散歩から探検へ~個人・住民・市民

副題を「政治を動かすもの」から「個人・住民・市民」へと変更、地域住民/世界市民として複眼的思考で政治的事象を捉える。

「性愛と政治」における「性欲とイデオロギー」~ PV数からみた高い関心

2014年11月05日 | 永井陽之助
昨日のPV数で「永井政治学」をタイトルに入れた4ヶ月前の記事が珍しく200を越えてダントツであった。何故か良く判らない。表題にあるように“性”を掲げたことが関心を呼んだことは容易に推測できるのだが。
 『永井政治学における「性愛と政治」~性欲とイデオロギー140716』

内容は現代政治学入門における「性と政治」のアナロジーの箇所を紹介したもの。おそらく、政治学者の書いたもので、このアナロジーを取り上げたものは、調べてはいないが、おそらく無いのでは、と思っている。

更にこの記事のもとになった1991年の日経記事を紹介している。20年前以上のこの時期に今日の「イスラム国」の出現を予測したものとして比類ないように思われる。大切なのは、この洞察力がどのように形成されたかだ。
 『民族・宗教の対立による世界的無秩序の広がりを予測140617』

印象的なフレーズとして、以下を紹介している。
『民族自決を際限なく進めていけば、世界が“バルカン化”する。エスニック・ナショナリズムは性欲と似ていて、崇高な愛に昇華することもあるが、嫉妬、怨念、憎悪をかきたてる可能性のほうが大きい。その意味で今日の世界は、危険と不確実性をいよいよ深めている』。

それと共に、NHKスペシャル「ストーカー 殺意の深層~悲劇を防ぐために~」も引用した。恋愛感情に始まり、殺人という暴力に発展するからだ。

暴力は対人関係(政治)の極限に潜むものだ。性衝動を抑圧し、それが相手に取り憑いて、自らの思いを効かせるという権力欲に移行し、最後に権力欲が果たせないと絶望し、暴力に走る。将に、性愛と政治のアナロジカルな関係を示すものだ。それも負の連関になる処が現代的なのかもしれない。それも相手を殺すという一方的な暴力によってだ。

国際政治の中でも、個人レベルの交流の中でも、感情が表面化して暴力の世界が出現する。個人から国家をなす集団まで、パラレルに感情が動き、行動へ進むのだろうか。もちろん、一部の現象であるが、例えば、イスラム国に、他国から人が集まっているというニュースも耳に入る。ストーカーも、虐待・ネグレクトも増加傾向と言われている。燃え易い世の中なのだ。

ところで、永井の翻訳の中に「権力と人間」(ラスウェル)がある。これは永井編集による「現代人の思想 政治的人間」にも一部が掲載されている。フロイトの精神分析額の流れをくみ、その洞察を新しい政治学に導入し、更に展望した新シカゴ学派のひとりである。

丸山眞男が1949年に書いた「軍国支配者の精神形態」の冒頭に引用したF・シューマンもまた、シカゴ学派のひとりだ。その目配りの良さと共に、新たに勃興する学問に対する関心を向ける態度は、流石だと感心する。

今回のPV数はツイッターが合計44 PVあり、多くを占めている。しかし、ツイッターの流れだけからでは,広がりをもった情報に接することはできず、その場限りのお知らせになってしまうようにも思える。「永井―丸山」というような連想が発展すれば、他の世界への知的探検も可能になるだろう。


      

     

「黒田金融緩和第2弾」への批判~WSJ紙のユーモア感覚

2014年11月03日 | 経済
WSJ日本版」が11月3日の社説において、ユーモア・ウィットに富む表現で「黒田金融緩和第2弾」を軽く捌いた。おそらく、日本のジャーナリズムにはない表現力だろうと、筆者はうならされた。

題して『日本の「イーズ」の魔法使い―緩和拡大ではなく改革推進を』。
オズの魔法使いをもじって「イーズ」と言っている。
英文では“Japan’s Wizards of Ease”であるから、黒田東彦日銀総裁の名前一文字「東=EAST」を付けた様に思える。これだと、発想が見事だ!



