(「中」の続き)
「走れば走るほど『割拠』」
という主題は何やら語り尽くして余談にまで走ってしまったようですが、私としてはいま現在の話をしたいがためにこのテーマを持ってきました。まだ終わっていません(笑)。
「割拠」の中国経済に対する影響、具体的には「割拠」が中央によるマクロコントロールを機能不全に陥れる、といったことについてです。中央は最近になって経済の引き締め政策の強化を打ち出しました。
「経済過熱にならぬよう注意しつつソフトランディングを」
と4年前にはいわれていたのが、現在では「経済過熱」はほぼ認知されていて、それよりもインフレ防止に全力を挙げようという話になっています。中国国内メディアの報道に接していると、
「温和なインフレ」
「明確なインフレ」
「全面的なインフレ」
などインフレにしても諸段階があるようで、いま現在は中国が「温和なインフレ」状態にあることが半ば認められつつそれをどう手当てするか、また「全面的なインフレ」に悪化する可能性はあるのか、といった議論が交わされている模様です。
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ざっくりした言い方をすれば、中国経済は改革開放政策が本格化して以来、5年前後の周期で成長路線を突っ走っては経済過熱が発生してそれを引き締め政策で押さえ込む、といったことが行われてきました。「放」(経済再加速)と「収」(経済引き締め)の繰り返しです。
いまの段階は「収」に転じたところでしょう。難しい言葉はわかりませんが、おカネが市中に出回り過ぎて株や不動産への投機などが流行していて、それが過熱して変な展開になると政権基盤すら揺るがしかねないので、中央は今年に入ってから利上げを何度か行ってきました。それでもカネ余り対策としての効果があまりみられないので、今度はさらに銀行融資にも厳しい規制を加えることになっているようです。
●不動産投資も加速 1-11月32%増加 中国国家統計局(FujiSankei Business i. 2007/12/15)
http://www.business-i.jp/news/china-page/news/200712150027a.nwc
中国国家統計局が14日発表した今年1~11月の都市部固定資産投資統計によると、不動産開発投資は2兆1632億元(約33兆円)となり、前年同期比31.8%増加した。増加率は1~10月の同31.4%を上回った。
中国政府は、景気過熱とインフレを抑制する「2つの防止」を当面の最優先課題に設定。勢いが止まらない不動産ブームを受けて、融資の総量規制の徹底、金融の一段の引き締めに乗り出す方針だ。
1~11月の固定資産投資は、全体では10兆605億元(約153兆7200億円)で同26.8%の増加した。このうち中央政府管轄のプロジェクト(金額ベース)は同12.8%の伸びにとどまったが、地方政府分は同28.6%の高い伸びを記録した。(北京/時事)
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●最悪の展開に近づきつつある中国経済(サーチナ 2007/12/27/16:53)
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2007&d=1227&f=column_1227_004.shtml
12月25日付けのフジサンケイビジネスアイは、中国金融当局が、金融引き締め策として厳しい融資規制を実施した結果、資金繰りなどに支障が生じる日系企業が相次いでいると報じています。記事は、日本貿易振興機構(ジェトロ)広州事務所への取材をもとにしているようで、資金調達面で影響を受けた日系メーカーは広州で2~3割に達したとしています。
中国政府は、10月16日に開かれた共産党大会の金融代表団会合で、商業銀行に対する融資の窓口指導を拡大する方針を示しています。窓口指導とは、金融当局が市中の金融機関に融資金額を指導するものです。中国の場合、不動産や鉄鋼などで設備投資の過熱感が高まっているため、窓口規制では、不動産などの投資過熱業種を中心に企業への融資規制を強化しています。
ところがフジサンケイビジネスアイの記事によると、融資規制の対象は、不動産など投資過熱業種への投資目的の融資にとどまらず、一般の資金調達のため融資や日常的な手形割引への融資も引き締めているようです。このため、日系企業の中には、製品の納入先から代金支払いの手形を受け取れないといった事態に直面するところもあるようです。
各種報道によると、中国の中央銀行である中国人民銀行は、年末の人民元貸出残高が10月末の残高を超過してはならない、という指導を商業銀行にしているようです。おそらく商業銀行としては、不動産など投資過熱業種への融資を抑制するだけでは、年末の貸出残高を10月末の水準に抑えることができないため、業種を問わず様々な融資を抑制していると思われます。
