ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

あの日の指輪を待つきみへ

2008年08月21日 | 映画レビュー
 アイルランドのベルファストでアメリカ軍兵士の結婚指輪が50年ぶりに見つかったという実話を知った脚本家のピーター・ウッドワードが書き上げた本を、老匠アッテンボローが余裕の演出で作り上げた反戦映画。

 きっちりとオードソックスな感動ものとして作り込んであるのだが、やっぱり老人が作った映画だと思わせる古くささが感じられて、特に巻頭がもたもたするため、わたしはうっかり眠り込んでしまった。もうちょっとシャキシャキした演出にしてほしいわぁ。だが、10分ほどして気を取り直して目覚めたわたくし、あとはしっかり最後まで見ておりました。で、見終わったらやっぱり良くも悪くもアッテンボローだと納得の作品。アッテンボローの映画は確かに皆それぞれそれなりの感動作なのだが、「生涯の感動作」というほどにはすぐれた作品ではない。

 さて、物語は1991年、年老いて病死した男チャックの葬儀の場面から始まる。彼の妻エセルは夫の葬儀だというのに教会の外でたばこを吸っているではないか。娘にもなじられ、古くからの友人ジャックにもたしなめられるエセルだが、一人ふてくされている。エセルは葬儀以来、酒浸りの生活。「わたしの人生は21歳で終わったのよ」と娘に告げるエセルは50年前を回顧していた。それは1941年、彼女の恋人テディは出征直前にエセルと結婚式を挙げ、自分にもしものことがあればエセルを頼むと親友二人に告げて飛行機で出撃した。永遠に帰らぬ人となったテディを思い続けたエセルはしかし、テディの親友チャックと結婚して娘をもうけたのだった。もう一人のテディの親友ジャックがその50年の日々、じっとエセルを見守り続けていた。

 そんなある日、アイルランドから一通の国際電話が。エセルの名前が彫られた指輪をベルファストの丘から掘り出したという少年の電話だった。それをきっかけに、エセルは50年前の愛と向き合うことになる…



 実話ベースとはいえ、かなり数奇な運命をたどった指輪の物語で、ドラマティックこの上ないのだが、にもかかわらずどうしてもかったるい演出にイライラさせられる。何よりも不満なのは、老エセルをシャーリー・マクレーンが演じているというのに彼女のよさがちっとも引き出されていない。ようやくラストシーンに至ってシャーリーらしい闊達さと小憎たらしさが見られて魅力的だったが、それまでのキャラクターに問題がある。いっぽう、老ジャックを演じたクリストファー・プラマーが渋くて素敵な老人だ(わたしはクリストファー・プラマーとマックス・フォン・シドーが見分けがつかないのだが、この二人が似ていると思うのはわたしだけ?!)。若いジャックを演じたグレゴリー・スミスもイケメンでよかった。

 指輪が見つかった1991年のベルファストといえばIRAが独立戦争の最中だったわけで、映画でもIRAの爆弾テロが大きな意味を持つ。50年前に戦争で死んだ米軍兵士と、50年経ってもまだ「戦争」をやめない国で死んでいく兵士。この悲劇がいつまでもなくならないことへの悲しみが老エセルの口から漏れる。「テディもこうだったのかしら」と。

 物語は、50年の時を超えて亡き人の思いをようやく知るエセルが、死者との約束から解き放たれる明るさに満ちて終わる。そのとき、50年の愛を封じ込めてきたジャックの慟哭がわたしの胸を揺さぶった。50年の純愛に涙せずにはいられない。4人誰もが真剣に人を愛していながら、その想いが互いに届かなかった悲劇も、元をただせば戦争のせいなのだ。3人の男に愛されたエセルは幸せ者のはずだが、その愛の深さを彼女は知らなかった。一番可哀想なのはエセルと愛のない夫婦生活を送ったチャックだろうか? いや、彼も一人娘を授かって大切に慈しみ育ててきたのだから、決して不幸な人生ではなかったはずだ。

 50年。50年は長い。50年の間、死者を愛し続けたエセルが頑なな心を解き放った瞬間、新たな愛が芽生える予感にまたわたしは涙する。いくつになっても幸せを求めてもいい。いくつになっても人生はやり直せる。やはり老監督だからこそ描ける愛の世界なのかもしれない。

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あの日の指輪を待つきみへ
CLOSING THE RING
イギリス/カナダ/アメリカ、2007年、上映時間 118分
製作・監督: リチャード・アッテンボロー、製作: ジョー・ギルバート、脚本: ピーター・ウッドワード、音楽: ジェフ・ダナ
出演: シャーリー・マクレーン、クリストファー・プラマー、ミーシャ・バートン、スティーヴン・アメル、ネーヴ・キャンベル、ピート・ポスルスウェイト、ブレンダ・フリッカー、グレゴリー・スミス、デヴィッド・アルペイ、マーティン・マッキャン

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