続いて本文だ。
「量的緩和を拡大しても財政上、規制改革上の失策の埋め合わせにはならない。」「日本銀行の黒田東彦総裁にショーマンシップがあることは認めよう。10月31日に日銀が追加緩和策を打ち出すと、東京株式市場は即座に7年ぶりの高値を付け、円の価値は対米ドルで6年ぶりの低水準となる112円に下がった。しかし、この緩和政策の魔術の舞台裏はのぞかない方がいい」。

最初のフレーズがタイトルに対応した理由を示して、タイトルと合わせて、記事の全体像を示している。非常に明快だ。次のショーマンシップを持ち出した処も写真と合わせて皮肉たっぷりといった処だ。しかし、直下の効果を報じながらも、「舞台裏は覗くな」と、その脆弱さを示唆する。

更に実際の施策を「…マネタリーベースを従来の年間60兆?70兆円から年間80兆円に増やすために、より多くの日本国債、上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(J-REIT)を購入するというのが日銀の解決策である」と説明する。

その中味は別の記事で写真に表れる様に、黒田氏が追加緩和でどのように資産購入を増やしたかを説明したボードには数字の「3」がちりばめられていた。「…不動産ファンドの年間購入額は「3」倍、保有国債の平均残存期間を「3」年延長して10年に、国債の年間購入額を「30」兆円増やすというものだ」。

実態は、「救い難い国家財政、改革が進まない労働市場、甘やかされた国内産業、高齢化する人口といった材料が入っているデフレの大釜から魔法でインフレを引き出そうという勇敢な試み」と横道にそれた対応を比喩的に批判する。基本的視点は先の筆者の記事も同じだが、訳者は全く上である。
 『サプライズへの違和感~黒田金融緩和第2弾141101』

その後は、改革が一向に推進されない実態を鋭く描き、「…通貨の切り下げは輸出業者の円建ての収益を押し上げるが、投資の増加や効率化を促すような経済改革なしでは、日本企業は世界の市場シェアを他国の競争相手に奪われ続けるだろう。少なくとも外国人株主は量的緩和が生み出す資産価格バブルで大儲けするだろうが」と親切にも警告を発する。

一方、「追加緩和策で「3」を維持する主要政策は、「2年でインフレ率を2%」とする目標だ。この旗を降ろすことは日銀のデフレ退治の決意の弱まりと受け取られるため、黒田総裁はその堅持を図ったとみられる」。

しかし、「2%というインフレ目標率が2015年度中またはその前後に達成される可能性が高いと言ってきたし、その考えに変わりない」とも述べた。即ち、「「2年で」インフレ率目標を達成という時間軸は事実上、「3年」に延長された…日本の会計年度が4月に始まることを考えると、「15年度の後半」といえば15年10月から16年の3月末までのどこかの時点を意味する」。

以上の様に、黒田氏の説明をWSJは全て読み切ったのだ。結論的には、
「投資家は黒田総裁の最新の手品を歓迎したが、しばらくするとまた次の奇跡を要求することだろう。…安倍首相と黒田総裁の金融政策が尽きるのも、投資家が舞台の煙の後ろには経済成長がないということに気付くのも時間の問題だろう」。





米国知識人、「黒人奴隷制度」を謝罪~慰安婦問題に関連して

2014年11月02日 | 歴史/戦後日本
10月31の朝日新聞によれば、ハーバード大教授の知日派であるジョセフ・ナイ元国防次官補は都内でのシンポジウムに出席し、慰安婦問題をめぐる河野談話の見直しは中国、韓国に日本を叩く機会を与えると述べ、懸念を示した。

