障害を持つ人も気軽に飲み歩きを楽しんでもらおうと、長野市の長野駅前と権堂商店街周辺の飲食店は6月に開催した飲み歩きイベントで、「心のバリアフリー」を掲げた。これまでイベントを開催してきた「権堂バル街イベント実行委員会」が、福祉団体などで構成する「長野市障害ふくしネット」が策定を進める障害を持つ人に優しい店の登録制度に共感し、実現した。【安元久美子】
6月20日夕、電動車椅子に乗る堀内宗喜さん(38)=長野市=は、食事の介助ボランティアの男性とともに飲み歩きチケットを持って飲み屋街へ繰り出した。堀内さんは16年前のバイク事故の後遺症で、胸から下は動かせず、右手首と肘が辛うじて動く。
序盤から問題が発生した。ある店で店内の段差を乗り越えようと店員らが電動車椅子を持ち上げようとしたが、重さが200キロ以上あり断念した。堀内さんは「失敗すると手伝った人も残念な気持ちになる。だから新しい店には行けず、同じ店ばかりになるんですよ」とつぶやいた。
終盤に訪れた串揚げ店でも入り口に高い段差があり、入店を諦めかけた。しかし店員に相談するとすぐに店に外付けされた立ち飲み用のカウンターに通された。堀内さんは店の前を何度も通っていたが、カウンターに気付かなかったという。堀内さんは「新しい発見ができてうれしい」と趣味や休日の過ごし方などを話しながら、おおいに酒も進んだ。店も「車椅子のお客さんは初めて。喜んでもらえたなら、うれしい」と話した。
権堂バル街イベント実行委員会の村松博樹実行委員長(56)は「店も普段は障害を持つ人が来ないから、来た時にどう対応したらよいのか分からない」と語る。今回のイベントで、店側の不安を解消したり、課題が浮き彫りになったりしたことが収穫だ。堀内さんも「お互いに理解し合うきっかけになるとよい」と、語った。
飲食店など全国約2000店のバリアフリー情報をホームページで発信するNPO法人「ココロのバリアフリー計画」(東京都)の池田君江理事長(43)は「店はバリアフリーと聞くと改装などお金がかかるイメージを持つが、ウエルカムな心があればいい。施設側が情報を発信してくれさえすれば障害を持つ人の側も気軽に自分にあった店を選ぶことができる」と語る。池田さん自身も車椅子利用者だ。
イベントの結果は、長野市障害ふくしネットが策定を目指す「障害のある人にやさしいお店登録制度(仮称)」に反映させる。心のバリアフリーが進めば、障害のある人もない人も、障害を気にせず、どこででも気軽に食事を楽しめるようになるはずだ。
毎日新聞 2018年7月15日