は居間と同様、すべてガラス張りになっていた。そこからは谷の向こうの山肌が
 見渡せた。私の家から免色の家が見えるのと同じように、免色の家からも当然私の家が見えるは
 ずだ。しかし私の住んでいる家は免色の屋敷ほど大きくはないし、目立たない色合いの木造住宅
 だから、暗い中ではそれがどこにあるのか判別できなかった。山にはそれほど多くの家は建って
 いなかったが、まばらに点在するそれらの家々には、ひとつひとつ確かな明かり灯っていた。
 夕食の時刻なのだ。人々はおそらく家族と共に食卓について、これから温かい食事を目にしよう
 としている。そのようなささやかな温もりを、それらの光の中に感じとることができた。

  一方、谷間のこちら側では、免色と私と騎士団長がその大きなテーブルに着いて、あまり家庭
 的とは言いがたい一風変わった夕食会を始めようとしていた。外では雨がまだ細かく静かに降り
 続けていた。しかし風はほとんどなく、いかにもひっそりとした秋の夜だった。窓の外を眺めな
 がら、私はまたあの穴のことを考えた。祠の裏手の孤独な石室のことだ。こうしている今もあの
 穴は暗く冷たくそこにあるに違いない。その風景の記憶は私の胸の奥に特殊な冷ややかさを違ん
 できた。

 「このテーブルは、私がイタリアを旅行しているときに見つけて、買い求めたものです」と免色
 は、私がテーブルを裏めたあとで言った。そこには自慢するような響きはなかった。ただ淡々と
 事実を述べているだけだ。「ルッカという町の家其屋で見つけて買い求め、船便で送らせました。
 なにしろひどく重いものなので、ここに運び込かのが一仕事でした」
 「よく外国に行かれるのですか?」

  彼は少しだけ唇を歪めた。そしてすぐに元に戻した。「昔はよく行ったものです。半分は仕事
 で半分は遊びです。最近はあまり行く機会がありません。仕事の内容を少しばかり変えたもので
 すから。それに加えて私自身、あまり外に出て行くことを好まなくなったということもあります。
 ほとんどここにいます」

  彼はここがどこであるかをより明らかにするために、手で家の中を示した。そのあと変化した
 仕事の内容についての言及があるのかと思ったが、話はそこで終わった。彼は自分の仕事につい
 ては相変わらずあまり多くを語りたくないようだった。もちろん私もそれについてとくに質問は
 しなかった。

 「最初によく冷えたシャンパンを飲みたいと思いますが、いかがですか? それでかまいません
 か?」

  もちろんかまわないと私は言った。すべておまかせする。
  免色が小さく合図をすると、ポニーテイルの青年がやってきて、細長いグラスにしっかりと冷
 えたシャンパンを注いでくれた。心地よい泡がグラスの中に細かく立ち上った。グラスは上質な
 紙でできたみたいに軽く薄かった。私たちはテーブルを挟んで祝杯をあげた。免色はそのあと、
 無人の騎士団長の席に向かってグラスを恭しく上げた。

 「騎士団長、よくお越しくださいました」と彼は言った。

  もちろん騎士団長からの返事はなかった。
  免色はシャンパンを飲みながら、オづフの語をした。シチリアを訪れたときに、カターニア
 歌劇場で観たヴェルディの『エルナーニ』がとても素晴らしかったこと。隣の客がみかんを食べ
 ながら、歌手の飲にあわせて歌っていたこと。そこでとてもおいしいシャンパンを飲んだこと。



  やがて騎士団長が食堂に姿を見せた。ただし彼のために用意された席には着かなかった。背丈
 が低いせいで、席に座るとたぶん鼻のあたりまでテーブルに隠れてしまうからだろう。彼は免色
 の斜め背後にある飾り棚のようなところにちょこんと腰を下ろしていた。床から一メートル半ほ
 どの高さにいて、奇妙な形の黒い靴を履いた両脚を軽く揺すっていた。私は免色にはわからない
 ように、彼に向かって軽くグラスを上げた。騎士団長はそれに対してもちろん知らん顔をしてい
 た。

  それから料理が運ばれてきた。台所と食堂のあいだには配膳用の取り出し口がついていて、ボ
 ウタイをしめたポニーテイルの青年が、そこに出された皿をひとつひとつ我々のテーブルに運ん
 だ。オードブルは有機野菜と新鮮なイサキをあしらった美しい料理だった。それに合わせて白ワ
 インが開けられた。ポニーテイルの青年が、まるで特殊な地雷を扱う専門家のような注意深い手
 つきでワインのコルクを開けた。どこのどんなワインか説明はなかったが、もちろん完璧な味わ
 いの白ワインだった。言うまでもない。免色が完璧でない白ワインを用意するわけがないのだ

  それからレンコンイカ白いんげんをあしらったサラダが出てきた。ウミガメスープが出
 てきた。魚料理はアンコウたった。

 「少し季節は早いのですが、珍しく漁港に立派なアンコウがあがったのだそうです」と免色は言
 った。たしかに素晴らしく新鮮なアンコウたった。しっかりとした食慾で、上品な甘みがあり、
 それでいて後味はさっぱりしていた。さっと蒸したあとに、タラゴンソース(だと思う)がか
 けられていた。
  そのあとに厚い鹿肉ステーキが出された。特殊なソースについての言及があったが、専門用
 語が多すぎて覚えきれなかった。いずれにせよ素晴らしく香ばしいソースだった。
  ポニーテイルの青年が、私たちのグラスに赤ワインを注いでくれた。一時間ほど前にボトルを
 開け、デキャンターに移しておいたのだと免色は言った。

 「空気がうまく入って、ちょうど飲み頃になっているはずです」

  空気のことはよくわからないが、ずいぶん味わいの深いワインだった最初に舌に触れたとき
 と、口の中にしっかり含んだときと、それを飲み下したときの味がすべてそれぞれに違うまる
 で角度や光線によって美しさの傾向が微妙に違って見えるミステリアスな女性のように。そして
 後味が心地よく残る。

 「ボルドーです」と免色は言った。「能書きは省きます。ただのボルドーです」
 「しかしいったん能書きを並べ始めると、ずいぶん長くなりそうなワインですね」

  免色は笑みを浮かべた。目の脇に心地よく皺が寄った。「おっしゃるとおりです。能書きを並
 べ始めると、ずいぶん長くなりそうだ。でもワインの能書きを並べるのが、私はあまり好きじゃ
 ありません。何によらず効能書きみたいなものが苦手です。ただのおいしいワイン――それでい
 いじやないですか」

  もちろん私にも異存はなかった。

  私たちが飲んだり食べたりする様子を、騎士団長はずっと飾り棚の上から眺めていた。彼は終
 始身動きすることもなく、そこにある光景を細部まで克明に観察していたが、自分が目にしたも
 のについてとくに感想は持たないようだった。本人がいつか言ったとおり、彼はすべての物事を
 ただ眺めるだけなのだ。それについて何かを判断するわけではないし、好悪の情を持つわけでも
 ない。ただ純粋な第一次情報を収集しているだけなのだ

  私とガールフレンドが午後のベッドの上で交わっているあいたち、彼はこのようにして私たち
 をじっと眺めていたのかもしれない。その光景を想像すると、なんとなく落ち着かない気持ちに
 なった。彼は人がセックスをしているところを見ても、それはラジオ体操や煙突掃除を眺めてい
 るのとまったく変わりないのだと私に言った。たしかにそのとおりかもしれない。しかし見られ
 ている方が落ち着かない気持ちになるのもまた事実だ。

  一時間半ほどをかけて、免色と私はようやくデザート(スフレ)とエスプレッソにまでたどり
 着いた。長い、しかし充実した道のりだった。そこでシェフが初めて調理場から出てきて、食卓
 に顔を見せた。白い調理用の衣服に身を包んだ、背の高い男だった。おそらく三十代半ば、頬か
 ら顎にかけてうっすら黒い祭をはやしていた。技は私に丁寧に挨拶をした。

 「素晴らしい料理でした」と私は言った。「こんなにおいしい料理を口にしたのは、ほとんど初
 めてです」
  それは私の正直な感想だった。これはどの凝った料理をつくる料理人が、小田原の漁港近くで
 人知れず小さなフレンチ・レストランを経営しているというのが、まだうまく信じられなかった。
 「ありがとうございます」と彼はにこやかに言った。「免色さんにはいつもとてもお世話になっ
 ているんです」
  そして一礼して台所に下がっていった。

 Sea turtle soup

奇妙な味の料理を口にするような小説だ。何か物足りない?料理で言えば洗練されているのだが、
「コク」が足りない気がする――途中で投げ出してしまうかもしれない――と思いながら読み進め
る。

                                    この項つづく

    

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

サンルーフが世界を覆う日

2017年05月05日 | 環境工学システム論

           正月、三月、四月   /   魯の隠公即位のいきさつ 

                                                

      ※ 「元年、春、王の正月」とは周王の暦の正月という意味である。即位し
        たのに、
その記述がないのは、摂政だからである。「三月、隠公は邾
        (ちう)の儀父(
ぎほ)と蔑(べつ)(魯の地)において盟約を結んだ
        」とあるが、邾の儀父とは邾子の克(こく:名)
のことである。邾国は
        子爵を授けられたのであるが、この時はまだ周王からその沙汰を受けて
        いなか
ったため、子爵とは書かれていない。また名を記さずに儀父と字
        を書いたのは、その人に敬意を表わ
すためであった。

         隠公は摂政の位につくと、郭国に友好関係を求めようと恚った。そこ
        で蔑の盟約を結んだのである。
四月、魯の大夫の費伯が軍を率いて郎
        (魯の邑:まち)に城壁を築いた。『春秋」に記録されていないの
は、
        君命によってしたものではないからである。

      ※  鄭の荘公小覇の時代:『左伝』は魯国の年代記『春秋経』の"解説書"で
        あり、第十三代の隠公以下、魯国の君主の統治年代に従って記されてい
        る。原形は煩雑で理解しにくいので、本訳書は事件単位に整理して編集、
        原形式を示すため、巻頭の隠公元年、隠公二年の条だけは全文をかかげ
        ている。原形は、まず『春秋経』の文をかかげ、この説明、補足として
        『伝』の文が記されている。ただし、隠公元年の冒頭は、魯の隠公が即
        位するに至ったいきさつを説明したもので、元年以前にさかのぽるから、
        経文のまえにおかれている。

      ※ 春秋の歴史は、黄河下流の平原地帯、すなわち、今の河南省と山東省西
        部を舞台として展開。数ある諸国のうち、大国として挙げられるのは、
        宋・衛・斉・魯・陣・蔡・鄭の七国で、中でも建国のいちばんおそかっ
        た鄭が最も強盛である。西周の末年に建国した鄭は、新しい商業政策を
        採用してめきめきと国力を伸張した。三代目の当主、荘公(BC743~701
                は、弟共叔段の内乱を克服した後、老獪な遠交近攻策(斉・宋と結んで
        宋・衛を東西から挟撃する)を用い、陣・宋・北戎・許など近隣の諸国
        を次々に撃破し、はては、周王を迎え討ってこれを敗った。そして斉の
        桓公の副業に一歩先んじて、小覇すなわち小型の覇者となるのに成功し
        た。

 

  
【ZW倶楽部:マイクロプラスチック禍篇】

● オーシャンクリーンアップ:太平洋のプラスチック除去事業で、2,170万ドル調達

 May. 3, 2017

今月3日、オーシャンクリーンアップは、事業資金の寄付金 2,170万ドルを調達したことを公表。同
事業は、昨年11月以来、2170万ドルの寄付に成功する。この最新の資金調達ラウンドにより、2013年
以降の同事業の総資金は3150万ドルに達した。この新しい貢献により、今年後半に太平洋でクリーン
アップ技術の大規模な実験を開始する。
過去4年間で、海洋流を利用しプラスチックを捕捉/濃縮す
るプラスチック捕獲技術を開発。これにより、太平洋の海洋ごみを理論上清掃時間を数千年から数年
に短縮できることになる。 海洋クリーンアップは、2017年後半に太平洋水域で初めてのクリーンアッ
プシステムの実験を開始する。

  May. 5, 2017



オーシャンクリーンアップは、世界中の海洋漂流プラスチックゴミ捕獲除去システムを開発。 発端
は、ボーン・スラット(Boban Slat)が18歳の時に発案し、2013年に「The Ocean Cleanup」 を設立、
現在、約65人のエンジニアと研究者を雇用する非営利団体。 財団はオランダのデルフトに本部を
置き、人工の海岸線のように機能する長い浮遊障壁のネットワークで、自然の海流を集中させること
で捕獲・回収した海洋プラスチックを貴重な原材料にするプロセスを開発している。
本格的な展開に
備え海洋マッピングを行いながら、2016年6月に北海で百メートル幅の試作機(α機)を製作しテス
トを繰り返し改良してきた。今回のステップアップ実験は2017年後半に予定されている

  Jun. 15, 2015

 No. 10

 グーグルのサンルーフが世界を覆う日 革命は成就される。

 
【RE100倶楽部:太陽光発電篇】 

● 米国 グリッドパリティ到達で今後5年で倍増も

3月9日、米GTMリサーチ社と太陽光発電産業協会(SEIA)は、米国の太陽光発電市場は2016年に
過去最高の伸びを記録し、2015年の2倍近くの発電設備が接続された。その結果、これまでで初めて
他のどのエネルギー源よりも多くの発電容量が接続された。今後も5年間で現在の3倍近くまで成長
続けると「U.S. ソーラーマーケット・インサイト(Solar Market Insight)2016で発表。米太陽光市
場の成長を支える要因の一つは、価格の下落である。米国の太陽光発電システムの平均価格は2016年
に約20%下落
した。GTM 社 が同調査を開始して以来、最も大きな下落率という。この価格下
落が
後押し、2016年には 14.8GW が導入され記録的な成長となっている(上/下図参照)。同報告書
では、
2017年に13.2GWの太陽光発電が導入されると見込む。2016年からは10%の下落となるものの
2015
年の導入量からはまだ75%も多いとしている。 導入量の落ち込みは、メガソーラー(大規模太陽
発電所)の市場でみ起きる。かつてないほど多くの件数となったメガソーラーのプロジェクトが
2015年後半
に接続された後となる。これらのプロジェクトは元々、投資税額控除(ITC)の当初の失
効期限となる2016年末までの完成を予定していた駆け込み需要によるもの。ITCは2019年までの延長
を米議会が2015年12月に可決しており、2019年以降は控除される比率が30%から10%まで段階的
に引き下げられる。

市場成長に曲折のあったメガソーラー市場とは対照的に、住宅用など分散型の太陽光発電の市場は、
今後の2~3年間、概ね継続的に成長すると見込む。システムコストが急速に下落しており、多くの
州で「グリッドパリティ」の状況が実現する。
一方、ネットメータリングの価格改訂など、この分野
でもリスク要因があるため、引き続き留意が必要とGTMリサーチは話す。
2016年に22州がそれぞれ、
100MW 以上の太陽光発電を導入した。100MW 越えの州は、2010年のわずか2州から大幅に増加して
いる。成長が顕著なのが、ジョージア、ミネソタ、サウスカロライナ、ユタの4州である。同社は、
住宅太陽光の市場セグメントが2017年に9%成長すると見込み、従来住宅太陽光の市場のほぼ半分を
占めていたカリフォルニア州は、2017年に失速するとみる一方で、調査対象の40州のうち36州が
間ベースで成長する
米国の太陽光市場で特徴的なセグメントが、「コミュニティソーラー」である。

コミュニティソーラーの市場は、2015~16年の間に4倍近く成長した。この分野の太陽光が特に伸び
ているのが、ミネソタとマサチューセッツの両州である。同社は、非住宅太陽光の市場では2018年に
コミュニティソーラーが300%を占めると予測。
2019年までに、米国の太陽光発電市場ではすべて
の市場セグメントが成長を回復すると見込み、1GW以上の太陽光を導入した州は、現在の9州から
2022年までに24州に増えると予測している。

 May 4, 2017

● グーグルのサンルーフ事業 ドイツの7百万世帯分を見積もる 

グーグルのサンルーフ事業部は、ドイツの7百万世帯に太陽発電推定量を見積もる。これにより太陽
光発電に切り替え可能であるとする。
現在ドイツの家庭の40%が同事業により解析が完了している。
使い方は簡単、ユーザのアドレスを入力し「 E.ONソーラー電卓」を使うと自動的に経費削減額が表示
される。勿論、このサービスは無料で、すでに米国では50州が網羅されている。

 

 

 May. 02, 2017

● インドの「神々の果実」が 太陽電池コスト大幅削減 ?! 

ジャムン(ムラサキフトモモの果実)は、南アジアの先住民で 、安い値段で手に入る。 ジャムンの
木はおよそ百フィートの高さで百年間の樹齢で、その木の黒い果実はその高い栄養価のため薬用とし
常用されてきたが、この果実の顔料アントシアニンは、太陽光発電に使用できるかもしれないという。
サパタティ研究所のグループは、これが色素増感太陽電池(DSSC)の増感剤として使用したところ
この天然色素で発電することを確かめる。また、その製造コストは、従来のソーラーパネルの40%
削減できるのではないかと考えている。さらに、このようなアントシアニンはブルーベリー、ラズベ
リー、チェリー、クランベリーにも含まれその応用は広い。但し、今回の実験での発電効率は0.5%
程度で従来のソーラーそれは15%以上のため課題は残る(上下図参照)。

【デジタル地震予測倶楽部:プライベート電子観測点完備する】

 ● 依然、南関東地域警戒レベル5

 May. 3, 2017

 

    

 読書録:村上春樹著  『騎士団長殺し 第Ⅰ部』    
 

   22.招待はまだちゃんと生きています 

  翌日は月曜日だった。目が覚めたとき、ディジタル時計は6:35を表示していた。私はベッ
 ドの上に身を起こし、その数時間前、真夜中のスタジオで起こった出来事を頭の中に再現した。
 そこで鳴らされていた鈴、ミニチュアの騎士団長、検とのあいだに持たれた奇妙な会話。それら
 のすべては夢だったのだと私は思いたかった。とても長いリアルな夢を私は見たのだ。それだけ
 のことなのだと。そして明るい朝の光の下では、実際にそれは夢の中で起こった出来事としか思
 えなかった。私は出来事のあらゆる部分を克明に記憶していたが、それら細部についてひとつひ
 とつ検証すればするほど、何もかもが現実から何光年も離れた世界の出来事のように見えた。

  しかし、それをただの夢だと思い込もうとどれだけ努めても、それが夢ではないことは私には
 わかっていた。これはあるいは現実でないかもしれない、しかし夢でもないのだ、と。何である
 のかはわからないが、それはとにかく夢ではない。夢とは別のなりたちの何かなのだ。
  私はベッドから出て、雨田典彦の『騎士団長殺し』を包んでおいた和紙を取り、その絵をスタ
 ジオに持って行った。そしてそこの壁に吊し、スツールに腰掛けて長いあいだその絵を正面から
 見つめた。騎士団長が昨夜言ったとおり、絵には何ひとつ変わりはなかった。騎士団長がそこか
 ら抜け出して、この世界に現れたわけではないのだ。絵の中では騎士団長は相変わらず胸に剣を
 突き立てられ、心臓から血を流して死にかけていた。私は宙を見上げ、悶いた口を歪めていた。
 苦悶の呻きを発しているのかもしれない。彼の髪型も、着ている衣服も、手にしている長剣も、
 黒い奇妙な靴も、昨夜ここに現れた騎士団長の姿そのままだった。いや、話の順序から言えば
 ――時系列的に言えば――もちろんあの騎士団長の方が、絵の中の騎士団長の風体を精密に真似
 たわけなのだが。



  雨田典彦が日本画の筆と顔料で描きあげた架空の人物が、そのまま実体をとって現実(ある
 
は現実に似たもの)の中に現れ、意志を持って立体的に動きまわるというのは、まさに驚くべき
 
ことだった。しかしじっと絵を見ているうちにだんだん、それが決して無理なことではないよう
 に、私には思えてきた。おそらくそれだけ、雨田典彦の筆致が鮮やかに生きているということな
 のだろう。現実と非現実、平面と立体、実体と表象のはざまが、見ればみるほど不明確になって
 くるのだ。ファン・ゴッホの描く郵便配達夫の姿が、決してリアルではないのに、見ればみるほ
 ど鮮やかに息づいて見えるのと同じだ。彼の描くカラスが、ただの荒っぽい黒い絵に過ぎないの
 に、本当に空を飛んでいるように見えるのと同じだ。『騎士団長殺し』という絵を眺めながら、
 私はあらためて雨田典彦の画家としての才能と力量に敬服しないわけにはいかなかった。おそら
 くあの騎士団長も(というか、あのイデアも)、この徐の素晴らしさ、力強さを認めたからこそ、
 雨中の騎士団長の姿かたちを「借用する」ことにしたのだろう。ヤドカリができるだけ美しい丈
 夫な貝を住まいとして選ぶように。

  雨田典彦の『騎士団長殺し』を十分ばかり眺めてから、台所に行ってコーヒーをつくり、ラジ
 オの定時ニュースを聞きながら簡単な朝食をとった。意味のあるニュースはひとつもなかった。
 というか今では日々のすべてのニュースは、私にとってほとんど意味のないものになっていた。
 しかしとりあえず、毎朝ラジオの七時のニュースに耳を傾けることを、私は生活の一部にしてい
 た。たとえば地球が今まさに破滅の割にあるというのに、私だけがそれを知らないでいるとなれ
 ば、それはやはり少し困ったことになるかもしれない。

  朝食を済ませ、地球がそれなりの問題を抱えながらも、まだ律儀に回転を続けていることをと
 りあえず確認してから、コーヒーを入れたマグカップを手にスタジオに戻った。窓のカーテンを
 開け、新しい空気を部屋に入れた。そしてキャンバスの前に立ち、自分自身の圃作に取りかかっ
 た。「騎士団長」の出現が現実であろうがなかろうが、免色の夕食に彼が出席しようがするまい
 が、私としてはとにかく自分のなすべき仕事を進めていくしかない。

  私は意識を集中し、白いスバル・フォレスターに乗った中年男の姿を眼前に浮かび上がらせた。
 ファミリー・レストランの彼のテーブルの士にはスバルのマークがついた車のキーが置かれ、皿
 にはトーストとスクランブル・エッグとソーセージが盛られていた。ケチャップ(赤)とマスタ
 ード(黄色)の容器がそのそばにあった。ナイフとフォークはテーブルに並べられていた。料理
 はまだ手をつけられていない。すべての事物に朝の光が投げかけられていた。私が通り過ぎると
 き、男は日焼けした顔を上げて私をじっと見上げた。

  おまえがどこで何をしていたかおれにはちやんとわかっているぞ、と彼は告げていた。その目
 に宿っている重い冷徹な光には、見覚えがあった。それはたぶん私がどこか他の場所で目にした
 ことのある光だった。しかしそれがどこでだったか、いつだったか、私には思い出せなかった。
  彼の要かたちと、その無言の語りかけを私は絵のかたちに仕上げていった。まず昨日木炭を使
 って描いた骨格から、パンの切れ端を消しゴム代わりに使って、余分な徐をひとつひとつ取り去
 っていった。そして削げるだけ削いだあとで、あとに残された黒い徐に、再び必要とされる黒い
 徐を加筆していった。その作業に一時間半ほどを要した。その結果キャンバスの上に出現したの
 はまさに、白いスバル・フオレスターに乗った中年男が(言うなれば)ミイラ化した姿だった。
 肉が削ぎ落とされ、皮膚がビーフジャーキーのように乾燥し、ひとまわり縮んだ姿たった。木炭
 の租く黒い徐だけで、それは表されていた。もちろんただの下描きに過ぎない。しかし私の頭の
 中には来るべき絵画のかたちがしっかりと像を結びつつあった。

 「なかなか見事であるじゃないか」と騎士団長が言った。

  後ろを振り向くと、そこに騎士団長がいた。彼は窓際の棚の上に腰掛けて、こちらを見ていた。
 背中から差し込む朝の光が、彼の身体の輪郭をくっきりと浮かび上がらせていた。やはり同じ白
 い古代の衣裳を着て、短い身の丈に合った長剣を腰に差していた。夢じゃないのだ、もちろん、
 と私は思った。

 「あたしは夢なんかじゃあらないよ、もちろん」と騎士団長はやはり私の心を読み取ったように
 言った。「というか、あたしはむしろ覚醒に近い存在だ」

  私は黙っていた。スツールの上から騎士団長の身体の輪郭をただ眺めていた。

 「ゆうべも述べたと思うが、このような明るい時刻に形体化するというのは、なかなかに疲弊す
 
るものなのだ」と騎士団長は言った。「しかし諸君が絵を描いているところを、コ皮じっくり拝
 見させてもらいたかった。で、勝手ながら、さっきから作業をまじまじと見物させてもらってい
 た。気を悪くはしなかったかね?」

  それに対してもやはり返事のしようがなかった。気を悪くするにせよしないにせよ、生身の人
 間がイデアを相手にどのような理を説けるものだろうか。
  騎士団長は私の返事を待たずに(あるいは私が頭で考えたことをそのまま返事として受け取っ
 て)、自分の諸を続けた。「なかなかよく描けておるじやないか。その男の本質がじわじわと浮か
 びだしてくるようだ」



 「あなたはこの男のことを何か知っているのですか?」と私は驚いて尋ねた。
 「もちろん」と騎士団長は言った。「もちろん知っておるよ」
 「それでは、この人物について何か教えてもらえますか? この人がいかなる人間で、何をして
 いて、今どうしているのか」
 「どうだろう」と騎士団長は軽く首を傾げ、むずかしい表情を顔に浮かべて言った。むずかしい
 顔をすると、彼はどことなく小鬼のように見えた。あるいは古いギャング映画に出てくるエドワ
 ード・G・ロビンソンのように見えた。ひょっとしたら騎士団長は実際に、その表情をエドワー
 ド・G・ロビンソンから「借用」したのかもしれない。それはあり得ないことではなかった。
 「世の中には、諸君が知らないままでいた方がよろしいことがある」と騎士団長はエドワード・
 G・ロビンソンのような表情を顔に浮かべたまま言った。

  雨田政彦がこのあいだ言ったことと同じだ、と私は思った。人にはできることなら知らないで
 いた方がいいこともある
 「つまり、ぼくが知らないでいた方がいいことは教えてもらえないということですね」と私は言
 った。「なぜならば、あたしにわざわざ敢えてもらわなくとも、ほんとうのところ諸君はそれを
 既に知っておるからだ」

  私は黙っていた。



 Thelonious Sphere Monk -Well You Needn't

                                     この項つづく

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

小さくはあるが、切ればちゃんと血が出る

2017年05月04日 | 環境工学システム論

          至人の心を用うるは鏡のごとし。将(おく)らず迎えず、応じて
         蔵(おさめ)ず。故によく物に勝(た)えて傷(そこな)われず。

                          
応定王(おうていおう) 

                                                 

      ※  :名声から遠ざかれ。才覚を働かすな。責任者になるな。知を超えよ。
        永遠なるものと一体となり、虚無の世界に遊べ。自己に与えられた天性
        を全うするだけでよいのだ、それ以上つけ加えようとするな。一言で言
        えば、心を虚しくすることだ。至人の心は鏡のようなものである。自分
        はじっと動かない。来るものはそのまま映すが、去ってしまえばなんの
        痕跡もとどめない。したがって、どんなものにも対応でき、しかも傷つ
        けられることは全くない。


  

 No. 9

【RE100倶楽部:太陽光発電篇】

● 北米大陸最大規模:メキシコ北部750MWのメガソーラー稼働

 

5月2日、NEXTracker社は、出力は750メガワット以上のメキシコ北部で建設中の西半球最大の一単
軸追尾型太陽光発電システムを供給したことをと公表。2018年中頃に稼働予定同社は、これまでに2百
メガワット以上の部材を現地に供給済み。 ニューヨークはマンハッタン島の南側とほぼ同じ広さとの
8平方マイル(約21平方キロメートル)以上の面積の用地で、年間に約1千7百ギガワットアワーの
発電量を見込み、78万トンの二酸化炭素ガス排出量を抑制する設計。メキシコの太陽光発電市場は、
今後2~3年で急成長する。14年のエネルギー改革を経て、メキシコ政府のエネルギー省は2回目と
なる再生可能エネルギーの入札を行い、4ギガワット以上の太陽光発電プロジェクトを発電事業者に発
注。なので、今回長期間の電力購入契約(PPA)に基づき全量を売電し、メキシコの約130万世帯が
消費電力を供給する。

17~18年にメキシコで建設予定のメガソーラープロジェクトでは、発電量の向上が見込めることや、
用地の条件が良いことなどから、ほとんどの案件が追尾式を採用するとみられる。メキシコでは国土の
約85%で、太陽光発電に適した日照量が得られる。同
社は、メキシコは、インドやオーストラリア、
中東とともに、太陽光などの再エネが今後2~3年で大きく成長すると期待できる市場の一つ。拡大す
る太陽光発電の多くで1軸追尾技術が採用される見通しでいる。また、
同社は、今回のプロジェクトで
使用する追尾システムの機構や電気回路などの部品を現地で製造するという。追尾システムの心臓部と
なる駆動系や電気回路は完全に密閉され、砂やホコリの侵入を防ぐ。
砂漠気候であるメキシコ北部では、
追尾式太陽光発電システムの信頼性を維持するうえで、こうした密封性は極めて重要と話している。

  May. 1, 2017

● ゴルフ場予定地に九州最大の太陽光発電所を建設

先月27日、ゴルフ場予定地だった合計約2百万平方メートルの事業用地に、太陽電池モジュールを、
34万740枚を設置し、出力は約92メガワット、年間発電量は約9万9230メガワットアワーに
なる鹿屋大崎ソーラーヒルズの九州最大級となる太陽光発電所の建設にあたり竣工式を挙行。売電先は
九州電力。これにより、
年間約5万2940トンのC二酸化炭素排出量を削減。総投資額は約350億
円を見込む。17年4月3日から着工し、20年1
月の稼働開始予定。14年5月にガイアパワーが、
72.7%、京セラと九電工、東京センチュリーが9.1%ずつを出資、発電事業の運営を行う鹿屋大崎ソー
ラーヒルズを設立。九電工とガイアパワーの合弁会社が発電所の設計・施工・維持管理を行う。京セラ
が太陽電池モジュールの供給、東京センチュリーがファイナンスなどを担う。また、同事業では鹿屋市
および大崎町における雇用創出、税収の増加などで地域社会の貢献につなげていく。林地開発許可を取
得済みで、1年間にわたる環境への影響調査も完了しており、自然環境に配慮した「環境調和型」の発
電所となる。

  Apr. 28, 2017

● 国内最大規模の蓄電池併設型メガソーラー北海道安平町に建設

先月28日、同じく、ソフトバンクエナジー株式会社らは、北海道に国内最大規模の蓄電池併設型メガ
ソーラーを北海道安平町に建設することを公表している。発電所は 17年5月中の着工を予定、20
年度中の運転開始を目指す。「ソフトバンク苫東安平ソーラーパーク2」は北海道勇払郡安平町約90
万平方キロメートルの土地に設置され、出力規模約6万4,600キロワット、年間予想発電量が一般
家庭約1万9,854世帯分の年間電力消費量に相当する約7,147万7千キロワットアワー/年の発
電を行うメガソーラー発電所で、ソフトバンクナジーら設立する「苫東安平ソーラーパーク2合同会社」
が運営。また、蓄電容量約1万7,500キロワットアワー(約17.5メガワットアワー)の大容量リ
チウムイオン電池を併設、蓄電池を併設する太陽光発電所としては出力規模が国内最大級の発電所とな
。また、本発電所はSB エナジーにとって、指定電気事業者制度による出力制御無補償の条件の下で
プロジェクトファイナンスを組成する初めての事例となる。

このように、グローバルなソーラーパーク建設の展開は、❶人為的な温暖化を制御できる手段をはじめ
て人類が手にすることに成功することを意味し、❷近未来にエネルギーフリー社会の実現、❸あるいは、
自動車のほぼ完全なエレクトにクス化を実現し、❹そのことは、トヨタ、フォルクスワーゲンなどの既
存メーカの衰退を意味する。これは面白いkとになりそうだ。