一方、同席した米国のリチャード・アーミテージ元国務副長官も「我々の国では、アフリカ系米国人の扱いを謝罪してきたし、続けるだろう。百年で十分だということにはならない」と語った。

しかし、再度政治問題の中に手を突っ込むことは日韓双方にとって得策ではないことは冷静にならずとも容易に判ることだから、日本政府が再三にわたって言明している様に、河野談話そのものを見直すことは有り得ないと思う。従って、ナイ氏の指摘は杞憂なのだ。

それよりも筆者はアーミテージ氏が、シンポジウムの席で、慰安婦問題に関連して、黒人奴隷制度の謝罪に言及したことに驚いた。というのも、韓国からの様々な指摘は、当事国であるから仕方ない面があると思っているのだが、欧米からの指摘には違和感があるからだ。

特に米国を含む相当数の国の議会での非難決議、米国内での従軍慰安婦碑・像設置には驚いた。無関係の国が、それも事実をどこまで精査したのか、あやふやな知識、それ以上に政治的宣伝に等しい、性に絡んだ対日イメージをもとに行動している姿は不思議であり、何ともレベルの低さを感じていた。
碑には「日本帝国政府の軍隊によって拉致された20万人以上の女性と少女たち…」と書かれているという。
 『米国での従軍慰安婦碑・像の設置130913』

更に、それに呼応するように、日本の国内において、朝日新聞の様に、虚偽の情報を意図的に流すマスメディア、それを利用する政治家とその取り巻きが問題を増幅している。これが単に国内問題であれば、政治的に忘れられることで済む。しかし、外交問題になると、拗れて収束しない。

従って、戦後の米国主導による日本の民主主義改革において、慰安婦問題は戦前における残された負の遺産として、対米問題になった感がある。ここに米国の尊大さを感じ、政治的に反発する層が励起する現象が日本の中で起こる。

「アンクル・トム」の話は小学生のときに読んだ。世界史の中でも南北戦争とリンカーンによる黒人奴隷の解放は米国民主主義の象徴的事象として教えられた。しかし、その後も黒人は人種差別問題で苦しみ、キング牧師の活動は日本の教科書にも載るレベルで知られている。そうだとすると、米国内で黒人奴隷碑・像設置がされたとしても不思議ではない。
 『米国での従軍慰安婦碑・像の設置(2)130914』

しかし、そうならないのは終わったことを掘り返し、様々な人たちの様々な感情を呼び覚ますことに対する自制であろう。これが常識の基づく態度だと思うからだ。常識とは、歴史を学ぶという一コマのなかで、冷静に認識を築くことに他ならない。その意味で、池田信夫氏が事実を広く知らせ、少しでも誤解を解くように努力していることは、質の高い仕事であると評価する。それは日本の「黙殺文化」を払拭し、外に対して自らの見解を明らかにすることに繋がるからだ。
 『外国に対する「黙殺文化」と直截な翻訳表現130618』

おそらく池田氏の発言(例えば)と、それを受けて虚報を認めざるを得なかった朝日新聞の報道が、「事実の圧力」として今回のアーミテージ氏の発言へ働いたと感じる。遅まきながら「米国の黒人奴隷問題」を持ち出すこと無しに、「日本の慰安婦問題」に触れることはできないとの自己認識にアーミテージ、ナイ両氏が到達したのであれば、日米間の対話の方法として、一歩前進が得られたと思う。

「アメリカの社会体制と価値体系の構造的矛盾は、「黒人」の存在様式そのものに凝結されている」。
(永井陽之助「なぜアメリカに社会主義があるか」「年報政治学」(1966))
この論文後、約50年が経過し、オバマ大統領が既に誕生した。米国は、感情的ではなく、冷静な歴史認識として黒人問題を振返ることができるか?

