すっかりシリーズとして定着した「現地報告」の最新版です。すでに説明不要かも知れませんが、ルポを発信してくれているのは四川省成都市の大学で日本語を教えているAさん。
ルポの続編が出るということは被災地にとって不幸な状態が続いていることを示すものとはいえ、Aさんはメディアの報道とは毛色の違う角度からいつも切り込んでくれますので興味深い情報が多く、独特の読後感を残してくれます。
今回もまた毛色の違った情報ということになるのですが、ちょっと生々しさも加わっていて、これまでのAさんの現地報告にも増して色々と考えさせられる内容になっています。これは必読です。
●Aさん(2008/05/30/10:09送信)
御家人さん:
こんにちは。なんとなくネタが集まったので、また軽くお伝えします。
●怖くて実家に帰った子、私が受け持ってる子で2人は居ます。結構居るのではないでしょうか。
●ある女学生から聞いた話。地震時、ズボン屋に友人と。友人はちょうど試着したらしく、そのまま外へ。800元もするズボンをそのまま穿いて逃げたとか。勿論、お金はまだ払っていないそうです。以前、御家人さんのブログのなかのコメント欄の方に、「地震が起きたらデパートへ行く」というカキコがありましたが、それと関係あるのかな、と思いました。
●地震の基礎的知識はあるらしいです。高校のとき、地理の時間にちょっと勉強したとか。しかし、今回の地震が人生「初」の地震。
●大学の近くに広東省からのトラックが駐車中。「被災者に物資を届けています」という旨の旗。ここでふと思ったのですが、なんでわざわざ広東省から物資を届ける必要があったのでしょう? ここから広東までは飛行機でもかなりかかる距離。邪推に過ぎないのですが、まさか、「俺たちも救済してるんだぜ」「うちらはここまでやってるんだぜ」という面子という面もあるのかな、と…。
●水タンクが値上げされました。8元→10元です。地震の影響、物価高の影響かどうかは不明です。
こんなところです。何かまた見つけましたらお伝えします。
この時期はまだ私の体調がまだ十分回復していない時期だったので、Aさんに返信することも、また整理して当ブログにて紹介することもままなりませんでした。申し訳ありません。m(__)m
●Aさん(2008/05/30/23:13送信)
御家人さん:
きょう私は、御家人さんの言う事も聞かず(笑)、学外に出て消息筋から救援物資に関する情報を仕入れてきました。「ふ~ん」と思っていただければ幸いです。
●救援物資がちゃんと届いてるわけでは無いらしい
●救援物資が集まっても、それを現場で仕分けしたり取り仕切る人が居ないらしい。
●赤十字も信用できないとか。
●その赤十字関係で現場で救済されてた方(中国人)が、あまりの段取りの悪さ+酷さに辟易し、遂にそれから仲間と数人で抜け出して、自分たちで独自に救済活動に当っているとか。
●募金もちゃんと振り分けられて無いかもしれない。
……という話を聞きました。
話を聞き、やっぱりな~という感を得ました。全体としてとりあえず向かうべき方向に進んでいるようだけど、中身は全く伴っていない、ただやればいい、というような状態なのでしょうね。質がどーみたって悪いですから。
今日、市内中心部・紅星路に行ったのですが、ひところの募金活動は終了し、地震前の雰囲気にまた戻っているようでした。
学生らと話をしたのですが、地震は怖いことには怖かったけど、ちょっと楽しかったという面もあったようです。
「朝起きたら、鳥が飛んでいて、葉っぱが見えて変な感じでした。外で寝たのは初めてでしたから」
というコメントに、なんだか失笑しそうになった私です。
では、お大事になさってください!またなにかあったらお伝えします。
救援物資や募金などについて、お約束の状況が現出していることがうかがわれます。民政部などはこれらの扱いについて「初動期には混乱もみられたが現在は安定している」などとしていますが、Aさんがルポした時点でもまだ救援物資や義援金の管理について、システムは構築されているのかも知れませんが、有機的に機能していないのが実情、といったところなのでしょうか。
最近でも救援物資や義援金の転売、着服などの不正行為については厳罰に処す、という通達が中央政府の担当部門から出ていますし、処罰されたケースも複数あります。
「不正行為」というのは届いた物資をどうこうするというだけではなく、救援物資として供出した分が非課税になることを逆手にとって、衣類メーカーが倉庫に積み上げられている不良品の山を箱詰めして現地に送る、といった事例もあり、このあたりウーンと考え込んでしまうところです。
それから、大学構内という普段と余り変わらぬ生活環境で「震災」という非日常をどこか楽しむ気分が学生たちの間にあることを留意しておいて頂ければ、と思います。
●Aさん(2008/06/04/00:39送信)
御家人さん:
こんにちは。体調、ピークは脱したというところでしょうか。入院されたということで、少し心配しております。どうか、ご無理なさらぬよう。お大事に!
