広西チワン族自治区で今年5月、「計画出産利権」に絡むとみられる当局の無茶苦茶な罰金取り立てとこれに怒った民衆による農村暴動(地元地方政府庁舎への破壊・放火など)が発生したことを御記憶の方も多いかと思います。
同時多発的に発生したこの暴動は伝播するように他の地区にも広がるといった前代未聞の展開をみせました。
●農民蹶起!広西博白県下の各鎮で同時多発暴動、庁舎炎上。(2007/05/21)
●続・広西同時多発暴動:不妊手術より上納金。(2007/05/23)
●広西農民蹶起2:またも同時多発暴動、県外へも飛び火!(2007/05/25)
●広西農民暴動がまたまた飛び火、ついに火炎瓶も出現。(2007/05/31)
その続報がようやく出ました。……といっても首謀者?とされる農民2名に対する裁判所の判決言い渡しです。
ただ、その判決の内容が味があるというか何というか。「邪推」にはもってこいの内容なのです。
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●広西博白の容疑者2名に政府文書偽造・民衆煽動の判決(新華網 2007/07/23/16:25)
http://news.sina.com.cn/c/l/2007-07-23/162513509575.shtml
国営通信社・新華社による配信記事ですが、「広西博白」とは「広西チワン族自治区博白県鳳山鎮」のこと。博白県は最初に暴動が発生した地区ですが、その中に「鳳山鎮」が含まれていたというのは初耳です。犯人2名に対しては「彭某」「李某」と名前は伏せ字。氏名を明らかにするほどの重罪ではない、ということでしょうか?
新華社電によると、この2名のうち「彭某」は、計画出産に違反した世帯に対する追徴型罰金の「社会扶養費」を5月18日に徴収され、地元政府の計画出産活動に不満を抱いたとのこと。この「社会扶養費」は上記エントリーにもしばしば登場しますが計画出産に違反し罰金を支払った家庭からも改めて多額の罰金を徴収するという滅茶苦茶なものです。
「お前の家で余計に生まれた子供についての罰金は徴収済みだが、その子供を社会が養ってきたという点に照らして年齢に応じた罰金を徴収する」
という理屈で、農民が支払いを拒むと当局に急きょ雇われた棍棒・ツルハシ装備の若い衆がトラックでその村に乗り付け、家屋破壊や子供連れ去りなどが行われました。
他に計画出産に違反したかどうかを問わず、女性を取っ捕まえて片っ端から不妊手術を実施。その被害者には16歳の女子高生も含まれていたという報道もあります。要するに鬼畜を極めた暴政が敷かれていた訳で、ここまで追いつめられれば農民も立ち上がらざるを得なかったでしょう。
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新華社電に戻りますと、地元政府の計画出産活動に不満を抱いた「彭某」はその後、博白県党委員会の文書のコピーを入手。偽造文書を大量にコピーしてバラまき、「事情を知らない民衆」がこれを見て政府庁舎に集まり暴動を引き起こし、これによって「彭某」は政府への報復を果たした、とのことです。
具体的には5月20日夜、「彭某」は相棒の「李某」とともに広東省・廉江市へ出向いて、
「罰金を徴収された民衆は政府庁舎やその出張所で栄養補助費という手当を受け取ること。また『社会扶養費』は返還する」
といった内容の偽造文書を400枚コピー。これを博白県下の鳳山鎮、寧潭鎮、文池鎮、東平鎮、龍潭鎮、亜山鎮などでバラまき、
「政府の計画出産活動に不良なる影響をもたらした」
となっています。広西チワン族自治区博白県法院の判決は、「彭某」が国家機関公文書偽造罪で懲役2年、「李某」も同罪で懲役1年というものでした。
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「国家機関公文書偽造罪」とは何とも不可思議な判決ではありませんか。ここには民衆を煽動したという罪は盛られていませんし、暴動で政府庁舎などを破壊した罪状も含まれていません。ですから懲役も「彭某」が2年、「李某」が1年と、暴動の首謀者扱いにしては恐ろしく軽い量刑です。しかも名前は伏せ字。
同時多発暴動に関する民衆側への処分がこれで終わるのかまだ続くのかはわかりませんが、裁判所は県所属といいながら、より上級レベルの指示を受けてこのような判決を出したのではないかと思われます。例えば広西チワン族自治区当局とか、ひいては党中央とか。
要するに、鬼畜な罰金徴収を断行して同時多発型暴動を生むに至らしめた地元当局の計画出産活動に対して、上級機関からその行為を咎め、責任を追及する動きがあったのではないでしょうか。
「懲役2年・懲役1年」という事件に照らせば軽すぎる判決は一種の「喧嘩両成敗」ではないか、ということです。
民衆側から罪人を出すとともに県当局などの関連部門にも何らかの処罰が下されたか、あるいは、
「今回は大目に見てやるが、二度とやるな」
と厳命が下り、当局側の責任が不問に付されたのと同時に、民衆側の「首謀者」にも大甘判決を出して農民たちを慰撫した、という形です。
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他県にも飛び火するなどした前代未聞の同時多発型暴動です。当局のさじ加減ひとつで「国家政権転覆煽動罪で懲役9年」のような重罪が下っても不思議ではないのですが、「国家機関公文書偽造罪」という、「煽動」「暴動」を含まない罪状になったことで、これは地元当局側に対しても何事かが行われたな、と「邪推」する次第。
もしこの「邪推」が正しいのなら、「喧嘩両成敗で農民側には大甘判決」という決着で幕を引かない限り、農民たちの当局に対する不満は再び爆発しかねないかのような険悪な空気が現地に満ちていたのかも知れません。
ふだんなら「官」として居丈高に振る舞う地元当局側も今回は折れざるを得なかった、ということです。もちろん、上級機関からの圧力があったから折れたのでしょうが。
……まあ、あくまでも「邪推」ですけど、そういう「邪推」をしたくなるほど興味深い判決だった、ということは確かです。
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時代としてはヨーロッパの神聖ローマ帝国辺りになるのかな・・・。
中国でいえば「包青天」の時代ですね。まあ古典落語に出てくる大岡裁きも見事ではあれ法治を破壊していますし(笑)。
ちなみに中国は「法治国家の実現」を呼号して今年でまる十年になる筈です。結果は御覧の通り。
とはいえ今回の判決、私の「邪推」が正しいのであれば「官」の側はよほどビビッたことになります。他県にも飛び火した同時多発型暴動ですから、ひとつのシグナルというか、暴動に新たな「型」を示してみせた、従来の一カ所散発型ではなく、横のつながりの可能性を示唆した、という意義は大きいかと思います。
この部分を強調して、アメリカのキリスト教右派に教えたら、アメリカの反中感情が高まって面白いことになるかもしれませんね。w
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