【抗癌最終戦観戦記 Ⅸ:九州大ら がん抑える化合物を発見】

今月2日、九州大学生体防御医学研究所の福井宣規教授や東京大、理化学研究所などのチームが難治性
がんについて、がん細胞の生存や転移に重要な役割をしているタンパク質を突き止め、この働きを阻止
する化合物を見つけたと発表した。数年内に治療薬の開発を目指す。2日付の米科学誌セル・リポーツ
電子版に論文を掲載した。

チームが研究対象としたのは、変異したがん遺伝子をもつがん。変異遺伝子は膵臓(すいぞう)がんの
ほとんどや、大腸がんの約5割で見られるなど、がん全体の3分の1で確認されている。有効な治療薬
は開発されておらず、難治性とされる。

これまで、変異遺伝子をもつがんの増殖や転移は、細胞の形態変化を促す分子「RAC」の活性化が原
因であることが分かっていた。しかし性質上、RACを直接コントロールする薬の開発が難しいことか
ら、RACを活性化させている分子を見つけ出すことが課題だった。
福井教授らは、RACに関係する
多数の分子のうち、「DOCK1」というタンパク質に注目。DOCK1を発現しないよう遺伝子操作
したところ、がん細胞の周辺組織への浸潤や、細胞外からの栄養源の取り込み活動が低下し、がん細胞
の生存度が落ちた。このことから、チームはDOCK1が、RACの活性化に大きな影響を与えている
分子だと判断。DOCK1の活動を抑えれば、RACの活性化を防げると考え、約20万種の化合物の
中からDOCK1の活動を阻害する「TBOPP」を探し出した。がん細胞を移植したマウスに投与し
たところ、転移や腫瘍の増大が抑えられ、明白な副作用もなかった。

Rasの発見から30年以上が経過しますが、変異Rasを持つがんに対する治療薬の開発は、これまでうまく
いっていない。本研究グループは、変異Rasによって誘導される浸潤応答や栄養分の取り込みに、DOCK1
が重要な働きをを突き止め、その選択的阻害剤としてTBOPPを開発(上図4)。TBOPPは、がんを兵糧
攻めにすると同時に、その浸潤・転移を未然に防ぐことができる化合物であり、変異Rasを有する難治
性がんに対する画期的な治療薬の創出につながることが期待される。これは実に面白い。
 

    

 読書録:村上春樹著  『騎士団長殺し 第Ⅰ部』    

   21.小さくはあるが、切ればちゃんと血が出る

  自分の右手に目をやった。その手はまだしっかりと雨田典彦のステッキを握りしめていた。私
 はそれを手から放した。樫村の杖は鈍い音を立てて絨毯の上を転がった。
 「あたしは何も絵の中から抜け出してきたわけではあらないよ」と騎士団長はまた私の心を読ん
 で言った。「あの絵は――なかなか興味深い絵だが――今でもあの絵のままになっている。騎士
 団長はしっかりあの絵の中で殺されかけておるよ。心の臓から盛大に血を流してな。あたしはた
 だあの人物の姿かたちをとりあえず借用しただけだ。こうして諸君と向かい合うためには、何か
 しらの要かたちは必要だからね。だからあの騎士団長の形体を便宜上拝借したのだ。それくらい
 かまわんだろうね」

  私はまだ黙っていた。

 「かまうもかまわないもあらないよな。雨田先生はもうおぼろで平和な世界に移行してしまって
 おられるし、騎士団長だって商標登録とかされているわけじやあらない。ミッキーマウスやらポ
 カホンタスの格好をしたりしたら、ウォルト・ディズニー社からさぞかしねんごろに高額訴訟さ
 れそうだが、騎士団長ならそれもあるまい」

  そう言って騎士団長は肩を揺すって楽しげに笑った。

 「あたしとしては、ミイラの姿でもべつによかったのだが、真夜中に突然ミイラの格好をしたも
 のが出てきたりすると、諸君としてもたいそう気味が悪がるうと思うたんだ。ひからびたビーフ
 ジャーキーの塊みたいなのが、宣言暗な中でしやらしやらと鈴を振っているのを目にしたら、人
 は心臓麻蝉だって起こしかねないじやないか」

   私はほとんど反射的に肯いた。たしかにミイラよりは騎士団長の方が遥かにましだ。もし相手
 がミイラだったら、本当に心臓麻蝉を起こしていたかもしれない。というか、暗闇の中で鈴を振
 っているミッキーマウスやポカホンタスだって、ずいぶん気味悪かったに違いない。飛鳥時代の
 衣裳を身にまとった騎士団長は、まだしもまともな選択だったかもしれない。「あなたは霊のよ
 うなものなのですか?」と私は思いきって尋ねてみた。私の声は病み上がりの人の出す声のよう
 に、堅くしやがれていた。

 「良い質問だ」と騎士団長は言った。そして小さな白い人差し指を一本立てた。「とても良い質
 問だぜ、諸君。あたしとは何か? しかるに今ほとりあえず騎士団長だ。騎士団長以外の何もの
 でもあらない。しかしもちろんそれは仮の姿だ。次に何になっているかはわからん。じやあ、あ
 たしはそもそもは何なのか? ていうか、諸君とはいったい何なのだ? 諸君はそうして諸君の
 姿かたちをとっておるが、そもそもはいったい何なのだ? そんなことを急に問われたら、諸君
 にしたってずいぶん戸惑うだろうが。あたしの場合もそれと同じことだ」



 「あなたはどんな姿かたちをとることもできるのですか?」、私は質問した。
 「いや、それほど簡単ではあらない。あたしがとることのできる姿かたちは、けっこう限られて
 おるのだ。どんなものにでもなれるというわけではない。手みじかに言えば、ワードローブには
 制限があるということだ。必然性のない姿かたちをとることはできないようになっておる。そし
 て今回あたしが選ぶことのできた姿かたちは、このちんちくりんの騎士団長くらいのものだった。
 絵のサイズからして、どうしてもこういう身長になってしまうのだ。しかしこの衣裳はいかにも
 着づらいぜ」
  彼はそう言って、白い衣裳の中で身体をもぞもぞとさせた。

 「で、諸君のさっきの質問にたち戻るわけだが、あたしは霊なのか? いやいや、ちがうね、諸
 君。あたしは霊ではあらない。あたしはただのイデアだ。霊というのは基本的に神通白往なもの
 であるが、あたしはそうじゃない。いろんな制限を受けて存在している」
  質問はたくさんあった。というか、あるはずだった。しかし私にはなぜかひとつも思いつけな
 かった。なぜ私は単数であるはずなのに、「諸君」と呼ばれるのだろう? しかしそれはあくま
 で些細な疑問だ。わざわざ尋ねるほどのことでもない。あるいは「イデア」の世界には二人称単
 数というものはもともと存在しないのかもしれない。

 「制限はいろいろとまめやかにある」と騎士団長は言った。「たとえばあたしは一日のうちで限
 られた時間しか形体化することができない。あたしはいぷかしい真夜中が好きなので、だいたい
 午前一時半から二時半のあいだに形体化することにしておる。明るい時間に形体化すると疲労が
 高まるのだ。形体化していないあとの時間は、無形のイデアとしてそこかしこ体んでおる。屋根
 裏のみみずくのようにな。それから、あたしは招かれないところには行けない体質になっている。
 しかるに諸君が穴を開き、この鈴を持ち運んできてくれたおかげで、あたしはこの家に入ること
 ができた」
 「あなたはあの穴の底にずっと閉じ込められていたのですか?」と私は尋ねてみた。私の声はか
 なりましにはなっていたが、まだいくぶんしやがれていた。
 「わがらん。あたしにはもともと、正確な意昧での記憶というものがあらない。しかしあたしが
 あの穴の中に閉じ込められていたというのは、なにがしの事実ではある。あたしはあの穴の中に
 いて、何らかの理由によってそこから出ることができなかった。しかしあそこに閉じ込められて
 とくに不自由、ということもあらなかった。あたしは何万年、挟くて暗い穴の底に閉じ込められ
 ていたところで、不自由も苦痛も感じないようにできておるんだ。しかしあそこから出してくれ
 たことに開しては、諸君にしかるべく感謝しておるよ。そりゃ、自由でないよりは自由である方
 がよほど面白いわけだからな。言うまでもなく。そしてあの免色という男にも感謝しておる。彼
 の尽力がなければ、穴を開くことはできなかったはずだ」

   私は骨いた。「そのとおりです」

 「あたしはたぶんその気配のようなものをひしひしと感じ取ったのであろう。あの穴が開放され
 るかもしれないという可能性をな。そしてこう思いなしたのだ。よし、今が時だと」
 「だから少し前から夜中に鈴を鳴らし始めた」
 「そのとおり。そして穴は大きく聞かれた。おまけに免色氏はご親切にもあたしを夕食会にまで
 招待してくれよった」
  私はもう一度肯いた。免色はたしかに騎士団長を――免色はそのときはミイラという言葉を用
 いたが――火曜日の夕食に招待した。ドン・ジョバンニが騎士団長の彫像を夕食に招待したこと
 にならって。彼としてはたぶん軽い冗談のようなものだったのだろうが、それは今ではもう冗談
 ではなくなってしまった。
 「あたしは食物はいっさい口にしない」と騎士団長は言った。「酒も飲まない。だいいち消化器
 もついておらんしね。つまらんといえばつまらん話だ。せっかくの立派なご馳走なのにな。しか
 し招待は素肌でお受けしよう。イデアが誰かに夕食に呼ばれるなんて、そうはあらないことだか
 らな」



  それがその夜の、騎士団長の最後の言葉になった。そう言い終えると彼は急に黙り込み、ひっ
 そり両目を閉じた。瞑想の世界にじわじわと入り込んでいくみたいに。目を閉じると、騎士団長
 はずいぶん内省的な顔立ちになった。身体もまったく動かなくなった。やがて騎士団長の姿は急
 速に薄れ、輪郭もどんどん不明確になっていった。そしてその数秒後にはすっかり消滅してしま
 った。私は反射的に時計に目をやった。午前二時十五分だった。おそらく「形体化」の制限時間
 がそこで終了したのだろう。

  私はソファのところに行って、騎士団長が腰掛けていた部分に手を触れてみた。私の手は何も
 感じなかった。温かみもなく、へこみもない。誰かがそこに腰掛けていた形跡はまったく残って
 いなかった。おそらくイデアは体温も重みも持たないのだろう。その姿かたちはただのかりそめ
 の形象に過ぎないのだ。私はその隣に腰を下ろし、息を深く吸い込んだ。そして両手でごしごし
 と顔をこすった。
  すべてが夢の中で起こった出来事のように思えた。私はただ長く生々しい夢を見ていたのだ。
 というか、この世界は今もまだ夢の延長なのだ。私は夢の中に閉じ込められてしまっている。そ
 ういう気がした。しかしそれが夢でないことは、自分でもよくわかっていた。これはあるいは現
 実ではないかもしれない。しかし夢でもないのだ。私と免色は二人で、あの奇妙な穴の底から騎
 士団長を――あるいは騎士団長の姿かたちをとったイデアを――解きはなってしまったのだ。そ
 して騎士団長は今ではこの家の中に往み着いている。屋根裏のあのみみずくと同じように。それ
 が何を意味しているのか私にはわからない。それがどんな結果をもたらすことになるのかもわか
 らない。



  私は立ち上がり、床に落とした雨田具彦の樫村のステッキを拾い上げ、居間の明かりを消し、
 寝室に戻った。あたりは静かだった。物音ひとつ聞こえない。私は力士アィガンを脱ぎ、パジャ
 マ姿でベッドの中に入り、これからどうすればいいのかを考えた。騎士団長は火曜日に免色の家
 に行くつもりでいる。免色が彼を夕食に招待したからだ。そこでいったい何か持ち上がるのだろ
 う? それについて考えれば考えるほど、私の頭は脚の長さの揃っていない食卓のように、落ち
 着きを失っていった。
  でもそのうちに私はひどく眠くなってきた。私の頭はすべての機能を動員して、なんとか私を
 眠りに就かせようとしているみたいだった。筋の通らない混乱した現実から、私をむりやりもぎ
 離すべく。そして私はそれに抵抗することができなかった。ほどなく私は眠りに就いた。眠り込
 む前にふとみみずくのことを考えた。みみずくはどうしているだろう?
   眠るのだ、諸君、と騎士団長が私の耳元で囁いたような気がした。
  しかしそれはたぶん夢の一部だったのだろう。




本当にワンダーワールドだ。ここは注意深く読み進めていくしかない。
                                                                           この項つづく

 



【世界中がびっくり!トランスイート四季島】



今月2日、世界中が注目し、アッツ!と驚き、信じられない!と叫ぶ、「トランスイート四季島」がし
た。有名な工業
デザイナーの奥山賢之が設計した金色のシキシマには、 和紙の壁やスクリーン、サイ
プレスのバスタブ、豪華なカーペットなど、現代的で伝統的な日本の素材が洗練されているが、最高の
部分は、周りのパノラマビューを与える電車のすばらしい温室のような列車仕様。
列車デザインは、現
代の列車旅行の基準設定になるだろうか。  10両列車の両端にあるパノラマの観測車には、壁と天井を
覆う大きな窓ガラスパネルがあり、通過する風景を一望できる。  伝統技術を使って作られた快適なベ
ントウッドのソファは、静かな森のイメージを喚起するように設計された壁パネルで飾られた共同ラウ
ンジカーに配置されている。乗車中は、目的地から厳選料理が頂ける。また、有名な工業デザイナー・
山崎欣二の手になるニッケルシルバーカトラリーが用意されている。


列車はちょうど17部屋あり、2つの大きなスイートルームと15の小部屋。 全室にベッド、収納ス
ペース、専用バスルームが備わる。 豪華な2階建ての四季島スイートの幸運な乗客は、シーティングエ
リアと畳を楽しむことができ、「香り高いバスタイム体験」を提供する長方形のサイプレスバスタブも
備わっている。豪華なスイートの壁には、顧客に個人的な視点を提供するために天井までの窓が備えら
れている。さて予約がつまっているが、わたしたち二人が乗車できるかどうかそれはいまのところわか
らない。

                                          

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

何て言うことだ。

2017年05月03日 | 環境工学システム論

          明王の治は、功、天下を蓋いてしかもおのれよりせざるに似たり

                          
応定王(おうていおう) 

                                                

 

      ※  指導者の条件とは何か? 指導しようなどという根性を捨て、指導者づら
        をせず、テクニックなど弄しないことだ。荘子から見れば、王者が仁政に
        はげみ、人民が王者を慕う、という儒家的政治理想は、人為にとらわれた
        憐むべき状態にすぎぬ。無為にして化す、これこそ応む帝王――王たるも
        のの応(まさ)にあるべき道なのである。

      ※ 才能は身を滅ぼす:陽子居(ようしきょう)が老聘(ろうたん)にたずね
        る場面。
「こんな人物がいるとします。敏速果敢な行動力、透徹した洞察
        力を兼ね備え、しかも但むことなく道を学びつづける、といった人物です。
        こういう人なら、太古の聖王(=明王)にも匹敵するのではありますまい
        か」

         老賂は首を振った。

        「なんの、聖人にくらべると、そんな奴はせいぜい小役人にすぎん。わず
        かばかりの才能しか持ち合
わせず、しかもそれにしばられて身も心も疲れ
        させているあわれな奴さ。
それに、なまじそんな才能など持つとかえって
        身を滅ぼすもとだ。虎や豹は、美しい毛皮のせいで
猟人に殺され、猿や猟
        犬は、そのすばしこさのせいで鎖につながれる。そんな奴がどうして太古
        の聖
王とくらべものになるか」

         陽子居は恥じ入って小さくなりながら、

        「では、太古の聖王の治とは、どんなものだったのですか」
        「そうだな、その功徳は天下を蔽いつくしているのだが、一般の目にはか
        れとなんの関係もないよう
に見える。その教化は万物に及んでいるのだが、
        人民はまったくそれに気づかない。天下を治めては
いても、施策のあとを
        とどめない。それでいて万物にそれぞれ所を得させる。そして自分は窺い
        知れ
ぬ虚無の世界に遊ぶ。これが太古の聖王(=明王)の洽というものだ
        よ」
 

 

   Apr. 12, 2017

【RE100倶楽部:ペロブスカイト太陽電池篇】

● 謎のナノストライプを持つペロブスカイト太陽電池

今月2日、カールスルーエ工科大学らの研究グループは、走査型プローブ顕微鏡でペロブスカイト太
陽電池におけるナノ構造のストライプが存在することを発見する。それによるとペロブスカイト型ハ
イブリッド太陽電池が入射光の20%以上の変換効率をもつことが確認されているが、カールスルー
エ工科大学(KIT) の研究者らは、ペロブスカイト層に分極の方向を交互に変えるナノ構造のストリ
ップを発見。これらの構造は電荷キャリアの輸送経路として役立つかもしれない考えている(上写真
参照)。2009年に発見されて以来、ペロブスカイト太陽電池は急速に進歩してきているが、現段階で
は、耐久性と鉛フリーの2つの克服課題となっている。

同大学光技術研究所(LTI)の有機太陽電池グループの責任者であるアレクサンダー・コルマン(Ale-
xander Colsmann
)博士とKITのエネルギーシステム(MZE)のマテリアル・リサーチ・センタ(MZE
の研究者チームの学際的なチームは、ペレブスカイト太陽電池を走査型プローブ顕微鏡で、光吸収層
に強誘電体ナノ構造が存在していることを見つけた。おの誘電性結晶は、同一の電気分極方向のドメ
インを形成しており、薄層のヨウ化鉛ペロブスカイトが交互電場を有する約100nm幅の強誘電体領域
のストライプを形成していことを突き止める。従って、この材料の電気的分極を変えることで、太陽
電池の光生成電荷の輸送に重要な役割を果たす可能性がある。
ペロブスカイト型太陽電池は、ある条
件下で自己組織化するものと考えているものの現状では、決定的な証拠を発見するに至っていない
セラミックス材料技術部門の応用材料研究所(IAM-KWT)のミハエル・J・ホフマン教授談)。

  

※ Holger Röhm, Tobias Leonhard, Michael J. Hoffmann, and Alexander Colsmann: Ferroelectric domains in methy-
   lammonium lead iodide perovskite thin-films. Energy & Environmental Science, 2017 (DOI: 10.1039/c7ee00420f)

 

● メガソーラー稼働で「限界集落」に活気 特産大豆「八天狗」を売り出しブランド化

八天狗」とは、熊本県山都町の水増(みずまさり)集落などで受け継がれてきた在来種大豆。種皮の
うち、「へそ」の部分が黒いのが特徴で、座禅豆などに加工すると、深みのある独特の味わいがある
。水増集落では、自家用として昔から栽培され、地元農家では食卓の定番になってきた。「八天狗」
の名称の由来は、修験道とのつながりが考えられるという。天狗のなかでも「八天狗」は最も神に近
い神通力を持つとされ、修験道の人たちが力を得るためにこの豆を育てて座禅豆にして食したのでは
と伝わる。
この「幻の在来大豆」が、東京・渋谷の飲食店で供され、初めてその存在を大消費地にア
ピールした。そのきっかけとなったのは、14年5月に水増集落で運転を始めた出力2
MWのメガソー
ラー(大規模太陽光発電所)「水増ソーラーパーク」である。

  May. 3, 2017

熊本県山都町にある水増集落は、阿蘇カルデラを形作る南外輪山にあり、豊かな自然に恵まれている
がだ、主体となる農林業の担い手が減り、高齢化と少子化が進んでいる。戦後は約百人が農業に従事
したが、若者が次第に集落を離れ、今や10世帯19人まで減った。平均年齢は約70歳。20年後
の存続が危ぶまれる限界集落の1つ。
「水増ソーラーパーク」は、同集落が共同で管理する入会地に
建設される。20~30度の山腹の斜面、3.4haに約8000枚の結晶シリコン型太陽光パネルを土地なりに
敷き詰めた。熊本県の新エネルギー開発のベンチャー企業、テイクエナジーコーポレーション(熊本
県菊陽町)が、土地を賃借し、太陽光発電所を建設・事業化する。

水増集落では、メガソーラー完成に際し、「水増ソーラーパーク管理組合」を設立した。常勤1人と
18人の非常勤からなる。テイクエナジーは、土地の賃料として年間500万円を同組合に払うとともに、
売電収入の約5%(約500万円)を同組合に還元している。それは単にお金を寄付するのではなく、5
%分の売電収入を原資とした「マーケティング包括協定」を管理組合と結ぶ。東京・渋谷で「八天狗
定食」を提供し、在来大豆をアピールし始めたのは、このマーケティング協定の成果の1つで、定食
の提供がスタートした2月15日には、水増集落テイクエナジーの関係者、そして、くまモンが集
まり記者会見を開いている。

テイクエナジーは、売電事業で儲けることが最終的な目的ではなく、いかに地域を活性化させるかと
いう視点を強調。規模の経済に対抗して、小さな農業を戦略的なマーケティングやブランディングに
よって産業化することで、若者が帰ってくる地域を作るという事業アプローチである。「水増ソーラ
ーパーク」は、急斜面に張り付けるようにパネルを設置し、その周辺にさまざまな農畜産施設がにぎ
やかに並んでいる。ヤギとニワトリの畜舎のほか、シイタケの栽培やブルーベリー畑、堆肥製造のエ
リアなど、太陽パネルを設置しなかった場所を有効利用する。そこでは。ヤギは15頭、肥育し、パ
ネルに上ってしまうため、発電所内には入れないようしてあるが、周辺に放牧して除草にも役立て、
養鶏施設には、10羽の地鶏がおり、そのうち9羽が毎日のように卵を産んでいる。

また、14年11月には、「水増ソーラーパーク」を会場に、NBL(ナショナルバスケットボールリー
グ)の熊本ヴォルターズの選手たちと一緒に、新米の「稲刈り体験」を実施。 また、東京都や山口
県にある大学の学生や研究者が訪れ、70本のブルーベリーの収穫や農作物の植え付け体験などに取り
組んでもいる。こうした活動が農林水産省の目に留まり、同省の提唱する「農林漁業の健全な発展と
調和のとれた再生可能エネルギー発電」を具現化する先行事例として、紹介された。これを機に行政
関係からの視察や見学も増える。さらに、現在 テイクエナジーは、「八天狗」を筆頭に水増集落で
有機農法による安全・安心な農産物を生産し、ブランド化していく計画だ。並行して、近隣の古民家
を活用した「農村カフェ」を建設し、インフォメーションセンターや宿泊施設として営業する準備を
進め、水増ソーラーパーク管理組合の荒木組合長は、都会や多世代の人たちとの交流が活発化してき
たことで、その日、その日の仕事に希望を持って取り組めるようになり、みんなで頑張って、この集
落を盛り返していきたいと語っている。

 

    

 読書録:村上春樹著  『騎士団長殺し 第Ⅰ部』    

   21.小さくはあるが、切ればちゃんと血が出る

  私はベッドの上にまっすぐ身を起こし、夜中の暗闇の中で、息を殺して鈴の音に耳を澄ませた。
 いったいどこからこの音は聞こえてくるのだろう? 鈴の音は以前に比べてより大きく、より鮮
 明になっている。間違いなく。そして聞こえてくる方向も前とは異なっている。
  鈴はこの家の中で鳴らされているのだ、私はそう判断した。そうとしか考えられない。それか
 ら前後が乱れた記憶の中で、その鈴が何日か前からスタジオの棚に置きっ放しになっていたこと
 を思い出した。あの穴を開いて鈴を見つけたあと、私が自分の手でその棚の上に置いたのだ。
 
 鈴の音はスタジオの中から聞こえている

  疑いの余地はない。

  しかしどうすればいいのだろう? 私の頭はひどくかき乱されていた。恐怖心はもちろんあっ
 た。この家の中で、このひとつ屋根の下で、わけのわからないことが持ち上がっている。時刻は
 真夜中で、場所は孤立した山の中、しかも私はまったくの一人ぽっちだ。恐怖を感じないでいら
 れるわけがない。しかしあとになって考えると、その時点では混乱の方が恐怖心をいくぶん上回
 っていたと思う。人間の頭というのはたぶんそのように作られているのだろう。激しい恐怖心や
 苦痛を消すために、あるいは軽減させるために、手持ちの感情や感覚が根こそぎ動員される。火
 事場で、水を入れるためのあらゆる容器が持ち出されるのと同じように。

  私は頭を可能な限り整理し、とりあえず自分がとるべきいくつかの方法について考えを巡らせ
 た。このまま頭から布団をかぶって眠ってしまうという選択肢もあった。雨田政彦が言ったよう
 に、わけのわからないものとはとにかく関わり合いにならないでおくというやり方だ。思考のス
 イッチをオフにして、何も見ないように何も間かないようにする。しかし問題点は、とても眠る
 ことなんかできないというところにあった。布団をかよって耳を閉ざしたところで、思考のスイ
 ッチを切ったところで、これほどはっきりと聞こえる鈴の音を無視することは不可能だ。なにし
 ろそれはこの家の中で鳴らされているのだから。

  鈴はいつものように断続的に鳴らされていた。それは何度か打ち振られ、しばしの沈黙の間を
 とって、それからまた何度か振られた。間に置かれた沈黙は均一ではなく、そのたびにいくらか
 短くなったり長くなったりした。その不均一さには、妙に人間的なものが感じられた。鈴はひと
 りでに鳴っているのではない。何かの仕掛けを使って鳴らされているのでもない。誰かがそれを
 手に持って鳴らしているのだ。おそらくはそこになんらかのメッセージを込めて。
  逃げ続けることができないのなら、思い切ってことの真相を見定めるしかあるまい。こんなこ
 とが毎晩続いたら私の眠りはずたずたにされてしまうし、まともな生活を送ることもできなくな
 ってしまう。それならこちらから出向いて、スタジオで何か持ち上がっているのか見届けてやろ
 う。そこには腹立ちの気持ちもあった(なぜ私がこんな目にあわなくちやならないんだ?)。そ
 
れからもちろんいくぶんかの好奇心もあった。いったいここで何か起こっているのか、それを自
 分の目でつきとめてみたかった。

  ベッドから出て、パジャマの上にカーディガンを羽織った。そして懐中電灯を手に玄関に行っ
 た。玄関で私は、雨田典彦が傘立てに残していった、暗い色合いの樫村のステッキを右手に取っ
 た。がっしりと重みのあるステッキだ。そんなものが何か現実の役に立つとは思えなかったが、
 手ぷらでいるよりは何かを手に握っていた方が心強かった。何か起こるかは誰にもわからないの
 だから。

  言うまでもなく私は怯えていた。裸足で歩いていたが、足の裏にはほとんど感覚がなかった。
 身体がひどくこわばって、身体を勤かすたびにすべての骨の軋みが聞こえてきそうだった。おそ
 らくこの家の中に誰かが入り込んでいる。そしてその誰かが鈴を鳴らしている。それはあの穴の
 底で鈴を鳴らしていたのとおそらく同じ人物だろう。それが誰なのか、あるいはどんなものなの
 か、拡には予測もつかない。ミイラだろうか? もし拡がスタジオに足を踏み入れて、そこでも
 しミイラが――ビーフジャーキーのような色合いの肌をしたひからびた男が――鈴を振っている。
 姿を目にしたら、いったいどのように対処すればいいのだろう? 雨田典彦のステッキを振るっ
 て、ミイラを思い切り打ち据えればいいのか?

  まさか、と私は思った。そんなことはできない。ミイラはたぶん即身仏なのだ。ゾンビとは違
 じやあ、いったいどうすればいいのか? 私の混乱はまだ続いていた。というか、その混乱は
 ますますひどいものになっていった。もし何かしら有効な手を打てないのだとしたら、私はこれ
 から先ずっと、そのミイラとともにこの家に暮らすことになるのだろうか? 毎晩同じ時刻にこ
 の鈴の音を聞かされることになるのだろうか?

  私はふと免色のことを考えた。だいたいあの男が余計なことをするから、こんな面倒な事態が
 もたらされたのではないか。重機まで持ち出して石塚をどかせ、認めいた穴を聞いてしまったか
 ら、その結果あの鈴と共に正体のわからないものがこの家の中に入り込んでしまったのだ。私は
 免色に電話をかけてみることを考えた。こんな時刻であっても、彼はたぶんジャガーを運転して
 すぐに駆けつけてくれるだろう。しかし結局思い直してやめた。免色が支度をしてやって米るの
 を持っている余裕はない。それは私が今ここで、何とかしなくてはならないことなのだ。それは
 私が、私の責任においてやらなくてはならないことなのだ。

  私は思い切って居間に足を踏み入れ、部屋の明かりをつけた。明かりをつけても鈴の音は変わ
 らず鳴り続けていた。そしてその音は間違いなく、スタジオに通じるドアの向こう側から聞こえ
 てきた。私はステッキを右手にしっかりと握りなおし、足音を殺して広い居間を横切り、スタジ
 オに通じるドアのノブに手を掛けた。それから大きく深呼吸をし、心を決めてドアノブを回した。
 私がドアを押し開けるのと同時に、それを持っていたかのように鈴の音がぴたりと止んだ。深い
 沈黙が降りた。

  スタジオの中は責っ暗だった。何も見えない。私は手を左側の壁に伸ばして、手探りで照明の
 スイッチを入れた。天井のペンダント照明がついて、部屋の中がさっと明るくなった。何かあれ
 ばすぐに対応できるように、両脚を肩幅に広げて戸口に立ち、右手にステッキを握ったまま、部
 屋の中を素遠く見渡した。緊張のあまり喉がからからに掲いていた。うまく唾を飲み込むことも
 できないほどだ。

  スタジオの中には誰もいなかった。鈴を振っているひからびたミイラの姿はなかった。何の姿
 もなかった。部屋の真ん中にイーゼルがぽつんと立っていて、そこにキャンバスが置かれていた。
 イーゼルの前に三本脚の古い木製のスツールがある。それだけだ。スタジオは無人だった。虫の
 声ひとつ聞こえない。風もない。窓には白いカーテンがかかり、すべてが異様なくらいしんと静
 まりかえっていた。ステッキを握った右手が、緊張のために微かに震えているのが感じられた。
 言えに合わせてステッキの先が床に触れて、かたかたという乾いた不揃いな音を立てた。

  鈴はやはり棚の上に置かれていた。私は棚の前に行って、その鈴を子細に眺めてみた。手には
 とらなかったが、鈴には変わったところは何も見当たらなかった。その日の昼前に私が手にとっ
 て棚に戻したときのまま、位置を変えられた形跡もない。
  私はイーゼルの前の互いスツールに腰掛け、もう一度部屋の中を三百六十度ぐるりと見回して
 みた。隅から隅まで注意深く。やはり誰もいない。日々見慣れたスタジオの風景だ。キャンバス
 の絵も私が描きかけたままになっている。『白いスバル・フオレスターの男』の下絵だ。

  私は棚の上の目覚まし時計に目をやった。時刻は午前二時ちょうどだった。鈴の音で目を覚ま
 したのがたしか一時三十五分だったから、二十五分ほどが経過したことになる。でもそれはどの
 時聞か経ったという感覚が私の中にはなかった。まだほんの五、六分しか経っていないように感
 じられた。時間の感覚がおかしくなっている。それとも時間の流れがおかしくなっている。その
 どちらかだ。

  私はあきらめてスツールから降り、スタジオの明かりを消し、そこを出てドアを閉めた。閉め
 たドアの前に立ってしばらく耳を澄ませていたが、もう鈴の音は聞こえなかった。何の音も聞こ
 えなかった。ただ沈黙が聞こえるだけだ。沈黙が聞こえる――それは言葉の遊びではない。孤立
 した山の上では、沈黙にも音はあるのだ。私はスタジオに通じるドアの前で、しばしその音に耳
 を澄ませていた。

 Three Skulls

  そのとき私は、居間のソファの上に何か見慣れないものがあることにふと気づいた。クツショ
 ンか人形か、その程度の大きさのものだ。しかしそんなものをそこに置いた記憶はなかった。目
 をこらしてよく見ると、それはクッションでもなく人形でもなかった。生きている小さな人間
 った。身長はたぶん六十センチばかりだろう。その小さな人間は、白い奇妙な衣服を身にまとっ
 ていた。そしてもぞもぞと身体を動かしていた。まるで衣服が身体にうまく馴染まないみたいに、
 いかにも居心地悪そうに。その衣服には見覚えがあった。古風な伝統的な衣裳だ。日本の古い時
 代に位の高い人々が着ていたような衣服。衣服だけではなく、その人物の顔にも見覚えがあった。
 騎士団長だ、と私は思った。

  私の身体は芯から冷たくなった。まるで拳くらいの大きさの氷の塊が、背筋をじりじりと這い
 上ってくるみたいに。雨田典彦が『騎士団長殺し』という絵の中に描いた「騎士団長」が、私の
 家の――いや、正確に言えば雨田具彦の家だ――居間のソファに腰掛けて、まっすぐ私の顔を見
 ているのだ。その小さな男はあの絵の中とまったく同じ身なりをして、同じ顔をしていた。絵の
 中からそのまま抜け出してきたみたいに。

  あの絵は今どこにあるんだっけ? 私はそれを思い出そうと努めた。ああ、絵はもちろん客用
 の寝室にある。うちを訪れる人に見られると面倒なことになるかもしれないから、人目につかな
 いように茶色の和紙で包んでそこに隠しておいたのだ。もしこの男がその絵から抜け出してきた
 のだとしたら、今あの絵はいったいどうなっているのだろう? 画面から騎士団長の姿だけが消
 滅してしまっているのだろうか?

