空華 ー 日はまた昇る

小説の創作が好きである。今回のは猫の語り手が吟遊詩人と「アンドロメダ銀河」を旅する話。散文詩
のように磨くのが夢。

銀河アンドロメダの猫の夢 34

2018-07-12 09:27:31 | 文化

 

 34  神々の号泣

  吾輩はネズミ族の特徴をここで書いておきたい衝動にかられた。高度の文明と金銭を持っているので、彼らの気位は天狗のように高いということである。

そういう文明をきらって、ただ、ひたすら良寛のように道を求めてシンアストランは宇宙に修行の旅にでたのであろう。

だから、彼はまれな存在だ。ネズミ族には彼のような大男は珍しく、小柄な人が多いし、教養レベルも高い人から低い人まで実にさまざまで、アンバランスな文化を築いている。ウサギ族のように耳が長いという目だったものはなく、目が丸く鼻が長いというのも、ネズミから高度の文明を持つヒトに進化する過程で洗練されているので、もしも地球のどこかの地下鉄にのったら、ハンサムな奴だと思われる程度に人類にも同化できるかもしれない。

 さて、そのネズミ族の大男シンアストランは再び、沈黙して、呼吸の瞑想をしているようだった。

吟遊詩人が静かにヴァイオリンをかなでる。

神界から流れてくるような荘厳な響きが急に悲しみの流れのような音色に変わり、胸を打たれている間に、やがて小川の流れのようなかろやかな響きとなる。

それから、彼は歌を歌った。

 

森と湖を突き抜けた涼しい風がわが頬をなでる

月光は庭の隅々を照らし

緑の葉に宿った露はしずくとなって流れ

銀河の星は天から降るようにまたたいている。

かわせみが飛んでいるせせらぎの音

時々響く雷のような戦争の砲火と轟き

我は病む 戦火の自然に及ぶ愚かさを悲しみ

 

 

「わしはね。君等、地球の人達に一つだけ助言したいことがあるのだよ」

「何でしょうかね」

「うん、わしのような乞食行者が言うのも恐縮とは思うのだが、ぜひ伝えたいと思うのは、親鸞の考えをもう少し、取り入れた方がいいと思ってな」

「ああ、親鸞といえば、あのヒットリーラの国に還相回向して、布教していることは知っておりますが」

「わしは彼と会って、しばらくの間、話したことがある。素晴らしい思想だ。まさに人間は愚かで、悪の要素を持つ生き物であるが、その愚かさを自覚した時に、知恵の光が彼あるいは彼女を包む。そうすると愚かな自我が消え、人はその智慧の光そのものになってしまう、少なくともわしは親鸞の考えをそう解釈した。

戦争を見ればよく分かる。どちらも自分達が正義だと主張する。そして相手を憎む。そして、殺し合いだ。これは個人のトラブルでもそういう場合が多い。自分は正しい。相手が間違っている。親鸞はそこのところを少し考え直せというわけだ。」

「確かにその通りだと思います」と吟遊詩人が言った。

「シンアストランさんは行者なんですね」とハルリラが言った。

「まあ、そんなものじゃな」

「それなら、あの先生にとりついている幽霊を取り外してやれば。

そうでないと、子供たちを管理している先生が妙な妄想の虜になるとおかしなことになるのじゃないかと心配です」

 

「どれどれ、ああ、あの方ね。確かに、異界から来た幽霊がいるね。しかし、あの兵士だって、幽霊みたいなものだ。

わし達みんな幽霊みたいなものさ。ただ、どこに足場を置いているかということだけで、現象は異なってくる。

そうではないかね。君達ヒト族も精密な生き物だが、一皮むけば原子からできているのだろ。その原子たるや、殆ど空っぽだっていうじゃないか。君達の目が粗くできているから、目に形ある人間さまと映っているだけの話じゃないか。

異界も霊界も色々あるのに、君達の目では、見えんな。ハハハ」

「僕には少し見えるよ」とハルリラが言った。

「剣舞の時は世話になったから、愚痴は言わないが、お宅の魔法よりも、このあたりの修行は年季がいるのさ。君はまだ若い」

 

 「そんなことよりも、あの子供たちの先生に、若い女の幽霊がとりついているということですけど、その女が悪さをすることはないですか」

「あの幽霊はね、猫族の女なんだ。新聞記者かなんかで取材をしていたのだと思う。」

「何で死んだんですか」

「さあ、そこまでは知らん。今喋ったことも、わしの直観だからね。

それじゃまた」

そう言って、行者は立ち上がった。

「え、もう行っちゃうんですか」

「うん。食堂車に行って、少しコーヒーを飲んでくる」

  

シンアストランが通ると、今までにぎやかに喋り笑っていた生徒たちは、シーンとなって、行者を見詰めた。

すると、シンアストランは急に雷のような声を出した。

まるでサンスクリット語のようで、何て言ったのだが、分からないが、物凄く綺麗な宝石のようなものを先生の方に飛ばしたような美しい呪文だった。

ハルリラの魔法の呪文とは違う。

 

