(「上」の続き)
この「事件」のニュースは中国の華僑向け通信社「中国新聞社」が配信したもので、「新華網」(国営通信社のウェブサイト)が間を置かずに掲載しています(2005/10/20/11:06)。
大手ポータルの「新浪網」(SINA)だけでニュースサイトのあちこちに合計5本出ています。中国通信社の電子版である「中国新聞網」をはじめ、『重慶晨報』『光明日報』『新京報』などから転載したとされていますから、他の大手ポータルを含め中国国内の新聞やネット上で広範に報じられたことが予想されます。香港紙でも今朝(10月21日)の『香港文匯報』や『太陽報』が記事にしていました。
私がこのニュースを「事件」とカッコ付きにしたのは、事件の存在自体を確認できなかったことと、この記事が日本で発行されている『中文導報』をソースとしているからです。私は『中文導報』を報道媒体としてみていません。前科と言えるかどうかはともかく、昨年冬の李登輝氏来日直前には「A級戦犯の息子!」(2004/12/24)でも一枚噛んでいますし。「事件」が事実かどうかはともかく、『中文導報』の報道は信用していないということです。
それにしても「反日」気運を煽るという意味では極上の燃料ですねこれは。先日入手した『電車男』中文版で喩えれば、
「大人的吻来了━━━(゜∀゜)━━━!! 」
というところでしょうか。ああ大人のキスではありませんか。ともあれ「中国民間保釣連合会」や「愛国者同盟網」「反日貨聯盟網」など大手反日サイトの掲示板にはもうスレが立っています。
まず言えることは、珍獣・糞青の力では到底仕掛けられない規模の「キャンペーン」ということです。少なくともメディアの一部を支配している有力な政治勢力にしてはじめて可能なことでしょう。ひょっとしてこれは情報戦なのでしょうか!?
「事件」の信憑性が高ければ外交部-駐日中国大使館という筋で照会なり事実確認なりが行われるでしょう。『香港文匯報』(2005/10/21)の取材では外交部はまだ正式に動いていないようですが。
http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=GJ0510210003&cat=004GJ
まあ、何事かを期待しつつ続報待ち、ということで(笑)。
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さて、情報戦を仕掛けられたのかも知れない胡錦涛はといえば、10月12日に南京へ赴いて「第10回全国運動会」の開会式に出席した後、南京軍区及び江蘇省を視察しています。
ちょっと興味深いのですが、視察の順番は南京軍区(13日)→江蘇省(14日)ながら、報道された順序は逆転していて、江蘇省視察は当日の14日に早くも記事になっているのに対し、南京軍区視察の記事は1週間後の20日になってようやく報じられました。
江蘇省のトップである李源潮・省党委員会書記は共青団人脈でバリバリの胡錦涛派です。江蘇省といえば江沢民の牙城である上海市と隣り合わせ。そのうえ江沢民の故郷・楊州を管轄下に置いているのですから何かと気苦労も多いでしょう。胡錦涛は奮闘する子分をねぎらったものと思われます。
もちろんそれだけではなく、胡錦涛はここで「五中全会の精神を深く学び、実務においてもそれを徹底するように」という発言もしています。また、五中全会(党第16期第5次全体会議)で採択された「十一五」(第11次五カ年規画)の大筋は今後一定期間において中国の経済・社会発展の綱領的なものになるから、それに基づいてしっかるやるように、という趣旨の話をしています。
言うまでもなく、「五中全会」では胡錦涛の提唱する「科学的発展観」「調和社会の実現」が今後の基本方針として前面に打ち出され、「十一五」も均衡を重視するという方針でそれに呼応した内容となっています。要するに江沢民時代のイケイケ路線(GDP成長率信仰)を否定し、均衡重視という意味ではトウ小平の「先富論」を押し退けるものです。
トウ小平はともかく、胡錦涛が江沢民路線へのアンチテーゼともいえる「五中全会」や「十一五」を、江沢民がいまなお支配する上海市の隣(江蘇省)で談じていることに凄みを感じます。それとも嫌味でしょうか(笑)。いずれにせよ、江沢民派なり上海閥なりに対するデモンストレーションであることは確かです。
なお、胡錦涛はこの視察に陳至立・国務委員と李継耐・中央軍事委員を帯同しています。陳至立は経歴からみると上海との縁が濃く、人脈としては江沢民に近い筋のように思われます。李継耐はミサイル畑ですね。それ故か、2003年10月の中国初の有人宇宙船プロジェクトで責任者(総指揮)を務めています。江沢民に従って「神舟六号」の宇宙飛行士を出迎えた曹剛川・中央軍事委副主席(国防部長を兼任)の副官だった時期もあります。現在は軍総政治部主任を兼務。
