小説『雪花』全章

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8、辿りついた天涯の海

2012-11-23 11:32:58 | Weblog

 空が青く、陽光は容赦なく海に照りつけ、輝いていた……
 今日、この親子の前にのどかな海が横たわるのを見られたのは実に夢のようだ。
「あぁ、きれいな海だわ、潮の香りがする、気もちがいい……」
 母は我を忘れて少女に戻ったように、感極まったような笑顔をダンボールにくっつけて、この言葉を何度も繰り返して言った。
 母の少し元気になった声を久しぶりに聞いた民は、嬉しくて眦に涙が流れていた……
 「本当にきれい、海は広いなぁ……」民もこの風景を眼差しに焼付け、感動したような声を漏らした。
 民は、この過酷な旅を越えられて辿りついたことを信じられなかったが、しかし、最高の親孝行が天に報われて、胸が高鳴り……思い切り深呼吸し、全身が開放された。そんな気持は生まれて初めだった。
 海辺に着くと、民は三輪車を止め、母をダンボールから外へゆっくり連れておろした。
 ひどく老けた母は痩せこけた頬から下顎にかけて皺が幾重にも走り、顔全体に苦労を刻み込んでいた。母がよくこんな過酷な旅を耐えて生きくれて、民はとても不思議と思い、天を仰ぎ感謝した……。
 母は海を眺めながら、「ここまで来てよかった…」と嬉しそうに呟いた。 
 一度も村を出たこともない母は、今の自分が世界の一番美しい所にいると思い込み、満足な表情を露し、民にぼそぼそと囁くように語りかけた。
 「民に苦労をかけたなぁ。ありがとう。母さんは今とても幸せ、母さんは世界一番の幸せものだ。長生きしてよかったなぁ。」歯がほとんどない母の口元がほころんでいた。
 こんなにも満足している母。しかし体はすでに危惧する状態で、この体でチベットまで連れていくのはもう無理だと思う民は、母が臨終を迎える前に故郷につれて帰ろうと決心した。
 〝落葉帰根″、つまり、自分の家で臨終を迎えることは中国の風習だった。
 日が落ち、薄紅の光が水面に傾き、三輪車は、穏やかな海が見送る中で走り出した……
 やがて、この親子三輪車は遠ざかり、小さな点になって消えていた……
 つづく
 
 

 
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