いのち ー 日はまた昇る

小説の創作が好きである。今回のは猫の語り手が吟遊詩人と「アンドロメダ銀河」を旅する話。散文詩
のように磨くのが夢。

銀河アンドロメダの猫の夢 32

2018-07-09 09:27:59 | 芸術

32        いのちの旅

 

  トパーズの宝石のようなこの惑星アサガオの冒険を終えて、我々はアンドロメダ銀河鉄道の駅に向かった。

黄昏の美しい時がこの排気ガスに汚れた空気の惑星にも訪れようとしていた。薔薇色の光は灰色がかってはいたが、それでもあの真紅の薔薇の花を思い出させる自然の荘厳さがあたりをおおっているのを感じた。青みがかった空気の流れがあり、風がそよそよと吹いていた。確かに頬には暖かい風ではあったが、何故か吾輩は心地よく感じた。

背後に広がる山にも廃墟のようなビルの並ぶ町にも明るい光の残りがぐるぐる渦を巻いていて、何か不思議な霊的なものが駅の方角に吹いているような気がした。

並木の間にガス灯が灯り、ふと聞こえる水音は何か銀河の流れの音のようにも聞こえた。

広大なクジャクが羽を広げたように、駅は前方で待っていた。

不思議な鐘の音がこの夕暮れの束の間の憩いの時を告げているようだ。

いくつもの大きな星が輝き、我らの旅立つアンドロメダの大空に手招きしているようではないか。木の葉が広場の樹木から音もなく散り、宇宙の真理を語っているではないか。

 

 物質と霊、物質と仏性、それが一つになったいのちに満ちた宇宙。孫悟空の持つ科学の如意棒をはるかにしのいだ永遠のいのちの力が我らを引っ張るように、アンドロメダ銀河鉄道の駅へと導いていく。

 

 駅の構内に入り、アンドロメダ銀河鉄道の雄姿を見た時に、ハルリラが豪快に笑った。

「この列車には、面白い男が乗る。それを今、魔法界からメールでキャッチした。そいつと話すのが良いという知らせだ」

「面白い男って、どんな人よ」

「さあ、それは会ってのお楽しみということだな。ただ、おそろしく背の高い男だから、すぐ分かるということしか連絡がきていない」

「ふうん。魔法界からメールはどうやって来るの」

「それはハートとハートで通信するのさ。だから、あまり複雑な話は出来ない。

シンプルな話しか出来ない。今回のも、ただ、素晴らしい人だ。話すのが楽しみになる人というメッセージしかない」

 

 アンドロメダ銀河鉄道の我々の座っている横側の席に、二十名ほどの中学生風の子供たちが一人の女性教師に引き連れられて、入ってきて、どさどさと座った。ウサギ族の男の子や女の子が多いようだ。

目の細い女の子が言う。「ここは座れないわ」

「何で?

「幽霊がいるんだもの」

「そんなものいるわけないだろ」と少し太った男の子が言う。

「ほら見えない?

しばらくその周辺ががやがやしていたので、先生が言う。先生は馬族のようだ。

「どうして座らないの」

馬族であるが、きりりとした目と細い引き締まった唇からインテリの風格がにじみ出ている。あごが長いのが目立つ特徴だが、長い黒髪は優雅である。吾輩はハルリラの話を聞いていたから、この先生を見ていた。

だが、ハルリラの話では、男だと言うし、どうも一人で来ているようだから、違うのだろうと思いながらも、それにしても生徒との会話が興味ぶかかった。

 

「え、先生。幽霊が座っているんだよ」とほっそりした男の子が目を丸くして言う。

「どこに?

