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『戦争はいかに終結したか』2021 09/14千々和泰明

2022-05-17 15:25:09 | 連絡
戦後の日本人は、「戦争終結」を考えることから目をそむけてきたのではないだろうか。この一文から始まる『戦争はいかに終結したか』。
 
期せずして刊行直後に米軍がアフガニスタンから撤退。読売新聞、毎日新聞、日経新聞に次々と書評が掲載されるなど、注目の一冊となっています。著者の千々和泰明さんに本書誕生のきっかけから、「カブール陥落」の見方まで聞きました。
――戦争がいかに始まるかについての研究は多くても、いかに終わるかについての研究は少ないそうですね。千々和さんが戦争終結に関心を持ったのはなぜでしょうか。
 
戦後の日本人は、「戦争終結」や「出口戦略」について考えを深めてきませんでした。
無理もありません。
そもそも日本は戦争をしないことになっているわけですから
。逆に「戦争の出口戦略」などと言おうものなら、「お前は戦争をしたいのか!」と怒られるのがオチでした。
でもそれでは、「もし原発のメルトダウンが起きたらどうするか」を議論することがタブー視されていた3・11以前と変わらないのではないでしょうか。
新型コロナ危機でも似たところがあったと思います。
最近ようやく平和安全法制が制定され、戦争の抑止や、自衛隊による初動対処について議論が深まるようになってきました。
しかし、もし不幸にして戦争が起こった場合、これをどのように収拾し、相手とどういう条件で講和を結ぶのか、まったくといっていいほど議論されていません。
ところが調べてみると、海外では日本に比べ戦争終結理論の研究が進んでいることが分かりました。
こうした海外の研究の知見を活用し、また過去の戦史に学ぶことで、戦後日本の安全保障論議のなかで見落とされてきた「戦争終結」というピースを埋めることができるのではないか、と考えたのです。
本書の刊行にあたっては、戦争容認的だという誤解やそれにもとづいた批判を受けることを覚悟していました。
ところがふたを開けてみると、新聞・雑誌の書評やネット・SNS上でいただいた反応では「今こそ読むべき本」といった好意的な声が圧倒的でした。
おそらく出口戦略の欠如ということについての不安は既に皆さんのあいだでなんとなくあって、そこにはっきりと「戦争終結」と銘打ったテーマで国際政治理論・戦史・将来への示唆をまとめた本書をご提示したので、何かしら皆さんのご参考にしていただけたということではないかと思っています。
 ――本書の特徴は、「根本的解決と妥協的和平のジレンマ」という視点から、20世紀以降の主要な戦争の終結過程を分析していることです。「根本的解決と妥協的和平のジレンマ」について、簡単に説明していただけますか。
戦争終結には大きく二つの形態があります。
①一つは、自分たちの犠牲を覚悟してでも、相手をコテンパンにやっつけて将来の禍根を絶つ、という形態です。これが本書のいう「紛争原因の根本的解決」です。たとえば、第二次世界大戦におけるナチス・ドイツに対する連合国の立場が当てはまりますね。
➁逆に、相手と妥協し、その時点での犠牲を回避する形態もありえます。
こちらは「妥協的和平」です。1991年の湾岸戦争で、サダム・フセイン体制の延命を許したアメリカの立場が典型的です。
どちらに転ぶかを決めるのは、戦争終結を主導する側、つまり優勢勢力側にとっての「将来の危険」と「現在の犠牲」のバランスです。
もし優勢勢力側にとっての「将来の危険」が大きい割に、そのような危険を除去するために払わなければならない「現在の犠牲」が比較的小さくてすむというのであれば、「紛争原因の根本的解決」へと進むことになります。逆に「将来の危険」が小さく「現在の犠牲」が大きいと、戦争は「妥協的和平」で決着します。
①「紛争原因の根本的解決」を望むと「現在の犠牲」が増大しますが、かといって➁「妥協的和平」を求めれば「将来の危険」が残る。このトレードオフ、二律背反に着目するのが、「紛争原因の根本的解決と妥協的和平のジレンマ」という視角です。
戦争の終わり方はそれぞれバラバラで、一見つかみどころがないように思えるのですが、このレンズを通すことで、実はどの戦争の終結の仕方も同じロジックをたどっていることが分かります。
様々な戦争の終結を一望できるようになるのです。それにより、過去の失敗からの教訓も引き出しやすくなります。

 


――本書の刊行後に、アフガニスタンでタリバンが政権を掌握し、アメリカ軍が撤退する事態が発生し、世界に衝撃を与えました。本書の視点から、一連の出来事をどう理解すればよいでしょうか。
カブール陥落は奇しくも日本では「終戦記念日」と呼ばれる日の出来事でしたね。
本書刊行の時点ではこのような急展開は予想していませんでした。
期せずしてアフガニスタン情勢を受けて「緊急出版」されたようなかたちになり、多くの方に本書を参考にしていただけているようです。