 あら、不思議や、先生にはあの若い猫族の娘の霊が消え、元のいつもの中年の馬族の先生に戻っていた。

急に老けたような印象を吾輩はうけた。

「あら不思議なことをする行者だね」と吾輩はハルリラに言った。

すると、「不思議だけど、今まで行者がいた所に、あの猫族の娘があの先生から飛び出て、そこに座っているよ」

「え、ぼくには見えないけど」と吾輩は言った。

吟遊詩人は言った。「うん、何かしらの神秘な生き物が隣に座ったね。それだけは分かるが、姿が見えない。見えるのはハルリラだけか。何か聞いてみたら」

 

「どうして、銀河鉄道に?」とハルリラは吾輩には見えない幽霊に聞いた。

「銀河鉄道に来たのは、妹が乗ってはいないかと探しに来たということなの」とハルリラはうなづきながら、独り言のように言った。

「妹さんって、どんな風なの」とハルリラはさらに聞いた。

 

吾輩は猫で、特殊な耳をしているから、そこのあたりまでなんとか聞こえたが、妹の様子を言っている所は聞こえなかった。そうすると、ハルリラが通訳してくれた。幽霊の妹とは、何と、ついこの間まで一緒にいた虎族の若者モリミズの恋人、猫族の娘ナナリアではないか。今はモリミズ夫人になっている。

「ハルリラ君。教えてあげたら」

ハルリラは吾輩には見えない相手の幽霊に、なにやら一生懸命に喋り、幽霊の妹ナナリアがトパーズの惑星で結婚式をあげたことを教えたのだ。

彼女が喜びのため息をしたのを、吾輩も猫の耳でキャッチした。

「良かった」と彼女は言っているようだった。

そして、しばらくハルリラに何かを喋り、そこから消えた。それが我輩の直観でも分かった。幽霊の話はこうだった。

幽霊つまり、新聞記者はプロントサウルス教の取材をしていて、この教えの悪に気づき、それを宇宙インターネットに一部、発表している最中に消されたというのだ。

ハルリラが言った。「お礼の言葉を言っていたよ。そして、異界に帰るって」

そういえば、銀河鉄道のわれらの車両には少なくともいないことが、吾輩にも分かった。どこの車両にもいないだろう。彼女の行くべき異界に帰ったのだ。そう思い、吾輩はモリミズと結婚した猫族の娘ナナリアのことを思い出し、胸が苦しくなる思いがした。今ごろはきっと幸せな家族をつくっているだろう。子供ができると忙しくなるな。

幽霊の無念はどうすることも出来ない。我々はアンドロメダ銀河鉄道に乗って、動きがとれないのだから。メールでモリミズ夫人【ナナリア】に知らせることも考えたが、幸せのまっただかにいる彼女に知らせても、ロイ王朝が健在となってしまった今となっては、どうすることも出来ない。それに、幽霊の話には具体性がない。我々は相談して、知らせないことにした。

今、若者モリミズは、伯爵と同じように、新しいカナリア国で介護士になり、新しい幸せな生活が始動したばかりなのだ。

 

 それにしても、我らは幽霊の悲劇から表現の自由などの基本的人権の大切さを痛感したわけだ。この事件を守る砦が憲法であることは明らかなことであるし、スピノザ教会が独自にアンドロメダ銀河の惑星に広めようとしているカント九条の理念はまことに素晴らしいと感嘆する。なぜならば、惑星間や国通しの紛争解決のための武力行使はしない、そのために軍備は治安を維持するための最小限にとどめるというのだから、現実との背離があまりに大きいとはいえ、その理想主義には脱帽せざるをえないではないか。

基本的人権の宝庫とカント九条は平和を希求する人類の宝が凝縮されているのである。

 

吾輩はそう思いながら、伯爵と結婚したヒト族の娘のことも思いだした。

巌窟王の娘だ。彼女も幸せになったことだろう。

 

どちらにしても、次の惑星はどんなところだろう。

アンドロメダ銀河鉄道の窓の外を見ますと、美しい風景が広がっていました。

緑色に光る銀河の岸に、柳の並木の細長く垂れた葉や焦げ茶色の太い幹のある緑の桜の葉が、風にさらさらとゆられて、まるで何かの踊りを踊っているようでした。他は、全て、真空のヒッグス粒子のような何かの輝きのようで、波を立てているのでした。

しばらくすると、アンドロメダ銀河鉄道の先の方で蜃気楼のような白い宮殿が立ち、その周囲に花火のようなものが上がったのです。白い宮殿におおいかぶさるようにして、大きな花のような広がりは赤・青・黄色・と様々な色に輝き、薔薇の花のようなひろがり、百合のような花の広がり、向日葵のような花の広がりと直ぐに消えてしまうのですけど、再びその花火のような美しい大輪の薔薇、菊、百合の花は白い宮殿をおおってしまうのです。全てが夢のようで、また蜃気楼のようで、時々、ピアノの音のような美しい音を空全体に響かせているのは、宮殿で何かの催しをやっているようにも思え、宮殿の周囲にも白いミニ邸宅が並び、おそらくは人々がその不思議な光景を鑑賞しているに違いないと思わせるものがありました。