  しかし絵の中に描かれた人物がそこから抜け出してくるなんてことが可能なのだろうか? も
 ちろん不可
能だ。あり得ない話だ。そんなことはわかりきっている。誰がどう考えたって……。

  私はそこに立ちすくみ、論理の筋道を見失い、あてもない考えを巡らせながら、ソファに腰掛
 けている騎士団長を見つめていた。時間が一時的に進行を止めてしまったようだった。時間はそ

 こで行ったり来たりしながら、私の混乱が収まるのをじっと待っているらしかった。私はとにか
 しかし絵の中に描かれた人物がそこから抜け出してくるなんてことが可能なのだろうか? もち
 ろん不可能だ。あり得ない話だ。そんなことはわかりきっている。誰がどう考えたって……。

  私はそこに立ちすくみ、論理の筋道を見失い、あてもない考えを巡らせながら、ソファに腰掛
 けている騎士団長を見つめていた。時間が一時的に進行を止めてしまったようだった。時間はそ
 こで行ったり来たりしながら、私の混乱が収まるのをじっと待っているらしかった。私はとにか
 くその異様な――異界からやってきたとしか思えない――人物から目を離すことができなくなっ
 ていた。騎士団長もまたソファの上からじっと私を見上げていた。私は言葉もなくただ黙り込ん
 でいた。たぶんあまりにも驚きすぎていたためだろう。その男から目を逸らさず、口を小さく開
 けて静かに呼吸を続ける以外に、私にできることは何もなかった。

  騎士団長もやはり私から目を逸らさず、言葉も発しなかった。唇はまっすぐ結ばれていた。そ
 してソファの上に短い脚をまっすぐ投げ出していた。背もたれに背をもたせかけていたが、頭は
 背もたれのてっぺんにも届いていなかった。足には奇妙なかたちの小さな靴を履いていた。靴は
 黒い革のようなものでできている。先が尖って、上を向いている。腰には柄に飾りのついた長剣
 を帯びていた。長剣とは言っても、身体に合ったサイズのものだから、実際の大きさからすれば
 短刀に近い。しかしそれはもちろん凶器になりうるはずだ。もしそれが本物の剣であるのなら。

 「ああ、本物の剣だぜ」と騎士団長は私の心を読んだように言った。小さな身体のわりによく通
 る声だった。「小さくはあるが、切ればちゃんと血が出る
  私はそれでもまだ黙っていた。言葉は出てこなかった。まず最初に思ったのは、この男はちゃ
 んとしゃべれるんだということだった。次に思ったのは、この男はずいぶん不思議なしゃべり方
 をするということだった。それは「普通の人間はまずこのようにはしゃべらない」という種類の
 しゃべり方だった。しかし考えてみれば、絵からそのまま抜け出してきた身長六十センチの騎士
 団長がそもそも「普通の人間」であるわけはないのだ。だから彼がどんなしゃべり方をしたとこ
 ろで、驚くにはあたらないはずだ。

 「雨田典彦の『騎士団長殺し』の中では、あたしは剣を胸に突き立てられて、あわれに死にかけ
 ておった」と騎士団長は言った。「諸君もよく知ってのとおりだ。しかし今のあたしには傷はあ
 らない。ほら、あらないだろう? だらだら血を流しながら歩き回るのは、あたしとしてもいさ
 さか面倒だし、諸君にもさぞや迷惑だろうと思うたんだ。絨毯や家具を血で汚されても困るだろ
 う。だからリアリティーはひとまず棚上げにして、刺され傷は抜きにしたのだよ。『騎士団長殺
 し』から『殺し』を抜いたのが、このあたしだ。もし呼び名が必要であるなら、騎士団長と呼ん
 でくれてかまわない」

  騎士団長は奇妙なしゃべり方をするわりに、諸をするのは決して不得意ではないようだった。
 むしろ饒舌と言っていいかもしれない。しかし私の方は相変わらず二百も言葉を発することがで
 きなかった。現実と非現実が私の中で、まだうまく折り合いをつけられずにいた。
 「そろそろそのステッキを置いたらどうだね?」と騎士団長は言った。「あたしと諸君とでこれ
 から果たし合いをするわけでもながろうに」

 Skull and Book


今夜のこの件は何と言う展開なのだ。雨田典彦の『騎士団長殺し』の絵からその騎士団長が抜け出し
主人公の画家にソファに座り話しかける。今夜はここまでにして、次回の楽しみしておこう。

                                      この項つづく



茶摘みの季節。なのに、何と言うことだ。日曜の庭木手入れストレッチ強化が祟り、月曜の朝、腰痛再発。週末
の登山は延期。はやる心を抑え、回復に力を入れる。

                                                            

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

存在と非存在の界面

2017年05月01日 | 環境工学システム論

            浸仮して左臂(ひ)を化してもって
              鶏となさば、予(われ)はよりてもって時夜を求めん


                            大宗師(だいそうし)
 

                                                

 

      ※  莫逆(ばくぎゃく)の友:心と心にうなずきあう、との意。原文は「莫
        逆於心」。心を許しあった親友関係を表わす。「莫逆の友」ということ
        ばは、本章から生まれる。
 

      ※ 県解:首枷を解かれ、全き自由を獲得するという意味。このことばは、
        「養生主」篇にも見える。

      ※ 生死は一体: 子祀、子輿、子輦、子来、四人あいともに語りて曰く、
        「たれかよく無をもって首となし、生をもって脊となし、死をもって尻
        となさん。たれか死生存亡のフ体たるを知る者ぞ、われこれと友たらん」。
        四人あい視て笑い、心に逆うことなし。ついにあいともに友たり。

        にわかにして子輿病あり。子祀往きてこれに問う。曰く、「偉なるかな、
        かの造物者、われをもってこの恟恟たらしめんとす」。曲彊背に発し、
        上に五管あり、順、臍を隠し、肩、頂より高く、均質天を指す。陰陽の
        気診るることあり。その心問にして無事、附庸として井に鑑みて曰く、
        「ああ、かの造物者、またわれをもってこの恟恟たらしめんとす」。

        子祀曰く、「なんじこれを悪むか」。曰く、「亡し。われなんぞ悪まん。
        浸仮してわが左臂を化してもって鶏となさば、われはよりてもって時夜
        を求めん。浸仮してわが右臂を化してもって弾となさば、われはよりて
        もって鴞炙を求めん。浸仮してわが尻を化してもって輪となし、神をも
        って馬となさば、われはよりてこれに梁らん。あにさらに駕せんや。か
                つそれ得るは時なり、失うは順なり。時に安んじて順に処れば、哀楽も
                入ること能わず。これ古のいわゆる県解なり。県りて自ら解くこと能わ
                ざる者は、物これを結ぶことあればなり。かつそれ物、天に勝たざるこ
                と久し。われまたなんぞ悪まんや」。

        従って、下線箇所は、「この左腕が鶏みたいになってしまえば、ひとつ
        威勢よく時を告げさせてみようじゃないか」と訳される。

 

 No. 7

【RE100倶楽部:風力発電篇】

● 5百グラムのマイクロ・ウインド・タービン

スケールアップされた再生可能エネルギープラントは、大きなエネルギーを生み出すことができるが、
オフグリッド、遠隔地、あるいは過酷な場所に設置できる小型風力発電装置は重宝するに違いない。
デザイナーのニールス・ファバーは、荒れ果てた山頂でも機能し、タービンのUSBポートからスマー
トフォンを充電できるマイクロウィンドタービンを開発。
約5百グラム(2ポンド)の計量で傘の様
なマイクロウインドタービンは、コンパクトに折りたたみ、簡単に運ぶことができる。
 

 Apr. 30, 2017

この風力発電装置は伸縮軸に沿い伸展させることで、1時間あたり18キロメートル(=毎秒5メー
トル)の風速で5ワットを出力を生み出す。24
ワット時の容量を備えた「内蔵バッテリパック」で、
蓄電でき、タービンのすぐ上のUSBポートから直接充電することもできる。
ブレードは丈夫な布仕上
げで、全方位から風のエネルギーを取り込むことが可能。


   Micro Wind Turbine

太陽光が利用できない場所や夜間の曇った場所など、太陽電池パネルが苦労しがちな場所で動作する。
探検家、映画制作者、登山家、科学者、救助隊員など簡単にアクセスできない極端な場所で利用する
ことが可能だ。前出のニールス・ファバーは、スイスアルプスでマイクロウインドタービンを、強風
下でその効果を実証している。

ところで、この開発品の見所は、ブレード。折り紙や折りたたみ傘のように、必要な時にブレードを
形成するところにあり、不要となれば折りたたみ収納できる点にある。材質にもっと革新的なものが
見つかれば、風速1メートル以上程度でカットインできれば面白いと考える

 

    

 読書録:村上春樹著  『騎士団長殺し 第Ⅰ部』    

 

    19.私の後ろに何か見える

  私は台所に行ってミネラル・ウオーターを大きなグラスに入れ、ベッドに戻ってきた。彼女は
 それを一口で半分飲んだ。

 「で、メンシキさんのことだけど」と彼女はグラスをテーブルの上に置いて言った。
 「免色さんのこと?」 
 「メンシキさんについての新しい情報」と彼女は言った。「あとで話すってさっき言ったでしょ
 う」
 「ジャングル通信



 「そう」と彼女は言った。そしてもう一日水を飲んだ。「お友だちのメンシキさんは、話によれ
 ばけっこう長いあいだ東京拘置所に入れられていたみたいよ」
  私は身を起こして彼女の顔を見た。「東京拘置所?」
 「そう、小菅にあるやつ」
 「しかし、いったいどんな罪状で?」
 「うん、詳しいことはよくわからないんだけれど、たぶんお金がらみのことだと思う。脱税か、
 マネー・ロングリングか、インサイダー取り引きみたいなことか、あるいはそのすべてか。彼が
 勾留されたのは、六年か七年くらい前のことらしい。メンシキさんはどんな仕事をしているって、
 自分では言っていた?」
 「情報に関連した仕事をしていたと言っていた」と私は言った。「自分で会社を立ち上げ、何年
 か前にその会社の株を高値で売却した。今はキャピタル・ゲインで暮らしているということだっ
 た」

 「情報に関連した仕事というのはすごく漠然とした言い方よね。考えてみれば、今の世の中で情
 報に関連していない仕事なんてほとんど存在しないも同然だもの」
 「誰からその拘置所の話を関いたの?」
 「金融関係の仕事をしている夫を持つお友だちから。でもその情報がどこまで本当か、それはわ
 からない。誰かが誰かから関いた話を、誰かに伝えた。その程度のことか右しれない。でも話の
 様子からすると、根も葉もない話ではないという気がする」
 「東京拘置所に入っていたというと、つまり東京地検に引っ張られたということだ」
 「結局は無罪になったみたいだけど」と彼女は言った。「それでもずいぶん長く勾留され、相当
 に厳しい取り調べを受けたという話よ。勾留期間が何度も延長され、保釈も認められなかった」

 「でも裁判では勝った」

 「そう、起訴はされたけれど、無事に塀の内側には落ちなかった。取り調べでは完全黙秘を貫い
 たらしい」
 「ぼくの知るかぎり、東京地検は検察のエリートだ。プライドも高い。いったん誰かに目星をつ
 けたら、がちがちに証拠を固めてからしょっぴいて、起訴まで持っていく。裁判に持ち込んでの
 有罪率もきわめて高い。だから拘置所での取り調べも生半可じゃない。大抵の人間は取り調べの
 あいだに精神的にへし折られ、相手のいいように調書を書かされ、署名してしまう。その追及を
 かわして黙秘を貫くというのは、普通の人にはまずできないことだよ」

 「でもとにかく、メンシキさんにはそれができたのよ。意志が堅く、頭も切れる」

  たしかに免色は普通の人間ではない。意志が堅く、頭も切れる。

  「でももうひとつ納得できないな。脱税だろうがマネー・ロングリングだろうが、東京地検がい
 ったん逮捕に踏み切れば、新聞記事にはなるはずだ。そして免色みたいな珍しい名前であれば、
 ぼくの順に残っているはずなんだ。ぼくは少し前までは、わりに熱心に新聞を読んできたから」
 「さあ、そこまでは私にもわからない。それからもうひとつ、これはこの前も言ったと思うけど、
 彼はあの山の上のお屋敷を三年前に買い取った。それもかなり強引にね。それまであの家には別
 の人が住んでいたんだけど、そしてその人たちには、建てたばかりの家を売るつもりなんてさら
 さらなかったのだけど、メンシキさんが金を積んで―――あるいはもっと違う方法を使って――
 その家族をしっかり追い出し、そのあとに移り往んだ。たちの悪いヤドカリみたいに」
 「ヤドカリは貝の中身を追い出したりはしない。死んだ貝の残した貝殻を穏やかに利用するだけ
 だよ」



 「でも、たちの悪いヤドカリだって中にはいないと限らないでしょう?」
 「しかしよくわからないな」と私はヤドカリの生態についての論議は避けて言った。「もしそう
 だとして、どうして免色さんはあの家にそこまで固執しなくてはならなかったんだろう? 前に
 往んでいた人を強引に追い出して自分のものにしてしまうくらいに? そうするにはずいぶん費
 用もかかるし、手間もかかったはずだ。それにぼくの目から見ると、あの屋敷は彼にはいささか
 派手すぎるし、目立ちすぎる。あの家はたしかに立派ではあるけれど、彼の好みに添った家とは
 言えないような気がする」

 「そして家としても大きすぎる。メイドも雇わず、一人きりで暮らしていて、お客もほとんど来
 ないということだし、あんなに広い家に住む必要はないはずよね」

  彼女はグラスに残っていた水を飲み干した。そして言った。

 「メンシキさんには、あの家でなくてはならない何かの理由があったのかもしれないわね。どん
 な理由かはわからないけれど」
 「いずれにせよ、ぼくは火曜日に彼の家に招待されている。実際にあの家に行ってみれば、もう
 少しいろんなことがわかるかもしれない」



 「青髭公の城みたいな、秘密の開かずの部屋をチェックすることも忘れないでね」
 「覚えておくよ」と私は言った。
 「でも、とりあえずよかったわね」と彼女は言った。
 「何か?」
 「絵が無事に完成して、メンシキさんがそれを気に入ってくれて、まとまったお金が入ってきた
 こと」
 「そうだね」と私は言った。「そのことはとにかくよかったと思う。ほっとしたよ」
 「おめでとう、画伯」と彼女は言った。

  ほっとしたというのは嘘ではない。絵が完成したことは確かだ。免色がそれを気に入ってくれ
 たことも確かだ。私がその絵に手応えを感じていることも確かだ。その結果、まとまった額の報
 酬が入ってくることもまた確かたった。にもかかわらず私はなぜか、手放しでことの成り行きを
 祝賀する気にはなれなかった。あまりにも多くの私を取り巻くものごとが中途半端なまま、手が
 かりも与えられないまま放置されていたからだ。私か人生を単純化しようとすればするほど、も
 のごとはますますあるべき脈絡を失っていくように思えた。

  私は于がかりを求めるように、ほとんど無意識に手を伸ばしてガールフレンドの身体を抱いた。
 彼女の身体は柔らかく、温かかった。そして汗で湿っていた。

  おまえがどこで何していたかおれにはちゃんとわかっているぞ、と白いスバル・フォレスター
 の男が言った。

2017 Subaru Forester Colors


                                                         

   20 存在と非存在が混じり合っていく瞬間
 
  翌朝の五時半に自然に目が覚めた。日曜日の朝だ。あたりはまだ真っ暗だった。台所で簡単な
 朝食をとったあと、作業用の服に着替えてスタジオに入った。東の空か白んでくると明かりを消
 し、窓を大きく開け、ひやりとした新鮮な朝の空気を部屋に入れた。そして新しいキャンバスを
 取り出し、イーゼルの上に据えた。窓の外からは朝の鳥たちの声が聞こえた。夜のあいだ降り続
 いた雨がまわりの樹木をたっぶりと濡らせていた。雨はしばらく前に上がり、雲があちこちで輝
 かしい切れ目を見せ始めていた。私はスツールに腰を下ろし、マグカップの熱いブラック・コー
 ヒーを飲みながら、目の前の何も描かれていないキャンバスをしばらく眺めた。

  朝の早い時刻に、まだ何も描かれていない真っ白なキャンバスをただじっと眺めるのが昔から
 好きだった。私はそれを個人的に「キャンバス禅]と名付けていた。まだ何も描かれていないけ
 れど、そこにあるのは決して空白ではない。その真っ白な画面には、来たるべきものがひっそり
 姿を隠している。目を凝らすといくつもの可能性がそこにあり、それらがやがてひとつの有効な
 于がかりへと集約されていく。そのような瞬間が好きだった。存在と非存在が混じり合っていく

 目の前の棚に置かれた古い鈴が目に止まったので、手に取ってみた。試しに鳴らしてみると、そ
 の音はいやに軽く乾いて、古くさく聞こえた。長い歳月にわたって土の下に置かれていた、謎め
 いた仏具とは思えなかった。真夜中に響いていた音とはずいぶん遠って聞こえる。おそらくは漆
 黒の闇と潤い静寂が、その音をより潤い深く響かせ、より遠くへと運ぶのだろう。
  いったい誰が真夜中にこの鈴を地中で鳴らしていたのか、それはいまだに謎のままに留まって
 いる。穴の底で誰かが鈴を夜ごと鳴らしていたはずなのに(そしてそれは何かのメッセージであ
 ったはずなのに)、その誰かは姿を消してしまった。穴を聞いたとき、そこにあったのはこの鈴
 ひとつだけだった。わけがわからない。私はその鈴をまた棚に戻した。

  昼食のあと、私は外に出て裏手の雑木林に入った。厚手の灰色のヨットパーカを着て、あちこ
 ちに絵の其のついた作業用のスエットパンツをはいていた。濡れた小径を古い祠のあるところま
 で歩き、その裏手にまわった。穴に被せた厚板の蓋の上には様々な色合いの、様々なかたちの落
 ち葉が重なり積もっていた。昨夜の雨にぐっしょりと濡れた落ち葉だ。免色と私が二目前に訪れ
 たあと、その蓋に手を触れたものは誰もいないようだ。私はそのことを確かめておきたかったの
 だ。瀧った石の上に腰を下ろし、鳥たちの声を頭上に聞きながら、私はその穴のある風景をしば
 らく眺めていた。

  林の静寂の中では、時間が流れ、人生が移ろいゆく音までが聴き取れそうだった。∵ハの人が
 去って、別の一人がやってくる。ひとつの思いが去り、別の思いがやってくる。ひとつの形象が
 去り、別の形象がやってくる。この私白身でさえ、日々の重なりの中で少しずつ崩れては再生さ
 れていく。何ひとつ同じ場所には留まらない。そして時間は失われていく。時問は私の背後で、
 次から次へ死んだ砂となって崩れ、消えていく。私はその穴の前に座って、時間の死んでいく音
 にただ耳を澄ませていた。

  あの穴の底に一人きりで座っているのは、いったいどんな気持ちのするものなのだろう。私は
 ふとそう思った。真っ暗な挟い空間に、一人きりで長い時間閉じこめられること。おまけに免色
 は懐中電灯と梯子を自ら放棄した。梯子がなければ、誰かの――具体的に言えば私の――手を借
 りなければ、一人でそこから抜け出すことはほぼ不可能になる。なぜわざわざ自分をそんな苦境
 に追い込まなくてはならなかったのだろう? 彼は東京拘置所の中で送った孤独な監禁生活と、
 あの暗い穴の中をひとつに重ねていたのだろうか? もちろんそんなことは私にはわかりっこな
 い。免色は免色のやり方で、免色の世界を生きているのだ。

  それについて私に言えることは、ただひとつしかなかった。私にはとてもそんなことはできな
 いということだ。私は暗くて挟い空間を何より恐れる。もしそんなところに入れられたら、おそ
 らく恐怖のために呼吸ができなくなってしまうだろう。にもかかわらず、私はある意味ではその
 穴に心を惹かれていた。とても惹かれていた。その穴がまるで私を手摺きしているようにさえ感
 じられるほど。
  私は半時間ばかりその穴のそばに腰を下ろしていた。それから立ち上がり、本漏れ日の中を歩
 いて家に戻った。

  午後二時過ぎに雨田政彦から電話がかかってきた。今、用事があって小田原の近くまで来てい 
 るのだが、そちらにちょっと寄ってかまわないだろうかということだった。もちろんかまわない
 と私は言った。雨田に会うのは久しぶりだった。彼は三時前に車を運転してやってきた。手みや
 げにシングル・モルト・ウィスキーの瓶を持ってきた。私は礼を言ってそれを受け取った。ちょ
 うどウィスキーが切れかけていたところだった。彼はいつものようにスマートな身なりで、髭を
 きれいに刈り込み、見慣れた鼈甲縁の眼鏡をかけていた。見かけは昔からほとんど変わらない。
  髪の生え際が少しずつ後退していくだけだ。




さて、暗示とメタファのコントラと色彩が叙情に明確になってくる。まるで、セザンヌ絵のように。
面白くなってきた。

                                                         この項つづく

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

懲りない面々

2017年04月28日 | 環境工学システム論

        泉涸れて魚あいともに陸に処り、あい呴(く)するに湿をもってし、
       あい濡おすに沫(あわ)をもってするは、江湖にあい忘るるにしかず


                            大宗師(だいそうし)

                                                

      ※  大宗師:有限な人の営みは、やがては天に包摂される。天と人とは、別が
        あって別はない。天人合一の境地に逍遥する「真人」は、「道」そのまま
        の存在である。「道」を大いなる宗師として生きることこそ、人間努力の
        窮極目標なのである。

      ※ 「道」そのままに生きる:乾上った池に棲む魚は、泥の上に身を寄せあい、
        たがいのあぶくで身を濡らしあっては、わずかに生を保とうとする。だが
        魚たちにしてみれば、かばいあってに生きるより、広々とした河海を自
        由に泳ぎ廻ることの方が、はるかに望ましいに相違ない。人間にしても同
        じこと、秩序の枠に押しこめられ、善を称揚し悪を排斥して暮らすよりは、
        善悪を超越して「道」そのままに生きる方が、はるかに好ましいはずであ
        る。

 

 No. 6

今回は、韓国の高速道路に大規模ソーラーレーンの話題を始めとして、圧空電池、バイオマス発電の
最新技術などを取り上げる。


【RE100倶楽部:太陽光発電篇】

● 韓国の高速道路に大規模な太陽光パネル

 

韓国の高速道路には、真ん中を走る素晴らしい太陽光発電バイクレーンがある。レーンはオフセット
され、障
壁によって保護され、太陽電池パネルによって保護される。この車線は首都ソウルから車で
数時間にある、大田から世宗まで約32マイル(51.5キロメートル)の距離に敷設されている(
自転車道はソーラーパネルの下を走る)。これは、将来的な通勤スタイルの自転車レーンをに実現す
るアイデアである。




【RE100倶楽部:蓄電池電篇】

● 最新圧空電池技術:圧縮空気貯蔵発電装置及び圧縮空気貯蔵発電方法

再生可能エネルギーのような不規則に変動する不安定なエネルギーを利用した発電の出力を平滑化す
る技術としては、余剰発電電力が生じた際に電気を蓄えておき電力不足時に電気を補う蓄電池が代表
的なものである。大容量蓄電池の例として、❶ナトリウム・硫黄電池、❷レドックスフロー電池、❸
リチウム蓄電池、❹及び鉛蓄電池などが知られている。これらの電池は、いずれも化学的な二次電池
であり、蓄えたエネルギーを電気の形式でしか出力できない。これに対し、神戸製鋼所では、圧縮機
から吐出される圧縮空気を蓄えておき、必要な時に空気タービン発電機等で電気に再変換する圧縮空
気貯蔵(CAES)技術が開発されてきた。

ところで、再生可能エネルギーにより発電した電力の出力先には、商用系統に電力として出力して売
電する場合、商用系統に戻すことなく発電所内または近接する需要家で消費することも考えられる。
このような需要家例としては、❶コンピュータの冷却に膨大な冷房が求められるデータセンタや、❷
製造工程における制約から一定温度に制御が必要な精密機械工場及び半導体工場がある。なお、大電
力を使用する需要家では、その使用電力の変動に応じて、使用電力が少ない際に蓄電し、使用電力が
増加した場合に放電して最大使用電力量を抑えるという節電手法に対するニーズもある。

この技術は、再生可能エネルギーのような不規則に変動する発電出力を平滑化すると共に、このよう
に変動する入力電力により効率的に冷熱利用できる圧縮空気貯蔵発電装置を提供することに特徴があ
るが、これらは、次のような7つの機能構成から実現される。

❶不規則に変動する入力電力により駆動される電動機
❷電動機と機械的に接続され、空気を圧縮する圧縮機
❸圧縮機により圧縮された圧縮空気を蓄える蓄圧部
❹蓄圧部から供給される圧縮空気によって駆動される膨張機
❺膨張機と機械的に接続された発電機
❻圧縮機から供給する圧縮空気と熱媒とで熱交換して圧縮空気を常温近傍まで冷却する第1熱交換器
❼作動流体である空気を常温以下の冷気として取り出す冷熱取出部

この構成によれば、蓄圧部により圧縮空気としてエネルギーを貯蔵することで、再生可能エネルギー
のような不規則に変動する発電出力を平滑化することができる。また、冷熱取出部により常温以下の
冷気を取り出す(冷熱を作り出す)ことで再生可能エネルギーのような不規則に変動する電力によっ
ても効率的に冷熱利用できる。

特に、商用電力を直接使用して冷熱を作り出す場合に比べて大幅に熱効率を向上できる。また、発電
に伴う膨張による吸熱を利用することで空気を効率的に冷却できるため、冷熱取出部として膨張機を
有効利用できる。ここで、第1熱交換器において圧縮空気は常温近傍まで冷却されるが、「常温近傍
」とは、圧縮空気が蓄圧部に貯蔵されている間に外気に放熱して、圧縮空気の保有するエネルギーを
大幅に損失しない程度の温度をいう。

【要約】

圧縮空気貯蔵発電装置2は、モータ8a、圧縮機10、蓄圧タンク12、膨張機14、発電機16、
第1熱交換器18a、冷熱取出部13を備える。モータ8aは、再生可能エネルギーを用いて発電し
た入力電力により駆動される。圧縮機10は、モータ8aと機械的に接続され、空気を圧縮する。蓄
圧タンク12は、圧縮機10により圧縮された圧縮空気を蓄える。膨張機14は、蓄圧タンク12か
ら供給される圧縮空気によって駆動される。発電機16は、膨張機14と機械的に接続されている。
第1熱交換器18aは、圧縮機10から供給される圧縮空気と熱媒とで熱交換して圧縮空気を常温近
傍まで冷却する。冷熱取出部13は、作動流体である空気を常温以下の冷気として取り出すことで、
不規則に変動する入力電力を平滑化すると共に、この入力電力によって効率的に冷暖房を行うことが
できる圧縮空気貯蔵発電装置を提供する。


【符号の説明】

    2  圧縮空気貯蔵発電装置(CAES発電装置)
    4  電力系統
    6  発電装置
    8a,8b  モータ(電動機)
    10  圧縮機
    10a  吸気口
    10b  吐出口
    12  蓄圧タンク(蓄圧部)
    13  冷熱取出部
    14  膨張機(冷熱取出部)
    14a  給気口
    14b  排気口
    16  発電機
    17  暖熱取出部
    18a  第1熱交換器(暖熱取出部)
    18b  第2熱交換器(冷熱取出部)
    18c  第3熱交換器(暖熱取出部)
    18d  第4熱交換器(暖熱取出部)
    18e  第5熱交換器(暖熱取出部)
    18f  第6熱交換器
    19  水供給部
    20a,20b,20c,20d  空気配管
    22  バルブ
    24  高圧蓄圧タンク(高圧蓄圧部)
    26  流量調整バルブ
    28  高圧圧縮機
    28a  吸気口
    28b  吐出口
    30  スイッチ
    32a,32b  蓄熱タンク
    34a,34b,34c,34d,34e  熱媒配管
    36a,36b,36c,36d,36e  ポンプ
    38  冷凍機(冷熱取出部)
    40  冷水配管
    42a,42b,42c  温水配管
    44  モード切替機構
    46  三方弁(モード切替機構)
    46a  第1ポート
    46b  第2ポート
    46c  第3ポート
    48  三方弁(モード切替機構)
    48a  第1ポート
    48b  第2ポート
    48c  第3ポート

【RE100倶楽部:バイオマス発電篇】

● 最新バイオマスボイラー技術:熱回収方法、及び熱回収装置

再生可能エネルギーの一つのバイオマス発電は、燃料によって分類されており、例えば、林地残材な
どの木材を燃料とするボイラを用いた木質バイオマス発電がある。木質バイオマス発電には、❶木材
を直接燃焼する蒸気タービン方式と、❷木質バイオマスからガスを発生させ、この木質バイオマスを
起源とするガスを燃焼させるガスタービン方式がある。本件は、ボイラで発生した排気ガスから熱エ
ネルギーを回収する熱回収装置及び熱回収方法に関するもので、小容量なボイラであっても、簡単な
構成でボイラ効率を高められる熱回収方法及び熱回収装置に関する新規考案である。

熱交換装置のボイラは、燃料を燃焼させて得た熱をボイラ水に伝えて、水を高温高圧の水蒸気や温水
に状態変化させる。発生させた水蒸気や温水は、種々の用途に利用され、例えば、水蒸気はタービン
発電、温水は暖房などに利用される。また、ボイラは、煙管型、水管型が代表的である。❶煙管型ボ
イラは、水缶内に複数の鋼管といった金属管が配置され、各管に燃焼ガスが導入されて管周囲の水を
加熱する。❷水管型ボイラは、燃焼室内に複数の水管が配置され、燃焼室内の燃焼ガスによって水管
内の水を加熱する。いずれの形式も、水と燃焼ガスとは管材によって分離され、燃焼ガスから水への
伝熱は、金属管や水管といった金属部材を介して行われる。つまり、密度の低いガスの顕熱を、金属
部材を介して水に伝達する構成である。

ここで、 ボイラ効率とは、ボイラに供給された燃料が完全燃焼することによって発生すべき熱量に対
する水蒸気や温水を発生するために実際に用いられた熱量との比率である。ボイラ効率は、一般に、
ボイラの容量が大きいほど高い傾向にある。例えば5MW程度以上といったMW級の発電には、従来、
発生蒸気量でいうと最高使用圧力が数MPa以上で、数10ton/h以上といった大容量のボイラ
を使用する。

上述の蒸気タービン方式の木質バイオマス発電に対して、水分量(含水率)が一定値以下の乾燥チッ
プと、既知の蒸気タービン(軸流タービン)とを用いて効率よく発電するためには、発電容量が2M
W~5MW、またはそれ以上が望まれる。この発電容量に対応した蒸気タービンは非常に大きく、非
常に大型のボイラが必要で、非常に大型の木質バイオマスボイラを併設したり、燃料となる木材を大
量に確保して供給したりすることは容易ではなく、実現が難しい。このため、木質バイオマス発電は、
発電以外の効果、例えば温排水の活用や加工木材の端材処理といった効果を期待して、❶既知の蒸気
タービン方式を用いる。小容量、例えば、0.5MW級以下の発電に対しては、近年、蒸気タービン
方式よりも❷ガスタービン方式を利用する傾向にあるが、ガスタービン方式では、構造が複雑で、特
別な操作条件が付加され、装置が高価である、などの様々な制限が未だ有り開発要素が残る。


