感染症内科への道標

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肺血栓塞栓症及び深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン

2010-03-03 | 循環器・救急医療
日本循環器学会他、9学会による合同ガイドライン 
2004年より改訂、2008年のAmerican College of Chest Physician、European Society of Cardiologyより続くガイドライン 

以下、要訳のみ記載。詳細については日本循環器学会ホームページより全文ダウンロード可能となりますので参照してください。
Chest DVTガイドラインについては2009/4/20 記事で翻訳しておりますので参照してください。 
http://blog.goo.ne.jp/gimmedicineuptodate/e/830657253dbfed36cfc5e8665437930a

Class I: 有効、有用である事で一致
ClassIIa: 有効である可能性が高い
ClassIIb: 有効性が確立していない。
ClassIII: 有用で無く時に有害 

・日本における発症件数は増加しているものの米国の1/8
・血管の30%を閉塞すると肺高血圧症が発生。 
・急性期症例の3.8%が慢性化。 

・リスク因子
血流の停滞(長期臥床、肥満、妊娠、心肺疾患、全身麻酔、下肢麻痺、下肢ギプス包帯固定、下肢静脈瘤)
血管内内皮障害(各種手術、外傷、骨折、中心静脈カテーテル留置、血管炎、抗リン脂質抗体症候群、高ホモシステイン血症)
血液凝固能亢進(悪性腫瘍、妊娠、各種手術、外傷、骨折、熱傷、薬物、感染症、ネフローゼ症候群、炎症性腸疾患、骨髄増殖性疾患、多血症、発作性夜間血色素尿症、抗リン脂質抗体症候群、脱水、アンチトロンビン欠乏症、プロテインC欠乏症、プロテインS欠乏症、プラスミノゲン異常症、異常フィブリノゲン血症、組織プラスミノゲン活性化因子インヒビター増加、トロンボモジュリン異常、活性化プロテインC抵抗性(Factor V leiden)⇒日本人ではいない。プロトロンビン遺伝子変異(G20210A)

・深部静脈血栓症の病態 
⇒静脈血栓は数日以内に炎症性変化により静脈壁に固定され、以後器質化により退縮する。静脈弁は炎症性変化や器質化により障害されるが、一部では弁機能が保持される。血栓性閉塞の血流再開は、急性期には溶解や退縮が中心で、慢性期には器質化や再疎通が重要となる。静脈血栓は、膝窩静脈より末梢側では、数日から数週で消失するものが多い。しかし膝窩静脈より中枢側では、1年以内には半数が退縮するが、消失するものは稀で索状物として残存する。 

・検査
採血(D-dimer、血液ガス含む)、レントゲン、心電図、心臓超音波、肺動脈造影、肺シンチグラフィー(感度77.4% 特異度97.7%), CT, MRA
・プロテインC欠乏症、プロテインS欠乏症、アンチトロンビン欠乏症は日本人では多く、院外発症例、若年発症例では検査を行う。V因子Leiden変異やプロトロンビンG20210A変異は日本での報告例がない。プロテインC及びプロテインSはワルファリン投与中には低下するので、投与中であれば中止し、ヘパリンに切り替えて一ヶ月後に検査を行う。抗リン脂質抗体症候群の診断のためには2回陽性となる必要がある。 

・治療 
・PaO2 60Torr (mmHg)以下で酸素吸入、改善しなければ人工換気の導入。人工呼吸管理を行う場合、胸腔内圧の増加により静脈還流が減少し右心不全をさらに悪化する可能性があるため、7ml/kgと少ない1回換気量が推奨されている。Class I
・右不全、低血圧例に対する容量負荷:Class III (推奨されない)
・心拍出量低下、低血圧例にノルエピネフリン:Class IIa
・心拍出量低下、低血圧例にドパミン、ドブタミン:Class IIa
・心肺蘇生困難例、薬物療法にても呼吸循環不全を安定化できない例にはPCPSの導入:
Class I

