ゴエモンのつぶやき

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知的障害者が造るワインに、人々が酔いしれる理由

2018年11月18日 14時22分25秒 | 障害者の自立

新酒の季節。栃木県足利市に、山の急斜面を切り開いた畑でブドウを育て、ワインを造る「ココ・ファーム・ワイナリー」があります。国際線のファーストクラスやサミットでも採用されるワインを造るのは、併設の施設「こころみ学園」で過ごす知的障害のある人たち。11月にはブドウ畑で新酒を味わう収穫祭が開かれ、全国からお客さんを迎えます。

今年は35回目で17日、18日に開催。ココを取材してきた筆者が、35回も続く理由をレポートします。

収穫祭はみんながご機嫌

筆者は新聞記者として駆け出しの頃、栃木県に赴任していました。地元の友人に贈られたのがココのワイン。障害ある人たちが造ったと知り、心に残るプレゼントでした。

それから20年近くたった2016年、初めてワイナリーの収穫祭に参加してみて、楽しさにびっくり。周りにならってブドウ畑にシートを広げ、現地でしか味わえない微発泡の「できたてワイン」を一口。「飲みやすいので注意」と言われるのも納得で、酵母が生きていて口当たりがいいです。

生バンドの演奏や出店もあって、みんながご機嫌でした。ワインの造り手であるこころみ学園の園生は、お客さんの笑顔を見て誇らしげ。子どもにやさしく、筆者の娘にニコニコと話しかけていました。

収穫祭の参加費は3000円で、ワインが1種もらえます。「できたてワイン」のほか、持ち帰れるワインやノンアルコールが選べて、ミネラルウォーターつき。会場には子ども向けコーナーや救護室があり、スタッフはマイクを握りケガやトラブルを防ぐため注意を呼びかけます。1万~2万人が参加するにぎやかな2日間は地元にも受け入れられ、経済効果が大きいそうです。あちこちに気配りした上での継続なのですね。

個性的な人材の宝庫

その後、ココで働く人たちに会いたくて、筆者は連載の取材をお願いしました。もとは1950年代、地元の教師だった川田昇さんが、知的障害のある生徒と一緒に山の急斜面を開墾し、ブドウ栽培を始めました。それからこころみ学園ができて「園生が楽しく働ける場を」と80年に保護者の出資でワイナリーを設立、今は約20種、年間20万本のワインを製造。ワイナリーが学園からブドウを購入し、醸造の作業を学園に業務委託する形になっています。除草剤を使わずたくさんの手作業があるため、体を動かすとご飯がおいしく、よく眠れて園生は心身が元気になります。

人材が豊かであることも、ワイナリーの特徴です。収穫祭の会場で、バンドが演奏します。筆者が訪れた時、世界的なバイオリニスト・古澤巌さんの出番がありました。聞くと、古澤さんはこのワイナリーの取締役だったのです。古澤さんは葉加瀬太郎さんの先輩でもあり、ココを舞台にバンドを組んだ時代もあったそう。いい演奏のために心身を鍛え、被災地にも飛んでいき、プロ意識を高め続ける古澤さん。取締役の仕事が「働く人や、お客さんを喜ばせる演奏」というのが粋です。

働く喜び、役割のある幸せ

現場を支えるスタッフは、技術を持つ上に個性的。なじみのない足利にアメリカからやってきたブルースさんは、園生と言葉が得意でない同士、ボディランゲージをして一緒に働き、技術を伝えました。他に、大学で醸造を学んだ人、畑で体を鍛え上げる人、タイプの違うスタッフがいます。都会のブラック労働に傷つき、転職してきたソムリエさんの話にも引き込まれました。ワイナリーの社長は園生の家族でもあり、きれいごとではない思いを聞きました。

障害者に期待し、時にはぶつかり合い、励まされてきたスタッフの話から、「働く喜び」「役割のある幸せ」は大事だと感じました。スパークリングワインを造る過程でビンを少しずつ回す作業や、醸造したワインのビン詰め、ブドウ畑の手入れなど細かい仕事は、障害ある人の集中力が生かされています。

全員が花形のワイン造りで活躍するわけではありません。障害の重さや適性もあり、食事の支度や洗濯など家事が得意なメンバーもいれば、「畑で風に吹かれてカラスよけをする番」も。年齢を重ねて仕事ができなくなっても、愛されるという役割があります。

能力生かして品質向上

ワイナリーは秋の収穫祭だけでなく、どの季節に訪ねてもパワーを感じます。冬の畑には次のシーズンに向けて準備する人たちがいますし、新緑の季節には敷地内のカフェから見える風景が美しい。このカフェはテレビや雑誌で紹介される際に、もはや「障害者のワイナリー」という前置きがいらないようです。

筆者は様々なジャンルの商品・サービスを提供する福祉事業所を取材していますが、障害者が関わるものこそ品質が大事です。「かわいそうだから」という理由で選ばれたら本意でないでしょう。ココでは多様な人材が共に「こころみ」、試行錯誤を繰り返して障害者もそうでない人も能力を生かす働き方ができています。

その積み重ねで、国際線ファーストクラスやサミットで採用される品質になり、収穫祭に足を運ぶお客さんがいて35回、続いてきたと思います。収穫祭で取材したお客さんも「障害者が造るというのは関係なく、おいしいから来る」「福祉として貢献するわけじゃない。毎年、楽しみにしている」と話していました。


 ブドウ畑の頂上で楽しむワイン(左)、できたてのワイン(右)

  2018/11/16         Forbes JAPAN


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