「そこ」

「あたしの目から見たら、誰も座っていないわよ」と先生が言う。

「先生は大人だから、見えないんだよ」

「いや、僕にも見えないぜ。そんなものいるわけないだろ」と少し太った男の子が言う。

「どんな幽霊?」と耳の長い女の子が聞く。

「とても綺麗な若い女の人。でも、何か悲しそうな顔をしている」と目の細い女の子が答える。

「どうしてそれが幽霊なの」

「肌が透き通っているのよ。」

「ふうん。ともかく、私には見えませんから、あたしがそこに座ることにしますわ」と先生。

「大丈夫かしら」

大人は見えないようだが、子供にも幽霊を見える人と見えない人がいるらしい。

 

 ハルリラが立ち上がって、そちらの方向をじっと見つめていた。

「うん、異次元の世界から迷い込んだ猫族の霊人だ。素晴らしく美しい人だよ」

吾輩は猫族と聞いて、どきりとした。

吾輩もあの京都の銀行員宅に来る前の、霊界の美しい風景がかすかに夢のように記憶としてあるのだ。自分で、これが実際の自分の前世の世界の記憶なのか、それとも、幼い頃の夢の記憶なのか判然としない。

どちらにしても、異次元から迷い込み、ハルリラに見えるものが我輩に見えないのは気持ちが落ち着かぬ。

そして、馬族の先生が座ってしまった。

「その席に、先生は座れるの」と吾輩はハルリラに聞いた。

「無理に座ろうと思えば、座れると思うけど、あの霊人がどう思うかな。相手と馬が合えば、生身の身体を借りれるのだから、喜ぶということもありうる。相性が合わなければ嫌がる、どちらにしても先生は変な気持ちがすると思う」

吾輩にはそんな幽霊は見えない。だから、子供たちだけの話だけだったら、悪ふざけということも考えられると思ったが、ハルリラが見えるというのだから、これは間違いなく、幽霊はその席にいるのだろうと、吾輩は思った。

 

 アンドロメダ銀河鉄道はいつの間に、出発していた。真紅の丸い恒星は今や遠ざかり、遠くの大空の一角はあかね色に染め上がり、列車よりの空にはもう銀河がちりばめられ、大きな星や小さな星が輝いてみえるのだ。先生もなにくわぬ顔をして、外の方角を見ている。

「先生、何だか急に若くなったみたい」

「あら、そうかしら。うれしいわね」

確かに、先ほど見た先生は 四十代半ばくらいの中年の馬族の女性だった。顔が細長かった。

しかし、今は、ひどく若返っている。いつの間に、顔もいくらか丸みを帯びている。それに、二十代の顔だ。

厳しい表情もどことなくやわらかなムードである。

やはり、気のせいか、虎族の若者モリミズの恋人、猫族の娘ナナリアとどこか似ているような気がしてきた。

黒い大きな目に大きな黄色い耳が少しゆらゆらしていた彼女に似ている。身体はふっくらとして丸みを帯びていている所なんかそっくりではないか。透き通った肌は幽霊のためなのか。モリミズの恋人のみずみずしい肌を思い出す。彼女に似た耳はどんな情報も逃さないというしたたかさを持っているように見える。そんな知覚が幽霊にもあるものなのだろうかと、吾輩は考え込んだ。

そうだ。モリミズからちらりと聞いたではないか。モリミズの恋人ナナリアは姉の失踪を追っていたのだ。姉は猫族の新聞記者でアンドロメダ銀河のあの地域一帯を担当していたが、どうも消されたようだ。だが、はっきりしたことが分からない。ナナリアは姉を愛していたし、この失踪にプロントサウルス教がかかわっていた可能性があると感じていたので、虎族のモリミズにそれとなくもらし、モリミズが惑星アサガオに旅立つ切っ掛けになった裏があるのかもしれないと、吾輩は考えた。モリミズが惑星アサガオに行ったのはスピノザの講師というのは表向きで、こういう裏話があったのかも。とすると、これは姉の幽霊である可能性が高い。姉と妹はアンドロメダ銀河鉄道を時々、一緒に旅をしたことがあると聞いたこともある。

 

