もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

フランスの大使召還と原潜

2021年09月20日 | 軍事

 フランスが駐米・豪大使を本国に召還した。

 召喚の原因は、オーストラリアがフランスとの潜水艦の共同開発を破棄して、米原潜の導入に転舵した事に因る。
 オーストラリアの潜水艦整備は、反中・親日とされたアボット首相(2013~2015)時に単独指名で「そうりゅう」型潜水艦の導入が確実視されていたが、親中のターンブル首相(2015~2018)は日・仏・独のコンペ形式に糊塗して、2016年にフランスのナーバル・グループを共同開発社に指名した。フランス指名の理由は「求める要件を最も満たしていた」とされたが、中国に忖度して日本を排除したとの見方が有力であった。
 しかしながら開発は遅れに遅れ着工まで少なくともアト半年以上かかる見込みで、新潜水艦の実戦配備を待たずに現有潜水艦の耐用期間が尽きる可能性が指摘されていた。また、経費も膨張し続けて、最終的には1隻3千億円・通常型潜水艦の相場の2~3倍とする試算も出てきた。ちなみに「そうりゅう型」は整備用資器材の初度経費を含めても1千億円強である。
 オーストラリアは、窮余の策としてアメリカ式原潜8隻の建造(実質的には購入?)に踏み切ってフランスとの共同開発を破棄したが、方針転換は6月のイギリスG7に招待されたモリソン首相と米英の会談で新軍事協力(AUKUS)の一環として決定されたとされている。
 アメリカにとっても原潜技術は最高レベルの軍事機密で、これまでに供与したのは英国のみ、さらには現在、原潜を保有するのは米・英・仏・露・中・印の核兵器保有6カ国だけであることを考えれば、太平洋における中国海軍それも空母打撃群に対する牽制・抑止のためにオーストラリアが原潜を保有することは、願っても無いことと判断したものであろう。
 歴史にIfは禁物であるが、アボット政権がもう少し続いて2015年にでも「そうりゅう型」を発注していれば、既に1~2隻は就役していたことであろうが、オーストラリアが原潜を持つことも無かったと思われる。自由社会から見て、そのどちらが有益であるかは判らないが、オーストラリアの潜水艦整備計画の迷走は、国防を政治信条で弄ぶことの危険性を示す好例であるように思える。

 主題であるフランスの大使召還について教訓とすべき2点を挙げたい。
 1は、発表のテクニックについてである。大使召還の発表は外務省報道官が行ったとされているが、発表には「マクロン大統領の強い意志」と付け加えている。日本の官房長官の「遺憾表明」では、遺憾は政府の意志とされ政権内で誰が・どのレベルが強硬に主張しているのかがはっきり伝わらない。政府の意志は総理の意志という組織論は理解できるが、遺憾表明の結果に対する責任を明確にするためにも、さらには遺憾の強弱を明らかにするためにも意思伝達のテクニックを見直して欲しいと思う。
 2は、オーストラリアの原潜転舵が、フランスにとっても寝耳に水の事態であったことである。この大転換には、豪米英の政治家、官僚、財界、軍人の多くが関わっていると思うが、発表まで秘匿し得たことは教訓とすべきであると思う。日本の場合では、世論の動向を観ると称した意図的リーク、ウッカリ八兵衛の失言、不忠者の御注進(内通)・・・によって企ては早々と露見したであろうと推測する。このことは、日本でも真に国策を考える「愛国者」の育成と選抜を必要としているように思えてならない。


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