米メディアの報道では、「9・11戦争」とか「20年戦争」といった言い方が使われていますね。
ですが、アフガニスタン戦争は2001年のタリバン政権崩壊をもっていったん終わり、その後戦争は別の局面に移った、ととらえることもできます
2001年の「終結」は、9・11テロを引き起こしたアルカイダを殲滅するためにおこなわれた、アルカイダを庇護する当時のタリバン政権の打倒のことでした。
これに対し2021年の「終結」が意味するは、アフガニスタンにおける民主国家建設の挫折です。
アフガニスタン戦争の「終結」をこのように二段階に分けて考えると、前者と後者ではアメリカにとっての「将来の危険」と「現在の犠牲」のバランスが逆転しています。
9・11事件直後のアメリカにとって、アルカイダが再びテロをおこなう「将来の危険」は許容できるものではありませんでした。
一方、少ない「現在の犠牲」で軍事作戦を展開できると考えられました。
「将来の危険」が「現在の犠牲」を上回ったので、アメリカなどの有志連合は「紛争原因の根本的解決」、すなわちタリバン政権の打倒にまで踏み込んだといえます。
ところが20年の歳月を経て、この間に2000名以上のアメリカ軍兵士が犠牲となりました。一方、テロの記憶も薄れ、またテロリストの移動や資金の流れを把握することも容易になり、アメリカにとっての危険の性質も変わってきました。「現在の犠牲」が「将来の危険」を上回るようになってきたのです。そうである以上、妥協を拒否することは合理的ではありません。
ベトナム戦争終結の論理とよく似ていますね。 
ただ、タリバンが予想以上に短期間でアフガニスタン国軍を圧倒し、カブール陥落を実現したこと、それによって日本を含めて厳しい撤退作戦を強いられたこと、さらには多くの協力者の人たちを現地に置き去りにせざるをえなかったことについては、バイデン政権の見通しの甘さが指摘されているところです。
 このように本書は今回のアフガニスタン戦争終結について考える際の参考にしていただけますし、「戦争終結」そのものについてのテキストとしても、長いあいだ読んでいただける仕様になっています。 
――内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)付主査の経験がおありで、現在は防衛省防衛研究所主任研究官を務めておられます。こうした経験が本書に活きた点はありますか?
そもそも戦争終結に関する問題意識を持つにいたったのは、内閣官房・総理官邸での実務経験が大きかったですね。
内閣官房で担当したのは、
2013年に実現したNSC(国家安全保障会議)創設でした。そこで当時、NSCができたらこんなふうになります、というのを色々考えたわけです。
そのなかで、緊急事態が発生した場合にどのように初動対処するのかだけでなく、NSCという枠組みを使って、その緊急事態全体を出口戦略も含めてどう管理していくか、という発想が芽生えたのです。
これは私個人の考えですが。
また、国の安全保障・危機管理というものを、研究資料を通してだけでなく、肌感覚で理解できるようになったところはあります。
現在勤めている防衛研究所は、安全保障に関する各分野のエキスパートたちと日常的に議論できる空間でもあります。
特に本書は国際政治理論だけでなく、二度の大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争などカバーしている範囲が広いので、執筆の過程で地域の軍事史などを専門にしている同僚にすぐに意見を求められる環境はありがたかったです。
――最後に、今手がけている、これから手がけたいテーマがあれば教えてください。
今取り組んでいるテーマは、「戦後日本の安全保障」です。
特にここでは「歴史の呪縛」という観点からアプローチしたいと思っています。
平和安全法制の成立などを受け、日本の安全保障政策の変化が強調されています。
ただ実際はそれほど単純ではありません。
たとえば、安全保障に関するある仕組みが、その当時特有の政治事情のなかでいわば「その場しのぎ」のようなかたちでつくられたにもかかわらず、いったんつくられた仕組みを変えることができなくなり、現代の安全保障体制に課題を残している、というケースがけっこうあると思うんです。
集団的自衛権行使違憲論はその典型例です。
そうした「歴史の呪縛」をひもといていきたいですね
中国の急速な台頭や、アメリカの対外関与の後退という長期的趨勢を前に、
現代の日本が安全保障問題に関して地域や世界で担うべき責任はますます重みを増しています。
今回の戦争終結論もそうですが、現代の私たちが直面する安全保障課題の解決への一助となるような研究を、歴史的視野に立ちつつ、手がけていきたいと考えています。



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