吾輩はハルリラに言った。

「どうしたんだろう」

「異次元の霊人が、先生の身体を借りているんだよ。先生は無理に霊人の上に座り込んだからね。」

「そんなことあるのかね」

「滅多にないことだけれども、先生にも霊人が入り込みやすい何かがあったんだと思う」

「若返りたいとかという気持ちが無意識にあったりして。それにしても、異次元の霊人というのは」と吾輩は言った。

「うん、われらの世界でも、母親の胎内にいる胎児の時に、妊娠何か月で魂が飛び込んでくるというじゃないか。

それから、有能な霊的な体質を持っている人は魂が入りやすいと言う。

だから、今回の場合も、霊人の思惑と中年の先生の無意識が一致して、面白い状況が生まれたのじゃないかな。ぼくが見た所、あの霊人はいい人だ。悪さすることがないから、心配はいらないな」とハルリラは言った。

 

 吾輩は異次元から迷い込んだ霊人というのが理解できなかった。

「いったい、それは人間なのかい」

「霊でできた人間だよ。異次元の世界から、このアンドロメダ銀河には侵入しやすい所がいくつもある。その一つがこのアンドロメダ銀河鉄道ということだろうと思う。こちらからは見えなくても、向こうからはこの面白いアンドロメダ銀河に遊びに行こうと思っている霊人はけっこういると思う」

「そんなことどうして分かるのさ」

「まあ、ぼくの直観だよ。俺だって、魔法界からこのアンドロメダ銀河鉄道に飛び込んできた。霊界のことはよく分らんが、魔法界では、アンドロメダ銀河への旅に出ようと思ったら、この鉄道に侵入するのがオーソドクスな道なのだよ」とハルリラは微笑した。

 

その時、兵士の服装をした男性が二人、一人の兵士をかかえ、向こうの車両から入ってきた。

子供が言った。「あ、第一次大戦で戦死した兵士だ」

「そうだ。そうだ」

確かに、兵士は青ざめ、かかえられている兵士の顔にはケイトウの花のような赤い血がべっとりついています。

先生が急に立ち上がった。

「え、第一次大戦。あたしが一番取材したかったあの愚かな戦争」

「先生、どうしたの」と一人の生徒が聞く。

 

 ハルリラが我輩に言う。

「先生の身体を占領している猫族の新聞記者の魂が第一次大戦と聞いて、驚いているのだ。きっと彼女はそこを取材したかったんだ。

でも、アンドロメダ銀河から地球まで行くのは ちょっと無理だと思う。異次元からやってくる霊人の中に、こういう兵士がいれば、取材の対象になると思っていて、たまたま惑星アサガオに降りるということもあるかも」

  

でも、と吾輩は思った。地球では第一次大戦というのは百年も前のことだぜ。

宇宙インターネットで、取材するというなら、分かるけど。

それじゃ、この三人の兵士たちは何なのだろう。百年前の兵士がこの銀河鉄道に飛び込んできたというわけか。そんな変なことが起こるのだろうか。

死んで百年間、どこかの霊界を浮遊していて、この銀河鉄道にたどりついたというわけかもしれない。

霊界は時間と空間のない虚空のような無限のいのちに満ちた所なのかもしれない。

吾輩はすっかり忘れてしまった故郷のことを思い出そうとしたが、無理だった。

  

その時、乗務員が入ってきた。

彼は「ああ、地球の戦争で、死なれた方ですね」と言った。

「よくわかりますね」と若い兵士が言った。

「ええ、百年くらい前の戦争でしたよね。私の方でキャッチしております」と言って、乗務員はスマートフォンのようなものをじっと見ていました。

「こちらに座っていただけますか」と生徒の席で空いている所の席を指さした。

「それで、行先は温泉天国でよろしいのですな」

「ええ、そこへ行ければ嬉しいです」

三人の兵士たちは座り、乗務員は先へ行ってしまった。

子供たちは珍しそうに、兵士たちを面白そうに見た。

「おい、そちらのうさぎさん、君たちはどこへ行くのだね」

一人のうさぎにそっくりの顔をした子供が「ぼくらは修学旅行で」とさわやかな声で言いました。

「平和はいいな。戦争なんてするものじゃない。坊や、いいか。

戦争なんて、愚かな人間が考えることだよ。外の風景はあまりにも素晴らしいのに、そこでバタバタ人が倒れて行くんだ。人間が発明した大砲や機関銃で。愚かな戦争だった」

と一人の兵士が言いました。

 

