日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 中共政権というのは考えてみればすごいものです。御存知の通り一党独裁。政府の上に党が君臨していて、法制あれど法治なし。……これは人治という一面と、たとえ非合法でも党が「政治的に善」と判断すれば無罪放免という一面があります。無許可デモが頻発した昨春の反日騒動がその好例ですね。厳密にいうとあの騒動に対する政治的な善悪の評価(定性)は出ていないのですが、少なくとも「政治的に悪」と断定されていないので破壊騒乱分子どももお咎めなしでした。

 政府の上に党が君臨している証左をもうひとつ挙げるなら人民解放軍ですね。あれは国家の軍隊である以前に中国共産党の私兵であり、「党中央の指導を絶対的なものとして従う」と公言してはばかりません。国と党から違う命令が届いたら躊躇することなく党の命令を優先するのです。

 そういう政治色を薄めて国軍色に塗り替えていこうという動きが軍内部にはあるようですが、これは「軍の国軍化、非党化」とされて敵視の対象となっています。この一年来ときどきそれに警鐘を鳴らす文章が軍の機関紙『解放軍報』に登場していますから、敵視されている方も非主流派とはいえなかなか根強い基盤を有しているようですね。

 国家主席、首相、閣僚といった政府の要職も決議されるのは全人代(全国人民代表大会=立法機関)ですが、実際にはその前に党の中央委員会による会議を開いて先に筋書きを決めてしまいます。その上で全人代で一応投票を行って決議するということになるのですが、配役はすでに決まっていますから信任投票のようなものです。

 賛成、反対、棄権の三択なのですが、筋書きが決まっていますからむろんここで否決されることはありません。ただ反対票・棄権票が際立って多い当選者はよほど評判が悪い奴だということがバレてしまいます。かつて李鵬が首相時代、任期満了で続投となったときは反対・棄権票が記録的な数だったと記憶しています。

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 報道媒体に対する定義も中共は独特です。曰く「党と政府の代弁者たること」というもので、要するに機関紙・広報紙に徹しろ、ということです。このため党の意向によって「なかったこと」が「あったこと」にされたり、「あったこと」が「なかったこと」にされたりします。前者は例えば南京虫事件の被害者数とか重慶「大」空襲などです。

 後者に関しては説明不要、つい最近実例を目にしたばかりですね。ええ、胡錦涛訪米で司会者が「中華民国」と呼んでしまったり、胡錦涛のスピーチ中に法輪功系の記者が突然胡錦涛を罵倒するなどしたりした事件です。これについて国内メディアでは一切ふれられていません。「なかったこと」にされているのです。

 あの法輪功系の記者は英語と中国語を使い分けつつ、ブッシュ米大統領には呼びかけを行い胡錦涛には罵詈雑言を浴びせるなど、勇気と度胸に加えて水際立ったお手並みでした。それよりGJだったのは、言うまでもなく法輪功系記者をある程度放置して言いたい放題にさせていた米警備当局です(笑)。ガムをクチャクチャ噛みながらニヤニヤして事態を眺めていた……ということはなかったようですけど。

 ともあれ中国国内では「なかったこと」にされたこの事件ですが、ネット上ではタレ込みがありますから全容がたちまち広まってネット世論が憤激したようです。とはいえ「なかったこと」なので「なんちゃってデモ」ひとつ米大使館にかけることもできません。胡錦涛のスピーチを中断させるまで騒いだ法輪功系の記者は駐米中国大使館が厳しく追及していることもあり起訴される見通しのようですが、これも「なかったこと」なので中国国内メディアでは報道されないでしょう。

 ただ中共の報道統制はある意味親切でして、ときに匂わせてくれたりすることがあります。

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 この法輪功系記者の事件、実は北京の外交部報道官が定例記者会見でわざわざ言及しています。

 ●「明報即時新聞」(2006/04/25/18:55)
 http://hk.news.yahoo.com/060425/12/1n9vo.html

「法輪功は邪教というだけでなく、反中国政治組織であり、様々な手段を講じて米中関係を撹乱し破壊しようとしている」

 と秦剛報道官は語り、さらに、

「セキュリティチェックの厳しい米国でこんな事件が起きるとは」

 と米国に嫌味を言っています。まあ批判している訳ですね。……ただこの報道官コメントは中国国内では報じられておらず、外交部の公式サイトに掲載される定例記者会見一問一答にも全く出てきません。米国に対する嫌味や批判、それに国内で報じられなかったことは、胡錦涛の面子がいかにひどく潰されたかを物語っている、ともいえます。

 ……で、匂わせてくれる、というのは別件で法輪功叩きが行われるのです。

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 ●「法輪功」かぶれが病状放置、男女各1名が死亡……秦皇島(新華網 2006/04/25/20:42)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2006-04/25/content_4473457.htm

