信長本陣では、すでに丹羽長秀・木下藤吉郎などの重臣たちが集められ、軍議が開かれていた。
神戸具盛たちが信長に報告してからでは遅い・・と、義太夫と新介は示し合わせて、神戸具盛たちの先回りをし、いち早く信長の前に伺候した。
義太夫と新介の到着を知ると、信長は二人を幕内へと迎え入れた。

「遅いぞ、義太夫!」
「は・・面目次第も・・」
「詰まらぬ話はいらぬ。蒲生は降伏致したか」
信長は長い前置きが嫌いだ。さっさと結論を言え・・とばかりに切り出してくる。義太夫はウッっと詰まったが、
「は、はい。上様のご威光の前に、これ以上の戦さは無意味と悟ったようにて・・」
「では、人質を岐阜へ送り、当主蒲生賢秀はこのまま兵を率いて上洛戦に加われと申せ」
佐治新介が顔色を変えて義太夫を見た。義太夫の額も既にびっしょりと汗をかいている。
「そ、それが・・お待ちくだされ・・」
「何が不服じゃ」
信長が眉間に皺を寄せたので、義太夫はさらに汗がとまらない。
「されば、蒲生は降伏いたしたのではありませぬ」
「なんじゃと?」
「織田家と和睦すると申しておりまする。和睦の証しとして、恐れながら上様の姫をお一人、蒲生家嫡子の鶴千代どのの嫁に欲しいと・・」
「何!」
信長の顔色がサッと変わった。
新介はまともに信長の顔を正視できず、俯いている。

「さすれば蒲生は織田家の縁者。上様の天下統一のため、如何なる尽力も惜しまぬ・・と申しましてござりまする」
居並ぶ諸将は固唾を飲んで信長と義太夫のやりとりを見守っている。
「義太夫!」
信長が殺気立って義太夫を睨みつけたので、義太夫はビクリと方を震わせた。
「それを申したは蒲生賢秀ではあるまい」
「は・・ご慧眼恐れ入って・・」
「誰が申した」
「蒲生賢秀の嫡子の鶴千代どのにござります」
「鶴千代・・?・・で、その者は他に何か申したであろう」
「は、はい。されば、織田の御大将はこの百年続いた戦国を終わらせる希代の英雄。必ずや鶴千代どのの言葉に耳を傾けてくださりましょう・・と」
信長は返事をしなかった。
その目は義太夫を睨みつけたままだったが、何か思案しているようにも見える。凍りついたような空気が流れ、義太夫も新介も、とてもまともに信長の顔を見ることができなかった。
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神戸具盛たちが信長に報告してからでは遅い・・と、義太夫と新介は示し合わせて、神戸具盛たちの先回りをし、いち早く信長の前に伺候した。
義太夫と新介の到着を知ると、信長は二人を幕内へと迎え入れた。

「遅いぞ、義太夫!」
「は・・面目次第も・・」
「詰まらぬ話はいらぬ。蒲生は降伏致したか」
信長は長い前置きが嫌いだ。さっさと結論を言え・・とばかりに切り出してくる。義太夫はウッっと詰まったが、
「は、はい。上様のご威光の前に、これ以上の戦さは無意味と悟ったようにて・・」
「では、人質を岐阜へ送り、当主蒲生賢秀はこのまま兵を率いて上洛戦に加われと申せ」
佐治新介が顔色を変えて義太夫を見た。義太夫の額も既にびっしょりと汗をかいている。
「そ、それが・・お待ちくだされ・・」
「何が不服じゃ」
信長が眉間に皺を寄せたので、義太夫はさらに汗がとまらない。
「されば、蒲生は降伏いたしたのではありませぬ」
「なんじゃと?」
「織田家と和睦すると申しておりまする。和睦の証しとして、恐れながら上様の姫をお一人、蒲生家嫡子の鶴千代どのの嫁に欲しいと・・」
「何!」
信長の顔色がサッと変わった。
新介はまともに信長の顔を正視できず、俯いている。

「さすれば蒲生は織田家の縁者。上様の天下統一のため、如何なる尽力も惜しまぬ・・と申しましてござりまする」
居並ぶ諸将は固唾を飲んで信長と義太夫のやりとりを見守っている。
「義太夫!」
信長が殺気立って義太夫を睨みつけたので、義太夫はビクリと方を震わせた。
「それを申したは蒲生賢秀ではあるまい」
「は・・ご慧眼恐れ入って・・」
「誰が申した」
「蒲生賢秀の嫡子の鶴千代どのにござります」
「鶴千代・・?・・で、その者は他に何か申したであろう」
「は、はい。されば、織田の御大将はこの百年続いた戦国を終わらせる希代の英雄。必ずや鶴千代どのの言葉に耳を傾けてくださりましょう・・と」
信長は返事をしなかった。
その目は義太夫を睨みつけたままだったが、何か思案しているようにも見える。凍りついたような空気が流れ、義太夫も新介も、とてもまともに信長の顔を見ることができなかった。
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