一方、近年検討されている「中山間地域での木質バイオマス発電」は、小容量のボイラを多数分散さ
せて配置計画されている。ここでの使用が検討されるボイラの容量は、発電電力でいうと、1MW未
、特に500kW程度以下、主として300kW程度以下であり、発生蒸気量でいうと、最高使用
圧力が1MPa以下で、3ton/h~10ton/h程度である。このような小容量のボイラは、
上述の非常に大容量のボイラに比較してボイラ効率が低く、ボイラ効率の向上が望まれる。


ボイラ効率を高める方法のとして、例えば、液体熱媒体である水と燃焼温度との温度差を大きくする
方法があり、天然ガスを燃料とするガスボイラを用いたり、木質バイオマスボイラであれば乾燥チッ
プを用いて、燃焼温度を高めるが
、この場合、❶地産資源の木質バイオマス材の代わりに化石燃料で
ある天然ガスの入手が必要であったり、❷木材の乾燥設備などといった専用の設備や、❸専門知識を
有する技術者などが必要な上に、❹処理に時間がかかったりする。また、伐採直後の生木は、一般に
水分が多く、含水率が30質量%~50質量%程度である。天然乾燥された木材(以下、天然乾燥材
と呼ぶ)では、含水率が30質量%程度のものが多い。このような含水率が高い木材を燃焼させると、
木材中の水分を気化するために水1gあたりに約2260J(540cal)の熱量が利用される。
その結果、燃焼温度を十分に高められない。燃焼温度を高めるために、伐採材を人工的に強制乾燥し、
含水率を30質量%未満、好ましくは10質量%以下程度とする必要がある。伐採材のうち、含水率
が30質量%~50質量%程度であるものを生木、天然乾燥によって含水率が30%程度であるもの
天然乾燥材と呼ぶ。


 さらに、ボイラ効率を高める別の方法として、従来、エコノマイザーが知られている。エコノマイザーは、燃料を
燃焼し、生じた排気ガスをボイラ外に排出する煙道内に鋼管といった金属管を設置して、この管内に主として
水を供給し予熱する給水加熱器である。 排気ガスの発生量が多い大容量のボイラでは、エコノマイザーの利
用により、ボイラ効率を高められるが、小容量のボイラにエコノマイザーを付加しても、効率が良くない。エコノ
マイザーによる水への伝熱も上記金属管を介して行われるからである。詳しくは、気体(排気ガス)⇒固体(鋼
管など)⇒液体(水)という伝熱経路は、密度が相対的に非常に低い気体から密度が相対的に非常に高い固
体に熱を伝えることになるため、固体に熱が伝わり難い。

以上のことから、小容量のボイラを用いて、1MW未満程度の発電などの仕事を行う場合に簡単な構成であり
ながら、ボイラ効率を向上できることが望まれ、 特に、伐採材などの木材を入手し易いものの、専用の設備の
設置や専門技術者の配置などが難しい中山間地域、山林近くの小さな町村などで木質バイオマス発電を行う
場合に、ボイラの燃料に、伐採直後の生木を実質的にそのまま(例えば含水率が40質量%~50質量%程度
の木材)、又は天然乾燥材(例えば含水率が30質量%程度、好ましくは20質量%程度の木材)、又はこれら
を薪や一般的なチップにする程度の加工を行ったものなどを利用した場合でも、ボイラ効率の向上を実現させ
たい。近年、スクリュータービンなどと呼ばれる高効率で小容量の蒸気タービンが開発されてきているが、高効
率で小容量の蒸気タービンに適した、高効率で小容量のボイラの実用化が期待される。



【符号の説明】

  1A,1B,1C,1D,1E,1F,1G,1H  熱回収装置
  B  ボイラ  L  水(液体熱媒体)  S,S  水蒸気  G  排気ガス  H  水頭
  2A,2B,2E,2F,2G  液体槽
  3A,3B  導入管  4  排気管  5  圧力調整部  6  給液管
  7  排液管  8  接触促進部  9  熱交換部
  20  底面部  22  天面部  24,26  側面部
  30  ガイド管  32  噴霧室  320  噴霧器
  35  ガス分岐管  45  上流側分岐管  47  下流側分岐管
  450,470  バルブ
  50,52  ブロア  60  ポンプ  62  三方弁  70  バルブ
  80,82  仕切り部
  90  導入部  92  排出部  94  バルブ
  100  第一仕事部  102  第二仕事部
  110  液面計  112  水圧計  130  異物排出部  132  バルブ

  ● 今夜の一曲

 

(ラッドウィンプス)は、4人組ロックバンド(所属レコード会社はユニバーサルミュージック/所
属事務所は有限会社ボクチン)で、略称は「ラッド」。
バンド名の意味は、「すごい」「強い」「い
かした」という軽いアメリカ英語の俗語「RAD」と、「弱虫」「意気地なし」という意味の「WIMP
を組み合わせた造語。つまり、「かっこいい弱虫」「見事な意気地なし」「マジスゲーびびり野郎」
などの意味。彼らのアルバム『君の名は。』(きみのなは。)は、RADWIMPSのサウンドトラック。
新海誠監督の長編アニメーション映画『君の名は。』のために制作された映画音楽を収録。2016年8月
24日に、EMI Records(ユニバーサルミュージック)から発売。主題歌の「前前前世 )」は、2016年7
月5日放送のラジオ番組『SCHOOL OF LOCK!』にて初オンエアされ、同年7月25日からは音楽配信サイ
トにて先行配信される。


   やっと眼を覚ましたかい それなのになぜ眼も合わせやしないんだい?
   「遅いよ」と怒る君 これでもやれるだけ飛ばしてきたんだよ

   心が身体を追い越してきたんだよ

   君の髪や瞳だけで胸が痛いよ
   同じ時を吸いこんで離したくないよ
   遥か昔から知る その声に生まれてはじめて 何を言えばいい?

   君の前前前世から僕は 君を探しはじめたよ
   そのぶきっちょな笑い方をめがけて やってきたんだよ

   君が全然全部なくなって チリヂリになったって
   もう迷わない また1から探しはじめるさ
   むしろ0から また宇宙をはじめてみようか

   どっから話すかな 君が眠っていた間のストーリー
   何億 何光年分の物語を語りにきたんだよ けどいざその姿この眼に映すと

   君も知らぬ君とジャレて 戯れたいよ
   君の消えぬ痛みまで愛してみたいよ
   銀河何個分かの 果てに出逢えたその手を壊さずに どう握ったならいい?

   君の前前前世から僕は 君を探しはじめたよ
   その騒がしい声と涙をめがけ やってきたんだよ

   そんな革命前夜の僕らを誰が止めるというんだろう
   もう迷わない 君のハートに旗を立てるよ
   君は僕から諦め方を 奪い取ったの

   前前前世から僕は 君を探しはじめたよ
   そのぶきっちょな笑い方をめがけて やってきたんだよ

   君が全然全部なくなって チリヂリになったって
   もう迷わない また1から探しはじめるさ何光年でも 
   この歌を口ずさみながら

                          作詞/作曲 野田洋次郎




英国で産業革命以来めて、24時間「石炭火力ゼロ」を記録したという。25年までに石炭火力ゼロ
が目標だというが、英国政府が発表している統計資料で、2016年10~12月期における電源構成のうち、
石炭が占める割合は9.3%だ。その他は天然ガスが45.2%、原子力発電所が20.3%、再生可能
エネルギーが22.2%だという。わたしは、再生可能エネルギーと省エネシステム&機器の普及で、
経済成
長と両立可能だと、さらに、「エネルギーフリー社会」がやがて実現できると考えているので、
原発再稼働
を繰り返す政府・電力会社に、懲りな面々だね~ぇとあきれ果てている。 

                                                   

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

蛾とカミキリ虫の一穴

2017年04月27日 | 環境工学システム論

    好悪(こうあく)をもって内その身を傷(やぶ)らず、常に自然によりて生を益さず

                             徳充符(とくじゅうふ)

                                                

      ※  情問答:恵施が「聖人は情をもたぬというが、人間が情をもたぬことが
        可能だと考えているのか」と荘子に議論をふっかける場面で、「情をも
        たぬと言ったのは、情にとらわれぬということだ。好悪の念にとらわれ
        て、われとわが身を損うことなく、いっさいを自然にまかせて、人為的
        なつけ加えをしないということだ」と答える。

 

 

 A caterpillar that eats and digests plastic in record time | Science | DW.COM | 24.04.2017

【ZW倶楽部:続・マイクロプラスチック問題に光り ?】

一昨日、この話題を取り上げたが、26日、ナショナルジオグラフィック日本版の「プラスチック
べる虫を発見、ごみ処理には疑問」で、米国のウッズホール海洋研究所の海洋生物学者トレイシー・
ミンサーの見解――プラスチックごみの問題を解決するためには、生産量を減らし、リサイクルの量
を増やすことに重点を置くべきだとしている。ポリエチレンは高品質な樹脂で、より価値の高いさま
ざまな製品に“アップサイクル”できる。1トンにつき5百ドルで売れることもあるが(今回の研究
は学術的な研究としては大変すばらしい)、ポリエチレンの処分法として望ましい解決策とは思わな
い。
これではお金を捨てるようなものだ――を引用している。

✪大きさ5ミリメートル以下のプラスチック(➲ "マイクロプラスチック”)。世界中から海に流れ
 出るプラスチックの量は、推計最大1300万トン。それが砕け目に見えないほど小さくなり海に
 漂っている。“マイクロプラスチック”は、海水中の油に溶けやすい有害物質を吸着させる特徴を
 持ち、100万倍に濃縮させるという研究結果も出ていて、生態系への影響(➲マイクロプラスチ
 ックと残留性有機汚染物質
)が懸念されている。

  ハチノスツヅリガ

結論めいたことを言えば「マイクロプラスチック問題」は、マイクロプラスチックが野生生物と人間
の健康に及ぼす影響は、科学的に十分に検証されていないが、現在使用されているポリエチレンポリ
リン酸樹脂などの生分解性プラスチックへの完全代替で根源対策となる。問題は環境に拡散したこれ
をどのように回収するかということになる。ところで、関連技術情報によると(➲Evidence of polyeth-
ylene biodegradation by bacterial Strains from the guts of plastic-eating waxworms
.
Yang, J., Yang, Y., Wu, W.-
M., Zhao, J., and Jiang, L. Environ. Sci. Tech. 2014; 48: 13776–13784
)、
ポリエチレン(PE)は数十年間非
生分解性だと考えられてきたが、細菌培養によるPEの生分解は、ワックスワーム/インディアナミツ
バチ(Plodia interpunctellaの幼虫)がPEフィルムを噛み食べることを見出だされている。 Enterobacter
asburiae YT1
およびBacillus sp.YP1から、PEを分解する2つの菌株をこの虫の腸から単離している。PE
フィルム上の2つの菌株の28日間のインキュベーション期間にわたり、生存可能なバイオフィルム
が形成され、PEフィルムの疎水性が減少。 走査型電子顕微鏡(SEM)および原子間力顕微鏡(AFM
を用いて、PEフィルムの表面にピットおよび空洞(深さ0.3〜0.4μm)を含む損傷が観察されている。
カルボニル基の形成は、X線光電子分光法(XPS)および微量全反射/フーリエ変換赤外(マイクロA
TR / FTIR
)イメージング顕微鏡を用いて検証したところ、YT1/YP110 8細胞/ mL)の懸濁培養物は、
60日間のインキュベーション期間にわたって、PEフィルム(100mg)のそれぞれ約6.1±0.3%および
10.7±0.2%を分解する。 残留PEフィルムの分子量はより低く、12種の水溶性娘生成物の放出もまた
検出。その結果、ワックスワームの腸内にPE分解細菌が存在することが示され、環境中のPEの生分解
に関する有望な証拠が得られている。

Studies on the waxmoth Galleria mellonella, with particular reference to the digestion of wax by the larvae.
      Dickman, R. J. Cell. Comp. Physiol. 1933; 3: 223–246.




  Apr. 3, 2017


このように、
ワックス生分解の分子的詳細はさらに研究が必要であるが、これらの脂肪族化合物のC-
C
単結合は消化の標的の1つであり、PEフィルムをワックス虫と直接接触させたままの状態での孔の
出現および劣化したPEFTIR分析は、C-C結合の切断を含むPEの化学分解を示し、
G.メロネラ菌の炭
化水素消化活性が、生物自体に由来するか腸内細菌叢の酵素活性に由来するのか明確ではないものの
このような分解酵素などを、フィルターなどに担持じさせマイクロプラスチックを含んだ淡水/海水
と接触反応させこれを分解し、有害物質を除去分離できると考えるのでスケールは大きくなるが解決
可能だと考えている(このシステム特許申請対象該当する)。さらに、生分解専用人工酵素の開発、
あるいは、ナノグラフェン(上図参照)等の精密濾過法など憂苦だろう。参考までに「酵素担持フィ
ルタ及びその製造方法」の特許事例を掲載しておく。
 
✓ 特開2008-212824  酵素担持フィルタ及びその製造方法 東洋紡績株式会社


 No. 5

【RE100倶楽部:太陽光発電篇】

● 太陽光による完全自己充電型リチウムイオン電池  

今月10日、マギル大学らの研究グループは、太陽光を色素増感型光電変換素子からの電子を貯蔵す
る自己充電型リチウムイオン電池を公表(Light-assisted delithiation of lithium iron phosphate nanocrystals
towards photo-rechargeable lithium ion batteries,Nature Communications 8, Article number: 14643 (2017) , d
oi:
10.1038/ncomms14643)。
リチウムイオン電池は、電話機、タブレット、コンピュータなどのあらゆる
種類のモバイル機器の急速普及を実現させたが、これらはバッテリのエネルギー密度が限られ、頻繁
に再充電する必要がある。
スマートフォンは、オフィス内を持ち歩け、あらゆる種類のアプリケーシ
ョンが搭載され、多くの電力を必要としている。今回の発明は
、携帯型太陽電池型蓄電器開発につな
がる。これらのハイブリッドデバイスを実現するには、複雑な回路/パッケージ問題により小型化が
困難であったが、
この問題解決に、マギル大学とハイドロ・ケベック研究所の科学者たちは、光電
変換し、貯蔵できる単一機器、つまり自己充電型電池開発へと繋がったいう。ここまでを簡単にまめ
とめると、宮坂勉教授らの「ハイブリット型色素増感型太陽電池、あるいは、瀬川浩司教授らの蓄電
機能内包型色素増感型太陽電池の知財をベースとし、受光面の反対側のアノード側にリチウムイオン
電池配置している点が異なってい点であるが。言い換えれば、大きなリチウム電池表面を密封フィル
ムが施されたハイブリッド型色素増感型光電変換イングが塗布されている構成/構造の2次電池であ
ると言えるだろう。

最初の光二次電池は、1976年に提案された3硫化カドミウム/硫黄/硫化銀(CdSe/ S / Ag2S)から構成
する3電極電池。1977年には、3元系のn-セレシウムセレン化テルル化物/硫化セシウム/硫化スズ(
CdSe 0.65 Te 0.35 / Cs 2 S x / SnS)が開発、1990年には、ヨウ化タングステン酸銀(Ag 6 I 4 WO 4)を用
いた半導体シリコン/酸化ケイ素(PI aSi / SiO x)電極上の光反応で、SiO x 表面上に光増感効果が観測さ
れている。2012年にハイブリッドチタニア(TiO2
)/ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン、PEDOT)光ア
ノードと過塩素酸塩(ClO4)ドープポリピロール対電極の太陽電池の提案があり、2014年、酸化還元
結合色素光電極アシストリチウム - 酸素(Li-O 2)電池が、2015年には、独立電解質区画内のレドッ
クス――三ヨウ化物/ヨウ化物(I >3- / I -)を使用するリン酸鉄リチウム(LiFePO4 ; LFP)/リチウム金
属セルを含む3電極システムにTiO2ベースの電極を組み込んみ、同年Li ベースのセル(LFPカソード/
L
i 4 Ti 5 O 12アノード)と直列のペロブスカイトメチルアンモニウムヨージド(CH 3 NH 3 PbI 3)ベー
スの太陽電池を接続し、良好なサイクル安定性を観測。 また、TiN電極上で生成
された光電子が電池
放電をアシストする一方で、硫酸ナトリウム(KFe [Fe(CN) 6]および窒化チタン(TiN)を使用する化
学的に再充電可能な光電変換蓄電池を、CdSe@ Pt光触媒をLi-S 電池が提案されている。さらに、I 3
  I
ベース陰極液を用いてTiO 2-色素光電極で
、光 -充電式Li-iodideフロー電池が、同年にLi-O 2 電池
の充電電圧低下にグラファイト炭素窒化物(C3 N4)光触媒が提案される。

本論文では、N719色素をハイブリッド光電陰極、Li 金属を陽極、LiPF6 有機カーボネート溶媒(EC /
DEC/VC
)電解液の存在下、光照射によるLFP/ナノ結晶の直接光酸化を含む2電極システムである
。 
LFPは安定性と安全性、および酸化還元電位が良好で、LFPをカソード材料しています。 後者の3.4V
Li + / Liは、1991年にO'ReganGrätzelにより発明された色素増感太陽電池セル――古典的なI 3 - / I -
酸化還元対(約 3.1V対 Li + / Li)に近い。 色素増感は、アノードでの固体電解質界面(SEI)の形
成における酸素還元を介し利用される陰極のFePO 4 (ヘテロサイト)へのLFP(トリフィライト)ナ
ノプレートレットの化学変換補の正孔と電子 - 正孔対を生成する炭酸リチウムベースで構成される。 
LFPの光アシスト脱離は、定電流放電で可逆的な2電極装置の構成に基づき、光充電式リチウムイオ
ン電池の可能性をもつ(以降、下図ダブクリ参照――詳細は後日別途掲載)。 
 

 

       

 読書録:村上春樹著  『騎士団長殺し 第Ⅰ部』    

    19.私の後ろに何か見える

   土曜日の午後の一時に、ガールフレンドが赤いミニに乗ってやってきた。私は外に出て彼女を

 迎えた。彼女は緑色のサングラスを掛け、ベージュのシンプルなワンピースの上に軽いグレーの
 ジャケットを羽織っていた。

 「車の中がいい? それともベッドの方がいい?」と私は尋ねた。
 「馬鹿ねえ」と彼女は笑って言った。
 「車の中心なかなか悪くなかった。狭い中でいろいろと工夫するところが」
 「またそのうちにね」
 
  我々は居間に座って紅茶を飲んだ。少し前から取り組んでいた免色の肖像画(らしきもの)を
 無事に完成させたことを、私は彼女に話した。そしてその緑は、私かこれまで業務として描いて
 いたいわゆる「肖像画」とはずいぶん違う性質の心のになってしまったことを。話を間いて、彼
 女はその緑に興味を持ったようだった。

 「私がそれを見ることはできる?」私は首を振った。
 「一日遅かったね。君の意見も聞いてみたかったんだけど、免色
さんがもう家に持ち帰ってしまった。
 まだ絵の具も十分に乾いていないんだけど、一刻も早く自分のものにしたいみたいだった。まるで他の誰
 かに持って行かれるんじやないかと心配しているみたいに」
  「じやあ、気に入ったのね」
  「気に入っていると本人は言ったし、それを疑う理由もとくに見当たらなかった」
  「絵は無事に完成して、依頼主にも気に入ってもらえた。つまりすべてはうまくいったととね?」
  「たぶん」と私は言った。「そしてぼく自身も絵の出来に手応えを感じてにぼくが描いたことのない種類の
 絵だったし、そこには新しい可能性みたると思うから」

  「新しいスタイルの肖像画ということかしら」

  「さあ、どうだろう。今回は免色さんをモデルにして描くことを通して、その方法にたどり着くことができた。
 つまり肖像画というフレームをとりあえず入り口にすることで、たまたまそれが可能になったということかも
 しれない。もうコ伎同じ方法が通用するのかどうか、それはぼくにもわからない。今回は特別だったのかも
 しれない。免色さんというモデルがたまたま特殊な力を発揮したのかもしれない。でも何より大事なことは、
 ぼくの中にまた真剣に絵を描きたいという気持ちが生まれたことだと思う」

  「とにかく、絵が完成しておめでとう」
  「ありがとう」と私は言った。「少しまとまった額の収入が得られることにもなる」 
  「とても気前の良いメンシキさん」と彼女は言った。
  「そして免色さんは、緒が完成したことを視って、自宅にぼくを招待してくれている。火曜日の夜、夕食を
 一緒にするんだ」

  私はその夕食会のことを彼女に話した。もちろんミイラを招待したことは抜きにして。プロのコックとバー
 テンダー、二人きりの夕食会。

  「あなたはようやく、あの白亜の邸宅に足を踏み入れることになるのね」と彼女は感心したように言った。
  「謎の人の住む謎のお屋敷に。興味津々。どんなところだかよく見てきてね」
  「目の届く限り」
  「出てくる料理の内容も忘れないように」
  「できるだけ覚えておくようにする」と私は言った。「ところでこのおいたたしか、免色さんについて何か新
 しい情報が手に入ったと言っていたよね」
  「そう、いわゆる『ジャングル通信』で」
  「どんな情報なんだろう?」
 
   彼女は少し迷ったような顔をした。そしてカップを持ち上げ、紅茶を一口飲んだ。
  「その話はもっとあとにしない」と彼女は言った。「それより前に少しばかりやりたいことがあるから」
  「やりたいこと?」
  「口にするのがけばかられるようなこと」

  そして我々は居間から寝室のベッドに移動した。いつものように。
  私は六年間、ユズと共に最初の結婚生活を送っていたわけだが(前期結婚生活、と呼んでいい
 だろう)、そのあいだ他の女性と性的な関係を持ったことは一度もなかった。そういう機会がま
 ったくなかったわけではないのだが、私はその時期、よその場所に行って別の可能性を追求する
 よりは、妻と一緒に穏やかに生活を送ることの方により強い興味を持っていた。また性的な観点
 から見ても、ユズと日常的にセックスをすることで私の性欲は十分満たされていた。

  しかしあるとき妻が何の前触れもなく(と私には思える)「とても悪いと思うけど、あなたと
 一緒に暮らすことはこれ以上できそうにない」と打ち明ける。それは揺らぎのない結論であって、
 交渉や妥協の余地はとこにも見当たらない。私は混乱し、どう反応すればいいのかわからない。

  
言葉が出てこない。でもとにかくもうここにいられなということだけは理解できる。
  だから身の回りの荷物を簡単にまとめて古いプジョー205に積み込み、放浪の旅に出る。春
 の初めの一ケ月半ばかり、まだ寒さの残る東北と北海道を私は移動し続ける。とうとう車が壊れ
 て動かなくなるまで。そして旅をしているあいだずっと、夜になると私はユズの身体を思い出し
 た。その肉体のひとつひとつの細かい部分まで。そこに手を触れたときに彼女がどんな反応を見
 せ、どんな声をあげるか。思い出したくはなかったのだが、思い出さないわけにはいかなかった。
 そしてときおり、私はそのような記憶を辿りながら一人で射精した。そんなこともしたくはなか
 ったのだけれど。

  でもその長い旅行のあいだ、ただ一度だけ生身の女性と性交したことがある。わけのわからな
 い不思議な成り行きで、私はその見知らぬ若い女と一度のベッドを共にすることになった。私の
 方から求めてそういうことになったわけではなかったのだが。
  それは宮城県の海岸沿いの小さな町での出来事だった。岩手県との県境に近いあたりだったと
 記憶しているが、その時期私は日々細かく移動を続け、似たような町をいくつも通過してきた。
 町の名前をいちいち覚えている余裕もなかった。大きな漁港があったことを覚えている。しかし
 そのへんの町にはたいてい大きな漁港があった。そしてどこにもディーゼル油と魚の匂いが漂っ
 ていた。

  町外れの国道沿いにファミリー・レストランがあり、そこで私は一人で夕食をとっていた。午
 後の八時頃のことだ。海老カレーとハウスサラダ。店の中に客は数えるほどしかいなかった。私
 か窓際のテーブルで、一人で文庫本を読みながら食事をしていると、私の向かいの席に出し抜け
 に一人の若い女が座った。彼女はまったく躊躇することもなく、私にひとこと断るでもなく、無
 言でそのビニール張りのシートに素遠く腰を下ろした。まるで世界中にこれ以上当たり前のこと
 はないという様子で。

  私は驚いて顔を上げた。もちろんその女の顔に見覚えはなかった。まったくの初対面だ。突然
 のことなので、事情がよく理解できなかった。テーブルは他にいくらでも空いている。わざわざ
 私と相席するような理由はない。あるいはこの町では、こんなことはむしろありふれた出来事な
 のだろうか? 私はフォークを置いて、紙ナプキンで口許を拭い、彼女の顔をぼんやり眺めてい
 た。

 「知り合いのような顔をして」と彼女は手短に言った。「ここで待ち合わせをしていたみたいな」。
 ハスキーな声と言っていいかもしれない。あるいは緊張が彼女の声を一時的にしやがれさせてい
 
るだけかもしれない。声には徴かな東北誼りが聞き取れた。
  私は読んでいた本にしおりをはさんで閉じた。女はたぶん二十代半ばだろう。襟の丸い白いブ
 ラウスに、紺色の力ーディガンを羽織っていた。どちらもあまり上等なものとは言えない。とく
 に洒落てもいない。人が近所のスーパーマーケットに買い物に行くときに着ていくような、ごく
 普通の服だ。髪は黒く短く、前髪が顔に落ちていた。化粧気はあまりない。そして黒い布製のシ
 ョルダーバッグを膝に載せていた。

  これという特徴のない顔立ちだった。顔立ちそのものは悪くないのだが、それが与える印象が
 希薄なのだ。通りですれ違ってもほとんど印象に残らない顔だ。そのまま通り過ぎて忘れてしま
 う。彼女は薄くて長い唇をまっすぐ結び、鼻で呼吸していた。呼吸がいくらか荒くなっているよ
 うだった。鼻孔が小さく膨らみしぼんだ。鼻は小さく、口の大きさに比べてバランスを欠いてい
 た。まるで塑像を追っている人が途中で粘土が足りなくなって、鼻のところを少し削ったみたい
 に。

 「わかった? 知り合いのような顔をしていて」と彼女は繰り返した。「そんなびっくりした顔
 「いいよ」とわけがわからないまま私は返事をした。
 「そのまま普通に食事を続けて」と彼女は言った。「そして私と親しく話をしているふりをして
 くれる?」
 「どんな話を?」
 「東京の人なの?」 私は肯いた。フォークを取り上げ、プチトマトをひとつ食べた。そしてグラ
 スの水をひとくち飲んだ。

 「しゃべり方でわかる」と彼女は言った。「でもどうしてこんなところにいるの?」
 「たまたま通りかかったんだ」と私は言った。

  生姜色の制服を着たウェイトレスが、分厚いメニューを抱えてやってきた。驚くほど胸の大き
 なウェイトレスで、制服のボタンが今にもはじけ飛びそうに見えた。私の向かいに座った女はメ
 ニューを受け取らなかった。ウェイトレスの顔さえ見上げなかった。私の顔をまっすぐ見ながら
 「コーヒーとチーズケーキ」と言っただけだった。まるで私に注文するみたいに。ウェイトレス
 は黙って肯き、持ってきたメニューをそのまま抱えて歩き去った。
 「何か面倒なことに巻き込まれているの?」と私は尋ねた。

  彼女はそれには答えなかった。まるで私の顔を値踏みするみたいにじっと見ているだけだった。

 「私の後ろに何か見える? 誰かいる?」と彼女は尋ねた。

  私は彼女の背後に目をやった。普通の人々が普通に食事をしているだけだ。新しい客も入って
 きていない。

 「何もない。誰もいない」と私は言った。
 「もう少しそのまま様子を見ていて」と彼女は言った。「何かあったら教えて。さりげなく会話
 を続けて」

  我々の座ったテーブルから店の駐車場が見えた。私の埃だらけの小さな古いプジョーが駐まっ
 ているのが見えた。他には二台の車が駐まっていた。銀色の軽自動車が一台と、背の高い黒のワ
 ンボックス・カーだ。ワンボックス・カーは新車のように見える。どちらもしばらく前から駐ま
 っている。新しくやってきた車は見えない。女はたぶん歩いてこの店まで米たのだろう。それと
 も誰かに車でここまで送ってもらったか。

 デカ文字文庫

 「たまたまここを通りかかった?」と女が言った。
 「そうだよ」
 「旅行をしているの?」
 「まあね」と私は言った。
 「どんな本を読んでいたの?」

  私は読んでいた本を彼女に見せた。それは森鴎外の『阿部一族』だった。
 「『阿部一族』」と彼女は言った。そして本を私に通した。「どうしてこんな古い本を読んでい
 るの?」
 「少し前に泊まった青森のユースホステルのラウンジに置いてあったんだ。ぱらぱら読んでみた
 ら面白そうだったので、そのまま持ってきた。かわりに読み終えた本を何冊か置いてきた」
 「『阿部一族』って読んだことないわ。面白い?」

  私はその本を読み終え、もう一度読み返していた。話がなかなか面白かったこともあるが、
 鸚外がいったい何のために、どのような観点からそんな小説を書いたのか、書かなくてはならな
 かったのか、うまく理解できなかったということもある。でもそんな説明を始めると話が長くな
 る。ここは読書クラブではな い。それにこの女は二人で自然に会話をするために(少なくとも
 そのように周りの目には映ることを目的として)、目についた適当な話題を持ち出しているだけ
 なのだ。

                                                         この項つづく 

   ● ドバイ世界博覧会で飛行タクシー

  蛾とカミキリ虫の一穴:大切なバランス感覚



 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

茹でるパンと好奇心

2017年04月25日 | 環境工学システム論

                徳長ずるところあれば、形忘るるところあり

                       徳充符(とくじゅうふ)

                                               

      ※  天に養われる:徳が長ずるにしたがって、人は形を忘れてゆく。逆に、
                形を忘れない者は徳を忘れる。これこそまことの忘失というものだ。
               したがって、全き徳を抱く聖人は何ものにもとらわれぬ。かれは知を
        ひこばえのようなものとみる。

 (ひこばえ)

 Published online:Apr 19,  2017

【ZW倶楽部:廃棄ガラスから高性能蓄電池をつくる】

今月19日、カリフォルニア大学リバーサイド校(UCR)の研究グループは、廃棄ガラス瓶から、
気自動
車やパーソナ電子機器用の高性能リチウムイオン電池の製造に成功したことを公表。廃棄ガラ
ス瓶を使い低コストで、高性能リチウムイオン電池のナノシリコン陽極の製造を行った。
この電池は
電気自動車とプラグインハイブリッド電気自動車、携帯電話やラップトップ電子機器向けの省エネに
して高出力な電力供給できる(この研究経過は、Nature journalのScientific Reportsに掲載:上図ダブク
リ参照)。毎年何十億本ものガラス瓶が埋め立て処分される廃棄飲料用瓶の二酸化ケイ素を再資源化
し、リチウムイオン電池用の高純度シリコンナノ粒子の製造方法研究課題としてきた。

従来の黒鉛陽極材と比較して、最大10倍ものエネルギーを蓄電可能だが、充放電時の膨張/収縮に
よる不安定となる問題を抱えるが、
シリコンをナノスケールにダウンサイジングすることで、この問
題が軽減される。同上グループ
は、比較的純粋で豊富な二酸化ケイ素を低コストな化学反応で、従来
の黒鉛陽極材より約4倍のエネルギー貯蔵できるリチウムイオンハープ電池をつくる――3
段階プロ
セス、❶ガラス瓶を細かく粉砕、❷マグネシア熱還元法で――高温でマグネシウムで還元させ、複雑
な形状を保持しながら――ケイ素中のシリカ含有量を逓減し、二酸化ケイ素をナノ構造のシリコンに
変換し、❸
安シリコンナノ粒子を炭素でコーティングすることで安定性/エネルギー貯蔵性の改善す
る。


  Apr. 19, 2017

✪ガラス瓶とそれから作られた陽極材料(写真/上)