 今年3月に河北省・秦皇島で法輪功信者5名がある賃貸住宅で「不法屯集」しているところを警察が逮捕した際、室内で男女各1名の死体が発見されたというものです。この2名の死者も法輪功信者で、要するに法輪功で病気が治ると信じていたために治療の機会を逸し、死亡するに至った。……というニュースです。

 これがいわゆる「別件での叩き」に相当します。胡錦涛はよほど今回の件に怒り心頭で、国内に対しても何か言わないと気が済まなかったのでしょう(笑)。一方で、これは一種の小規模な「反法輪功キャンペーン」といえるかも知れません。

 都市部ではネットが相当普及しているため「またそれかい」という受け止め方をされるかも知れませんが、「米国が故意に仕掛けたんじゃないのか」と憤激している向きには「やっぱり法輪功は悪い奴らだ」と思う可能性はあります。内陸の農村部にでもいけば正に「邪教」扱いされても不思議ではありません。本当の邪教集団は中国共産党なんですけどね。

 ……このニュースに接して「またそれかい」と笑い飛ばす者はいても、それが反政府気運の高まりを呼ぶことはまずないでしょう。逆に「邪教」「悪い奴ら」と再認識してくれる人が出てきますから、阿呆くさいやり方のようでも、中共としては損にはなりません。

 これとは全く別のケースとして、中国国内の報道と日本の報道を並べてみて愕然とすることもあります。

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 ●路甬祥・全人代常務委副委員長が日本からの客人と会見(新華網 2006/04/24/11:44)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2006-04/24/content_4467052.htm

 全国人民代表大会常務委員会の路甬祥・副委員長は24日、北京の人民大会堂で日本衆議院外務委員会・原田義昭委員長と会見した。

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 というだけの記事なのですが、一応拾っておいたら翌日に日本で報道されたのをみてビックリです。

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 ●「靖国」で中国要人と激論 原田衆院外務委員長(Sankei Web 2006/04/25/01:55)
 http://www.sankei.co.jp/news/060425/sei012.htm

 中国を訪問していた原田義昭衆院外務委員長(自民党)は24日、北京市内で中国の武大偉外務次官、姜恩柱全人代外事委員会主任委員らと相次いで会談、靖国問題などで激論を交わした。

 武次官は小泉純一郎首相の靖国神社参拝について「両国の政治外交関係が頓挫しているのは、日本のごく少数のリーダーがA級戦犯が祭られた靖国に参拝するからだ」と批判した。

 原田氏は「靖国神社は敬愛されており、首相の参拝は当たり前。中国の批判に圧倒的多くの日本国民と議員は怒りを感じている。中国と同様に日本も誇り高い独立国であって、内政干渉に屈するのは断じてできない」と中国側の再考を促した。

 原田氏は東シナ海の日中中間線付近での中国のガス田開発の中止を要求したが、武次官は拒否した。また原田氏は中国原子力潜水艦の領海侵犯事件、上海領事館員自殺事件、反日暴動について「中国の謝罪は行われていない」と指摘。中国の軍拡には懸念を示した。
(後略)

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 何だか物凄いことになっているではありませんか。だいたい武大偉だの姜恩柱という名前が出てきているのに、路甬祥は全く出てきません。「……主任委員らと相次いで会談」の「ら」の中にいたのでしょうが(笑)、中国で検索をかけてみても前掲の何とも素っ気ない路甬祥のみが登場する新華社電だけで、武大偉や姜恩柱の名前は出てこないのです。

 激論が展開されたり中国側から靖国問題について言及があったことを、党中央が国民の反日気運が高まることを懸念して中国国内メディアに報じさせないことはよくありますが、登場人物が省かれるというのは珍しいように思います。

 これは「格」の違いに起因するものでしょうか。中国側が特に気にすることですが、相手が衆議院外務委員長なら中国は全人代における相応のポストの者に相手をさせればいい訳で、実際に姜恩柱(全人代外事委員会主任委員)が出ています。ところが外務次官の武大偉まで接待役を勤めた、というのはちょっと格が釣り合わないようでもあります。

 かつて媚中派の二階・経済産業相が訪中した際、温家宝・首相が出てきたり、例の媚中派7団体と胡錦涛が会見したような、中国側がこの場を重視している、ということを示唆したものなのかも知れません。……単なる考え過ぎかも知れませんが、武大偉らの名前が出ていないこと、状況的には「日本の要人、靖国問題でまた妄言」などと報じてもいいのに「会見した」だけで済ませているあたりにちょっと尋常でないものを私は感じました。胡錦涛の対日重要談話が全く効いていないことを露わにできない国内事情でもあるのでしょうか。

 まあ、ただそれだけの話なんですけど、どうして中国側は「なかったこと」にしたのか、また日本の報道内容と余りに隔たりが大きいので一応書き留めておきます。

 ……それにしても原田氏、

「意見の違いを認めつつ極めて重要な日中関係を築くのが両国の政治家の役目だ。中国は日本国内の意見を正確に知るべきだ」

 と語ったそうですが、実に見事な太刀さばきでした。



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