日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 8月ですか。

 きのう8月1日は人民解放軍の誕生日たる「建軍節」。正確な由来は周恩来や朱徳らが1927年の8月1日、江西省・南昌で国民党に対して武装蹶起したことによります。……などと書いて去年はこのテーマに取り組んでいました。

 ●兵隊さんが揺れてます。――解放軍報八一社説。(2005/08/03)

 一昨年は中国でのサッカーアジアカップ一色でそれどころではありませんでした。反日サイトと化した中国某大手ポータルのサッカー板に殴り込んでみたり、「日本人の嫌がる言葉を中国サポの横断幕に」活動を少しだけお手伝いしたりしていました。あれは確か「IKEMEN」でしたか……何もかもみな懐かしい(遠い目)。

 という訳で気が付いたら当ブログも満2周年の峠を越えて、3年目に入っていた次第。昨年に引き続き人民解放軍機関紙『解放軍報』の「八一社説」と組み打ちしてみようと思います。

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 何を今さらと叱られそうですが、実は人民解放軍というのは中国共産党に属する軍隊であって、中華人民共和国の国軍ではありません。いわば中共の私兵。当然ながら国家よりも党中央の命令を優先することになっています。それが証拠に、『解放軍報』が節目節目に掲載する重要記事には、

「在黨的絶對領導下」(党の絶対的な指導のもと)

 という言葉が必ず出てきます。節目節目と書きましたが、人民解放軍にとって一年における最大の節目がこの「八一建軍節」。節目の中の節目ですから、『解放軍報』が必ず社説を掲載します。

 いわゆる「八一社説」、これが軍の所信表明のようなものと位置付けられており、プロのチャイナ・ウォッチャーはもちろん、私のような中国観察の真似事(チナヲチ)に興じる素人も必ず一読する重要文書です。

 ……と去年の文章を引き写して済ませましたが、「八一社説」だけはそうはいきませんね。だいたい内容が一変しているのです。

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 昨年の「八一社説」はタイトルからして、
「党の絶対的指導の下で闊歩前進しよう」。それがそのまま社説全体を貫くキーワードとなって、「党の絶対的指導」ないしそれに準じた言葉が文中に17回も登場しました。この言葉、一昨年はたった4回だけですから異様な大幅増です。

 「党の絶対的指導」を社説に織り込んだ以上、「党の絶対的指導」に反対ないしは疑問視する勢力が軍内部に存在するということです。昨年のように4回だけなら枕詞のようなもので気にするほどでもないのですが、これが17回も使われれば、尋常ならぬものを読み手は感じざるを得ません。

 要するに「党の絶対的指導に従わない傾向のある勢力」が軍内部にはっきりと存在しており、しかもひと握りに潰すことができないほどの容易ならぬパワーを擁している、ということでしょう。建軍節の社説で「党の絶対的指導」をかくも連呼しなければならないほど、党中央に対する軍の絶対服従の原則がいま揺らいでいるのです。

 と1年前の私は書いています。春には「反日」に名を借りた「反胡連合」(反胡錦涛諸派連合)による倒閣運動めいた政争があり、初夏になると今度は軍部の非主流派(特に劉亜洲中将ら電波系対外強硬派)によるクーデター計画が背後にあったと噂される呉儀ドタキャン事件。当時の『産経新聞』(2005/05/27)はそのドタキャンについて、

「副首相緊急帰国、対日強硬派軍部の”不穏な動き”が原因か」

 と報じました。すると稀有なことに中国大使館からその記事にわざわざクレームが届きました。何という率直さでしょう。これでウラが取れたも同然というものです(笑)。……ただ現時点で振り返ってみると、御丁寧にクレームを寄せることでその記事をわざと際立たせ、「クーデター計画」という不穏さを内外にアピールすることで窮地に陥った胡錦涛への掩護射撃を図った、という行動だったのかも知れません。

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 そういう状況下から胡錦涛がある程度巻き返し(昇格人事の大盤振る舞い)、そして迎えたのが昨年の「八一社説」です。
「胡錦涛総書記ら党中央の指導に従え」というのが基調となったのは自然なことでしょう。

 とはいえ軍主流派の代弁者といえる「八一社説」も「従え」と言いながら軍権を握る(中央軍事委員会主席)胡錦涛にはまだよそよそしさのようなものがあり、文中ではトウ小平理論、「三つの代表」重要思想(江沢民)と続き、次に胡錦涛オリジナルの「科学的発展観」が来るかと思えば、まずは前任者ですでに引退している江沢民の
「国防と軍隊建設思想を深く貫徹し」という一句がはさまれています。

 その後にようやく「科学的発展観」となるのですが、これも「江沢民の国防と軍隊建設思想」に付された「貫徹せよ」といった気合のこもった強い表現ではなく、「定着させよう」「根付かせよう」「実行に移そう」というソフトなニュアンスにとどまって濃淡がくっきりとしています。

 そもそも長々とした社説の中で「科学的発展観」が登場するのはたったの2回。胡錦涛同様、胡錦涛オリジナルの指導理論「科学的発展観」も軽んじられていた訳です。これが昨年の「八一社説」でした。

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 そして今年はどうかといえば。

「科学的発展観の導きのもと開拓し奮迅前進しよう」

 とタイトルから早くも「科学的発展観」が登場。さらに「八一社説」の本文も随所に「科学的発展観」を散りばめ、丹念に塗り上げた内容になっています。

 http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-08/01/content_542164.htm