カーボン被覆ガラス誘導シリコン電極は、C / 2速度、400サイクル試験で、〜1420mAh / gの容量で優れた電
気化学的性能を示し、予想どおり、ガラス瓶由来シリコン陽極使用したコイン型電池は、従来の電池を大きく
上回わる成果を得る。また、1本の廃棄ガラス瓶で、数百個のコイン型電池または3〜5個のパウチ型電池用
ナノシリコンを供給できる量である。

   YouTube



【ZW倶楽部:マイクロプラスチック問題に光り?】

今月24日、ふだんは釣り餌として養殖されているガの幼虫が、耐久性の高いプラスチックを食べる
ことを発見した。レジ袋などのプラスチックごみによる環境問題への対策にこの幼虫が一助となる可
能性がある。
英ケンブリッジ大学(University of Cambridge)のパオロ・ボンベーリ教授は、今回の発
見は、ごみ処理場や海洋に蓄積しているポリエチレン製のプラスチックごみ除去に寄与する重要な手
段となる可能性があるとする。この幼虫は
ハチノスツヅリガ(学名:Galleria mellonella)。成虫がミ
ツバチの巣に卵を産み付け、幼虫がこれを餌とする。
フェデリカ・ベルトッチーニ(Federica Bertocch-
ini
) 生物学者が、幼虫が湧いてしまったハチの巣をプラスチック袋に入れておいたところ、多くが
穴を開けて外に這い出しているのを発見。
幼虫数百匹をレジ袋の上に乗せて実験を行ったところ、40
分後には複数の穴を確認、さらに12時間後には、92ミリグラムが食べられていたが、そのスピー
ドは、真菌や微生物よりも格段に速い。

 Apr. 24, 2017

 

 




      

 読書録:村上春樹著  『騎士団長殺し 第Ⅰ部』    

   18.好奇心が殺すのは猫だけじゃない

 「免色さんも暗闇には気をつけて下さい」
  免色はそれには返事をせず、私の顔をひとしきり見上げていた。下を向いている私の表情の中
 に何かの意味を読み取るうとしているみたいに。しかしその視線にはどことなく漠然としたとこ
 ろがあった。まるで私の顔に焦点を合わせようとして、うまく合わせられないような。それはあ
 まり免色らしくない、どこかあやふやな視線だった。板はそれから思い直したように地面に腰を
 下ろし、湾曲した石壁に背中をもたせかけた。そして私に向かって小さく手を上げた。準備はで
 きている、ということだ。私は梯子を引き上げて、厚板をできるだけぴたりと穴の上に被せ、そ
 の上にいくつか重しの石を置いた。木材と木材のあいだの細い隙間から少しくらいは光が入って
 くるだろうが、それで穴の中はじゆうぷん暗くなったはずだった。私は蓋の上から中にいる免色
 に何か声をかけようかと思ったが、思い直してやめた。私は孤独と沈黙を自ら求めているのだ。

  私は家に帰って湯を彿かし、紅茶をいれて飲んだ。そしてソファに座って読みかけの本を読ん

 だ。しかし鈴の音が聞こえないかとずっと耳を澄ませていたので、なかなか読書に意識を集中す
 ることができなかった。ほとんど五分ごとに腕時計に目をやった。そして真っ暗な穴の底に一人
 で座っている免色の姿を想像した。不思議な人物だ、と私は思った。自分で費用を持ってわざわ
 ざ造園業者を呼び、重機を使って石の山をどかせ、わけのわからない穴の口を聞いた。そして今
 はその中に一人で閉じこもっている。というか、自ら志願してそこに閉じ込められている。

  まあいいさ、と私は思った。そこにどんな必然性があるにせよ、意図があるにせよ(もし何ら
 かの必然性や意図があるとすればだが)、それは免色の問題であって、すべて彼の判断に任せて
 おけばいいのだ。私は他人が描いた図の中で、何も考えずに勤いているだけだ。私は木を読むの
 をあきらめてソファに横になり、目を閉じた。でももちろん眠りはしなかった。今ここで眠って
 しまうわけにはいかない。


 
  結局鈴は鳴らないまま、一時間が経過した。あるいは私は何かの加減で、その音を聞き逃した
 のかもしれない。いずれにせよ蓋を開ける時刻だった。私はソファから立ち上がり、靴を履いて
 外に出て、雑木林の中に入った。スズメバチだかイノシシが現れるのではないかとふと不安にな
 ったが、スズメバチもイノシシも現れなかった。メジロのような小さな鳥が目の前を素進く横切
 っただけだった。私は林の中を進み、祠の裏にまわった。そして重しの石を取って、板を一枚だ
 けどかせた。

 「免色さん」と私はその隙間から声をかけた。しかし返事はなかった。隙間から見える穴の中は
 真っ暗で、そこに免色の姿を認めることはできなかった。
 「免色さん」と私はもう一度呼びかけてみた。しかしやはり返事はない。私はだんだん心配にな
 ってきた。ひょっとして免色は姿を消してしまったのかもしれない。そこにあるはずのミイラが
 どこかに姿を消してしまったのと同じように。常識ではあり得ないことだったが、そのときの私
 は真剣にそう考えた。

  私はをもう一枚、手早くどかせた。そしてまた一枚。それで地上の光がようやく穴の底まで
 届いた。そしてそこに座り込んでいる免色の輪郭を、私は目にすることができた。
 「免色さん。大丈夫ですか?」と私は少しほっとして声をかけた。
  免色はその声でようやく意識が戻ったように顔を上げ、小さく頭を振った。そしていかにも眩
 しそうに両手で顔を覆った。
 「大丈夫です」と彼は小さな声で答えた。「ただ、もう少しだけこのままにしておいてくれませ
 んか。目が光に慣れるのに少し時間がかかります」
 「ちょうどT時間経ちました。もっと長くそこに留まりたいというのであれば、また蓋をします
 が」

  免色は首を振った。「いや、もうこれで十分です。今はもういい。これ以上ここに居ることは
 できません。それは危険すぎるかもしれない」  

 「危険すぎる?」

 「あとで説明します」と免色は言った。そして皮膚から何かをこすり落とすみたいに、両手でご
 しごしと顔をさすった。

  五分ほどあとに彼はそろそろと立ち上がり、私が下ろした金属製の梯子を登ってきた。そして
 再び地上に立ち、ズボンについた埃を手で払い、それから目を細めて空を仰いだ。樹木の枝の間
 から青い秋の空か見えた。彼は長いあいだその空を愛おしそうに眺めていた。それから我々はま
 た板を並べて、穴を元通りに塞いだ。人が誤ってそこに落ちたりしないように。そしてその上に
 重しの石を並べた。私はその石の配置を頭に刻んでおいた。誰かがそれを勣かしたときにわかる
 ように。梯子は穴の中にそのまま残しておいた。

 「鈴の音は聞こえませんでした」と私は歩きながら言った。


  免色は首を振った。「ええ、鈴は鳴らしませんでした」 
  彼はそれ以上何も言わなかったので、私も何も尋ねなかった。

  我々は歩いて雑木林を抜け、家に戻った。免色が先に立って歩き、私はそのあとに従った。免
 色は無言のまま、懐中電灯をジャガーのトランクにしまった。それから我々は居間に腰を下ろし、
 熱いコーヒーを飲んだ。免色はまだ口を間かなかった。何かについて真剣に考え込んでいるよう
 だった。とくに深刻な領をしたりするわけではないのだが、彼の意識がここから遠く離れた別の
 領域に移ってしまっていることは明らかだった。そしてそこはおそらく、彼一人の存在しか許さ
 れない領域なのだ。私はその邪魔をせず、彼を思考の世界にひたらせておいた。ちょうどシャー
 ロック・ホームズに対してドクター・ワトソンがそうしていたように。



  私はそのあいだとりあえずの自分の予定について考えていた。今日の夕方には車を運転して地
 上に降り、小田原駅の近くにある絵画教室に行かなくてはならない。そこで人々の描く絵を見て
 まわり、講師としてそれにアドバイスを与える。子供向けの教室と成人教室が続けてある日だ。
 それは私が日常の中で生身の人々と顔をあわせ、会話を交わすほとんど唯一の機会だった。もし
 その教室がなかったら、私はこの山の上で隠者同然の生活を送ることになっていただろうし、そ
 んな一人きりの生活を続けていたら、政彦が言うように、精神のバランスが変調をきたしていた
 かもしれない(あるいはもう既にきたし始めているのかもしれないが)。



  だから私としてはそのような現実の、言うなれば世俗の空気に触れる機会を与えられたことを
 感謝しなくてはならなかったはずだ。しかし実際には、なかなかそういう気持ちになれなかった。
 教室で顔を合わせる人々は私にとって、生身の存在というよりは、ただ目の前を通り過ぎていく
 影みたいなものに過ぎなかった。私は一人ひとりににこやかに応対し、相手の名前を呼び、作品
 
を批評する。いや、批評とは呼べない。私はただ褒めるだけだ。ひとつひとつの作品にどこかし
 ら良き部分を見つけて――もしなければ適当にこしらえて――褒める。

  そんなわけで講師としての私の、教室内での評判は悪くないらしい。経営者の話によれば、多
 くの生徒が私に好感を持ってくれているようだ。それは私にとっては予想外のことだった。自分
 か他人にものを教えるのに向いていると思ったことは一度もなかったから。しかしそれも私にと
 ってはどうでもいいことだ。人々に好かれても好かれなくても、どちらでもかまわない。私とし
 てはできるだけ円滑に、支障なくその教室の仕事がこなせればいい。そうすることで雨田政彦に
 対する義理は果たされる。

  いや、もちろんすべての人々が影であるわけではない。私はその中から二人の女性を選んで、
 個人的な交際をするようになったのだから。私と性的な関係を持つようになってから、彼女たち
 は絵画教室に通うことをやめた。たぶんなんとなくやりにくかったからだろう。そのことで私は
 責任のようなものを感じないでもなかった。
  二人目のガールフレンド(年上の人妻)は明日の午後にここに来る。そして我々はしばしの時
 間ベツドの中で抱き合い、交わり合うだろう。だから彼女はただの通り過ぎていく影ではない。
 立体的な肉体を具えた現実の存在だ。あるいは立体的な肉体を具えた通り過ぎていく影だ。どち
 らなのか、私にも決められない。

  免色が私の名前を呼んだ。私はそれではっと我に返った。知らないうちに私も、一人で深く考
 え込んでしまっていたようだった。 
  

 「それは私の肖像画のことですか?」
 「そうです」と私は言った。
 「それは素晴らしい」と免色は言った。顔には微かな笑みが浮かんでいた。「実に素晴らしい。
 しかしそのある意味というのはどういうことなのでしょう?」
 「それを説明するのは簡単じゃありません。何かを言葉で説明するのが、もともと得意じゃない
 んです」

  免色は言った。「ゆっくり時間をかけて、好きなように話して下さるから」
  私は膝の上で両手の指を組んだ。そして言葉を選んだ。

  私が言葉を選んでいるあいだ、まわりに沈黙が降りた。時間の流れる音が聴き取れそうなほど
 の沈黙だった。山の上では時間はとてもゆっくりと流れていた。

  私は言った。「ぼくは依頼を受け、あなたをモデルにして一枚の絵を描きました。しかし正直
 に申し上げて、それはどう見ても〈肖像画〉と呼べるようなものではありません。ただくあなた
 をモデルとして描いた作品〉であるとしか言えないのです。そしてそれが作品として、商品とし
 
どれはどの価値を持つものかも判断がつきません。ただ、それがぼくが描かなくてはならなか
  いか絵であるということだけは確かです。しかしそれ以上のことは皆目わからない。正直なとこ
  ろ、ぼくはとても戸惑っています。いろんな状況がもっとクリアになるまで、その絵はあなたに
  お渡しせず、こちらに置いておいた方がいいのかもしれません。そういう気がします。ですから、
  受け取った着手金はそのままお返ししたいと思います。それからあなたの貴重な時間を潰させて
 
しまったことについては心からお詫びします」
 「肖像画ではないとあなたは言う」と免色は慎重に言葉を選ぶように質問した。「それはどのよ
 うな意味合いにおいてなのですか?」


 
  私は言った。「これまでずっとプロの肖像画家として生活してきました。肖像画というのは基
 本的に、相手が描いてもらいたいという姿に相手を描くことです。相手は依頼主であり、できあ
 がった作品が気に入らなければ、『こんなものに金を払いたくない』と言われることだってあり
 得るわけですから。ですからその人物のネガティブな側面はできるだけ描かないようにします。
 良い部分だけを選んで強調し、できるだけ見栄え良く描くことを心がけます。そういう意味にお
 いてきわめて多くの場合、もちろんレンブラントみたいな人は別ですが、肖像画を選ぶことはむ
 ずかしくなり
ます。しかし今回の場合、この免色さんを描いた絵の場合 あなたのことなんて何
 も考えず、ただ自分の
ことだけを考えてこの絵を描いていました。言い換えるなら、モデルであ
 
るあなたのエゴよりは、作者である自分のエゴを率直に優先した絵になっています」
  「そのことは私にとってはまったく問題にはなりません」と免色は微笑みを顔に浮かべたまま言った。「む
 しろ喜ばしいことです。あなたの好きなように描いてくれ、何も注文はつけない、最初にはっき
 りそう申し
上げたはずです」
  「そのとおりです。そうおっしやいました。よく覚えています。心配しているのは、作品の出来
 よりはむしろ、
ぼくがそこで何を描いてしまったのかということなのです。ぼくは自分を優先す
 るあまり、何か自分か描くべ
きではないことを描いてしまったのかもしれない。ぼくとしてはそ
 のことを案じているのです」 

   私は彼の顔を見た。その目を見て、彼が本当の気持ちをそのまま語っていることがわかった。
  彼は心から私の絵に感心し、心を動かされているのだ。
 「この絵には私がそのまま表現されています」と免色は言った。「これこそが本来の意味での肖
 像画というものです。あなたは間違っていない。実に正しいことをした」
  彼の手はまだ私の肩の上に置かれていた。ただそこに置かれているだけだったが、それでもそ
 の手のひらからは特別な力が伝わってくるようだった。
 「しかしどのようにして、あなたはこの絵を発見することができたのですか?」と免色は私に尋
 ねた。
 「発見した?」
 「もちろんこの絵を描いたのはあなたです。言うまでもなく、あなたが自分の力で創造したもの
 だ。しかしそれと同時に、ある意味ではあなたはこの絵を発見したのです。つまりあなた自身の
 内部に埋もれていたこのイメージを、あなたは見つけ出し、引きずり出したのです。発掘したと
 言っていいかもしれない。そうは思いませんか?」

  そう言われればそうかもしれない、と私は思った。もちろん私は自分の手を動かし、自分の意
 志に従ってこの絵を描いた。絵の具を選んだのも私なら、絵筆やナイフや指を使ってその色をキ
 ャンバスに塗ったのも私だ。しかし見方を変えれば、私は免色というモデルを触媒にして、自分
 の中にもともと埋もれていたものを探り当て、掘り起こしただけなのかもしれない。ちょうど祠
 の裏手にあった石の塚を重機でどかせ、格子の重い蓋を持ち上げ、あの奇妙な石室の口を開いた
 のと同じように。そして私の周辺でそのような二つの相似した作業が並行して進行していたこと
 うに自負しています」

  それでも私にはまだ、免色の言葉をそのまま素直に受けとめて喜ぶことができなかった。絵を
 凝視しているときの、あの肉食鳥のような鋭い目つきが心にひっかかっていたせいかもしれない。
 「じやあ、この絵は免色さんの気に入っていただけたのですね?」と私は事実を確認するために
 あらためて尋ねた。
 「言うまでもないことです。これは本当に価値のある作品だ。私をモデルとしてモチーフとして、
 このような優れた力強い作品を描いていただけたことは、まさに望外の喜びです。そして言うま
 でもなく、依頼主としてこの絵は引き取らせていただきます。それでもちろんよろしいですね?」

 「ええ。ただぼくとしては――」
  
  免色は素遠く手を上げて私の言葉を遠った。「それで、もしよるしければ、この素晴らしい絵
 が完成したことを枇して、近々あなたを拙宅にご招待したいのですが、いかがでしょう? 昔風
 に言えば、万屋振る舞いたいということです。もしそういうことがご迷惑でなければ」
 「もちろん迷惑なんかじやありませんが、しかしわざわざそんなことをしていただかなくても、
 もう十分――」
 「いや、私がそうしたいんです。この絵の完成を二人で祝いたいのです。一度私のうちに夕食を
 食べにきてくれませんか。たいしたことはできませんが、ささやかな祝宴を張りましょう。あな
 たと私と二人だけで、他の人はいません。もちろんコックとバーテンダーは別ですが」
 「コックとバーテンダー?」 
 「早川漁港の近くに、昔から親しくしているフレンチ・レストランがあります。その店の定休日
 に、コックとバーテンダーをこちらに呼びましょう。腕の確かな料理人です。新鮮な魚を使って
 なかなか面白い料理を作ってくれます。実を言えば、この絵の一件とは関係なく、コ伎あなたを
 うちにご招待しようと思って、その準備を進めてはいたのです。でもちょうど良いタイミングで
 した」

  驚きを顔に出さないようにするにはいささかの努力が必要だった。それだけの手配をするのに
 いったいどれはどの費用がかかるのか見当もつかないが、たぶん免色にとっては通常の範囲なの
 だろう。あるいは少なくとも、それほど常軌を逸した行いではないのだろう。
  免色は言った。「たとえば四日後はいかがですか? 火曜日の夜です。もしご都合がよるしけ
 ればその段取りをします」
 「火曜日の夜にはとくに予定はありません」と私は言った。
 「じやあ、火曜日で決まりです」と彼は言った。「それで今、この絵を持ち帰ってもかまわない
 でしょうか? できればあなたがうちに見えるまでにきちんと頬袋をして、壁に飾りたいので」
 「免色さん、あなたにはこの絵の中に本当にご自分の頬が見えるのですか?」と私はあらためて
 尋ねた。
 「もちろんです」と免色は不思議そうな目で私を見て言った。「もちろんこの絵の中には私の頬
 が見えます。とてもくっきりと。それ以外にここに何か描かれているというのですか?」
 「わかりました」と私は言った。それ以外に私に言えることはなかった。「もともと免色さんの
 依頼を受けて描いたものです。もし気に入られたのなら、作品は既にあなたのものです。ご自由

 になさって下さい。ただし絵の具はまだ乾いていません。だから十分注意して運んでください。
 それから順装をするのも、もう少し待たれた方がいいと思います。二週間ほど乾かしたあとの方
 が良いでしょう」

 「わかりました。気をつけて扱います。順装も後日にまわします」

  帰り際に玄関で彼は手を差し出し、我々は久しぶりに握手をした。彼の順には満ち足りた笑み
 が浮かんでいた。
 「それでは火曜日にお目にかかりましょう。夕方の六時頃に迎えの車をこちらに寄越します」
 「ところで夕食にミイラは招かないのですか?」と私は免色に尋ねてみた。どうしてそんなこと
 を口にしたのか、その理由は自分でもよくわからない。でも突然ふとミイラのことが順に浮かん
 だのだ。そしてそう言わずにはいられなかった



  免色は探るように私の顔を見た。「ミイラ?いったい何のことでしょう?」
 「あの石室の中にいたはずのミイラのことです。毎夜鈴を鳴らしていたはずなのに、鈴だけを残
 してどこかに消えてしまった。即身仏というべきなのかな。ひょっとして彼もおたくに招待され
 たがっているのではないでしょうか。『ドン・ジョバンニ』の騎士団長の彫像と同じように」
  少し考えて、免色はようやく俯に落ちたというように明るい笑みを浮かべた。「なるほど。ド
 ン・ジョバンニが騎士団長の彫像を招待したのと同じように、私がミイラを夕食の席に招待すれ
 ばどうかということですね」

 「そのとおりです。これも何かの縁かもしれません」

 「いいですよ。私はちっともかまいません。お視いの席です。もしミイラが夕食に加わりたいの
 であれば、喜んで招待しましょう。なかなか興味深い夕べになることでしょう。でもデザートに
 はどんなものを出せばいいのだろう?」、彼はそう言って楽しそうに笑った。「ただ問題は本人
 の姿が見当たらないことです。本人がいないことには、こちらとしても招待のしようもありませ
 ん」

  「もちろ」と私は言った。「でも目に見えることだけが現実だとは限らない。そうじやありま
 せんか?」

  免色はその線を大事そうに両手で抱えて運び、まずトランクから古い毛布を出して助手席のシ
 ートに敷いた。そしてその上に、絵の具がついたりしないように絵を寝かせて置いた。そして細
 いロープと二つの段ボール箱を使って、動かないように注意深くしっかりと固定した。とても要
 領がいい。とにかく車のトランクには様々な道具が常備されているようだった

 「そうですね、たしかにあなたのおっしやるとおりかもしれません」と帰り際に免色はふと呟く
 ように言った。彼は両手を革のハンドルの上に置いて、私の顔をまっすぐ見上げていた。

 「ぼくの言うとおり?」

 「つまり我々の人生においては、現実と非現実との境目がうまくつかめなくなってしまうことが
 往々にしてある、ということです。その境目はどうやら常に行ったり来たりしているように見え
 ます。その日の気分次第で勝手に移動する国境線のように。その動きによほど注意していなくて
 はいけない。そうしないと自分か今どちら側にいるのかがわからなくなってしまいます。私がさ
 きほど、これ以上この穴の中に留まっているのは危険かもしれないと言ったのは、そういう意味
 です」

  私にはそれに対してうまく言葉を返すことができなかった。そして免色もそれ以上は話を進め
 なかった。彼は開けた窓から私に手を振り、V8エンジンを心地よく響かせながら、まだ絵の具
 の乾ききっていない肖像画と共に私の視界から消えていった。



                                     この項つづく

      ● 今夜の一品:鉄製臼 

  ● 今夜アラカルト

チェコの“茹でるパン”クネドリーキ料理:クネドリーキと酢キャベツのローストポーク

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

エネルギーフリー社会の幕開け

2017年04月24日 | 環境工学システム論

             羿(げい)の彀(こう)中に遊ぶに、中央は中(あた)るの
                    地なり、然り而して中らざるものは命なり

                               徳充符(とくじゅうふ)

                                               

           ※  宰相と兀者: 考えてみれば、この現実の中で生きている人間はみな、弓
                  の
名人羿(げい)の矢ごろの中におかれているようなものだ。真正面に立
                  ってい
ながら矢にあたらずにすむ者もいよう。だがそれは、その人の運命
                  としかいい
ようがないではないか。矢にあたるも、あたらぬも、人それぞ
                  れの運命にすぎぬ――申徒嘉(しんとか)は兀者(ごつしゃ)である。か
         れと鄭(てい)の宰相子産(しさん)とは、ともに伯昏無人(はつこんぶ
         じん)のもとに学ぶ同門の間がらにもからかわらず、子産は兀者の申徒嘉
          といっしょに帰ることを嫌った差別行為を諭す場面。



【量子ドット工学講座37】

☑ 高品質の白色光源開発のコア素材

照明に用いられる、高品質の白色光源としての白熱光電球は、低効率/短寿命のため始終から消滅
しつつある。実際に、政府は白熱光電球の販売を禁止する規準を通過させているが、代替技術の開
発が求められている。その中で、固体素子照明(SSL)――発光ダイオード(LED)―――は、
主としてLED技術が成熟し、高効率と長寿命の両方もち急速普及展開している。これらの固体素
子光源、例えば、色変換媒体を有するブルーまたは紫外(UV)光源、RGB3色白色光源、ブル
ー-イエローの2色白色光源があり、これらは、LED、有機発光ダイオード(OLED)、およ
量子ドット(QD)OLEDまたはその組み合わせを用いられている。最も広く用いられる白色
LED技術は、例えば約450nmの波長で発光するブルーLEDチップによりポンピングされた
セリウムドープYAG:Ce(イットリウムアルミニウムガーネット:セリウム)ダウンコンバー
ジョン蛍光体が用いられ、LEDからのブルー光とYAG蛍光体からの広いイエロー発光の組み合
わせにより白色光が得られる。この白色光は色調指数Color Rendering IndexCRI70~80
を与え、いくらかブルーに見える

しかし、高いCRI、すなわち、85より高くさらに90よりも高いCRIを有する光源は、一般
の照明用で、より豊富な色空間color space )をもつディスプレイ用のバックライトに相応しい。
写真/映画写真などの他の特殊な用途に対しては、さらに高いCRIを有する白色光源が相応しく、
さらに、科学研究用の、黒体放出される光に近い品質の光を放出し特定の色温度を有する光源が求
められている。
つまり、理論的に、最適な白色光源はいわゆる黒体であり、白熱光電球を除き、人
工の白色光源は黒体から発する光に匹敵する品質をもつ光とはならない。、約3200℃の白熱光
電球は低い色温度をもち、太陽光は6500℃であり、さらに、照明用途のために白熱光電球およ
び/または、太陽光を用いることは、UV部分とIR部分を含むスペクトルになり、人間の目のた
めに無用/または望ましくない。したがって、エネルギーの損失を意味する。したがって、望まし
い照明光源は人間の目が感じるスペクトルを制限している。

✪技術的な観点から、数十年の開発の後、蛍光体材料は既に成熟し、効率が高く、耐久性があり、
用途が広い。✪経済的な観点から、蛍光体材料は非常に安価であり、したがって、競争力があるが、
蛍光体だけがダウンコンバーターとして用いられるとき、CRIは低く、これは白色の品質を低く
する。したがって、既存システムの改善によって、高品質、例えば、高いCRIを有する白色を得
ることが非常
に要求されているが、この発明目的は高品質=高いCRIを有する白色光を得るため
に、組成物を備える組
成物/アレイを提供にある。 驚くべきことに、非常に高いCRIを有する白
色光を得るために、✪フォトルミネセント化合物と共に、✪量子ドットquantum dot)を使用でき
ることが見出された
。❶量子ドットは容易に製造することができ、❷有機蛍光体またはリン光体化
合物比べて狭い発光スペクトルをもち。❸それらは、量子ドットの最大発光を決定する寸法(=光
閉じ込め効果に完全依存)に関し微調整することが可能であり、❹
高いフォトルミネセント効率
量子ドットで得ることができる。❺さらに、その発光強度は用いられるその濃度によって微調整で
きる。❻さらに量子ドットは多くの溶媒に可溶であり、❼または一般的な有機溶媒に容易に可溶に
でき、広範囲のプロセス方法、特にスクリーン印刷、オフセット印刷、およびインクジェット印刷
などの印刷方法が可能である(下記/下図参照)。

☑ 特許事例:特開2017-62482 ダウンコンバージョン

【要約】

【解決手段】i×jのアレイ要素aijを備えるアレイAijであって、前記アレイAijが、1
つ以上のアレイ要素aijの中で局在化された少なくとも1つの量子ドットを備える少なくとも1
つの組成物を備え、iは行インデックスであり、jは0よりも大きな列インデックスであり、i=
j=1の場合、アレイ要素a11は少なくとも2つの量子ドットと、少なくとも1つのフォトルミ
ネセント化合物を備えることを特徴とするアレイで、高い色純度を有する白色光を発生するのに用
いることができるアレイおよび装置の提供。

 Apr.7 ,2017

 No. 4

●  太陽光と「恵みの雨」で、卸電力価格「0ドル」下回る

☑ 水力発電の増加で余剰電力が生じ「ネガティブプライス」に

米国カリフォルニア州は、長期間にわたり干ばつに悩まされてきた。だが、一転して昨年末から豪
雨と降雪が続き、記録的な降水量となっている。大雨と春先の雪解け水が今まで枯渇していたダム
に流れ込み始めた。ダムの貯水量は満タン状態を超え、放水する大量の水で州内の水力発電がフル
稼働となる。本来なら、「恵みの雨」に、もろ手を挙げて喜ぶところなのだろうが、太陽光発電事
業者にとっては、ちょっと状況が違うというのだ(日経テクノロジーオンライン 2017.04.24)。

☑ 電源構成の4割がメガソーラー
 
今年3月11日、カリフォルニア独立系統運用機関(CAISO)内で午前11時から午後2時の間に
供給された電力の40%がメガソーラー(大規模太陽光発電所)から送電された。電源構成に占め
る太陽光発電の比率が、ここまで高くなったは初めてという。ちなみにこの日の太陽光発電からの
ピーク電力供給は8784メガワット(8.784ギガワット)に達す(下図参照)。同州では、
空調がなくても過ごしやすい冬の終わりから春先にかけ、昼間の電力需要が年間で最も低い「昼間
軽負荷期」となる。一方でこの時期、日が伸びるにつれ太陽光の発電量が伸びてくる。そこに、豊
富な水力発電が加わり、電力供給が過剰となっている。こうした需給のゆるみを反映し、卸電力市
場の前日市場・リアルタイム市場では、過去3カ月間の中で最も低い価格で取り引するという経験
することになる。


♞ カリフォルニア独立系統運用機関(CAISO)内での今年3月11日における再生可能エネルギー
  による時間帯別電力供給量(オレンジ色が太陽光発電)

つまり、2013年~2015年の3月における午前8時から午後2時の間のメガワットアワー当たりの卸
価格は、約14~45ドルであったが、今年3月の同時間帯におけるメガワットアワー当たりの卸
価格は0ドルを
下回る「ネガティブプライス」を付けたことが何回か経験する。 「ネガティブプ
ライス」は、稼働停止、または再稼働にコストのかかる発電所を運営する事業者が、技術的に許容
される最低の設備利用率以下に稼働率を下げない、または完全な稼働停止を避けるための手段とし
て使われるという状態――発電設備の稼働率を維持するために「お金を払って発電する」というこ
とになる(下図)。

☑ お金を払って発電する



 ♞ CAISOでのリアルタイム市場平均取引価格(1月,2月,3月の電力平均取引卸価格、青線が2017
  の価格)

CAISOは、電力の需給バランスを調整する責任事業者、または系統運用者として、地域内の高圧送
電を運用・制御しつつ、需給バランスを維持し、系統電力の周波数を安定化する。現在、カリフォ
ルニア州の電力供給量の80%以上を供給、総延長2万6024マイルの送電線を通じ、3千万の
電力需要家に対し、年間2億6千万メガワットアワーの電力を送電する。
現在CAISOの送電網に接
続されている発電設備の容量は計71.74ギガワット。うち、再生可能エネルギーは28.5%を
占め、太陽光発電はさらにそのうち約50%を占める(下図)。近日の水力と太陽光発電の拡大に
より、大規模な「出力抑制」が必要になると予想(6千~8千メガワット相当の出力抑制対象)。

☑  水力と太陽光の「出力抑制」へ


♞ CAISO内の電力供給構造(発電設置容量)


 上図は時間帯別ネット電力需要(2017年3月11日)、赤線は総電力需要を示し、緑線は総需要
  から大規模太陽光発電と風力による電力供給量を差し引いたネット需要、下図は、時間帯別風
  力・太陽光発電供給量、青線は風力、オレンジ線は太陽光発電

さらに、CAISOが数年前に提示した「ダックカーブ」の到来が早くなると予想。「ダックカーブ」
とは、太陽が照る日中は見かけ上の電力需要が低くなり、太陽の沈む頃から需要が急激に増え、さ
らに、太陽光発電の供給と需要のギャップが太陽光の導入が拡大するとともにさらに広がり、昼間
には供給過剰が生じる。出力抑制は一般的には最終手段とされ、通常、供給が需要を超えると、電
力取引価格が下がり、対応として、✪発電調整の効く発電事業者は発電量を減らせるが、✪柔軟性
に欠ける再エネ発電所が問題となり、さらにネガティブプライスも引き起こすためCAISOは
強制的
な出力抑制がが発生する。あるいは、需要側からの調節対応するが、しかし、再エネの「出力抑制」を
防ぐには、逆にオフピーク時の昼間の電力消費を促し、供給余剰を吸収する必要があり、該当時間
帯の別電気料金制度での対応もある。✪
それ以外にも、中・大規模の圧空電池などの電力貯蔵・蓄
電を設備を保有することで、需給バランスをとることで調整できる。これらにより
エネルギーに依
存しない「エネルギーフリー社会の実現」が、この地方が先駆事例となることを示唆している。こ
れは、実に心強い。

