■「核心」ではなくなった「習近平同志」
3月末から4月初にかけて、中国共産党の中央で、2つの異例な出来事があった。その異例は、共に党のトップ、総書記である習近平国家主席
の党内での地位に関わるもの。最高権力者・習近平の失墜が、一歩一歩、着実に進んでいることを伺われる。
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3月31日、中国共産党は毎月恒例の政治局会議を開いた。
翌日の人民日報一面に掲載されている政治局会議の公式発表を丹念に読むと、一つの異変に気が付く。
公式発表には「党中央」という言葉が5回ほど出ているが、
今まで慣用の「習近平同志を核心とする党中央」という表現は消えていた。
「党中央」は単なる「党中央」となっているのである。
政権の1期目に、習近平主席は「党の核心」としての地位を確立した。それ以来、「党中央」という言葉に「習近平同志を核心とする」という表現を冠することは党の公式文章の標準となっている。具体的には、一つの文章において「党中央」に言及した際、
少なくとも最初の一回は必ず「習近平同志を核心とする党中央」という表現を使う。
例えば2023年9月28日の人民日報一面に掲載された、
「第一回中央巡視状況の総合報告を審議する政治局会議」の公式発表、
2024年9月30日の人民日報で掲載された「第二回中央巡視状況の総合報告を審議する政治局会議」の公式発表、
冒頭から、「習近平同志を核心とする党中央は巡視工作を非常に重要視する」の文句から始まっている「習近平同志を核心とする党中央は巡視工作を非常に重要視する」の文句から始まっている。
そして2024年10月29日、人民日報で掲載された、「第三回中央巡視状況の総合報告を審議する政治局会議」の公式発表も冒頭から、
「習近平同志を核心とする党中央の強力な指導下で」との表現を使った。
しかし、先日に開かれた直近の「第四回中央巡視状況の総合報告を審議する政治局会議」の公式発表となると、
冒頭からの「習近平同志を核心とする党中央」が消えてしまった。
文中において5回ほど「党中央」の言葉を使ったのに、「習近平同志を核心とする」表現を完全に避けている。
これまでの慣例から見れば異例であって異常でもある。
■もはや、"one of them"
さらに見ていくと、4月3日の人民日報は一面において、「価格管理体制に関する中共中央・国務院の意見書」を掲載したが、この公式文書の中でやはり、「党中央」という言葉があっても「習近平同志を核心とする党中央」という表現はなかった。
また同じ4月3日の人民日報は、政治協商会議の王滬寧主席が「生態文明に関する座談会」を主宰しておこなった講話を報じた。
王氏は今まで、いかなる会議においても、会議の内容とは関係なく必ず一度、「習近平の核心的地位の確立」を含む「二つの確立」に一度言及するのだが、この座談会ではこの決まり文句は彼の口からやはり出ていない。
このような異変は何を意味するのか。
今後においてももし、党の公式発表や指導者たちの講話から「習近平同志を核心とする党中央」や「二つの確立」のキーワードが出てこないのであれば、
党中央は自らの総意に基づいて、習近平氏が持つ「党中央の核心」としての地位を剥奪し、彼を集団的指導体制の中の一員に落としてしまったということではないのか。
■前代未聞の入れ替え人事の意味
4月2日、中国共産党で、これもまた大変注目すべき動きがあった。
3月31日の政治局会議の直後に、党中央は人事を管轄する中央組織部と対外工作を担う中央統一戦線工作部という主要部門のトップを務める両部長を入れ替えた。
組織部長だった李幹傑氏が統一戦線工作部長に転じ、統一戦線工作部長だった石泰峰氏が組織部長に就いた。
国営新華社などが4月2日、李氏と石氏の新たなポストでの活動を報じた。
二人ともは政治局委員であるが、
政治局委員がその在任中に役職を入れ替えるのは異例を通り越して共産党政権史上前代未聞のこと。
それは何を意味するのか。
前述の中央組織部長と中央統一戦線部長という二つのポストは、同じ党中央の部長であっても、政権における重みが全く違う。
全党の人事と幹部の審査を担当する中央組織部長は党組織管理の要であって、党中央における最重要ポストの一つである。
実際、中央組織部長の経験者が党最高指導部に昇進するケースが多くあったが、これに対して、
統一戦線部長の経験者が最高指導部入りした前例はほとんどない。
こうしてみると、今回の役職入れ替えの意味が分かってくる。
まず、中央組織部長から統一戦線部長に転任した李幹傑氏の場合、習主席と同じく清華大学出身の彼は、同じ清華大学出身で習主席同級生の陳希・前組織部長の推薦で、その後任に就任しているから、習近平派の一員であると思われる。
であるからこそ、
2022年10月の党大会で個人独裁体制を固めた習主席は、
李氏を党組織掌握の要である中央組織部長に任命したのであろう。
李氏が中央組織部長のポストから離れたことは、習主席と習近平派にとって、党組織支配の砦を失うことを意味する。
■習近平、党人事への支配力も失う
その一方、新たに中央組織部長に転任した石泰峰氏は、北京大学法学部出身で、胡錦濤派主要幹部だった李克強氏と同級生。
大卒後は共産党中央党校で教鞭をとっていたが、胡錦濤氏が中央党校の校長を務めた2001年に副校長に抜擢されており、胡錦濤派に近い人間であると思われる。
その一方、習主席が胡錦濤氏の後任として校長を務めた時代、
石氏は習近平にも仕えたこともあるから習主席との関係も概ね良いが、
決して習主席の子飼い幹部や腹心ではない。
したがって、習近平派幹部の李氏が中央組織部長のポストから排除されて石氏がその後任に収まったことは、
政治的駆け引きと妥協の産物だと思われるが、
いずれにしても、
今回の人事入れ替えで習主席が党組織支配の要を失ったことの意味は重大である。
昨年11月の中央軍事委員会政治工作部主任だった苗華の失脚で、
習主席は軍の組織掌握の要を失ったところであるが、
今回、習近平派は党組織掌握の要である中央組織部長のポストも失った。
「習近平同志を核心とする党中央」の表現が政治局会議の公式発表から消えたことと合わせて考えると、
軍だけでなく党による「習近平排除」も着々と進んでいることになる。
石 平(評論家)