支払い代金の手形すら受け取れないくらい金融が逼迫しているのであれば、中国の金融引き締め策は、それなりに強い効果を持つもののように思えます。しかし、11月の消費者物価が前年比プラス6.9%と11年ぶりの高い伸びを示し、上海総合株式指数が、依然として5200台を維持するなど、マクロ指標を見る限り、中国政府による金融引き締めが効果的に実施されているとはいえません。(後略)
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●中国、住宅ローンが急増・1-11月12兆円増、不良債権化の恐れも(NIKKEI NET 2007/12/28/07:02)
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20071228AT2M2702027122007.html
中国の商業銀行による個人向けの住宅ローンが急増している。今年1―11月の増加額は約8000億元(約12兆円)と、すでに昨年1年間の4倍に達したもようだ。中国では昨年から不動産市場が過熱気味で、投機目的を含めた住宅購入がブームになっている。中国政府は金融引き締めを強化しており、住宅価格が急落すれば多額の不良債権が発生する恐れもある。
中国紙「21世紀経済報道」によると、民間の主要9行による個人向け融資残高は1―11月に2628億元増えた。国有銀行の増加額は明らかになっていないが、市場では「5000億元程度」との見方が大勢。両者を合わせた増加額は8000億元近くに達したとみられる。2006年全体(約2000億元)に比べほぼ4倍の規模だ。
昔は経済引き締めといえば一刀両断型で政治的引き締めも行われ、全ての空気をガラリと入れ替える乱暴なものでした。経済面では金融引き締めと同時に行政や党のルートで政治的に力づくで経済をねじ伏せる形がとられたものです。その過程で責任者が失脚したり干されたりすることもありました。要するにハードランディング。
しかし今回は基本的に金融引き締めメインで事態を乗り切ろうとしているようです。果たしてそれは奏功するのか?と問われれば、
「それは無理」(ジョン・カビラ調)
と答えるほかありません。現在の経済運営のシステムは以前よりずっと成熟している筈ですが、利率をいじくっても抜け道はいくらでもあるでしょうし、融資規制も各地の「諸侯」が従ってくれるかどうか次第。
中央の威光の及ぶ範囲、例えば「雇われトップ」を送り込んである直轄市とか経済特区、それに省当局の置かれている省都とかなどでは胡錦涛政権の顔を立てて中央の政策に従ってくれるかも知れません。実際に企業の資金繰りの悪化など引き締め政策の影響が報じられているのも、こうした中央が直接手を突っ込むことのできる行政レベルの地方当局です。いわば「大諸侯」。ところがその下の「市」や、豪華庁舎を平気で建てたりする「県」や「鎮」といった「中諸侯」「小諸侯」はどうでしょう?
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私が何よりも懸念しているのは、北京を頂点とする各銀行のピラミッド型指揮系統が末端まで機能しているのか、ということです。
地元当局に取り込まれたのか癒着したのか、ともかく銀行の地方支店が北京よりも地元当局の言いなりになるケースは以前から一般的です。上の記事にもあるように、
●1~11月の固定資産投資は、全体では前年同期比26.8%の増加した。このうち中央政府管轄のプロジェクトは同12.8%の伸びにとどまったが、地方政府分は同28.6%の高い伸びを記録した。
という部分でそれを垣間みることができます。……というよりそのものズバリの記事も。
●地方政府の固定資産投資熱に要注意(新華網 2007/12/25/15:16)
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2007-12/25/content_7310350.htm
正にピンポイント(笑)、「いまだに成長率信仰を捨てていない地方幹部がいる」のだそうです。中央の苛立ちが感じられます。
第11次五カ年計画の初年度だった昨年(2006年)などは、1年の3分の1が経過した4月末時点で早くも銀行の融資年間枠の6割以上を消化してしまっています。むろんこれは中央の望んだものではありません。
固定資産投資であれ銀行融資であれ、いずれも今年(2007年)の大幅な伸びは急膨張を遂げた昨年を基数としたものです。銀行をも取り込んだ「割拠」は今回も中央のマクロコントロールを十分に機能させないことでしょう。かといって胡錦涛に力づくで「諸侯」をねじ伏せる力量はありません。