そして、確かに、銀河鉄道の列車の周囲の下の方は何か透きとおったダイヤのような美しい水が流れているのかもしれないのだと、ふと吾輩は思ったものです。

 

 何時の間に、シンアストランの行者がコーヒー茶碗を持って、そこに座っていました。

うまそうにして、珈琲を飲むと、満面に笑顔を浮かべて、彼は言いました。

「地球で死んだ人は、そのまま、銀河鉄道への旅に出ることがある。

アンドロメダ銀河の惑星で死んだ人は 幽霊となって、銀河鉄道に出て来る。ここは面白い所だ。そうは思わんかね」

「確かに不思議ですね」

「宇宙には、まだまだヒト族の理性では理解できない所がたくさんあるということだよ」

「そうなんですか」

「どちらにしても、いのちは永遠さ。この永遠の旅で、人は自分の魂を磨く、これを知らないと、人は愚かになって、そして争い、みじめになる」

「魂を磨くのですか」

「そうさ。色々な試練にあって、自分の魂を美しくしていく、そういう永遠の旅だ。しかし、人間には親鸞がおっしゃったように煩悩というものがある。この煩悩の重さは大変なものさ。ところで、君等の旅。次はどの惑星で降りるのかね」

「通称ブラック惑星と言われている所です」

「あの惑星ね。あそこには、わしの知人がいる」

「え、どんな方ですか」

「いや、あまり話したくないのだが、実は弟が」

「弟さんですか。それじゃ、ぜひお会いしたいですね」

「や、彼は金の亡者になってしまったからな。わしとネズミ王国を出る時には修行をして真実のいのちを見つけようと意気軒昂だったのだが、彼は途中で落ちこぼれ、堕落した」

「堕落した」

「金に目がくらんで、修業なんかくそくらえと思ってしまったのだ」

「そんなに簡単に」

「真実のいのちを見つける修行は厳しい。

吟遊詩人のヴァイオリンの奏でる天へと魂を運ぶ美しい音楽も魂を掃除して、一定レベル以上に引き上げないとその良さが分からない。絵画もそう。

物語もそうさ。物語を新聞を読むようにして読んで中傷するような奴は魂を引き上げる修行の意味が分からない。

魂は進化するのだ。その意味が分からない連中がブラック惑星には多いのさ。

自分の弟には、そうはなって欲しくないと思う。それだけは願ってるよ。なにしろブラックな所だからね。

親鸞が言うように、まず自分の中にある悪と愚かさを見つける時に、人は天空から降りて来る素晴らしい光の衣に包まれ、本当の人間になれる。

宗教の本質は大慈悲心である。このことを忘れると、全ての宗教は堕落する素質を持っている。良寛が漢詩で、江戸幕府に体制化した仏教を批判しているのを見ても分かる。堕落すると、尾ひれのついた人の噂をまきちらすような悪がにじみ出て来る。

悪っていうのは、ああいうブラック惑星の住人になってその雰囲気にひたると、直ぐにその人の魂の中に入り込もうとする。つまり、誘惑が大きいということよ。

もっとも、ブラック惑星にもそういう精神の荒廃と戦い、煩悩と戦い自分を磨いている立派な人も多い。弟がその仲間になってくれることを、わしは望んでいる」

 

どこから飛んできたのか、美しい赤いインコがシンアストランの肩にとまった。

「わしのペットだ」とシンアストランは微笑した。

 

 吟遊詩人は小鳥にほほえみ、歌を歌った。

 

雪がふる夜、ああ降りしきる白い雪の涙

薔薇は机に向かい古典を読んでいた

海のような音がする、ふと見る、窓の外、

幻のような、紫陽花のブルーの姿、ああ街角の悲しみの舞踏

 

吹雪の夜、ああ悲しみの嵐の神の号泣

薔薇は机に向かい静かに画集を見ていた

すすり泣きのヴイオロンの声がする、ふと見る、窓の外

蜃気楼のような、紫陽花のブルーの姿、ああ森の中を駆け抜ける

 

街角と自然、紫陽花のブルーの姿、あなたは舞踏が好きだ

あなたが舞う時、薔薇は古典を読んでいる

その時、永遠が舞う。雪のように永遠が舞う。

どこへ行くのだ、紫陽花よ。薔薇は君を愛しているのだ。

今ここの永遠の舞台の上で、静かに思い出の紫陽花のブルーの姿を見ていたいのだ

おお、人間は自らの悪を知るべきだ。

戦争、地球汚染、気候の温暖化、核の恐怖

紫陽花のブルーに学ぶべきだった。

あの清廉な魂の美しさに学ぶべきだった。

あの天界の色の胸に染み入ること

一輪もいいけど、紫陽花の森となるとね、それは極楽。

 永遠を見る薔薇よ、紫陽花と街角で会おう、そこで温かい珈琲を飲むか

 

  

                  【つづく】

 

 

 

 

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