☑ 圧縮空気エネルギー貯蔵 さあ!出番だ。







● GaNで効率90%、電動自転車用無線給電システム

 GaNだから小型、高効率

Transphorm(トランスフォーム)は2017年4月19~21日の会期で開催されている展示会「TECHNO-
FRONTIER 2017
」(テクノフロンティア2017)で、量産出荷しているGaN(窒化ガリウム)を用いた
HEMT(高電子移動度トランジスタ)製品の採用事例を公開。
Transphorm製GaN HEMTが採用されて
いるのは、送電側本体の先端部に取り付けられたPFC(力率改善)ユニット部分。ワイヤレス充電シ
ステムの開発は、GaN HEMTPFCユニットに採用した理由として、❶シリコンのパワートランジス
タに比べ、GaNは高速スイッチングが行えるのでPFC回路を小型化できることと、❷変換効率が高い
ことの2つを挙げている。

 Apr. 21, 2017

PFCユニットは、容量250W(最大出力電流0.7A)で、サイズは100×90×38.5mmPFCユニットの効率は
AC200V入力、DC360V出力時の変換効率は96%を誇る。
ワイヤレス給電部分も高効率という特長があ
り、ワイヤレス給電システム全体での変換効率は90%。シリコンパワートランジスタを使用すると、
全体の変換効率は良くて80%台で、せっかくの高効率ワイヤレス給電技術の意味がなくなってしまう。
この他、Transphormブースでは、逆回復時間の短いGaN HEMTの利点を生かしブリッジダイオードを
使用しないトーテムポール型PFC回路を採用した電源製品やGaNを採用したサーボモータ製品などの採
用事例を紹介。新電元工業と共同開発を進めているハーフブリッジモジュール(下図)の参考展示など
も実施されている。

 

 

    

 読書録:村上春樹著  『騎士団長殺し 第Ⅰ部』   

    18.好奇心が殺すのは猫だけじゃない

  私は白分から家の外に出て免色を迎えた。そんなことをするのは初めてだったが、とくに何か
 理由があって、その目に限ってそうしたわけではない。外に出て身体を伸ばし、新鮮な空気が吸
 いたくなっただけだ。

  空にはまだ円い石盤のような形の雲が浮かんでいた。海の遥か沖の方でそんな雲がいくつもつ
 くられ、それが南西からの風に乗って、ひとつひとつゆっくりと山の方に遥ばれてくるのだ。い
 ったいどのようにして、そんなに美しい完璧な円形が、おそらくはこれという実際的意図もなく
 次々に自然につくり出されていくのか、それは謎だ。あるいは気象学者にとっては謎でもなんで
 もないのかもしれないが、少なくとも私にとっては謎だ。この山の上に一人で往むようになって
 から、私は様々な種類の自然の驚異に心を惹かれるようになっていた

  免色は襟のついた、濃い臙脂色セーターを着ていた。上品な薄手のセーターだ。そして青が

 かすれて今にも消えそうなほど淡い色合いのブルージーンズをはいていた。ブルージーンズはス
 トレートで、柔らかな生地でできていた。私が見るところ(あるいは私の考えすぎなのかもしれ
 
ないが)、彼はいつも白髪がきれいに際だつ色合いの服を意識して身につけているようだった
 その脱脂色のセーターも白髪にとてもよく似合っていた。その白い髪は、いつものようにぴった
 り適度の長さに保たれていた。どのように処理しているのかはわからないが、彼の髪はそれ以上
 長くなることもなければ、それ以上短くなることもないようだった。

 「まずあの穴に行って、中をのぞいて見てみたいのですが、かまいませんか?」と免色は私に尋
 ねた。「変わりはないか、ちょっと気になるもので」

  もちろんかまわない、と私は言った。私もあれ以来、あの林の中の穴に近寄ったことはなかっ
 た。どうなっているのか見てみたい。

 「申し訳ないのですが、あの鈴を持ってきてくれませんか」と免色は言った。

  私は家に入り、スタジオの棚の上から古い鈴を持って戻ってきた。
  免色はジャガーのトランクから、大型の懐中電灯を取りだし、それをストラップで首からかけ
 た。そして雑木林に向かって歩き出した。私もそのあとについていった。雑木林はこの前に見た
 ときより、いっそう濃く色づいているようだった。この季節には山は、一日ごとにその色を変化
 させていく。赤みを増す木があり、黄色に染まっていく木があり、いつまでも縁を保つ木がある。
 その取り合わせが美しかった。しかし免色はそんなことにはまったく関心を持たないようだった。

 「この土地のことを少し調べてみました」と免色は歩きながら言った。「これまでにこの土地を

 誰が所有していたか、何に使われていたか、そういうことです」
 「何かわかりました?」

  免色は首を振った。「いいえ、ほとんど何もわかりませんでした。以前、何か宗数的なものに
 関連した場所ではないかと予想していたのですが、私の調べた限りではどうやらそういうことも
 なさそうです。どうしてここに祠やら石塚やらかつくられていたのか、その経緯はわかりません。
 もともとは何もないただの山地であったようです。そこが切りひらかれ、家が建てられた。雨田
 典彦さんがこの地所を家付きで購入したのは、一九五五年のことです。それまではある政治家
 山荘として所有していました。たぶん名前はご存じないでしょうが、戦前には大臣までつとめた
 人です。戦後は引退同然の暮らしを送っていました。その人の前に誰がここを所有していたか、
 そこまでは辿れませんでした」

 「こんな辺鄙な山の中に政治家がわざわざ別荘を持つなんて、少し不思議な気がしますが」
 「以前このあたりにはけっこう多くの政治家が山荘を持っていたんです。近衛文麿の別荘も、た
 しか山をいくつか隔てたところにあったはずです。箱根や熱海に向かう道筋にあたるし、きっと
 何人かで巣まって密談をおこなうにはうってつけの場所だったのでしょう。東京都内で要人が顔
 をあわせると、どうしても人目につきますから」
 我々は蓋として穴に被せてあった何枚かの厚板をどかせた。

 「ちょっと底に降りてみます」と免色は言った。「ここで待っていてくれますか?」

  待っていると私は言った。
  免色は業者が置いていってくれた金属製の梯子をつたって下に降りた。一段足を下ろすごとに
 梯子が軽い軋みを立てた。私はその要を上から見下ろしていた。被は穴の底に降りると、懐中電
 灯を首からはずしてスイッチを入れ、時間をかけてまわりを子細に点検した。石壁を撫でたり、
 拳で叩いたりした。

 「この壁はずいぶんしっかり、緻密に造ってありますね」と免色は私の方を見上げて言った。
 「ただ井戸を途中まで埋めたというものではないように思えます。井戸ならおそらくもっと簡単
 な石積みで済ませるはずです。これほど丁寧に手をかけてこしらえたりしない」
 「じやあ、何か他の目的のために造られたということなのでしょうか?」

  免色は何も言わずに首を振った。わからない、ということだ。「いずれにせよ、この壁は簡単

 には登れないようにできています。足をかけるような隙間がまったくありませんから。穴の深さ
 は三メートルもありませんが、上までよじ登るのはむずかしそうだ」
 「簡単に登れないようにこしらえてあるということですか?」

  免色はまた首を振った。わからない。見当もつかない。

 「ひとつお願いがあるのですが」と免色が言った。
 「どんなことでしょう?」
 「手間をとらせて申し訳ないのですが、この梯子を引き上げて、それからできるだけ光が入らな
 いようにぴたりと蓋を閉めてくれませんか?」

  私はしばらく言葉が出てこなかった。

 「大丈夫です。何も心配することはありません」と免色は言った。「ここに、この真っ暗な穴の
 底に、一人で閉じ込められているというのがどういうことなのか、自分で休験してみたいだけで
 す。ミイラになるつもりはまだありませんから」
 「どれくらい長くそうしているつもりなんですか?」
 「出してほしくなったら、そのときは鈴を振ります。鈴の音が聞こえたら、蓋を外して梯子を下
 
ろしてください。もし一時間たっても鈴の音が聞こえないときには、そちらから蓋を外してくだ
 さい。一時間以上ここにいるつもりはありませんから。私がここにいることを、くれぐれも忘れ
 ないように。もしあなたが何かの加減で忘れてしまったら、私はそのままミイラになってしまい
 ますから」
 「ミイラとりがミイラになる」免色は笑った。「まさにそのとおりです」
 「まさか忘れたりはしませんが、でも本当に大丈夫ですか、そんなことをして?」
 「ただの好奇心です。しばらく真っ暗な穴の底に座っていたいんです。懐中電灯はそちらに渡し
 ます。そのかわりに鈴を持たせてください

  彼は梯子を途中まで登って拡に懐中電灯を差し出した。拡はそれを受け取り、鈴を差し出した。
  彼は鈴を受け取って、軽く振った。くっきりとした鈴の音が聞こえた。
  私は穴の底にいる免色に向かって言った。「でももし、ぼくが途中で凶暴なスズメバチの群れ
 に刺され意識を失ってしまったら、あるいは死んでしまったら、あなたはこのままここから出ら
 れなくなってしまうかもしれませんよ。この世界では、何か起こるかわかったものじやありませ
 んから」
 「好奇心というのは常にリスクを含んでいるものです。リスクをまったく引き受けずに好奇心を
 満たすことはできません。好奇心が殺すのは何も描だけじやありません」※
 「一時間経ったらここに戻ります」と私は言った。
 「スズメバチにはくれぐれも気をつけて下さい」と免色は言った。


※ 英国のことわざ(Curiosity killed the cat)の訳。英語に「Cat has nine lives.」(猫に九生あり・猫
は9つの命を持っている/猫は容易には死なない)ということわざがあり、そんな猫ですら、持ち前
の好奇心が原因で命を落とす事がある、という意味。転じて、『過剰な好奇心は身を滅ぼす』と他人
を戒めるために使われることもある。



                                     この項つづく

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

エネルギーフリー社会を語ろう

2017年04月20日 | 環境工学システム論

            人みな有用の用を知りて、無用の用を知るなきなり
               
                                           「人間世」(じんかんせい)   
  

                                                 

        ※ 膏火(こうか)は自ら煎(つ)く:才によってみずから禍を招くことの
         たとえ。狂接輿(こうせつよう:この「狂」は変人とい
った程度の意味)
         が孔子を批判するはなしは、『論語』微子篇にもある。そこでは接輿は
        、
界の救済を目ざした孔子の努力が、いかに危険であるかを訴え、政治
         から手をひいて隠者になれと、孔子によびかけている。『論語』の接輿
         は、未来への希望をつなぎとめているのだが、ここでは希望などは問題
         にしていない。孔子に代表されるような作為にみちた生き方を批判する
         とともに、無用の用という、価値の転倒を説いている。荘子にとっては、
         自然に同化し、自然の生を全うすることこそ、最高の価値なのである。
         鳳凰とは、聖王が現われれば飛んでくるという想像上の鳥だが、ここで
         は孔子擬している

 

    

 読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅰ部』  

   16.比較的良い一日 

  その夜、私はなかなか寝付けなかった。スタジオの棚に置いた鈴が夜中に鳴り出すのではない
 かと不安だったからだ。もし鈴が鳴り出したら、いったいどうすればいいのだろう? 頭から布
 団をかよって、そのまま朝まで何も聞こえないふりをすればいいのか? それとも懐中電灯を手
 に、スタジオまで様子を見に行くべきなのか? 私はいったいそこで何を見出すことになるのだ
 ろう?

  どうするべきか心を決めかねたまま、私はベッドの中で本を読んでいた。しかし時刻が二時を
 過ぎても鈴は鳴り出さなかった。耳に届くのは夜の虫の声だけだった。本を読みながら五分ごと
 に枕元の時計に目をやった。ディジタル時計の数字が2:30になって、私はそこでようやく安
 堵の息をついた。今夜はもう鈴は鳴らないだろう。私は本を閉じ、枕元の灯りを消して眠った。

  翌朝七時前に目が覚めたとき、鍛初にとった行動はスタジオに鈴を見に行くことだった。鈴は

 昨日私かそこに置いたまま、棚の上にあった。太陽の光が山を明るく照らし、カラスたちがいつ
 もの販やかな朝の活動にかかっていた。朝の光の中で見ると、その鈴は決して禍々しいものには
 見えなかった。過去の時代からやってきた、よく使い込まれたただの素朴な仏具に過ぎなかった。

  私は台所に戻り、コーヒーメーカーでコーヒーをつくって飲んだ。固くなりかけたスコーンを
 トースターで温めて食べた。それからテラスに出て朝の空気を吸い、手すりにもたれて、谷の向
 かい側の免色の家を眺めた。色づけをした大きな窓ガラスが朝日を受けて眩しく光っていた。た
 ぶん週に一度のクリーニング・サービスの中にはすべてのガラスの清掃も含まれているのだろう。
 そのガラスは常に美しく、眩しく保たれていた。しばらく眺めていたが、テラスに免色の姿は現
 れなかった。我々が「谷間越しに手を振り合う」という状況はまだ生まれていない。

  十時半に車に乗ってスーパーマーケットに食品の買い物に行った。戻ってきて食品を整理し、
 簡単な昼食をつくって食べた。豆腐とトマトのサラダと握り飯がひとつ。食後に濃い緑茶を飲ん
 だ。そしてソファに横になってシューベルトの弦楽四重奏曲を聴いた。美しい曲だった。レコー
 ド・ジャケットに書かれている説明を読むと、この曲が初演されたとき、「新しすぎる」という
 ことで聴衆のあいだには少なからず反撥があったということだった。どこが「新しすぎる」のか
 私にはよくわからなかったが、たぶんどこかしら当時の古風な人々の気に障るところがあったの
 だろう。

  レコードの片面が終了したところで急に眠くなり、毛布を身体の上に掛け、ソファの上でしば
 らく眠った。短いけれど深い眠りだった。眠ったのはおそらく二十分くらいのものだろう。いく
 つか夢を見たような気がする。しかし目覚めたときに、どんな夢だったか忘れてしまった。そう
 いう種類の夢がある。繋がりのないいくつかの断片が交錯するように現れる夢だ。断片のひとつ
 
ひとつにはそれなりの質量があるのだが、それらは絡み合うことでお互いを打ち消しあってしま
 う。

  私は台所に行って、冷蔵庫で冷やしたミネラル・クォーターをボトルからそのまま飲み、身体
 の隅の方に雲の切れ端のように居残っている眠りの残滓を追い払った。そして自分は今、一人き
 りで山の中にいるのだという事実をあらためて確認した。私はここで一人で暮らしている。何か
 しらの運命が、私をこのような特別な場所に運び込んできたのだ。それからまた鈴のことを思い
 出した。雑木林の奥のあの不思議な石室の中で、いったい誰がその鈴を振っていたのだろう。そ
 してその誰かは今、いったいどこにいるのだろう?

  絵を描くための服に着替え、スタジオに入って、免色の肖像画の前に立ったときには、時刻は
 午後二時を過ぎていた。私はだいたいいつも午前中に仕事をすることにしている。午前八時から
 十二時というのが、私が画作にいちばん集中できる時間だった。結婚していたときにはそれは、
 妻を仕事に送り出して一人になったあとの時間を意味していた。私はそこにある「家庭内の静け
 さ」のようなものが好きだった。山の上に越してきてからは、豊かな自然が惜しみなく提供して
 くれる、朝の鮮やかな光と混じりけのない空気を好むようになった。そのように毎日同じ時間帯
 に同じ場所で仕事をすることは、私にとって昔から大事な意味を持っていた。反復がリズムを生
 み出してくれる。しかしその日は、前夜にうまく眠れなかったせいもあって、午前中をとりとめ
 もなく過ごしてしまった。だから午後になってスタジオに入ることになった。

  私は作業用の丸いスツールに腰掛けて両腕を組み、ニメートルほど離れたところから、その描 

 きかけの絵を眺めた。私はまず免色の顔の輪郭だけを細い絵筆で描き、そのあと彼がモデルとし
 て私の
 前にいた十五分ほどのあいだに、そこにやはり黒色の絵の具を使って肉付けをおこなっ
 て
いた。それはまだただの粗っぽい「骨格」に過ぎなかったが、そこにはうまくひとつの流れが
 生
まれていた。免色渉と雨に濡れた雑木林のもたらす緑色。自分自身に向かって、何度か小さく
 肯きさえした。それは絵に関して、私かずいぶん久しぷりに感じることのできた確信(のような
 もの)だった。そう、これでいい。この色が私のほしかった色だ。あるいはその「骨格」自体が
 求めていた色だ。それから私はその色を基にして、いくつかの周辺的な変化色をこしらえ、それ
 らを適度に加えて全休に変化をつけ、厚みを作っていった。

  そうしてできあがった画面を眺めているうちに、次の色が自然に順に浮かんできた。オレンジ
 ただのオレンジではない。燃えたつようなオレンジ、強い生命力を感じさせる色だが、同時にそ
 こには退廃の予感が含まれている。それは果実を緩慢に死に至らせる退廃かもしれない。その色
 作りは、緑のときより更にむずかしかった。それはただの色ではないからだ。それはひとつの情
 念に根本で繋がっていなくてはならない。運命に絡め取られた、しかしそれなりに揺らぎのない
 情念だ。そんな色を作り出すのは簡単なことではない、もちろん。しかし最終的には私はそれを
 作りあげた。私は新しい絵筆を手に取り、キャンバスの上にそれを走らせた。部分的にはナイフ
 も使った。考えないことが何より大事だった。私は思考の回路をできるだけ遮断し、その色を構
 図の中に思い切りよく加えていった。その緑を描いている間、現実のあれこれは私の順の中から
 ほぼ完全に消え去っていた。鈴の音のことも、聞かれた石室のことも、別れた妻のことも、彼女
 が他の男と寝ていることも、新しい人妻のガールフレンドのことも、絵画教室のことも、将来の
 ことも、何ひとつ考えなかった。免色のことすら考えなかった。私か今描いているのは言うまで
 もなく、そもそも免色の肖像画として始められたものだったが、私の頭にはもう免色の順さえ思
 い浮かばなかった。免色はただの出発点に過ぎなかった。そこで私かおこなっているのは、ただ
 自分のための絵を描くことだった。

  どれくらいの時聞か経過したのか、よく覚えていない。ふと気がついたときには室内はずいぶ
 ん薄時くなっていた。秋の太陽は既に西の山の端に要を消していたが、それでも私は灯りをつけ
 るのも忘れて仕事に没頭していたのだ。キャンバスに目をやると、そこには既に五種類の色が加
 えられていた。色の上に色が重ねられ、その上にまた色が重ねられていた。ある部分では色と色
 が微妙に混じり合い、ある部分では色が色を圧倒し、凌駕していた。

  私は天井の灯りをつけ、再びスツールに腰を下ろし、絵を正面からあらためて眺めた。その絵
 がまだ完成に至っていないことが私にはわかった。そこには荒々しいほとばしりのようなものが
 あり、そのある種の暴力性が何より私の心を刺激した。それは私か長いあいだ見失っていた荒々
 しさだった。しかしそれだけではまだ足りない。その荒々しいものの群れを統御し鎮め導く、何
 かしらの中心的要素がそこには必要とされていた。情念統合するイデアのようなものが。しか
 しそれをみつけるためには、あとしばらく時間を置かなくてはならない。ほとばしる色をひとま
 ず寝かさなくてはならない。それはまた明日以降の、新しい明るい光の下での仕事になるだろう。
 しかるべき時間の経通がおそらく私に、それが何であるかを敦えてくれるはずだ。それを待たな
 くてはならない。電話のベルが鳴るのを辛抱強く待つように。そして辛抱強く待つためには、私
 は時間というものを信用しなくてはならない。時間が私の側についていてくれることを信じなく
 てはならない。

  私はスツールに腰掛けたまま目を閉じ、深く胸に息を吸い込んだ。秋の夕暮れの中で、自分の
 中で何かが変わりつつあるという確かな気配があった。身体の組織がいったんばらばらにほどか
 れて、それがまた新しく組み立て直されていくときの感触だ。しかしどうしてそんなことが今こ
 こで、私の身に起こったのだろう? 免色という謎の人物とたまたまめぐり逢い、彼に肖像画の
 制作を依頼されたことが、結果的に私の中にこのような変化を生み出したのだろうか? あるい
 は夜中の鈴の音に導かれるように、石の塚をどかせてあの不思議な石室を関いたことが、私の精
 神にとって何かの刺激になったのだろうか? あるいはそんなこととは無関係に、私はただ変化
 の時期を迎えていたということなのだろうか? どの説をとるにせよ、そこには論拠と言えるよ
 うなものはなかった。

 「これはただの始まりに過ぎないのではないか、という気がします」と免色は別れ際に私に言っ
 た。とすれば、私は彼の言う何かの始まりに足を踏み入れたということなのだろうか? しかし
 何はともあれ私は、結を描くという行為に久しぷりに激しく心を昂ぶらされたし、文字どおり時
 が経つのを忘れて結の制作に没頭することができた。私は使用した画材を片づけながら、心地良
 い発熱のようなものを皮膚に感じ続けていた

  画材を片づけているときに、棚の上に置かれた鈴が目についた。私はそれを手に取り、二、三
 度試しに鳴らしてみた。あの例の音がスタジオの中に鮮やかに響いた。夜中に私を不穏な気持ち
 にさせた音だ。しかし今ではなぜかそれは私を怯えさせなかった。こんな古びた鈴がどうしてこ
 れほど鮮やかな音を出せるのか、意外の念に打たれただけだった。私は鈴を元あった場所に戻し、
 スタジオの灯りを消しドアを閉めた。そして台所に行って白ワインをグラスに往ぎ、それを飲み
 ながら夕食の支度をした。

  夜の九時前に免色から電話がかかってきた。
 「昨夜はいかがでした?」と彼は尋ねた。「鈴の音は聞こえましたか?」
  二時半まで起きていたが、鈴の音はまったく聞こえなかった。とても静かな夜だったと私は答
 えた。
 「それはよかった。あれ以来、あなたのまわりで不思議なことは何も起こらなかったのですね?」
 「とくに不思議なことは何も起こっていないようです」と私は言った。
 「それはなによりです。このまま何ごとも起こらないと良いのですが」と免色は言った。そして
 一息置いて付け加えた。「ところで、明日の午前中にそちらにうかがってもかまいませんか?
 できれば、もう一度あの石室をじっくりと見てみたいのです。とても興味深い場所だし」
  
  かまわない、と私は言った。明日の午前中には何の予定も入っていない。

 「それでは十一時頃にうかがいます」
 「お待ちしています」と私は言った。
 「ところで、今日はあなたにとって良い一日でしたか?」、免色はそう尋ねた。

  今日は私にとって良い一日だったか? まるで外国語の構文をコンピュータ・ソフトで機械的

 に翻訳したような響きがそこにはあった。
 「比較的良い一日だったと思います」と私は少し戸惑いながら答えた。「少なくとも悪いことは
 何も起こらなかった。お天気も良かったし、なかなか気持ちの良い一日でした。免色さんはいか
 
がでした? あなたにとっては今日は良い一日でしたか?」
 「良いことと、あまり良いとは言えないことがひとつずつ起こった一日でした」と免色は言った。 

 「その良いことと悪いことと、どちらの方がより重みを持っているか、まだ秤が決めかねて左右
 に揺れているような状態です」
  それについてどう言えばいいのかわからなかったので、私はただ黙っていた。
  免色は続けた。「残念ながら私はあなたのような芸術家ではありません。私はビジネスの世界
 に生きているものです。とりわけ情報ビジネスの世界に。そこではほとんどの場合、数値化でき
 るものごとだけが、情報としてやりとりされる価値を持っています。ですから良いことも悪いこ
 とも、つい数値化する癖がついてしまっています。良いことの方の重みが少しでもまされば、た
 とえ一方で悪いことが起こっていても、それは結果的に良い一日になります。というか、数値的
 にはそうなるはずです」

  彼が何を言おうとしているのか、私にはまだわからなかった。だからそのまま口を閉ざしてい
 た。

 「昨日のことですが」と免色は続けた。「ああして地下の石室を開いたことで、私たちは何かを
 失い、何かを得たはずです。いったい何を失い何を得ることができたのでしょう。そのことが
 私には気にかかってならないのです」

  彼は私の返事を待っているようだった。

 「数値化できるようなものは何も得ていないと思います」と私は少し考えてから言った。「もち
 ろん今のところは、ということですが。ただひとつ、あの古い鈴のような仏具は手に入りました。
 でもそんなものは実質的には、たぶん何の値打ちも持たないでしょう。由緒ある品でもないし、
 珍しい骨董品でもありませんから。その一方で、失ったものはわりにはっきり数値化できるはず
 
です。そのうちに造園業者からあなたのところに請求書が届くでしょうから」
 
  免色は軽く笑った。「大した金額じやありません。そんなことは気にしないでください。私の

 気にかかるのは、私たちがそこから受け取るはずのものをまだ受け取っていないのではないか、
 ということなのです」
 「受け取るはずのもの? それはいったいどのようなものですか?」
  免色は咳払いをした。「さっきも申し上げたとおり、私は芸術家ではありません。それなりの
 直観のようなものは具えていますが、残念ながらそれを具象化する手だてを持ち合わせていない。
 その直観がどのように鋭いものであれ、それを芸術という普遍的な形態に移し替えることができ
 ないのです。私にはそのような能力が欠けています」

  私は黙って彼の話の続きを持っていた。

 「だからこそ私は芸術的、普遍的具象化の代用として、数値化というプロセスをこれまで一貫し
 て追究してきました。何によらず、人がまっとうに生きていくためには、依って立つべき中心軸
 が必要とされますから。そうですね? 私の場合は直観を、あるいは直観に似たものを、独自の
 システムに従って数値化することによって、それなりの世俗的な成功を収めてきました。そして
 その私の直観に従えば――」と彼は言って、しばらく沈黙した。しっかりした密度を持つ沈黙だ
 った。「――
そしてその私の直観に従えば、私たちはあの掘り起こした地下の石室から、何かし
 
らを手にすることができるはずなのです」
 「たとえばどんなものを?」

  彼は首を振った。というか、
電話口で首を振るような気配が微かにあった。「それはまだわか
 りません。しかし私たちはそれを知らなくてはならない、というのが私の意見です。お互いの直
 観を持ち寄り、それぞれの具象化あるいは数値化というプロセスを通過させることによって」
  私は彼の言いたいことがまだうまく理解できなかった。この男はいったい何の話をしているの
 だろう?
 「それでは明日の十一時にお目にかかりましょう」と免色は言った。そして静かに電話を切った。

Cezanne's water paints

                                     この項つづく 

 

再生可能エネルギーの革命的技術導入とスマートグリッドの有機的で自律的で高効率相互運用
クリーン
エネルギー百パーセント社会を構築し、誰もが必要に応じて自由にエネルギー消費できる世
界の実現について語り合おう。第3回目の今夜は、❶2024年後の国内蓄電池市場予測と、❷自動
車用蓄電池をペロブスカイト太陽電池生産への再資源化技術について掲載する。


【RE100倶楽部:24年度国内蓄電池システム市場予測】

☑ 住宅/業務/公共用蓄電システム市場:16
年比で5.6倍強/約3,684億円
☑ 同上販売台数:16年比で、11.4倍となる41万9,500台

今月17日、市場調査会社のシード・プランニングは、住宅やオフィス、避難所、発電所などに設置
される「定置用」を対象とした調査で、1kWh以上の製品を主要調査対象。キャスターが付いている可
搬型(ポータブル)製品も定置用の対象。
移動体に搭載されている電池や電気機器用の電池、電気自
動車(EV)用電池は含まない。また大規模用(百~数万kWh)の蓄電システムも含まれていない。そ
結果、住宅用、業務用、公共産業用蓄電システムの市場規模は、16年度(653億円)と比較して
5.6倍強の3684億円になるという。戸建て住宅用蓄電システムが市場をけん引し、住宅用と業務用
で、2718億円と全体の74%を占める。

また、公共産業用は「グリーンニューディール基金」向けが多くの割合を占めている。15年度は、
90%超、16年度は80%超だ。グリーンニューディール基金が終了した16年度から市場が落ち
込み、この影響は17年度まで続くと見込むがVPP(バーチャルパワープラント)用途での出荷や、
価格低下に伴う需要拡大により、18年度から市場が回復。200年度に360億円、24年度には
966億円まで成長する。

販売台数は16年度(3万6900台)と比較して、11.4倍となる41万9500台になると予測。政府が、
14年4月に閣議決定した「エネルギー基本計画」では、「20年までに標準的な新築住宅、30年
までに新築住宅の平均でZEHの実現を目指す」といった目標が設定され、そのためZEHを扱うハウス
メーカーやビルダー、工務店が増加し、ZEHへの蓄電システム搭載率が向上することが見込まれる。
同調査では20年にZEHの約10%、24年にはZEHの約40%に蓄電システムが搭載されると予測。

市場拡大要因として、❶「2019年問題」を挙げ、19年に太陽光発電システムの買い取り期間が
終了する住宅は40~50万戸になるとみられている。20年以降も1年当たりに15~30万戸の
住宅で買い取り期間が終了する。買い取り期間が終了した住宅では、買電から自家消費への移行が高
まるとを予想する。❷
また太陽光発電システムのパワーコンディショナー(PCS)を買い取り期間終
了に合わせて、ハイブリッド型PCS蓄電システムに交換する動きが出てくる。買い取り期間が終了す
る設置者のうち、19年度には15%程度、24年度には30%程度が蓄電システムを導入すると予
測している。

 Mar. 7, 2017

【ZW倶楽部:ペロブスカイト型太陽電池の循環】

● US 9590278 B2 自動車蓄電池のペロブスカイト太陽電池へ再資源化

効率的なペロブスカイト太陽電池を、使用済み自動車バッテリーのアノードとカソードを再使用し製
造する新規考案が公開されている。 その概要か以下の通り。完全クローズド(鉛フリーなど)を考え
るには重要な課題技術である。

【特許請求範囲】

  1. ペロブスカイト型太陽電池を製造する方法で、回収溶液に自動車バッテリーのアノードおよび
    カソードから鉛由来材料を回収する工程と、回収溶液から鉛誘導物質から回収した鉛ヨウ化物
    を合成する工程と、回収されたヨウ化ペロブスカイトナノクリスタルを回収されたヨウ化鉛か
    ら形成
    する工程すなわち回収されたヨウ化鉛ペロブスカイトナノ結晶を基板上に堆積させるこ
    ととを含む。
  2. ペロブスカイトが式(I):A x A '1-x B y B' 1-y O 3±δ・を有する、請求項1に記載の方法。 (1)式中、Aおよ
    びA 'の各々は独立して、希土類、アルカリ土類金属またはアルカリ金属であり; BおよびB 'はそれぞれ
    独立して遷移金属であり、 xは0~1の範囲にあり、 yは0~1の範囲にあり、 δは、 0~1の範囲内である。
  3. AおよびA 'は独立して、メチルアンモニウム、5-アミノ吉草酸、Mg、Ca、Sr、Ba、PbおよびBiからなる群
    から選択される請求項2に記載の方法。 B、B 'はPb、Sn、Ti、Zr、V、Nb、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、
    Pt、AlおよびMgからなる群から選択される。
  4. 前記請求項2に記載の方法がペロブスカイトがチタン酸ストロンチウムである、
  5. 前記請求項2に記載の方法がペロブスカイトがビスマスフェライトである、
  6. 前記請求項2に記載の方法がペロブスカイトが、酸化タンタル、酸窒化タンタルまたは窒化タン
    タルであ
    る。
  7. 請求項6に記載の方法が ペロブスカイトが、タンタル酸ナトリウム、酸化ジルコニウム/酸窒化
    タンタル、
    酸窒化タンタル、酸窒化タンタル、窒化タンタルまたは窒化タンタルのジルコニウム
    である。
  8. ペロブスカイトが式(Ⅱ):A x B y X 3)(式中、Aはメチルアンモニウムまたは5-アミノ
    吉草酸であり、 BPbまたはSnであり; XI、BrまたはClであり; x0~1の範囲にあり、 y
    0~1の範囲である。
  9. 前記請求項1に記載の方法が カーバッテリーのアノードまたはカソードが硫酸鉛(PbSO4)を含
    む。
  10. 前記請求項1に記載の方法が ヨウ化鉛が室温で合成される。
  11. 前期請求項1に記載の方法が、回収されたヨウ化鉛を合成するために、過酸化水素が添加される。
  12. 前期請求項1に記載の方法が、自動車バッテリーのアノード及びカソードからの回収溶液として
    鉛由来材料の回収のPbO2が含まれる酸性溶液への過酸化物の添加を含むものである。