 具体的にいきましょう。本文中に「科学的発展観」及びそれに類する文言の登場回数は実に23回。昨年は17回登場して注目された「党の絶対的指導」はわずか5回と大幅減。「江沢民の国防と軍隊建設思想」って何それ?……1回も出てきません(笑)。だいたい「江沢民」という固有名詞そのものが消えています。軍部における指導者及び指導理論の新旧交代(江沢民から胡錦涛へ)は完了したとみていいでしょう。

 もちろんトウ小平理論、「三つの代表」重要思想に続いて登場する「科学的発展観」は、

「全面的に貫徹し実行に移そう」
「軍人は大脳を科学的発展観で武装しよう」

 と極端に持ち上げられています。

「科学的発展観が体現するものはマルクス主義の世界観と方法論だ」

 という表現もあります。胡錦涛オリジナルの指導理論が人民解放軍の柱となったことを示すものです。

 「党の絶対的指導」の激減は軍主流派が胡錦涛をはじめとする党中央を擁護する姿勢が明確になったため連呼する必要がなくなったのでしょう。当ブログで使われるところの「擁胡同盟」(胡錦涛擁護同盟)の絆が健在であることを顕示しています。ただ胡錦涛と軍主流派が組んでいることが再確認されたとはいえ、どちらが相手方を掌握しているのか、つまり主導権がどちらの側にあるのかは不透明なままです。

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 他の注目点はといえば、非主流派の抵抗が弱くなっている気配があるということでしょう。昨年、一昨年の「八一社説」には登場していた、

「『軍隊の非党化・非政治化』や『軍隊の国家化』などの誤った思想の影響を断固排除し、終始一貫して党の軍隊に対する絶対的指導を堅持し、政治的にも、思想的にも、組織的にも党が部隊をしっかりと掌握することを確かなものにし……」

 という表現が今回は消えています。実際に「軍隊の非党化・非政治化」や「軍隊の国家化」(国軍化?)を企図する一派が軍内部に存在していて、主流派もそれを簡単に潰せないほどの政治的保護者をその一派が擁している。……だからこういう一節が登場したのだろうと思うのですが、これが今年は出てこないというのは、軍主流派の勢威が昨年より強まっていることの証でしょう。

 今回の「八一社説」において警戒すべき動きとして指摘されているのは、

「形式主義や官僚主義を断固防止し克服しよう」

 という一節くらいのものですが、これはこれで面従腹背系を潰しにかかることを示唆したものかも知れません。最近軍部での会計監査強化が、しかも胡錦涛ペースで打ち出されていますから、「反胡連合」側の軍人の中にはその辺りを衝かれて失脚したり閑職に回されたりする佐官・将官クラスも出てくることでしょう。

 ともあれ、胡錦涛と軍部の関係は1年前に比べると信じ難いほど密接なものになっていといえるかと思います。胡錦涛が掌握に成功したのか、それとも軍主流派のマリオネットになってしまったのかはわかりませんが、胡錦涛を軍主流派が擁護しているというのは下心があってのことでしょう。制服組が中共政界で陰に陽に台頭しつつある可能性は決して低くないように感じられます。

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 「科学的発展観」が23回も連呼されたのは、昨年、軍内部の胡錦涛政権に対する不安感、不信感や危機感の表明として「党の絶対的指導」が繰り返し叫ばれた(17回)のとはニュアンスが異なるように思われます。簡単にいえば「擁胡同盟」の勝利宣言であり、一種の示威活動。旗幟不鮮明かつ面従腹背派に対し「科学的発展観」を受け入れ徹底するよう軍主流派がプレッシャーをかけたのでしょう。

 ……というのは、この「八一社説」が単発ではなく、セットメニューになっているからです。「社説」はもちろんメインディシュですが、これと同時に人民解放軍総政治部から全軍及び全武装警察(準軍事組織)、さらにその関係党組織に対し、胡錦涛の「重要講話」を真剣に学習するよう通達が出ています。

 http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-08/01/content_542163.htm

 その一方で、

「国防と軍隊建設において科学的発展観を重要な指導方針としてしっかりと確立させよう」

 という指示も総政治部から発表されています。これまた「科学的発展観」への掩護射撃であり、同時に「江沢民の国防と軍隊建設思想」が胡錦涛に完全に取って代わられたことを示しているからです。

 http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-08/01/content_542168.htm

 理論誌『求是』に掲載されたこの論文には別の角度からのツッコミ甲斐もあるのですが、今回は主題からそれるため割愛。この文章の中にも「科学的発展観」が食傷するほど登場しています。ともあれこのお惣菜2皿が付いていることから、「八一社説」における「科学的発展観」の連呼が軍部の胡錦涛オリジナルに対する危機感や不信感の表明ではなく、「擁胡同盟」による派手な勝利宣言であることが明確になっていると思います。

 とはいえこの「八一社説」において胡錦涛は昨年同様、「胡錦涛同志を総書記とする党中央」と表現されており、未だ「胡錦涛総書記を核心とする党中央」までの指導力が認められていません(あるいはマリオネットであることの証明?)。「核心」にふさわしい指導力が胡錦涛に欠けていることは経済の現状をみれば一目瞭然。ただしその話は別種のテーマになってしまうのでこれはこれで別の機会にということで。


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