李継耐についてはわかりませんが、陳至立を連れて上海市の隣に乗り込んだことも胡錦涛による江沢民への示威活動と言えなくもありません。
http://news.xinhuanet.com/politics/2005-10/14/content_3617701.htm
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でもより凄みを感じさせる行動はその前日、10月13日の南京軍区視察でしょう。軍権を握るポストの中央軍事委主席である胡錦涛はここで先代の江沢民を持ち上げつつ、翌日に江蘇省視察でやったように「五中全会」「十一五」の貫徹を強調しています。
「科学的発展観は我々が経済・社会の発展を推進する上で長期にわたり堅持しなければならない重要な指導思想だ。新世紀の新たな段階における国防・軍隊建設強化の重要な指導原則でもある」
という発言は、江沢民は引退したんだよ、これからは俺の考えでやるからそれに従え、という意味でしょう。「使命感・緊迫感を持って事に臨め」という久しく聞くことのなかった胡錦涛節も飛び出しています。
この日は李継耐のほか、王剛・中央弁公庁主任(中央書記処書記を兼任)を連れています。王剛は五中全会直前まで、胡錦涛の後継者と目される李克強(遼寧省党委書記)にポストを奪われるのではないかとみられていた人物で、胡錦涛とは因縁の相手ということになるかも知れません。江沢民派だという報道もありましたが、私にはわかりません。
例によって階級章などの一切ない軍服姿の胡錦涛が南京軍区の幹部と握手している写真が人民解放軍の機関紙『解放軍報』(2005/10/20)を飾り、それが「新華網」などに転載されています。このネタがまるまる1週間寝かされていた理由は不明です。
http://news.xinhuanet.com/mil/2005-10/20/content_3652115.htm
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なおこの記事に合わせるかのように、胡錦涛礼讃色の強い署名論評4本が『解放軍報』に掲載され、これまた「新華網」に転載されていまいす。
http://news.xinhuanet.com/mil/2005-10/20/content_3652342.htm
http://news.xinhuanet.com/mil/2005-10/20/content_3652435.htm
http://news.xinhuanet.com/mil/2005-10/20/content_3652447.htm
http://news.xinhuanet.com/mil/2005-10/20/content_3652459.htm
胡錦涛礼讃と書きましたが、むしろそれよりは、
「胡錦涛に服従しろ、党中央に服従しろ、中央軍事委に服従しろ」
……と畳み込んでいるような印象に近いといえるかも知れません。
畳み込まなければならない勢力が軍内部に存在している、ということでしょう。
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もう難癖の付け方が 警察嫌いのチンピラ 同然ですね。
(どうも支那人は「髪をつかんで引きずり回す」というフレーズが好き…
もとい、屈辱的扱いの極みの様です。)
これも「日本市民は悪くないよ、悪いのは小泉を始めとした日本政府だよ~」と
相変わらず徹底した政府と国民の不信感増強節なのが笑えます。
(今更そんな姑息な事しなくても日本人は政府を(以下自粛&冷笑))
大体、今の御時世にそんな事件が起ったら媚中な日本のマスコミがスルーする訳ないですよ。
逆に日本のマスコミには
「中国では、こんな報道がされてます! これも首相の参拝の所為なのでしょうか!?」
と大袈裟に報道して貰えれば、
媚中連中も”参拝の所為”の単語に許可するでしょうし、
いかがわしい湾曲報道ばかりする支那の隣片を、ひとつでも多く世間に残す事も出来ると思います。
(日本側の”脱・中国”への燃料投下になりそうですし(笑))
さて、週末が少しだけ楽しみになってきましたよ・・・。
つまし、党と軍の中央に地方の官と軍が従わなくなってきているって事ですかね?
地方の軍と官が癒着していて共通の利益の為に中央と対立が始まったと。
そろそろ鉄砲持ち出すかという段階になり始めているのかもしれません。
中央が押さえようとしても鉄砲実際に持っている連中がそっぽ向けば終わりですし。
御家人殿としては今後を期待というところでしょうか?
