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兵隊スラング「ハートロッカー」の意味再考 The Hurt Locker

2010-03-12 | グローバル文化
2010年3月12日(金)

スラング(slang)は、時代と場所によって、そして世代によって、さらには職業によって非常に異なるので、それが発明されて使用されている枠をはみ出すと、理解が難しいのはどの言語で同じである。その意味で、アカデミー賞を受賞した”The Hurt Locker”は、一般人にはなじみの無い軍隊の隠語を題名に押し出して成功した顕著な例といえる。

3月7日の本欄で、この題名の意味について、脚本賞を受賞した、Mark Boal自身へのTime誌のインタービューを引用して、「この言葉はバグダッド滞在中にも何度か聞いていたので、かなり早い段階から題名にしようと思っていた。その意味するところは、『究極の苦痛に晒される場所、いるだけで心 が痛む場所のことだ』(The phrase, the hurt locker. It means the place of ultimate pain — a painful place.)」と解説した。

ネット上のThe On-line Slang Dictionaryもほぼ同様の語義解説を行っている。しいて訳せば「生き地獄、こっぴどい目」ということになる。

一方、ネット上のUrban Dictionaryでは、このスラングはベトナム戦争の時代にさかのぼると解説しているが、この映画のOfficial Siteを開いてみると、「イラク駐留兵士の間では、爆弾の炸裂のことを’the hurt locker’と呼んでいる」と説明している。ひどい目にあう場所や、ひどい経験をする意味のスラングは、日々爆発の恐怖に晒される兵士たちにとって、爆弾の炸裂そのものの意味に変化したのであろう。

なお、日本語の映画紹介パンフレットでは、「行きたくない場所/棺おけ」を意味する兵隊用語と解説しているが、確かに上述のUrban Dictionaryにも棺おけという意味が末尾のほうで取り上げられている。この映画で当てはめると、被爆すれば、「お陀仏」ということだろうが、原作者で脚本を書いたMark Boalはこの映画題名の意味をそこまでは言い切っていない。

また、映画の中では、主人公たちが戦闘の合間に酒をがぶ飲みして、翌日二日酔いになるシーンがある。スラングでは二日酔いのことも’the hurt locker”というらしいのであるが、ここではその意味は関係ないことは確かである。

なお、1980年代、1990年代に発行されたアメリカンスラングの辞書を調べたがこの言葉は収録されていない。この先この言葉が、映画の題名だけで終わるか、辞書に採録されるようになるか、それはネーティブの米国人しだいということになる。




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