尚、詳細は説明下図表写真(抜粋)をダブクリ参照願う。

 

 

  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ネルシャツのモンク

2017年04月19日 | 環境工学システム論

         巧をもって力を闘わすものは、陽に始まり常に陰に卒(おわ)る            
                         
                                           「人間世」(じんかんせい)   
  

                                                 

       ※ ことばを飾ろうと思うな:楚の大夫葉公子高(しょうこうしこう)が、
        孔子に教えを請う件。「国と国とが交わる場合、隣国どうしであれば直
        接に意志を通じることができます。しかし、遠隔の国が相手では、たが
                いに使者を介在させ、ことばによって意志を伝えねばなりません。使者
        にとって、両者とも好都合なことば、あるいは逆に、両者ともに不都合
        なことばを伝えるほど雑かしい役目はありません。 両者ともに好都合
        な、あるいは両者ともに不都合なことばは、とかく朧をまじえ、真実を
        ゆがめがちです。真実に反することばは紛争のもとです。紛争がおこれ
        ば、使者は死を免れません。格言にも『使者は真実を巡ぶもの。使者の
        誇張は禍いのもと』とあるではありませんか。身近な例をあげますと、
        愉快に始めた技くらべも、いつしかむきになり、ついには勝つために手
        段をえらばなくなって、まずい結果に終りがちです」と答える。

 Apr. 17, 2017

● 世界初「浮遊球体ドローンディスプレイ」

今月17日、株式会社NTTドコモは、無人航空機(以下ドローン)を活用した新たなビジネスの創
出に向けて、全方位に映像を表示しながら飛行することができる「浮遊球体ドローンディスプレイ」
を世界で初めて開発。この「浮遊球体ドローンディスプレイ」は、環状のフレームにLEDを並べた
LEDフレームの内部にドローンを備え、LEDフレームを高速に回転させながら飛行、回転するLED
の光の残像でできた球体ディスプレイを、内部のドローンで任意の場所に動かして見せることがで
きる。これにより、コンサートやライブ会場において、空中で動き回る球体ディスプレイによるダ
イナミックな演出や、会場を飛び回り広告を提示するアドバルーンのような広告媒体としての活用
が可能となると説明している。

☑ 任意の空間で360度どこからでも見える広告展開が可能に

なお、「浮遊球体ドローンディスプレイ」は、今月29日(土)から幕張メッセで開催される「ニ
コニコ超会議」の「NTT ULTRA FUTURE MUSEUM 2017」に出展し、会場内でのデモ飛行を予定し
ている。

 Feb. 24, 2017

● 住宅用宅配ポスト/宅配ボックス 

パナソニック株式会社 エコソリューションズ社は、福井県あわら市の進める「働く世帯応援プロジ
ェクト」に参画し、あわら市在住の共働き世帯を対象とした「宅配ボックス実証実験」を2016年11月
より開始。12月の実証実験をまとめた中間報告では、宅配ボックス設置により再配達率が49%から
8%に減少。それにより、約65.8時間の労働時間の削減、約137.5kgの二酸化炭素削減。4月
の最終結果発表時には、再配達率約8%前後(約20回に1回の割合)、再配達削減回数700回以
上削減できると予想しているという。

☑ 宅配ポスト コンボ-F(エフ)2017年6月1日受注開始

郵便物と宅配物が1台で受け取れる、宅配ボックス&ポスト。素材感を生かした直線的なデザインが
魅力のコンボ-F(エフ)は、上段は郵便物、下段が宅配物と個別で受け取れる一台二役の宅配ポス
トで、壁埋め込み・ポール取り付けに対応する。

 ☑ 宅配ポスト コンボ-int(イント)2017年6月1日受注開始

室内で郵便物や宅配物が取り出せ、住宅壁埋め込み専用の宅配ポスト。コンボ-int(イント)(住
宅壁埋め込み専用)は、
宅配ボックスとサインポストの2つの機能を、住宅壁にスッキリ納める。
外から郵便物や宅配物などの投函物を受けて室内で取り出すことができる。

 

● 関連特許事例(下図参照)

【要約】

宅配物測定装置1は、宅配物70を出し入れ自在に収容する内部空間11を有するボックス2と、
ボックス2内に取り付けられる発光部5と、発光部5の発光を制御する制御部6と、ボックス2内
に取り付けられ発光部5からの光を受ける受光部4と、を備える。受光部4は、下面部211また
は第1側面部に設けられ、第1入隅部31の長さ方向と平行な方向に並ぶ複数の受光素子40を有
する第1受光列41を有する。受光部4は、下面部211または第2側面部に設けられ、第2入隅
部32の長さ方向と平行な方向に並ぶ複数の受光素子40を有する第2受光列42を有する。受光
部4は、第1側面部または第2側面部に設けられ、第3入隅部33の長さ方向と平行な方向に複数
の受光素子40を有する第3受光列43を有することで、ボックスをコンパクトにすることができ
る、物測定装置を提供する。

 
☈ 特開2017-063961  収納ボックスの設置構造 パナソニックIPマネジメント株式会社
☈ 特開2017-062765  在不在予測方法および在不在予測装置 パナソニック インテレクチュアル プロ
                   パティ コーポレーション オブ アメリカ

☈ 特開2017-054426  宅配物測定装置 パナソニックIPマネジメント株式会社
☈ 特開2017-049638  判定方法およびそれを利用した判定装置 パナソニックIP マネジメント株式
                   会社
☈ 特開2017-046629  鮮度保持方法、鮮度保持装置、収納庫、及び、陳列装置 パナソニックIPマネ
           ジメント株式会社宅配物測定装置 パナソニックIPマネジメント株式会社


    

 読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅰ部』  

  15.これはただの始まりに過ぎない 

  我々は午後一時十五分過ぎに林の中の現場に戻った。人々は昼食を終え、既に工事を本格的に
 再開していた。二人の作業員が金属の模のようなものを石の隙間に差し込み、ショベルカーがロ
 ープを使ってそれを引いて石を起こしていた。そのようにして掘り起こされた石に作業員がロー
 プをかけ、それをまたショベルカーが引っ張り上げた。時間はかかったものの、石はひとつひと
 つ着実に掘り起こされ、脇にどかされていった。

  
免色は監督と二人でしばらく熱心に話し合っていたが、やがて私の立っているところに戻って
 きた。

 「敷石は予想したとおり、それほど厚いものではありませんでした。うまく取り除けそうです」
 と彼は私に説明した。「石の下にはどうやら格子状の蓋がはまっているみたいです。材質までは
 わかりませんが、その蓋が敷石を支えていたようです。上に敷かれた石をすっかりどかしてから
 その格子をはずさなく てはなりません。うまくはずせるかどうか、それはまだわかりません。
 その格子の蓋の下がどのようになっているかもまったく予測がつきません。石をどかすのにまだ
 少し時間がかかりますし、ある程度作業が連んだら連絡をするので、家で待っていてほしいとい
 うことです。もしよるしければそうしましょう。ここにじっと立っていても仕方ない」

  我々は歩いて家に戻った。そこで空いた時間を利用して、肖像画制作の続きにとりかかっても
 よかったのだが、画作に意識を集中することはできそうになかった。雑木林の中で人々がおこな
 っている作業のせいで、神経が高ぶっていたからだ。崩れた古い石の塚の下から出てきたニメー
 トル四方ほどの石床。その下にある頑丈な格子の蓋。そしてその更に下にあるらしい空間。私は
 それらのイメージを頭から消し去ることができなかった。たしかに免色の言ったとおりだ。まず
 この案件を片付けてしまわないことには、何ごとによらず先に進められそうにない。

 Cezanne

  待っているあいだ音楽を聴いてかまわないか、と免色は尋ねた。もちろん、と私は言った。好
 きなレコードをかけてくれてかまわない。そのあいだ私は台所で料理の仕込みをしているから。
 彼はモーツァルトのレコードを選んでかけた。「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ」。タン
 ノイのオートグラフは派手なところはないが、深みのある安定した音を出した。クラシック音楽、
 とくに室内楽曲をレコード盤で聴くには格好のスピーカーだ。古いスピーカーだけに、とくに真
 空管アンプとの相性が良い。演奏はピアノがジョージ・セル、ヴァイオリンはラファエル・ドウ
 ルイアン。免色はソファに座り、目を閉じて音楽の流れに身を任せていた。私はその音楽を少し
 離れたところで聴きながら、トマトソースを作った。まとめて買ったトマトが余っていたので、
 悪くならないうちにソースにしておきたかった。

  大きな鍋に湯を彿かし、トマトを湯煎して皮を剥き、包丁で切って種を取り、それを潰して、
 大きな鉄のフライパンで、ニンニクを入れて炒めたオリーブオイルを使って、時間をかけて煮込
 む。こまめにアクを取る。結婚していたときも、よくそうやってソースを作ったものだった。手
 間と時間はかかるが、原理的には単純な作業だ。妻が仕事に出ているあいだに、台所に一人で立
 って、CDの音楽を聴きながらつくった。私白身は古い時代のジャズを聴きながら料理をするの
 が好きだった。よくセロニアス・モンクの音楽を聴いたものだ。『モンクス・ミュージツク』が
 私のいちぱん好きなモンクのアルバムだ。コールマン・ホーキンズとジョン・コルトレーンが参
 加して、素敵なソロを聴かせる。でもモーツァルトの室内楽を聴きながらソースをつくるのもな
 かなか悪くなかった。

  Thelonious Sphere Monk

  セロニアス・モンクのあの独特の不思議なメロディーと和音を聴きながら、昼下がりにトマト
 ソースをつくっていたのは、ほんの少し前のことなのだが(妻との生活を解消してからまだ半年
 しか経っていない)、なんだかずいぷん音に起こった出来事のように思えた。一世代前に起こっ
 た、一握りの人しかもう記憶していないささやかな歴史的エピソードのように。妻は今ごろいっ
 たい何をしているのだろう、と私はふと考えた。ほかの男と生活を共にしているのだろうか?
 それともまだあの広尾のマンションで一人で暮らしているのだろうか? いずれにしてもこの時
 刻は建築事務所で仕事をしているはずだ。彼女にとって、私の存在したかつての人生と、私の存
 在しない今の人生とのあいだにはどれはどの違いがあるのだろう? そして彼女はその違いにつ
 いてどんな感興を抱いているのだろう? 私は考えるともなく、そういうことを考えていた。彼
 女もまた私と暮らしていた日々のことを「なんだかずいぷん昔に起こった出来事」として受けと
 めているのだろうか?

  レコードが終わり、ぶちぶちと音を立てていたので居間に行ってみると、免色はソファの上で
 腕組みをし、身を僅かに傾けて眠り込んでいた。私は回転し続けているレコード盤から針を上げ、
 ターンテーブルを止めた。規則的な針音が止んでも、まだ免色は眠り込んでいた。よほど疲れて
 いたのだろう。微かな寝息まで聞こえた。私は彼をそのままにしておいた。台所に戻り、フライ
 パンのガスを止め、冷たい水を大きなグラスに一杯飲んだ。それからまだ時間が余ったので、玉
 葱炒めにとりかかった。

  Gyokudou Kawai

  電話がかかってきたとき、免色は既に目覚めていた。復は洗面所に行って石鹸で顔を洗い、う
 がいをしているところだった。現場監督からかかってきた電話だったので、私は受話器を免色に
 まわした。復は短く話をし、すぐにそちらに行くと言った。そして私に電話を返した。
 「作業がだいたい終わったそうです」と復は言った。

  外に出ると雨はもう止んでいた。空はまだ雲に覆われていたが、あたりは少し明るさを増して
 いた。天候は徐々に回復に向かっているようだった。我々は足早に階段を上り、雑木林を抜けた。
 祠の裏では四人の男たちが穴を囲むように立って、下を見下ろしていた。ショベルカーのエンジ
 ンは切られ、勤くものもなく、林の中は奇妙なほどしんと静まり返っていた。

  敷石はそっくり取り除かれ、そのあとに穴が口を開けていた。四角い格子の蓋も取り外され、
 脇に置かれていた。厚みのある重そうな木製の蓋だ。古びてはいるか、腐ってはいない。そして
 そのあとには円形の石室らしきものが見えた。その直径はニメートル足らず、深さはニメートル
 半ほどだ。まわりを石壁で囲まれていた。底はどうやら土だけのようだ。草▽不生えてはいない。
 石室の中は空っぽだった。助けを求めている人心いなければ、ビーフジャーキーのようなミイラ
 の姿もなかった。ただ鈴のようなものがひとつ、底にぽつんと置かれている。それは鈴というよ
 りは、小さなシンバルをいくつか重ねた古代の楽器のように見えた。長さ十五センチほどの木製
 の柄がついている。監督はそれを小型の投光器で上から照らした。

 「中にあったのはこれだけですか?」と免色は監督に尋ねた。
 「ええ、これだけです」と監督は言った。「言われたとおり、石と蓋をどかせたままの状態にし
 てあります。何ひとついじってはいません」
 「不思議だ」、免色は独り言のようにそう言った。「しかし、本当にこれ以外に何心なかったん
 ですね?」
 「蓋を持ち上げて、すぐにそちらに電話をしました。中に降りて心いません。これがまったく開
 けたままの姿です」と監督は答えた。
 「もちろん」と免色は乾いた声で言った。
 「あるいは心と心とは井戸だったのか心しれません」と監督は言った。「それを埋めて、このよ
 うな穴にしたみたいに見えます。でも井戸にしてはいささか口径が大きすぎますし、まわりの石
 壁もずいぷん緻密につくられています。こしらえるのはかなり天変だったはずです。まあ、なに
 か大事な目的があればこそ、こうして手間暇かけて造ったのでしょうが」

 「中に降りてみてもかまいませんか」と免色は監督に言った。
  監督は少し迷った。それからむずかしい顔をして言った。「そうですね、まず私が降りてみま
 しょう。何かあるとまずいですから。それでもし何もなければ、そのあとで免色さんが降りてみ
 てください。それでよろしいですか?」
 「もちろん」と免色は言った。「そうしてください」
  作業員がトラックから金属製の折りたたみ式梯子を持ってきて、それを広げて下に降ろした。
 監督はヘルメットをかぷり、その梯子をつたってニメートル半ほど下にある土の床に降りた。そ
 してしばらくあたりを見回していた。まず上を見上げ、それから懐中電灯を使ってまわりの石壁
 と足元を細かく確かめた。地面に置かれた鈴のようなものを注意深く観察していた。しかしそれ
 には手を触れなかった。観察しただけだ。それから作業靴の底で地面を何度かこすりつけた。と
 んとんと腫を打ちつけた。何度か深呼吸をし、匂いを嗅いだ。彼が穴の中にいたのは全部で五分
 か六分か、そんなものだった。それからゆっくりと梯子を登って地上に出てきた。

 「危険はないようです。空気もまともだし、変な虫みたいなのもいません。足場もしっかりして
 います。降りてかまいませんよ」と彼は言った。

 Flanne

  免色は動きやすいように防水コートを脱ぎ、フランネルのシャツとチノパンツというかっこう
 になり、懐中電灯をストラップで首からつるし、金属の梯子を下りていった。我々はその姿を上
 から無言で眺めていた。監督は投光器の光で免色の足下を照らしていた。免色は穴の底に立ち、
 
そこで様子をうかがうようにしばらくじっとしていたが、やがて周りの石壁を于で触り、屈み込
 んで地面の感触を確かめた。そして地面に置かれた鈴のようなものを手に取り、手にした懐中電
 灯の明かりでそれをしげしげと眺めた。それから小さく何度か振った。彼がそれを振ると、紛れ
 もないあの「鈴の音」がした。間違いない。誰かが真夜中にここでそれを鳴らしていたのだ。し
 かしその誰かはもうここにはいない。鈴があとに残されているだけだ。免色はその鈴を見ながら
 何度か首を振った。不思議だ、というように。それから彼はもうコ皮、まわりの壁を綿密に調べ
 た。どこかに秘密の出入り目があるのではないかと。しかしそれらしきものは何も見つからなか
 った。そして上を向いて地上にいる我々を見た。彼は途方に暮れているように見えた。

  彼は梯子に足をかけ、于を伸ばしてその鈴のようなものを私に向けて差し出した。私は身を屈
 めてそれを受け取った。古びた木製の柄には冷たい湿気がじっとり染みこんでいた。私はそれを、
 免色がそうしたのと同じように軽く振ってみた。思いのほか大きな鮮やかな音がした。何ででき
 ているのかはしらないが、その金属部分はまったく損なわれていなかった。汚れてはいるか錆び
 てはいない。長い歳月にわたって湿った土中に置かれていたにもかかわらず、どうして錆びなか
 ったのか、そのわけがわからなかった。

 「それは何ですか、いったい?」と監督が私に尋ねた。彼は四十代半ば、がっしりとした体格の
 小男だった。日焼けして、うっすらと無精髭をはやしていた。
 「さあ、なんでしょう。昔の仏具のようにも見えます」と私は言った。「いずれにせよ、かなり
 古い時代のもののようです」
 「それがお探しのものだったんですか?」と彼は尋ねた。

  私は首を振った。「いや、我々が予期していたのはちょっと違うものです」
 「それにしてもなんだか不思議な場所だ」と監督は言った。「うまく目では言えないが、この穴
 にはどことなく謎めいた雰囲気があります。いったい誰が何のために、こんなものをつくったん
 でしょうね。昔のことだろうし、これだけの石を山の上まで運んできて積み上げるには、相当な
 労力を要したはずです」

  私は何も言わなかった。

  やがて免色が穴から上がってきた。そして監督を脇に呼んで、二人で長いあいだ何ごとかを話
 しあっていた。そのあいだ私は鈴を手に穴の脇に立っていた。その石室に降りてみようかとも思
 ったが、思い直してやめた。雨田政彦ではないが、余計なことはできるだけしない方がいいかも
 しれない。そっとしておけるものは、そっとしておくのが賢明かもしれない。私は手にしていた
 その鈴をとりあえず祠の前に置いた。そしてズボンで手のひらを何度か拭った。

  免色がやってきて、私に言った。

 「あの石室全体を詳しく調べてもらいます。一見したところただの穴のようにしか見えませんが、
 念には念を入れて隅々まで点検してもらいます。何か発見があるかもしれない。たぶん何もない
 とは思いますが」と免色は言って、私が祠の前に置いた鈴を見た。「しかしこの鈴しかあとに残
 されていないというのは奇妙ですね。誰かがあの中にいて、真夜中に鈴を鳴らしていたはずなの
 に」

 「鈴がひとりで勝手に鳴っていたのかもしれませんよ」と私は言ってみた。
  免色は微笑んだ。「なかなか面白い仮説だが、私はそうは思いません。誰かがあの穴の底から
 なんらかの意志をもってメッセージを送っていたのです。あなたに向かって。あるいは我々に向
 かって。あるいは不特定多数の人に向かって。でもその誰かはまるで煙のように消えてしまった。
 あるいはあそこから抜け出してしまった」
 「抜け出した?」
 「するりと、我々の目をかいくぐって

  彼の言っていることは私にはよく理解できなかった

 「魂というのは、目には見えないものですから」と免色は言った。
 「あなたはそういう魂の存在を信じるのですか?」
 「あなたは信じますか?」

  私はうまく答えられなかった。

  免色は言った。「魂の実在をあえて信じる必要はないという説を私は信じています。でも逆に
 言えばそれは、魂の実在を信じない必要もないという説を信じることにもな力ます。いささか持
 って回った物言いになりますが、言わんとすることはおわかりいただけますか」
 「漠然と」と私は言った。
  免色は祠の前に私が置いた鈴を手に取った。そして何度かそれを宙で振って鳴らした。「これ
 を鳴らし、念仏を唱えながら、あの地中でおそらく一人の憎が息を引き取っていったのでしょう。
 埋められた井戸の底で、重い蓋をされた真っ暗な空間の中でとても孤独に。そしてまたおそらく
 は秘京表に。どんな憎だったか、私にはわかりません。偉いお坊さんだったのか、あるいはただ
 の狂信者だったのか。いずれにせよ誰かがその上に石の塚を築いた。そのあとにどのような経過
 があったのかはわかりませんが、彼がここで人定を遂げたことはなぜか人々にすっかり忘れられ
 てしまったようです。そしてあるとき大きな地震かおり、塚は崩れてただの石の山になってしま
 った。小田原近辺は場所によっては、一九二三年の関東大震災でかなりひどくやられましたから、
 あるいはそのときのことかもしれません。そしてすべては忘却の中に呑み込まれてしまった」

 「もしそうだとしたら、その即身仏は―つまりミイラは―いったいどこに消えたのでしょう?」

  免色は首を振った。「わかりません。ひょっとして、どこかの段階で誰かが穴を掘り返し、持
 ち出したのかもしれない」
 「そのためにはこれだけの石をすべてどかせて、それをまた積み上げる必要があります」と私は
 言った。「そしていったい誰が、昨日の真夜中にこの鈴を振っていたのですか?」
  免色はまた首を振った。それから小さく微笑んだ。「やれやれ、これだけの機器を持ち出して
 重い石の山をどかし、石室を開いて、その結果判明したのは、我々には結局何ひとつわからなか
 ったという事実だけのようです。辛うじて手に入ったのはこの古い鈴ひとつだけだ」

  どれだけ細かく調べても、その石室には何の仕掛けもないことが判明した。それは古い石壁
 まわりを囲まれた、深さニメートル八十センチ、直径一メートル八十センチほどのただの円形
 穴だった(彼らはその寸法を正式に計測した)。ショベルカーはトラックの荷台に積まれ、作業
 具たちは様々な道具や工具をまとめて引き上げていった。あとには聞かれた穴と金属製の梯子だ
 けが残った。現場監督がその梯子を厚意で残していってくれたのだ。人が誤って穴に落ちないよ
 
うに、厚板が錫杖か穴の上にわたされた。強い風で飛んだりしないように、板の上には重しとし
 ていくつかの石が置かれた。元あった木製の格子の蓋は重すぎて持ち上げられず、近くの地面に
 置きっぱなしにされ、その上にビニールシートがかけられていた。

  免色は最後に監督に向かって、この作業については誰にも口外しないでもらいたいと頼んだ。
 考古学的に意味があるものなので、しかるべき発表の時期が来るまでしばらく世間には秘密にし
 ておきたいのだと彼は言った。

 「承知しました。これはここだけのことにしておきます。みんなにも余計なことは言わなに、し
 っかり釘を刺しておきます」と監督は真剣な顔で言った。

  人々と重機が去って、いつもの山の沈黙がそのあとを埋めると、掘り返された場所はまるで大
 きな外科手術を受けたあとの皮膚のように、うらぷれて痛々しく見えた。隆盛を誇ったススキの
 茂みは完膚無きまでに踏みつぶされ、暗く温った地面にはキャタピラの轍が縫い跡となって残っ
 ていた。雨はもう完全に上がっていたが、空は相変わらず切れ目のない単調な灰色の雲に覆われ
 
ていた。

  新たに別の地面に積み上げられた石の山を見ながら、こんなことをしなければよかったんだと
 いう思いを私は持たないわけにはいかなかった。あのままの形にしておくべきだったんだ、と。
 しかしその一方で、そうしなければならなかったというのも、また間違いのない事実だった。私
 はあの夜中のわけのわからない音を、いつまでも聞き続けるわけにはいかなかっただろうから。
 とはいえ、もし免色という人物に出会わなかったなら、あの穴を掘り起こす手だては私にはなか
 ったはずだ。彼が業者を手配したからこそ、そして彼がその費用――どれはどの額になるのか見
 当もつかないが――を負担したからこそ、これだけの作業が可能になったのだ。

  しかし私がこうして免色という人物と知り合いになり、その結果こんな大がかりな「発掘」を
 行うことになったのは、本当にたまたまのことだったのだろうか? ただの偶然の成り行きによ
 るものなのだろうか? あまりにも話がうま過ぎはしないか? そこには筋書きみたいなものが
 前もって用意されていたのではあるまいか? 私はそんな落ち着き先のないいくつかの疑問を胸
 に抱えながら、免色と共に家に戻った。免色は掘り出した鈴を手にしていた。彼は歩いているあ
 いだずっとそれを手から離さなかった。その感触から何らかのメッセージを読み取ろうとしてい
 るみたいに。

  家に戻ると免色はまず私に尋ねた。「この鈴はとこに置きましょうか?」

  鈴を家の中のどこに置けばいいのか、私には見当がつかなかった。だからとりあえずスタジオ
 に置いておくことにした。そんなわけのわからないものをひとつ屋根の下に置いておくことは、
 私としてはもうひとつ気が進まなかったけれど、だからといって外に放り出しておくこともでき
 ない。おそらくは魂のこもった大事な仏具なのだ。粗末には扱えない。だから一種の中間地帯と
 もいうべきスタジオその部屋には独立した離れのような趣があったに持ち込むことにした。画材
 を並べた細長い棚の上にスペースを空け、そこに並べた。絵筆を突っ込んだ大きなマグカップの
 隣に置くと、それは画作のための特殊な道具のようにも見えた。

 「不思議な一日でしたね」と免色は声をかけた。
 「一日をすっかり潰させてしまいました。申し訳ありません」と私は言った。
 「いや、そんなことはありません。私にとってずいぶん興味深い一日だった」と免色は言った。
 
「それに、これですべてが終わったというわけでもないでしょう」
 免色の顔にはずっと遠くを見ているような不思議な表情が浮かんでいた。
 「というと、まだ何かが起こるのですか?」と私は尋ねた。
 免色は言葉を慎重に選んだ。「うまく説明はできないのですが、これはただの始まりに過ぎな
 いのではないか、という気がします」
 「ただの始まり?」

  免色は手のひらをまっすぐ上に向けた。「もちろん確信があるわけじやありません。このまま
 何ごともなく、あれはずいぶん不思議な一日でしたね、ということで話が終わってしまうかもし
 れません。そうなるのがたぷんいちばんいいのでしょうが。でも考えてみたら、物ごとは何ひと
 つ解決しちやいません。いくつもの疑問が残ったままになっています。それもいくつかの大きな
 疑問が。ですから、これからまだ何かが持ち上がりそうだという予感が私の中にはあるのです」

 「あの石室に関してということですか?」

  免色はしばらく窓の外に目をやっていた。それから言った。「どんなことが持ち上がるのか、
 それは私にもわかりません。なんといっても、ただの予感に過ぎませんから」

  でももちろん免色の予感した――あるいは予言した――とおりだった。彼が言うように、その
 一日はただの始まりに過ぎなかったのだ

飛ばしたい衝動駆られるがここは我慢の序の口よ。

                                     この項つづく
 

  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

エネルギーフリー世界を語ろう。

2017年04月12日 | 環境工学システム論

 

 

            道はいまだ始めより封(ほう)あらず、言はいまだ始めより営あらず    

                言葉は絶対でない /「斉物論」(さいぶつろん)     

                                                

     ※ 「道」は、本来、無限定なものである。したがって、ことば(概念)による区分も、
     一時的な区分にすぎない。にもかかわらず、ことば(概念)を絶対視するからこそ、
          事物を差別視する観念が生ずるのである。以下、その差別観念について検討を加え
          よう。まず事物は、比較対訳されることによって左と右といった相対的な存在形式
          に「分類」される。この分類に基づいて「秩序」が立てられ、この秩序は必然的に
          「選択」と「競争」とを人間社会にもたらした。この「分類」と「秩序」と「選択」
          と「競争」こそ、人間が思考を通じて得た収穫なのであった。

         だからこそ聖人は、いっさいの現象をあるがままにまかせて、論じようとしない。
          事物の根元について、論じはするが、概念を用いて追究しようとはしない。また、
          古代の聖王たちの事蹟についても、事実をつまびらかにするだけで、是非を云々し
          ようとはしないのである。つまり、区別を立てないことが、真の区別なのであり、
          価値づけを行なわないことが、真の価値づけだといえる。区別を立てず、価値づけ
          を行なわぬとはどういうことか。いっさいをあるがままに受容する聖人のありかた
          がそれである。これに対して、一般の人々は、ことばを絶対視してたがいに是非を
          争いあう。つまり、ことばを絶対視するのは「道」を理解していない証拠なのであ
          る。

       ※ 「言葉は絶対でない」と言い切り「混沌」を「道」を無限定とし是とする。一切の
     宗門宗派を徹底否定する度量無限大の荘子、面白いではないか。

 

 

 AeroMobil: Flying car

● 自動車と飛行機の融合 今年エアロモビル社より販売開始

今月10日、1960年代から空陸両用車の飛行を待っていたが、今年は実用的な現実となる予定とか。
未来の飛行機の搭乗準備が完了したと公表。実際には数ヶ月で1台購入できる。 同社は来週モナコで
車/飛行機ハイブリッドの最新作を展示し、今年後半からの受注予定。同社によると「AeroMobil」は
完全統合型の航空機の四輪車であり、ハイブリッド推進力を使用。これまでのところ、未来の車にど
の程度の費用なのあ不詳であるが、価格逓減を模索中ではあるが必ず実現させる。また 「AeroMobil」
は、中距離旅行や道路インフラが限定され/あるいはない地域でのドアツードア旅行を大幅に高速化
でき、個人輸送の効率的/環境保全の双方の実現を目指すと関係者は語っている(上下図参照)。


       

【RE100倶楽部:オールソーラー篇】

● 変換効率50%超 新型太陽電池構造

今月7日、神戸大学工学研究科電気電子工学専攻の喜多隆教授と朝日重雄特命助教らの研究グループ
は、これまでにない新しい太陽電池セル構造を提案し、従来はセルを透過して損失となっていた波長
の長い太陽光のスペクトル成分を吸収して変換効率を50%以上にまで引き上げることができる技術
を開発したことを公表。

従来の単接合太陽電池の変換効率の理論限界は30%程度であり、入射する太陽光エネルギーの大半が
太陽電池セルに吸収されずに透過するか、あるいは光子の余剰エネルギーが熱になるなどして利用さ
できない。このような大きな損失を抑制して変換効率限界を引き上げることができる様々な太陽電池
セル構造の提案・実証が世界中で精力的に行われている。現在のワールドレコードは4接合太陽電池
で46%。太陽電池の変換効率が50%を超えると発電コストは大幅に下がり、30年にわが国が目
標とする発電コスト7円/kWhが実現できる。



♘ Nature Communications 8, Article number: 14962 (2017) doi:10.1038/ncomms14962, Published online:06
  April 2017♞

● 二段フォトンアップコンバージョン太陽電池(TPU-SC)の概念

ここで、TPU-SCの概念を示すヘテロ界面を有する単純な構造を提案する。 ここで、TPUは、バンドギ
ャップ内に1つのIBの代わりにⅢI-V半導体の異なるバンドギャップを含むヘテロ界面で効果的に実
現される。上図1a、bは、 p + -GaAs(001)基板上のn-Al 0.3 Ga 0.7 As / Al 0.3 Ga 0.7 As / GaAs / p-GaAs
ダイオード構造を有するTPU-SCの概略バンド図を示す。 TPU効率を改善するために、Al 0.3 Ga 0.7 As
層の直下に、10nmGaAsでキャップされた単一のInAs QDを挿入した。 詳細なデバイス構造につい
ては、「方法」セクションで説明される。 ここで、太陽光は、n-Al 0.3 Ga 0.7 As側(図1aの左側)に
照射される。 高エネルギー光子はAl 0.3 Ga 0.7 As層に吸収され、励起された電子と正孔はそれぞれ
n-Al 0.3 Ga 0.7 Asp-GaAsに向かって反対方向にドリフトする。 励起された電子は捕獲されることなく
n-Al 0.3 Ga 0.7 As層に到達する。 Al 0.3 Ga 0.7 AsGaAsとの間の約 170meVVB不連続は、ヘテロ界面
で生じるエネルギー損失に対応する。 この損失は、SC構造を最適化するときに注意深く設計する必要
があるす。 Al 0.3 Ga 0.7 Assを通過するギャップ以下の光子は、InAs QDおよびGaAsを励起する。 励
起されたGaAsの電子と正孔は、内部電場の方向が逆転する。 励起された正孔はp-GaAsコンタクト層に
到達することができるが、電子はAl 0.3 Ga 0.7 As / GaAs界面に蓄積される。 また、同様の空間キャリア
分離が、InAs量子ドット内の光励起キャリアに対して生じる。 ヘテロ界面に蓄積された電子は、正孔
から分離され、寿命が長くなることが予想され、場合によっては数ミリ秒のオーダーである場合もあ
る 。 長寿命電子は、GaAsのためのギャップ以下の光子の吸収強度を改善し、Al 0.3 Ga 0.7 As障壁の
中に効率的に上方にポンピングされる。上図2に示すように、 図1bに示すように 、TPU-SCの出力
電力は、Al 0.3 Ga 0.7Asの電子に対する準フェルミ準位のギャップとGaAsのホールの動作状態のギャッ
プに対応する