ところで、耳寄りな話がひとつ。現地入りしている日本メディアの通訳を、どうも私の学生がやったらしいのです。
そのメディアは何グループかに分けて成都入りしてるらしく、先週は記者さん8名からなる取材班が新たに成都入りして、それに同行して現場を回ったのが、数名の私の学生らしい、ということです。
今日、私のところに遊びに来た学生が記者さんと行った現場は、北川、都江堰、唐家山の下流などだそうです。その学生、自分が勉強した日本語で仕事をしたという充実感よりも「目に余るような悲惨な状況」を思い出してか、しばし閉口していました。
話し変わって、学内はだいぶ通常の様相に戻ってきています。が、学生でも被災地方面出身の子が多くいるようで、私の学生でも、家が倒壊しテント暮らしという家族もいるようです。
大学側は、急遽、今学期の試験時期を早め、夏休みの開始時期を早める措置をとりました。(通常、6月末から7月上旬が試験時期ですが、6月以内に試験その他を終了するよう、緊急のお達しが出ました)。
また、被災した学生に、いくらかの義捐金を出すことも検討してるようです。
市内は何事も無かったかのようにだいぶ落ち着いています。以前お伝えした市内中心部・紅星路も今では義捐金募集の人はあまりいなくなっています。
●御家人(2008/06/04/13:55送信)
Aさん:
御家人です。いつもメールを頂いてばかりで本当に申し訳ありません。m(__)m
身体の方はまだ本調子ではありませんが、三病息災なのでまあこんなものです。春先にブログ更新にドクターストップがかかって自宅療養していたときに、チベット問題が勃発して寝ていられなくなって、そのまま大小様々な事件が群がり起こるのに対処していたため悪くなってしまったようです。
ところで、Aさんの教え子さんたちも御活躍のようですね。ああいう取材は、要領がよくて使い勝手のいいローカルスタッフに現地で巡り会えるかどうかで成功率がまるで違ってきます。土地勘を生かしたり、歩いていてすれ違った地元住民の四川なまりの会話から情報を拾ったり、あるいは普通入れないところに入ることができたりするのは全てローカルの腕次第ですから。
今日はちょうど6月4日ですけど、天安門事件当時上海に留学していた私は取材ではなく物好きな野次馬。とはいえやはり複数の腕利きローカルスタッフに恵まれて独自の情報網を構築したり、色々な得難い経験をすることができたものです。
日本メディアの通訳を務めた学生がある意味ショックを受けていたというのは、Aさんの現地ルポに日々接している私にはよくわかります。要するにAさんと同様に、震災とはほぼ無縁といっていい大学構内の生活環境からいきなり都江堰とか北川に放り出されれば、思わず立ち尽くしてしまうような感覚にとらわれない方が不思議です。土地勘のある学生ほど呆然としてしまうのではないでしょうか。
それにしても、大学はやはり日程前倒しですか。家族が被災した学生はテント暮らしに合流させるべきなのか、このまま学内に留め置く方がいいのか難しいところですね。日本の報道を通じて御存知かと思いますが、都江堰などでは倒壊して死者多数を出した学校の遺族などが当局を告訴しようとして地方法院?の前で警官隊と揉み合ったようです(日本人記者が一時拘束されたとか)。倒壊した学校は結構あるようですから、この動きが広がると剣呑な空気が高まるかも知れません。
P.S.
大学から被災した学生に義援金が出るというのは興味深い話です。商売優先で学生からあれこれ名目をつけて料金をとりまくるという最近の風潮にあって、意外な感じがしました。
●Aさん(2008/06/04/14:56送信)
御家人さん:
通訳を務めたうちの学生の続報です。総勢3名ほどの女学生がバイトとして現場に赴いたようです。ご想像のとおり、3人は全て四川人です。たぶん北京の人を雇ったところで、四川語がわからず蒙昧して終わりでしょう。この話は、大学の若手中国人講師の友人から人伝いに流れてきた話なんだそうです。
通訳の学生の一人は、実は家族が被災者でもあるようなのです。四川北部の出身で、話によれば、彼女の町ではテント暮らしの人が多いとか。彼女の家族自身もそのようです。ただそれは伝え聞く話であって、実際、取材先で目の当たりにしたという現実の前に、言葉をなくしてしまったのは無理もないことかもしれません。
●御家人(2008/06/04/16:40送信)
Aさん:
通訳を務めたのは女の子だったのですか。内心、仕事どころではなかったでしょう。可哀想に……。
個人的には「都江堰から向こうは地獄」みたいなイメージがあるので、そんなところに女子学生を遣って大丈夫なのだろうか、とも思います。
しかも災害取材というのは、取材することで正義を発揚するという、取材者が拠り所とすべき大義名分めいたものが乏しいだけに、通訳するにしてもストレスを伴う辛い作業でしょうから。
唐家山の地震湖、決壊がカウントダウン状態になってきたようですね。決壊の状況にもよるのでしょうが、ライフラインの維持など、被災地はもとより成都市内にも影響が出るのではないかと心配しております。
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……以上です。
救援物資の扱いについての混乱は上述した通りですが、日本メディアの通訳を務めた女子学生が大学構内での生活環境と被災地の状況とのギャップに大きなショックを受けている、というのは注目すべき点かと思います。
テレビやインターネットで被災地についての情報を十分に得られていなかったのかなあ、とふと考えました。情報として頭に入れてはいたものの、実際の現場の雰囲気に呑まれてしまった、ということなのかも知れません。
震災という非日常をむしろ楽しむ余裕がある成都市内の大学構内における生活環境と被災地の状況が余りに違い過ぎて、それが言葉を失うほど懸絶した現実だったということなのでしょうか。Aさんのルポにあるように、市中心部はかなり落ち着いた雰囲気を取り戻しつつあるようです。
また一口に成都市といっても随分広いですから、市中心部と郊外の状況だけを比べてもかなり違いがあるのではないかと思います。
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【追記】唐家山地震湖の決壊が秒読み段階となりました(以下は日本時間)。
●排水路の水位まであと41cm(6日15:00)
●堤防付近で雨が降り出す(6日17:20)
●排水路の水位まであと30cm(6日18:00)
●排水路の水位まであと26cm(6日19:00)
●地震湖からの流出は7日01:00ごろとなる見込み。
●排水路の水位まであと18cm(6日21:00)
●排水路の水位まであと13cm(6日22:00)
●排水路の水位まであと9cm、降雨中(6日23:00)
「新華網」が実況中です。
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-06/06/content_8320643.htm
※「排水路」とは堤防の全面決壊を防ぐべく地震湖の水を少量ずつ排出するために掘られたもの。