「1500万人の奴隷を「強制連行」して、その所有権を憲法で公認していたのだから、これはホロコーストにも比すべき大規模な国家犯罪である。」(池田信夫ブログ)のだから、慰安婦問題と比べ得る問題ではない。


           

サプライズへの違和感~黒田金融緩和第2弾

2014年11月01日 | 経済
「日銀緩和で世界同時株安」とは、日経夕刊の見出しだ。日本では昨日、円が112円台に急落し、日経平均は755円高となった。

しかし、金融緩和とは云っても、先の異次元緩和のこれまでの結果は、
1)「紙幣」は日銀の当座預金に積み上がり、
2)円安でも輸出は伸びず、輸出企業の利益だけに反映し、
3)輸入は中小企業、国民一般を直撃しただけだ。
それも、円安の帰結は常識的に素人でも想定できたものだ。
 『円安と株高に関する「私たちの経済学20130303」

従って、二番煎じで意味のなさそうなことを、何故?という疑問が直ぐに浮かんでくる。その意味で筆者には電撃的であった。しかし、更に考えると、何故、電撃的なのか?金融政策に変更を加えることは、本来、周知が出来るように、周到に行うべきなのではないか。今回の様に急激な株価変動を起こさない様に、慎重に行う事象ではないか。
それをサプライズに見せる理由が良く判らない。

これに反応して株価は大きく挙がったのであるが、ここでは外国ファンドなどの戦略的売買が先行したと思われる。すなわち、黒田総裁のメッセージはこれらのプロに対するもので、彼らの思惑を超えて裏をかいたという説がメディアに流れている。しかし、長期的・広範囲の視野においては、株価の意義を毀損する方向に作用し、マネーゲーム化に押しやる方向に働かざるを得ない。

黒田氏は円安が日本全体にとってプラスと弱々しく云うが、全体としてゼロサムゲームであり、勝ちはトヨタを筆頭とした輸出企業であるし、負けは一般国民と、原料・材料を輸入に頼り、製品を加工して国内で販売する中小・零細企業であることは、日本全体がこの間に、イヤと云うほど学んだことだ。

では今回の金融緩和の長期のわたる直接的な影響は何であろうか?
日経において4名の有識者がコメントを出しているが、これに答えたのは唯ひとり、河野龍太郎氏だ。次の様にコメントする。

「日銀の追加金融緩和は、年金積立金管理運用独立法人(GPIF)の資産構成見直しと補正予算による追加財政と一体の政策だ。GPIFが手放す国債や、政府が発行する国債を、事実上日銀が買い進めると云って良いだろう」。

「今回、日銀が決定した長期国債の増額規模は、GPIFの国際資産比率で手放される30兆円と偶然にも一致する。國の借金を中央銀行が引き受ける「マネタイゼーション」の色彩が強まったと云える」。

この偶然の中に「マネタイゼーション」の重要性を読み取ったのは、他の有識者にはいなかったようだ。すなわち、大衆民主主義における公的債務圧縮の手法をこの中に見ているのだ(詳細は記事を参照)。
 『「金融抑圧」政策の歴史的展開と現在131113』

本来、増税、歳出削減で債務を削減するのだが、議会制民主主義の下では、有権者に負担を強いる政策は簡単には決定できない。
増税、歳出削減は議会での議決が必要である。しかし、金融抑圧政策による、国債保有者、最終的には預金者、保険契約者、年金契約者へのインフレ税である金融抑圧課税は議会の決定を必要としない。インフレの加速さえ避けることができれば、政治家には極めて魅力ある選択肢と映るのだろう。

従って、河野氏は政策的推移を次のように予測している。
政策当局者は意図して金融抑圧政策を採用するのではない。自らが置かれた制約の中で、目の前の危機を避けるために政治家、行政官、セントラルバンカーが様々な選択を続ける結果、金融抑圧政策が進展していくのだと思われる。

マイナス金利の発生に対して、麻生財務相が「色々な金利があって良い」と発言したとの報道があったが、この辺りに政治家としての象徴的な発言が示されているように筆者は感じる。