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ちなみに、「諸侯」が「割拠」する上で取り込んでいるのは銀行だけではありません。今年の人民解放軍の人事異動では大軍区はもとより、省軍区のトップレベルの入れ替えが目立ちました。胡錦涛色を強める一方で、定期的な異動によって地元当局との癒着を防ぐ狙いが中央にはあったようです。
省軍区といっても旗下の全戦力をどこか一カ所にまとめて駐屯させている訳ではないでしょう。海軍、陸軍、空軍それぞれが、省内の何カ所かに基地を持って部隊を配置させている筈です。となると、日常の公的往来を通じて「中諸侯」「小諸侯」と持ちつ持たれつの関係が実際に生じていたとしても不思議ではありません。
●『香港文匯報』(2007/10/10)
http://paper.wenweipo.com/2007/10/10/CH0710100005.htm
12月に入ってからは各地の司法高官の入れ替え人事が全国規模で行われました。これもまた「諸侯」に取り込まれるのを防ぐ措置とのこと。
●『明報』(2007/12/20)
http://hk.news.yahoo.com/071219/12/2lnb7.html
もとより司法の独立が果たされていない国です。取り込まれた実例はいくらでもあるでしょう。例えば上海市の汚職官僚の裁判が遼寧省で行われたりする、といった「異地審理」も「癒着」による地元当局の干渉が深刻であり、それを防ぐためだそうです。
●「中国網」(2007/12/24/08:35)
http://www.china.com.cn/review/txt/2007-12/24/content_9422031.htm
経済が走れば走るほど様々な「格差」が拡大し、また地域間格差も広がることにはなりますが、各「諸侯」にとっては以前より大きな利権を手にすることができます。
また資源争奪戦などを有利に運ぶ必要性からも、地方当局が利権を媒介にしてデベロッパーのような民間企業のみならず、人民解放軍の地元駐屯部隊や内乱鎮圧用の武装警察(武警)、それに地元裁判所(地方法院)のトップレベルなどとも運命共同体としての縁を結び、「割拠」色を強めようとしている、ということです。
冗談のような話ですが、武警や司法の取り込まれっぷりは相次ぐ官民衝突のケースからうかがえますし、武警については実際に「党中央離れ」(=地元当局の私兵化)に危機感を示す武警トップ・中国人民武装警察部隊司令官の論文が昨年初めに発表されています。
●武警はバラけて乱れつつある模様。・上(2006/01/06)
●武警はバラけて乱れつつある模様。・下(2006/01/07)
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という訳で、経済が走れば走るほど様々な「格差」が強まる一方で、地方当局による「割拠」化も進む、ということになります。
もっとも経済が走っていなくても、分権化を進める改革開放政策が維持されてさえいれば「割拠」です。進行度が遅くなるだけで、ベクトルの向きは変わりません。
景気が悪くなればなったで守りに入る必要からやはり「割拠」色は強まり、そのために銀行や司法、ひいては治安力が奉仕させられることでしょう。
……うーん長々と書き散らすうちに話が変な方向に展開してしまいました。
「改革開放が進めば進むほど『割拠』」
というタイトルにすべきだったかも知れません。むしろ、
「中国、『諸侯』の割拠色は強まる一方」
の方がよかったでしょうか。中央はそれを何とかしようと色々苦心しているようですが、中国が本来「多種族の集合体」である以上、この流れは最後まで止まらないだろうと思います。
崩壊とか分裂というより、末端から立ち腐れていって自然にバラけていく、といったイメージです。……あ、夢の話はお正月を待ってするべきでしたね(笑)。
ただ、「諸侯」がそのような利益や損害を、いつまで銀行に与えることができるのかという点は問題になるでしょうね。いくらなんでも中国全体を上海にできるはずはないですから、どこかで破綻が来るはずであり、そのときは銀行は「諸侯」のせいで抱えた不良債権に潰されるのでしょう。それが中国中で起こったら、アメリカのサブプライム以上の金融危機になるかもしれませんね。
そうなったら中央政府がそれを救済する羽目になるのかもしれませんが、その財源を国債の中央銀行で引き受けで賄うことになれば、食料品やエネルギーだけではなく、コア・インフレも進むのでしょうね。
なるほど、確かに「貸出の量を絞れば、その分、収益率の高いバブル分野に資金が集まっていくのは自然な流れ」と考えた方が、中国の銀行の行動を素直に理解できますね。
ということは、今回の中国の引き締め政策は、中央が抑制したい不動産バブルには影響を与えられず、不動産以外の分野だけに副作用を与えてしまうことになりますね。
生産過剰下でコアインフレが進むというのも、先進国の常識ではなかなか考えられない事態なのですが、中国ではあってもおかしくないというのが、なんともはやです。