 その時、隣の方の車両からやってきたのだろうか、背丈二メートルは超える、がっちりとした体格の大男が我々の前に現われた。ハルリラは「あの男だな。面白い男というのはきっとあの男だ」

吾輩も「なるほど。面白そうだな。君の魔法のメールは正確だね」

「そりゃそうさ」

 

その姿は何かを修行している行者のようだった。茶色っぽい粗末な、しかも、洗濯をしたばかりのように、綺麗な肌触りの服を着ていた。顔は小さな岩のようにごづごつして、目はアーモンド型に近く、口髭とあご髭が白のまじった薄緑の雑草のようにぼうぼうとはえている。

これは又、何族の人間なのか、見当がつきかねる。そういう人は吾輩のマゼランの旅の中でも珍しい。

車両のどこからか、「あ、シンアストランだ」という声が聞こえた。

 

シンアストランと呼ばれた男は立ったまま言った。

「そう愚かな戦争だった。地球はいつまでもつのかね。核兵器なんてものを沢山持っている国が争っているんだからね。何億年も栄えた恐竜が隕石の落下で一挙に滅びたように、そういう予兆があちこちのニュースでも感じられるじゃないか。戦車だの、ミサイルだの。戦闘機だの。はっきり言って、あれは人を殺す道具だぜ。あんな物騒なものに何百億円もかける人間って、はたして利口なのかね。」

「あなたもそう思いますか」と兵士が言った。

「おおいに思う。

そうだ。人間というのは愚かになった時は、徹底的に愚かになる。しかし、目覚めれば徹底的に聡明になる。人間というのは愚かという岸辺と聡明という岸辺の間につながれた太い綱の上をあっちに行ったり、こっちに行ったりしている生き物なのだろう。科学を上手に使うことが大切なのだろう。その科学が戦争に使われたりして、人間の煩悩で翻弄されている。悲しいな」

兵士はもう一人の兵士がうめき声をあげたので、そちらに気をとられた。

吾輩は何故か、人間が持つ悪を強調する親鸞を思い出した。 

 

その時、ハルリラが突然、「おじさん。ネズミ族だね」と言った。  

シンアストランはおやという顔をして、目を丸くした。

「そうなんだよ。よく分かったね。わしはネズミ族だ。わしは長い修行によって、普通の人にはどこの民族が分からないような姿になってしまったと思っていたが、見破られたか。ハハハ。ネズミ族は、アンドロメダ銀河では低く見られたり、恐れられたりする奇妙な感じになってしまった。今や、アンドロメダ銀河では、最も優秀な科学と武器を持っている惑星に住むヒトだが、宇宙に出ることには消極的で、まあ、一種の鎖国状態だな。物は豊かで、栄えてはいるが、広い宇宙に目を向ける大切さを忘れた息苦しい所があって、わしは飛び出し、アンドロメダ銀河の原始の森のある惑星に憧れ、そこで修行を積んだのだ。

こういう変わり種のネズミ族はけっこういる。例えば、惑星アサガオのニューソン氏のような科学の天才」

吾輩はカナリア国まで、ウエスナ伯爵について来て、カナリア国で水素社会をつくる夢を語っていた生き生きした目のニューソン氏の顔を思い出した。 

カナリア国に到着した時の祝い酒で、吾輩も初めての美酒に酔いしれて、ニューソン氏に良寛の和歌【ひさかたののどけき空に酔い伏せば夢もたえなり花の木の下 】を紹介した時に、彼は素晴らしい微笑をして頷いていた。あの時、昔はネズミと猫は敵だったのに、その時は心を通わす魂の友となったではないかと感動したものだった。      

  

 

                                                                           【つづく 】

 

 

 

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