突拍子もなくこんなニュースが飛び込んで来たので私も驚いています。でも政争を仕掛けた一派がいるということなのでしょう。大体ストーリーがベタすぎます(笑)。ちゃんと読めば酔漢にブーイングして、留学生に付き添って派出所まで行ってくれた優しい日本人もいる訳ですが、この酔漢の振る舞いの前には全く目立たないでしょう。これを読んだ中国人の頭にまず浮かぶのは「小日本」ではなくストレートに「日本鬼子」だと思います。今回は対象を限定せず、日本+日本人に憎悪が向かうよう書かれた記事だと感じました。反響と続報次第ですが、可燃度の高い記事だと思います。それだけに政争の香りがするのです。
>>暇人さん
もちろん今後の展開に期待大です(笑)。真面目な話、「江沢民が宇宙飛行士を出迎えた」という記事が流れた時点で何かが始まっていたのかも知れません。江沢民が中央軍事委主席になったときは軍部に睨みのきくトウ小平という存在のお蔭で随分得をしたのではないかと思います。胡錦涛には後ろ盾がいません。中央に対する地方軍区の不服従はまだそれほど深刻ではないと思いますけど、県vs県レベルで武警同士、民兵同士が銃撃戦をやっているぐらいのことはあるかも知れませんね。まあ第一線の連中はオモチャを持っている訳ですから、その気があればまたガス田や尖閣付近に駆逐艦を繰り出すなどの示威活動があると思います。目下のところ、中央への忠誠度や現場の意識はそういったことや署名論評記事などで測る他はありません。消息筋を持たない素人の悲しさです。
及び腰ながら、一応外相会談延期(中止)などやったし、5年間トップの往来もないのに、全然効果ないどころか「この調子で10~30年やれば~」的なことを言われちゃってるのであった…
・小泉総理 中韓との関係改善には「10年から30年」
小泉総理大臣の靖国神社参拝でさらに悪化した日中・日韓関係について小泉総理は19日夜、記者団の質問に答え、両国と何の障害もなく対話を続けられる関係を作り上げるためには、10年から30年が必要だとの認識を示しました。
小泉総理大臣:「(Q.会談がキャンセルされては『対話』も進められないのでは)いや、これは十分、進められます。短期的な視点ではなくて、長期的に考えたほうが良い。(Q.長期的とは)10年、20年、30年」
また、「小泉総理自身の靖国参拝が、関係改善に向けた対話に影響を与えているのではないか」との質問に対し、「長期的には大きな問題ではない」と改めて靖国参拝の影響を否定しました。
http://www.tv-asahi.co.jp/ann/news/web/poli_news5.html?now=20051021123025
上海総領事館、反日、示威、民間活動、上海警方、抗議などを全部書き換えて「愛国者同盟網」をそのままにしていたのですが、不穏当な発言が含まれているそうです。
軍と中央政府の間になにかあるんでしょうか。
当時は、軍にわざとやらせてるかと思ってたんですが。
静かなのは本当にピンチだから、という気がしてなりません。
また、アメリカの対中姿勢の転換なんかもあるかもしれませんね。
だいぶおだやかで間接的ですが、徐々に中央アジアで締めつけている感じ。
おまけに、頼みの民主党が貿易赤字で騒いでますし。
どうなるんでしょうね~~
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20051021i206.htm
28日から30日まで3日間の日程で北朝鮮を公式訪問だって。留守しても大丈夫なんだぁ~。
感想は……露骨に怪しいですね。
この警官のノリはまさしく中国の公安です(笑)。
ちなみにですが、中国ではこの程度の話ならほぼ毎日のように報道されています。
勝手ながら次のエントリーで使わせて頂きました。中国はビビっていると思います。30年先に中共政権が存在するかどうかは知りませんが、「10年、20年、30年」という発言は次期首相候補を占う上でも興味深いものだと思います。
>>aquarellisuteさん
いつもお疲れ様です。やっぱり毛沢東語録から引用しないとダメでしょうか?(笑)
ちなみに以下の記事は飯島秘書官の部分が燃料に使えそうです。参考までに。
http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=HKK&PG=STORY&NGID=poli&NWID=2005061301000981
>>書生さん
私は軍部のことはよくわからないのですが、江沢民を意識した部分と、暴発されては困ると釘を刺した意味合いがあるのかも知れません。尖閣諸島も南京軍区の管轄ではないかと思いますし。あと台湾融和政策が主流ではありますが、武力侵攻への備えはまず怠らないと思います。だから南京軍区からの兵力抽出はまずないのでは?
>>kyouji
私見ですが、領海侵犯と反日暴動は軍部の中でも劉亞洲のような過激派が特に関与していたのではないかと思います。呉儀事件以降は軍部でも過激派ではなく主流派が胡錦涛を掌握してしまったようにみえます。
>>ひるこさん
そういえば趙紫陽元総書記、北朝鮮訪問で肝心な時期に北京を離れていたことが失脚の引き金になりましたね。胡錦涛倒閣という動きがあるなら、私は温家宝が怪しいと思います(笑)。
>>まかぼろさん
怪しいというかベタすぎます(笑)。でもこの記事が中国国内メディアで広く流れたというのは、胡錦涛の現在の統制力をみる上で参考になるかと思います。例の江沢民記事もまた然り。
>>名無しさん
中国は李登輝訪米では反発していますが、日本にしたような恫喝は控えているようです。それより李登輝氏が日本を訪問したいとまた言い出したようですね。実現すればナイスな展開です。そういえばもうノービザですから中国もどう反応するのでしょうか。
少し古いエントリーですが、覚えていたので。
実際にあった事件だったんですね…
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