自宅で療養 快適に
入院先で「そろそろ退院を」と言われ、家に戻って療養することになった時、何をどうそろえればいいのでしょう。健康を前提にした仕様の家から、障害や病気があっても暮らせる家へ。より快適に住まいを変えるための知恵を障害者や専門家の話から考えました。(錦光山雅子、塩野浩子)
■使いやすく改修
広島市安佐北区の団地1階で暮らす迫畑てつ子さん(62)の家を訪ねた。
迫畑さんは脳性まひ。最新鋭の介護用品やバリアフリー家具はないが、暮らしやすさをとことん追求した家に暮らす。「不便は感じない」と迫畑さん。特に知恵と工夫が施されているのが、茶の間だ。
10畳ほどの部屋は、板敷きの床と、それより50センチ高い畳敷き6畳分に分かれている。畳敷き部分が高いのは車いすの高さに合わせたためだ。
迫畑さんが車いすなしで移動するとき、まひで曲がった足で少しずつ前に進む。車いすより低いと、誰かが体を持ち上げないと移れない。
でも、車いすと同じ高さなら、足が持ち上がれば自分で移れる。畳敷き部分に据え付けたトイレや流しの高さも、迫畑さんが座った高さに合わせてある。板敷きの床は、隣の台所や浴室に電動車いすで動きやすいよう段差がない。
最初は普通の和室だった。ここまで変えたのは、昨夏、62歳で亡くなった夫の吉美さんだ。交通事故で脊髄(せき・ずい)を損傷し、指先しか動かなかった。障害者施設で出会って結婚。13年前、「施設から出て暮らしたい」と引っ越した。
自立して生活するために何が必要かをいつも考えていた吉美さん。福祉関係の職員やボランティアの学生たちに、様々な要望を遠慮せずに出し、相談した。「畳のある部屋で暮らしたい」という妻の望みもかなえた。
亡くなる前日まで家で療養した。闘病中、板敷きの床に置いた自分のベッドを畳敷き部分の高さに合わせ、妻が近づきやすくした。
家が、吉美さんの大事な形見になった。
■レンタルも充実
暮らしやすさと療養を両立させる方法の一つに、改修という手がある。
福祉用具の販売・レンタルや住宅リフォームを手がける「岡山リハビリ機器販売」(岡山市北区)。在宅療養を始める患者らから、年400件以上の相談を受ける。
まず、本人の症状や家族の情報を医療スタッフや作業療法士、理学療法士らから聞き取る。「1日の生活を聞いた上で動線を考える。段差なら5ミリでも大きい。車いすだと衝撃を感じ、すり足なら引っ掛かる」と、設計課係長で1級建築士の粟津賢二さん(40)。
介護保険に入っていれば給付制度が使えるという。
シャワーの際に使う椅子やポータブルトイレなどの福祉用具を買うと、年10万円以内なら自己負担は1割。
住宅改修は(1)手すりのとりつけ(2)床段差の解消(3)滑り止め(4)開き戸から引き戸への取り換え(5)和式から洋式便器への取り換え――ができる。要支援か要介護と認定されていれば、20万円までなら自己負担は1割だ。
ただ、申請には、図面や施工前の屋内写真など、詳細な資料が必要になる。「転倒の危険があるので手すりが必要」など、理由も必要だ。
改修が無理でも、知恵次第で在宅療養はできる。
「最初からフルコースの改修は必要ない」。広島市中区の居宅介護支援事業所「ピース」所長でケアマネジャーの吉田由貴子さんは言う。
在宅療養は、入院先からの帰宅計画を練るところから始める。
庭の飛び石や砂利が車いすを阻むからと、家族に外してもらったこともある。団地住まいの患者は、階段幅や踊り場の面積を事前に調べ、人工呼吸器や導尿管をつけたまま担架に載せて階段も上った。
次に、間取りを考える。
キャスターつきベッドなら移動が楽だ。置く場所は居間。「広い上に目が届きやすく、トイレや台所にも近くて便利です」
体を拭くタオルから専用バケツなど、新たに必要なものは「100円均一の店でもそろえられます」。おむつやタオルはベッド脇に簡易棚をしつらえ、まとめて置くと、訪問ヘルパーが覚えやすい。
最近は、介護保険で借りられる道具が充実してきた。
例えば、取り付け型の手すり。突っ張り棒のような柱=写真=を2本取り付け、柱と柱の間に手すりをつける。工事不要。賃貸住宅でも使える。柱2本と手すりを借りた時の自己負担は月千円前後だ。
≪追伸 記者より≫
2年前、自分のマンションを改修したとき、設計者に「あなたは、ここでどんな生活をしたい?」と聞かれ、答えに詰まりました。何も考えてなくて人任せでした。今回の取材で吉田さんも同じことを話していました。「在宅療養も、家でどう過ごしたいのか、自分なりのコンセプトを持って」。住まいは生き方を反映するんですね。
◎「医のかたち 患者力」シリーズは今月末で終わります。
最後に「私の考える『患者力』」のテーマで、ご意見を募集します。
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迫畑さん(右)が食事する畳敷き部分。右奥のトイレは座ったまま用足しできる高さ=広島市安佐北区
朝日新聞