三
二月になると、さらに寒くなっていた。
父が母と離婚して以来、親子関係が、さらに疎遠になった。凡雪は、相変わらず出勤し、家事にも精を出した。父に声を掛けられるのは、生活費を渡してくれる日だけだ。
五日間あった春節休暇も、あっという間に終った。
初出勤の朝、凡雪は職場に着くと、陳と、ばったり会った。陳は、すぐ鼻の頭を搔いた。
凡雪は、視線を陳に向けったままで挨拶をした。
「春節、おめでとうございます」
陳は数秒ほど躊躇った後、身構えて、「おめでとう」と凡雪に挨拶を返した。
凡雪は、陳が横を掛け抜けて行く姿を見送らなかった。
二人の記憶も、世間の冷たい風も、一切を気に留めない凡雪は、その瞬間に、心の襞が、すでに取れていた――躊躇いも、後悔も、悲しみも、迷いも、感じられなかった。
一週間後の木曜日の夕方、家に戻ってきた凡雪は、何気なくポストを見た。一通の封書が放り込まれていた。封書を手にした凡雪は、裏を返した。
差出人のところに《溧(リー)阳(ヤン)刑務所》の文字を見た凡雪は、胸がどっきんと烈しく高鳴った。
急ぎ足で、階段を上り、部屋に入った。細心の注意を払いながら手紙を取り出した凡雪は、そっと広げて見た。母からの手紙だった。
「愛する雪、花……私は今、溧阳璃积村の女子刑務二隊にいます。血圧が高いのと年齢のせいもあって、重労働を免除されています。毎日、簡単な書き物をしています。三月から面会できるので、できれば一度、会いに来てほしい。とても会いたいです。母より」
涙に噎びながら、何度も母の手紙を読み返した凡雪の心は、もやもやと疼いた。
零れた涙に溶けていく母の筆跡を見詰めながら凡雪は、堪らず喉から迸るような声を上げた――母(ママ)!
溧阳は蘇州と同じ江蘇省直轄であっても、蘇州とは百二十五キロくらい離れている。
つづく