● 太陽電池の製造

TPU-SCは、基板上に固体ソース分子線エピタキシーを用いてp+-GaAs(001)を作製する。図9に詳細な
構造に示す(下図) 。厚さ150nmpGaAsを(BE2×10 18 cm-3)層を400nmの厚さの上に成長した
p + -GaAs(BE:1×10 19 cm-3)バッファ層基板で、基板温度は550°Cで赤外線高温計でモニタリング。その
後、構造のAl0.3Ga 0.7i層(250 nm)と/ GaAs層の(10 nm)/InAs量子ドット/ GaAs1,140nm)を堆積。
InAsの公称厚さは0.64nm(単層)。QDの典型的な高さと幅は、それぞれ、3~20nmであり、QD密度は
1.0×10 cm-3InAs量子ドットの成膜前の基板温度は550℃で。InAs量子ドットとキャッピング層後続
厚さのGaAs10nmを成長させる。薄いGaAsキャッピング層は、InAs量子ドットの光学的品質維持し、
490℃Al0.3Ga 0.7i層を最適増殖温度より低い490°Cで成長される。最後に、n+ -GaAsシリコン(Si:2.5×1
0 18cm-3
)、n + -Al 0.3Ga 0.7シリコン(Si:2.5×10 cm-3)、及びn + -Al 0.3Ga 0.7シリコン(Si1×1017 cm-3
層は、500℃温度でSC構造上で成長させる。同様のビーム等価圧力フラックスは1.15×10-3 Paとした後
金属Au / Au-GeとAu / Au-Zn系接点はそれぞれ、上面/下面に作製。SCの大きさは4×4mmであっる。本
研究で用いたSC構造を示す理論的研究では、高変換効率を得るために最適調整したものではない(図
8参照)。しかし、SCの特性上の基本的なTPUの効果実証に作製しものである。さらに、各層の厚さ及
びドーピング濃度の最適化などの調整開発、並びに窓層及び反射防止コーティングの導入は、最高実
績を得るために必要な残件事項である。
 

同上研究グループは、大きな透過損失を効果的に抑制するため、異なるバンドギャップの半導体から
なるヘテロ界面の太陽電池を透過するエネルギーの小さな2つの光子を用い、光電流を生成する新し
い太陽電池セル構造を開発。変換効率が最大で63%となる理論予測結果を示すとともに、この太陽
電池セルのユニークなメカニズムである2光子によるアップコンバージョン(エネルギー昇圧)の実
験実証に成功。実証された損失抑制効果は、これまでの中間バンドを利用した方法に比べて百倍以上
にも達しており、その有効性が明らかにする。今後、最適な材料を利用した太陽電池セル構造の設計
を進め、変換効率に係る性能評価を進めることで、発電コストを大幅に引き下げることができる新し
い超高効率太陽電池としての応用が期待されている。

  Apr. 7, 2017

※ 参考:「特集|中間バンド型量子ドット太陽電池」(環境工学研究所 WEEFオールソーラシステム Code
       No.20130306_01
※ 特開2015-228413  高変換効率太陽電池およびその調製方法 国立大学法人神戸大学 2015年12月17日


【RE100倶楽部:オールソーラー篇】

● カーボンナノチューブ空気電池リチウム電池 リチウムイオン電池の15倍

 今月5日、物質・材料研究機構 (NIMS) の研究チームは、リチウム空気電池の空気極材料にカーボン
ナノチューブ (CNT) を採用することで、従来のリチウムイオン電池の15倍に相当する極めて高い蓄
電容量を実現したことを公表。蓄電池は、電気自動車用電源として、あるいは太陽電池と組み合わせ
た家庭用分散電源として欠かせないが、現状のリチウムイオン電池は、小型で高電圧、長寿命という
優れた特性にもかかわらず、蓄電容量に相当するエネルギー密度がほぼ限界に達している。この壁を
突破する切り札としてリチウム空気電池がある。リチウム空気電池は二次電池の中で最高の理論エネ
ルギー密度を有する「究極の二次電池」であり、蓄電容量の劇的な向上と大幅なコストダウンが期待
されているが、従来の研究は少量の材料で電池反応を調べる基礎研究が中心であり、実際のセル形状
において巨大容量を実証した例がなかった。


今回、同研究チームでは、現実的なセル形状において、単位面積当たりの蓄電容量として30 mAh/cm2
という極めて高い値を実現。この値は、従来のリチウムイオン電池 (2 mAh/cm2 程度) の15倍に相
当するものです。この成果は、空気極材料にカーボンナノチューブを用い、空気極の微細構造などを
最適化することによって得られた。巨大容量の実現には、カーボンナノチューブの大きな表面積と柔
軟な構造が寄与していると考えている。また、このような巨大容量が得られたという事実は、従来の
考え方では説明が困難であり、リチウム空気電池の反応機構の議論にも一石を投ずる可能性があると
する。今後、この成果を活用し、実用的なレベルでの真に高容量なリチウム空気電池システムの開発
を目指し、セルを積層したスタックの高エネルギー密度化、さらには空気から不純物を取り除くとい
った研究にも取り組んでいく。

 

  Mar. 11, 2017

【RE100倶楽部:オールソーラー篇】

● 上海に人口2千4百分の食糧を養う垂直型都市農園構想


国際建築会社の佐々木氏は、上海の急上昇するスカイサーフの中で、壮大な100ヘクタールの都市農場
計画を発表。このプロジェクトは、都市農業の世界における革新、交流、教育の中心地として機能し
ながら、約2,400万人の人々の食糧需要に対応する巨大農業研究所である。

Sunqiao Urban Agricultural District(サンチャオ都市農業市街区)は、、都市の多くの塔の間にうまく収ま
る垂直農場で構成さ、光沢のある金属とガラスの街並みに調和した緑色を加える。不動産価格が垂直
的な建物をより手頃な価格な上海のような都市では、都市の農場のレイアウトは、藻場の養殖場、浮
遊温室、垂直の壁、さらには種子図書館など、さまざまな舞台有す各々の建物でカウントされ、プロ
ジェクトに水耕栽培システムと水生生物システムなどの異なる農法が組み込まれている。

マスタープランは教育だけでなく大規模な食糧の生産供給するように設計。 Sunqiaoは持続可能な農
業を都市の成長にとって重要要素として位置づ、このアプローチは、より持続可能な食糧ネットワー
クを積極支援しながら、レストラン、市場、料理アカデミー、コミュニティプログラムを通じて、都
市生活の質を向上させ、都市が拡大し続けるにつれて、都市と田舎の間の二分法に挑戦しなければな
らない。 サンチャオはそのための実証プランであると佐々木氏は話す。

そうか、そうなんだ。時代はすっかり"エネルギーフリー世界を語ろう。" なんだ。ここは突っ走しる
しかない。

  Mar. 20, 2017

 

  ● 今夜の一曲

ダイアナ・クラール(本名:ダイアナ・ジェーン・クラール(Diana Jean Krall), 1964年11月16日 - )
は、カナダ出身の女性ジャズ・ピアニスト、歌手。
1990年代以降に最も成功したジャズ歌手の一人と
して、1999年から5度のグラミー賞を獲得。夫はミュージシャン エルヴィス・コステロ。「ならず者
」(ならずもの、Desperado)は、イーグルスが1973年に発表した同名セカンドアルバムのタイトル。
トラック。リンダ・ロンシュタットをはじめ、カーペンターズが1975年にカヴァーするなど後に数々
のアーティストによってカヴァーされ、映画やテレビなどにも頻繁に使われる楽曲となる。歌詞は、
当時266歳のドン・ヘンリーが友人へ綴った、内省的なものに仕上がっている。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

使い捨て傘にもデジタル革命

2017年04月10日 | 環境工学システム論

 

                 天地は一指なり、万物は一馬なり    / 「斉物論」(さいぶつろん)                                        

                                               

          ※ 名(指)と実(物)との関係は、名が仮の指示にすぎず、実と必ず
            しも適合するものではない。また、万物の同異は見る者の視点によ
            って変わると(論理学者公孫竜一派が)言って批判するが、一本の
            指も、
天地であり、一頭の馬も万物なのである。このように「斉物
            論」は
「物を齊(ひと)しくする論」という意味で、あれだこれだ
                       という差別観を超えて万物は齊しいと説く。
 

 

【RE100倶楽部:マテリアルイノベーション篇】

● 耐熱性能を誇る無酸素銅条

今月3日、古河電気工業株式会社が、パワーモジュール用基板やその周辺部材の材料として、世界ト
ップレベルの耐熱性能を誇る無酸素銅条「GOFC」の開発に成功し、既にサンプル出荷を開始してお
り、2020年度に50 ton/月の生産計画を発表。再生可能エネルギー関連技術革新にともなう需要に応じ
る。地味な事業分野であるが、半導体が「産業の米」と同様に次世代のなくてはならない事業だ。

ハイブリッドや電気自動車などの次世代自動車や、風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギー
の技術革新に伴い、自動車モーター制御や電力変換等を行うパワーモジュールは高出力化、高性能化
が進んでいる。
こうした中、熱的・電気的負荷が急速に増大しているパワーモジュール用基板や周辺
部材に用いられる材料には、❶高い導電性や❷熱伝導性、さらに❸放熱性の要求から無酸素銅条C
1020R:JIS H 3100:銅及び銅合金の板並びに条
)が使用される。
一般的な無酸素銅条(C1020R)は パ
ワーモジュール製造時の熱処理過程にて、結晶粒の粗大化が起こり、次工程のボンディングや他の部
品との接合工程で様々な支障が発生する。なお、ここで、条とはコイル状に巻かれた形状の製品をさ
す。

同社は、無酸素銅条(C1020R)をベースとして、その成分規格を変えずに独自の組織制御技術を応用
し、高熱を加えても結晶粒が粗大化しにくい無酸素銅条「GOFC」(Grain Growth Control Oxygen Free
Copper
)の量産化技術を確立する。この
製品は、従来の一般的な無酸素銅条が500℃以上の熱処理で
急激に結晶粒が粗大化するところを、800℃まで結晶粒が小さいまま抑制できる つまり状態変化しな
い(下図1,22)。今後、板厚0.3~1.0mm の条製品もラインナップ拡充する方針。
既に絶縁基板の
接合材の用途向けにサンプル出荷を開始しており、今後、幅広いユーザーへ「GOFC」の拡販を進め
ることで、高温における形状や外観変化のトラブル対応、また、パワーモジュールの高機能化貢献す
るとのこと。
 

    

 読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅰ部』    
 

    11.月光がそこにあるすべてをきれいに照らしていた 

  軽い昼食をとったあと、私は仕事用の服に着替え(要するに汚れてもいいような服装というだ
 けのことだが)、スタジオに入って免色渉の肖像を描く仕事にもうコ皮とりかかった。それがた
 とえどんな仕事であれ、とにかく手を休みなく勤かしていたいという気持ちに私はなっていた。
 誰かが挟い場所に閉じ込められて救助を求めているというイメージから、それがもたらす慢性的
 な息苦しさから、少しでも遠ざかりたかった。そのためには絵を描くしかない。しかしもう鉛筆
 とスケッチブックは使わないことにした。そんなものではたぶん彼に立だない。私は絵の具と絵
 筆を用意して直接キャンバスに向かい、その空白の奥を見つめながら、免色渉という一人の人物
 に意識を集中した。背骨をまっすぐ伸ばし、集中力を高め、余分な考えを可能な限り意識から削
 ぎ落とした。

  山の上の白い屋敷に往む、若々しい目をした白髪の男。彼はほとんどの時間を家にこもって暮
 らし、「間かすの間」(らしきもの)を持ち、四台の英国車を所有している。その男がうちにや
 っ
てきて、私の前でどのように身体を勣かし、どのような表情を顔に浮かべ、どのような口調で
 何
を語ったか、どのような目でどんなものを見ていたか、彼の両手がどのように動いたか、私は
 そ
れらの記憶をひとつひとつ呼び起こしていった。少し時間はかかったけれど、彼に間する様々
 
細かい断片が、私の中で少しずつひとつに結びついていった。そうするうちに免色という人間
 が
私の意識の中で立体的に、有機的に再構成されていく感触があった。

  そうやって立ち上がった免色のイメージを、私は下描きなしでそのままキャンバスの上に、小
 ぷりな絵筆を使って移し替えていった。そのとき私の順に浮かんだ免色は、左斜め前方に順を向
 
けていた。そしてその目は僅かにこちらに向けられていた。それ以外の顔の角度は私にはなぜか
 思いつけなかった。私にとってはそれこそがまさに免色渉という人間なのだ。披は左斜め前方に
 顔を向けていなくてはならない。そしてその両目は僅かに私の方に向けられていなくてはならな
 い。彼は私の姿を視野に収めている。それ以外に正しく彼を描く構図はあり得ない。

  私は少し離れたところから、自分かキャンバスにほとんど一筆書きのように描いたシンプルな
 構図をしばらく眺めた。それはまだただのかりそめの線画に過ぎなかったけれど、私はその輪郭
 にひとつの生命体の萌芽のようなものを感じ取ることができた。それを源として自然に膨らんで
 いくはずのものが、おそらくそこにはある。何かが手を伸ばして――それはいったい何だろう?
 ――私の中にある隠されたスイッチをオンにしたようだった。私の内部、奥深いところで長く眠
 
り込んでいた動物がようやく正しい季節の到来を認め、覚醒に向かいつつあるような、そんな漠
 然とした感覚があった。

 私は洗い場で絵筆から絵の具を落とし、オイルと石けんで手を洗った。急ぐことはない。今日の
 ところはこれだけで十分だ。これ以上は急いで作業を進めない方がいい。免色氏が次にここに来
 たとき、実物の披を前にして、ここにある輪郭に肉付けをしていけばいいのだ。私はそう思った。
 この絵はおそらく、私がこれまで描いてきた肖像画とはずいぶん違った成り立ちのものになるだ

  不思議だ、と私は思った。
  免色渉はなぜそのことを知っていたのだろう?

  その日の真夜中に、私はまた昨夜と同じようにはっと覚醒した。枕元の時計は一時四十六分を
 示していた。昨夜目が覚めたのとほとんど同じ時刻だ。私はベッドの上に身を起こし、暗闇の中
 で耳を澄ませた。虫の声は聞こえなかった。あたりは静まりかえっている。まるで深い海の底に
 いるみたいに。すべては昨夜の繰り返しだった。ただ窓の外は真っ暗だった。そこだけが昨夜と
 は追っている。厚い雲が空を覆い、満月に近い秋の月をぴったり隠していた。

  あたりには完全な静寂が満ちていた。いや、追う。もちろんそうじゃない。その静寂は完全な
 ものではない。息を殺して耳を澄ませていると、その厚い沈黙をかいくぐるように微かな鈴の音
 が聞こえてきた。誰かが夜の闇の中で、鈴のようなものを鳴らしているのだ。昨夜と同じように、
 切れ切れに断続的に。そしてその音がどこから聞こえてくるのか、私にはもうわかっていた。雑
 木林の中の、あの石の塚の下だ。あえて確かめる必要もない。私にわからないのは、誰が何のた
 めにその鈴を鳴らしているかということだった。私はベッドを出てテラスに出た。

  風はなかったが、細かい雨が降り始めていた。目には映らず、音もなく地表を儒らす雨だ。免
 色氏の屋敷の明かりが灯っていた。谷間を隔てたこちらから、家の中の様子まではわからないが、
 彼は今夜まだ目覚めているようだった。こんな遅い時刻に明かりがついているのは珍しいことだ
 った。私は小糠雨に濡れながらその灯を見つめ、微かな鈴の音に耳を澄ませた。

  やがて雨が少し強くなってきたので、私は家の中に戻り、うまく眠れないまま居間のソファに
 腰を下ろし、読みかけていた本のページを操った。決して読みづらい本ではないのだが、どれだ
 け集中してもその内容はなかなか頭に入らなかった。ただ単に行から行へと字を追っているだけ
 だ。しかしそれでも、何もしないでただその鈴の音を聞かされているよりはましだった。もちろ
 ん大きな音で音楽をかけて、その音が聞こえないようにすることもできたが、そうする気にはな
 れなかった。私はそれを聴かないわけにはいかないのだ。なぜなら、それは私に向けて鳴らされ
 ている音だからだ。私にはそのことがわかっていた。そしてその音は、秋がそれについて何か手
 を打たない限り、おそらくいつまでも鳴り止まないだろう。そして毎晩私を息苦しくさせ、私か
 ら安らかな眠りを奪い続けることだろう。

  何かをしなくてはならないのだ。何らかの手を打って、私はその音を止めなくてはならない
  そしてそのためにはまずその音の――つまり送られてくる信号の――意味と目的を理解しなく
 てはならない。誰が何のために私に、わけのわからない場所から夜ごとに信号を送ってくるのだ
 ろう? しかし何かを系統立てて考えるには、あまりに息苦しかったし、頭が混乱していた。自
 分一人だけでは処理しきれない。誰かに相談をする必要があった。そして今、私が相談するべき
 相手として思いつける人物はただ一人しかいなかった。

  私はもう一度テラスに出て免色氏の屋敷の方に目をやった。家の明かりは既に消えての屋敷が
 あるあたりには、小さな庭園灯がいくつかともっているだけだった。
  鈴の音が止んだのは午前二時二十九分、昨夜とほとんど同じ時刻だ。鈴の音が止んでしばらく
 すると、虫たちの声がそろそろ互戻ってきた。そして秋の夜はまるで何ごともなかったように、
 その賑やかな自然の合唱で再び満たされた。すべてが同じ順序でおこなわれた

  私はベッドに入って、虫の声を聞きながら眠りについた。心は乱されていたが、昨夜と同じよ
 うに眠りはすぐに訪れた。やはり夢のない深い眠りだった

 Portrait of the Postman Joseph Roulin

   12.あの名もなき郵便配達夫のように

  朝の早い時間に雨が降り、十時前に止んだ。そのあと少しずつ青空が顔を見せ始めた。海から
 の湿った風が雲をゆっくり北へと運んでいた。そして午後一時ぴったりに、免色が私のところに
 やってきた。ラジオの時報が時を告げるのと、玄関のドアベルが鳴るのがほぼ同時だった。時刻
 に正確な人は少なくないが、そこまで精密な人はなかなかいない。それも戸口の前でその時刻が
 来るのをじっと待ち受け、腕時計の秒針に合わせてベルを鳴らすわけではない。坂道を上ってき
 て車をいつもの位置に駐め、いつもと同じ歩調と歩幅で玄関までやってきてドアベルを押すと、

  それと同時にラジオの時報が時を告げるのだ。ただ驚嘆するしかない。

  私は彼をスタジオに案内し、前と同じ食堂椅子に座らせた。そしてリヒアルト・シュトラウス
 『薔薇の騎士』のLPをターンテーブルに載せ、針を落とした。この前聴き終えたところからの
 続きだ。すべての手順は前と同じ繰り返したった。ただひとつ異なっていたのは、今回は飲み物
 を勧めなかったことと、彼にモデルとしてのポーズをとってもらったことだった。椅子に腰掛け
 たまま左斜め前方を向くこと。そして目だけを僅かに私の方に向けること。それが今回私か彼に
 
要求したことだった。

  彼は私の指示に速んで従ってくれたが、その位置と姿勢がぴたりと決まるまでにかなり時間を
 要した。微妙な角度や、視線の雰囲気が私の求めているものとなかなかぴったり合致しなかった
 からだ。光線の当たり具合も私のイメージに沿ったものではなかった。私は普段はモデルを使わ
 ないけれど、いったん使い始めると、多くのことを要求する傾向がある。しかし免色は私の出す
 面倒な注文に辛抱強くつきあってくれた。嫌な顔もせず、文句ひとつ口にしなかった。様々な種
 類の苦行を与えられ、それに耐えることに精通した人物のように見えた。

  ようやく位置と姿勢が決まると、私は言った。「申し訳ありませんが、できるだけそのまま動
 かないようにして下さい」

  免色は何も言わず目だけで肯いた。

  「なるべく短い時間で終えるようにします。少しつらいかもしれませんが、我慢して下さい」
  免色はもう一度目だけで肯いた。そしてそのまま視線を動かさず、身体も動かさなかった。文
 字どおり筋肉ひとつ動かさなかった。さすがにときおり瞬きはしたものの、呼吸をしている気配
 さえ表には見せなかった。まるでリアルな彫刻のように彼はそこにじっとしていた。感心しない
 わけにはいかなかった。プロの線のモデルだってなかなかそこまではできない。

  免色が我慢強く椅子の上でそのポーズをとり続けているあいだ、私の方はキャンバスの上での
 作業をできる限り迅速に手際よく速めた。意識を集中して彼の姿を目で測り、そのイメージが私
 の直観に命じるままに絵筆を動かした。真っ白なキャンバスの上に黒い線の具を使って、一本の
 細い絵筆の線だけで、既にできている顔の輪郭に必要な肉付けを加えていった。絵筆を持ち替え
 ている暇はない。限られた時間のうちに彼の顔かたちの諸要素を、ありのままに画像として取り
 込んでいかなくてはならない。そしてある時点からその作業は、ほとんどオート・パイロット的
 なものに変わっていった。意識をバイパスして目の動きと于の動きを直結させる、それが大事な
 ことになる。視野で捉えたものをいちいち意識でプロセスしている余裕はない。
 
  それは、私がそれまでに描いてきた――記憶と写真だけを用いて自分のペースで悠々と「営業
 品目」として描いてきた――数多くの肖像画とはずいぶん異なった種類の作業を私に要求してい
 た。十五分ほどかけて、私は胸から上の彼の姿をキャンバスの上に描き上げた。まだまだ未完成
 な租い下絵ではあるけれど、少なくともそれは生貪慾を持った形象になっていた。そしてその形
 象は免色渉という人物の存在慾を生み出す、内的な勤きのようなものを掬い取り、捉えていた。
 しかしそれは人作図でいえば、骨格と筋肉だけの状態だ。内部だけが大胆に剥き出しになってい
 る。そこに具体的な肉と皮膚をかぶせていかなくてはならない。

 「ありがとう。どうもお疲れ様でした」と私は言った。「もうけっこうです。今日の作業は終わ
 りました。あとは楽にしてください」
  免色は微笑んで姿勢を崩した。両手を上に大きく仲ばし、深呼吸をした。それから緊張させて
 いた顔の筋肉を緩めるために、両手の指でゆっくりマッサージした。私はそのまましばら玉屑で
 大きく息をしていた。呼吸を整えるのに時間がかかった。まるで短距離走を走り終えたあとのラ
 ンナーのように私は疲弊していた。妥協の余地のない集中と速度――それは私がずいぶん久方ぶ
 りに要求されたものだった。私は長いおいた眠っていた筋肉を叩き起こし、フル稼働させなくて
 はならなかった。疲れはしたが、そこにはある種の物理的な心地よさがあった。

 「おっしやるとおりだ。絵のモデルをつとめるというのは、たしかに予想していたよりも厳しい
 労働です」と免色は言った。「絵に描かれていると思うと、なんだか自分の中身を少しずつ削り
 取られているような気がしますね」
 「削り取られたのではなく、そのぶんが別の場所に移植されたのだと考えるのが、芸術の世界に
 おける公式的な見解です」と私は言った。
 「より永続的な場所に移植されたということですか?」
 「もちろん、それが芸術作品と呼ばれる資格を持つものであればということですが」
 「たとえばファン・ゴッホの絵の中に生き続ける、あの名もなき郵便配達夫のように?」
 「そのとおりです」
 「彼はきっと思いもしなかったでしょうね。百数十年後に、世界中の数多くの人々が美術館まで
 わざわざ足を運び、あるいは美術書を間いて、そこに描かれた自分の姿を真剣な眼差しで見つめ

 ることになるだろうなんて」
 「まず間違いなく、思いもしなかったでしょうね」
 「みすぼらしい田舎の台所の片隅で、どう見てもあまりまともとは思えない男の手によって描か
 れた、風変わりな絵に過ぎなかったのに」

  私は肯いた。

 「なんだか不思議な気がするな」と免色は言った。「それ自体では永続する資格を持たないもの
 が、ある偶然の出会いによって、結果的にそのような資格を身につけていくということが」
 「ごく希にしか起こらないことですが」

  そして私はふと『騎士団長殺し』の絵のことを思い出した。あの絵の中で刺殺されている「騎

 士団長」も、雨田典彦の手によって永続する命を身につけることができたのだろうか? そして
 騎士団長とはそもそも何ものなのだろう?
  私は免色にコーヒーを勧めた。いただきたいと彼は言った。私は台所に行ってコーヒーメーカ
 ーで新しいコーヒーを作った。免色はスタジオの椅子に座って、オペラの続きに耳を澄ませてい
 た。レコードのB画が終わる頃にコーヒーができあがって、我々は居間に移ってコーヒーを飲ん
 だ。
 「どうですか? 私の肖像画はうまくできあがりそうですか?」と免色はコーヒーを上品にすす
 りながら尋ねた。
 「まだわかりません」と私は正直に言った。「なんとも言えません。うまくいくものかどうか、
 自分でも見当がつかないんです。これまでぼくが描いてきた肖像画とは、描き方の手順がずいぶ
 ん道っていますから」
 「それはいつもと道って実際のモデルを使っているから、ということでしょうか?」と免色は尋
 ねた。
 「それもあるとは思いますが、それだけじやありません。ぼくにはなぜかもう、これまで仕事と
 して描いてきたコンヴェンショナルな形式の、いわゆる『肖像画』がうまく描けなくなってしま
 ったみたいです。だからそれに代わる手法や手順が必要とされています。しかしぼくにはまだそ
 の道筋が掴めていません。間の中を手探りで道んでいるような状態です」

  免色は私の目をまっすぐ見ながら言った。「しかしもし仮にその作品が完成しなかったとして
 も、私が何らかのかたちであなたの変化のお役に立てたのだとしたら、それは私にとって喜ばし
 いこです。本当に」
 「ところで、免色さん、実はあなたに折り入ってご相談したいことかあるんです」と私は少しあ
 とで思い切って切り出した。「緒のこととはまったく関係のない、個人的な話なんですが」
 「聞かせて下さい。私にお役に立てることであれば、喜んでお手伝いします」

  私はため息をついた。「ずいぶん奇妙な話なんです。一部始終を順序立ててわかりやすく説明
 することは、ぼくの言葉ではとても間に合わないかもしれません」
 「あなたの話しやすい順番でゆっくり話して下さい。そして二人で一緒に考えてみましょう。一
 人きりで考えるよりは良い智恵が浮かぶかもしれませんよ」

  私は最初から順番に話をしていった。夜中の二時前にはっと目が覚め、耳を澄ませると、夜の
 関の中から不思議な音が聞こえてきた。遠い小さな音だが、虫が鳴きやんでいたせいで微かに耳
 に届いた。誰かが鈴を鳴らしているような音だ。その音を辿っていくと、その出どころが家の裏
 手にある雑木林の中の、石の塚の隙間であるらしいことがわかった。不規則な沈黙をあいだに挟
 んで断続的に、その謎の音が四十五分ほど続き、やがてぴたりと止む。同じことが一昨日、昨日
 と二晩続いた。誰かがその石の下で鈴のようなものを鳴らしているのかもしれない。救助信号を
 送っているのかもしれない。しかしそんなことがあり得るだろうか? 自分か正気なのかどうか、
 それも今ひとつ自信が持てなくなっている。自分か耳にしているのはただの幻聴なのだろうか?

  免色はひとことも口を探むことなく、拡の話る話に耳を澄ませていた。拡が話し終えてもその
 まま黙り込んでいた。彼が真剣に拡の話に耳を傾け、その内容について深く考えを巡らせている
 ことは顔つきでわかった。
 「興味深い話です」と彼は少しあとで口を聞いた。そして軽く咳払いをした。「たしかにおっし
 やるように、普通ではないできごとみたいだ。そうですね……できればその鈴の音を、拡白身の
 耳で聞いてみたいのですが、今夜こちらにおうかがいしてもかまいませんか?」

  私は驚いて言った。「真夜中にわざわざここまで見えるのですか?」

 「もちろんです。私にもその鈴の音が聞こえれば、それはあなたの幻聴ではないということが証
 明されます。それが第一歩です。そしてもしそれが実在する音であるのなら、その出どころを二
 人であらためて探り当てましょう。それからどうすればいいかは、そのときにまた考えればいい」

 「もちろんそうですが―――
 「お邪魔でなければ、今夜の十二時半にこちらにうかがいます。それでよろしいでしょうか?」
 「もちろんぼくはかまいませんが、そこまで免色さんにしていただくのは――

  免色は感じの良い笑みを目もとに浮かべた。「気にすることはありません。あなたのお役に立
 てることは、私にとって何よりの喜びです。それに加えて私はもともと好奇心の強い人間です。
 その真夜中の鈴の音がいったい何を意味しているのか、もし誰かがその鈴を鳴らしているのだと
 したら、それは誰なのか、私としてもぜひその真相を知りたい。あなたはいかがですか?」
 「もちろんそう思いますが――」と私は言った。

  「それではそう決めましょう。今夜こちらにうかがいます。そして私にも少しばかり思い当たる
 ことがあります」
 「思い当たること?」
 「それについては、またあらためてお話ししましょう。念のために確かめなくてはなりませんか
 ら」
 
  免色はソフアから立ち上がり、背筋をまっすぐ伸ばし、右手を私の前に差し出した。私はそれ

 を握った。やはりしっかりとした強い握手だった。そして彼はいつもよりいくぶん幸福そうに見
 えた

                                     この項つづく

 

 

【ZW倶楽部:使い捨て傘にもデジタル革命】

突然雨に遭遇したときあなたはどうする?駅にあるいはコンビニに使い捨て状態になった傘さがし、
借用してその場を凌ぎますか? その時、多少なりとも良心の呵責が生まれるだろうか。そんなワン・
シーンに答える傘が登場する。 Bluetooth  対応のタイルアプリが装備されたスマートな傘である(上
写真ダブクリ参照)。このシステムは、スマートフォンを使って失われた傘を探し出し、再利用でき
る。それだけでない、将来的にはチョイ貸し設定でき、雨で困っている人にも貸せることも可能にで
きるだろう。勿論、借りたい人もスマートフォンで所有者と交信し了解しなければロックが掛かり、
傘が開けないというシステムがこの使い捨て傘に付加されるというわけだ。



それだけでない、このシステムと100%リサイクルシステム傘製造事業と融合さ、「ZW倶楽部」
に加入するこ
とで半永久的に雨傘を共有できると考えている。もっとも、雨傘文化が残っていればの
話だけれど、この記事の試算によると、
100ドル(およそ1万円)未満でできるとしている(詳し
くは上下写真参考)。参考までに、この「イチョウ」と呼ばれる傘は、破損した場合、リニューアブ
ルでき、リサイクルされたポリプロピレンから作られて、その構成パーツは交換可能なリサイクル傘
という説明である。




この傘販売事業が世界共有基準化されれば、映画『雨に歌えば』 は名シーンは 古き良き物語として
語られることになる。自転車・自動車・食品(食肉のDNAタグ化)・衣料品などの履歴と使途がス
マートフォンを介し、あらゆる生産、消費場面
でこれから起きていく。面白くもあり、恐ろしくもあ
る。
 

  ● 今夜の一曲 Singin' in the Rain

 

『雨に唄えば』は、米国ポピュラーソングおよびそれを主題歌にした1952年公開のミュージカル映画。
アーサー・フリード作詞、ナシオ・ハーブ・ブラウン作曲によるポピュラーソング。1929年公開のM
GM
作品『ハリウッド・レヴィユー』で用いられ、「ウクレレ・アイク」ことクリフ・エドワーズが
歌って以来のスタンダード・ナンバー。また『ザッツ・エンターテインメント』の冒頭でこの曲が紹
介されるなど、作詞者フリードが後に MGMミュージカルの名プロデューサーとして名をはせたこと
もあり、同社のミュージカル作品の象徴する曲となっている
 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする