障害者の採用期限を延長する案が政府内で浮上している。
来年1年間で4千人を採用する―。雇用水増し問題を受け、安倍晋三政権が打ち出した計画には元々、無理がある。「数合わせに終わる」「民間企業の採用に影響する」といった当事者らの懸念は強い。
見直しは当然としても、問題発覚後の政府の対応一つ一つに認識の甘さが透ける。
国の33行政機関のうち、28機関が厚生労働省の指針に違反し、計3700人を法定雇用率に不正算入していた。死亡者や退職者、勤務歴のない人物を障害者に含める悪質な例もあった。
水増しは地方自治体、裁判所、国会でも見つかっている。
安倍政権が4千人の採用計画を決めたのは10月だった。来年2月に障害者を対象にした初の筆記試験を実施し、その後も省庁ごとに人員を募るとしている。
再発防止策では、行政機関への厚労省の調査権限強化のほか、専門アドバイザーの新設、職員向けセミナー開催などを掲げる。人事院は、職場で配慮すべき点を示す指針案をまとめた。
筆記試験の決定から実施まで3カ月余。受験者にとって十分な準備期間とは言えない。行政機関が11月に開いた障害者向けの合同説明会では、参加者から「どんな配慮があるのか分からない」「具体的な働き方が見えない」との不満の声が聞かれた。
検証委員会がわずか1カ月でまとめた調査報告書を盾に、政府は処分者を出すことなく「意図的な数字操作ではない」として幕引きを図ろうとしている。水増しが分かった後も、複数の省庁が「自力通勤」や「介助なしでの勤務」を求人の応募条件に挙げ、批判を浴びた。人事院は筆記試験の運営方法に戸惑っている。
障害者雇用が義務付けられたのは1976年だ。40年間、国は何をしてきたのか。初めて採用するかのように右往左往している。
法定雇用率という体裁にばかりこだわってはならない。庁舎のバリアフリー化、音声や点字による表示案内、時差通勤や通院休暇、障害の程度に応じた業務の仕分け…。ハードとソフト両面での環境づくりこそ急ぐ必要がある。外部の支援機関や専門職との連携の仕組みも築きたい。
失態続きの国に対し、障害者団体は「官製の障害者排除だ」と憤りの声を上げる。本気になって改善に取り組まなければ、失墜した信頼は取り戻せない。
(12月14日) 信濃毎日新聞
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