今回のエントリー,実はBaatarismさんの以前のコメントに触発された部分が大きいのでコメントを頂けてとても嬉しいです。私は経済のことはわかりませんが、中国経済はエコノミストの理屈で容易に割り切れるものではない、ということを舌足らずながら言っておきたかった、というのが主題です。その原因として「多種族の集合体」「諸侯」「割拠」というのが大きな存在であると私は考えています。
「需要に見合うだけのヒト・モノ・カネを準備できない」ということもありますが、それならそれで中央が効率的な配分をやればいいのにそれができない、というのは「諸侯」による「割拠」が定着していて中央によるマクロコントロールを機能させないからだというのが私見です。1980年代以来の「収」と「放」の繰り返しも同じ理由によるものです。
ちなみに「割拠」の過程で銀行や司法や武警などを取り込む、というのはその組織全体を納得させなくても、組織のコアになる人物を籠絡すれば済むことなので、例えば銀行という組織自体の利害だけをみて考えていると「ありえねー」展開に出くわしたりします。まあ人治の国ですから私たちにとっての非常識も平然と通用してしまうのではないかと。
それから、「諸侯」がみんな「上海のようになりたい」と思っていてもそれが無理であることは自分でわかっているでしょう。要するに分際相応に可能な限り最大限の経済発展を裏技を使っても追求することになります。そこで資源争奪戦のようなものも発生します。御指摘のようにいつかどこかで破綻が生じるでしょう。ただその前兆としてまずマクロコントロールの機能不全状態がまず明確になると思います。現在すでにその段階に入りつつあるようでもあります。
ところで、いまちょっと気になっているのが、サラ金というか高利貸というか、そういう業種の存在を認める動きが中央に出てきていることです(記憶モードなのでもう認可されていたかも)。銀行すらまともに統制できていないのに、高利貸まで出てきてはいよいよ混乱するように思うのですが……。
……無学ゆえ頂いたコメントと噛み合わせることができず申し訳ありません。来年も宜しくお願いします。m(__)m
>「格差ありすぎ」の社会では、焦点の定まらない金融政策しか出来ません。
>EUとアフリカが同じ経済主体となっているみたいなもの
なるほど、わかりやすい例えですね。こういう表現で現状を捉えられるのがうらやましいです。
>貸出の量を絞れば、その分、収益率の高いバブル分野に資金が集まっていくのは自然な流れ。
これまたなるほど、なのですが、私はその貸出の量を必要な程度に絞ることができないのではないかとみています。「中国経済は『減速できないマラソンランナー』のようなもの」とは言い得て妙。今回はソフトランディングにこだわって主に金融政策によって事態を収拾しようとしているようですが、「割拠」によってそれが十分に機能しないため結局はハードランディングになるように思います。ただ以前のような政治的な一刀両断型をやる統制力が胡錦涛にはありませんから、より惨憺たる形での「硬着陸」になるのではないかと。余談になりますが労働契約法の施行が別方面から経済に追い撃ちをかけることになるような気がします。
勉強になるのでこういう長文コメントは大歓迎です。来年も宜しくお願いします。m(__)m
こちらもこのエントリーに触発されて、色々考えさせてもらってます。この記事を引用して、ここのコメントに書いたようなことを、自分のブログでも書いてみようかなと考えているところです。
自分でコメントを考えていて感じたのですが、先進国の経済常識を機械的に中国に当てはめると間違ってしまうように思います。その常識の元にある論理や前提条件に立ち返って、そこから中国の現状に基づいた分析をしていかないといけないんでしょうね。経済や政治の様々な主体のインセンティブを一つ一つ確認していくようなアプローチが有効だと思います。
しかし資本主義的な市場を通じたコントロールも通用しないし、社会主義的な政策によるコントロールも通用しないとは、「人治」とはやっかいなものですね。
チューリップバブルならぬ蘭花バブルが狂い咲いているようです。
中国に先進国の経済常識は通じませんが、世界史の出来事は再演してくれるそうです。
http://www.mpinews.com/htm/inews/20071224/ca11954c.htm
國内炒樓一族轉炒蘭花 (19:54)
2007年12月24日
國内樓市漸漸降温,炒樓一族正開始轉戰炒蘭花。
廣州日報稱,蘭花市場在低迷了數年之後,從今年開始又再升温,其幕後推手之一正是以省外資金為主體的炒樓團。目前珍稀蘭花的價格已比前段時間飆升了200%以上,而市民日常種養的金、銀、黒、白四大家蘭的價格也在穩歩提高。業内人士表示,明春花市蘭花價格將比往年貴兩三成,一盆在100元至180元左右。
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