・急性肺血栓塞栓症の急性期には、未分画ヘパリンAPTT1.5-2.5となるように調節投与して、ワルファリンの効果が安定するまで継続する。Class I
・急性肺血栓塞栓症の慢性期にはワルファリンを投与する。可逆的な危険因子の場合には3ヶ月間、先天性凝固異常症や特発性の静脈血栓塞栓症では少なくとも3ヶ月間の投与を行う。癌患者や再発を来たした患者ではより長期間の投与を行う。Class I
・急性肺血栓塞栓症の急性期で、ショックや低血圧が遷延する血行動態が不安定な例に対しては、血栓溶解療法を施行する。Class I
・急性肺塞栓症の急性期で、正常血圧であるが右心機能障害を有する例に対しては、血栓溶解療法を施行する。Class IIa
・急性肺血栓塞栓症の治療におけるワルファリンはPT-INRが1.5-2.5となるように調節投与する。Class IIb

我が国ではエビデンスは全くないが、出血への危惧からPT-INR 1.5-2.5でのコントロールが推奨されている。
低分子ヘパリンの有用性について、最近報告が相次いでいる(本邦保険未適用)

・カテーテル的血栓溶解療法:class IIb (単なる肺動脈内投与は、全身投与と差がない)
・カテーテル的血栓破砕・吸引術:class IIb (血栓吸引術、血栓破砕術、流体力学的血栓除去術)

・循環虚脱を伴う急性広範型肺血栓塞栓症における直視下肺動脈血栓摘除術(人工心肺使用):class I
・ 急性広範型肺血栓塞栓症で、非ショック例における直視下肺動脈血栓摘除術:class IIa

永久留置型下大静脈フィルターの適応 
Class I: 抗凝固療法が使用できない症例
ClassIIa: 骨盤内静脈・下大静脈領域の静脈血栓症、近位部の大きな浮遊静脈血栓症、血栓溶解療法ないし血栓摘除を行う肺血栓塞栓症、心肺機能予備能のない静脈血栓塞栓症、フィルター留置後の肺血栓塞栓症再発、抗凝固薬の合併症ハイリスク例、血栓内膜摘除術を行う慢性肺血栓塞栓症 

慢性肺血栓症
・ 慢性肺血栓塞栓症の診断における肺動脈造影:class I
・ 慢性肺血栓塞栓症(本幹、葉動脈、区域動脈)の診断における造影CT(MSCT):Class I
・ 抗凝固療法 class IIa
・ 酸素療法/在宅酸素療法:class IIb
・ 肺高血圧症に対する各種の血管拡張療法:class IIb
・ 右心不全に対する強心・利尿薬:class IIb
・ 中枢型に対する超低体温循環停止法による肺動脈血栓内膜摘除術:class I
・ 末梢型に対する超低体温循環停止法による肺動脈血栓内膜摘除術:class II a
・ 肺移植 class IIa

深部静脈血栓症 
・ d-dimer: class IIa
・ 静脈エコー:class I
・ MRV class IIa
・ 造影CT class I
・ 静脈造影:class I
・ 急性深部静脈血栓症治療前の凝固制御系蛋白質の検索:class I
・ 急性深部静脈血栓症治療法腺T飼うにおける臨床的重症度、自然歴の考慮 class IIa
・ 急性深部静脈血栓症治療におけるヘパリンとワルファリンの併用:class I
・ 急性深部静脈血栓症治療におけるヘパリンコントロールの目標APTT値1.5-2.5倍延長:class I
・ 急性深部静脈血栓症治療におけるワルファリンコントロールの目標PT-INR値2.0(1.5-2.5):class IIb
・ 急性深部静脈血栓症治療における全身的血栓溶解療法:class IIa
⇒日本における承認量は欧米の数分の1である
・ 弾性ストッキング class I
・ カテーテル血栓溶解療法: class IIb
・ カテーテル血栓吸引療法:class IIb
・ 静脈ステント class IIb
・ 外科的血栓摘除:class IIb

静脈血栓症の予防
・ 低リスクにおける早期離床および積極的な運動:class I
・ 中リスクにおける弾性ストッキング class I
・ 中リスクにおける間欠的空気圧迫法: class IIa
・ 高リスクにおける間欠的空気圧迫法及び抗凝固療法:class IIa
・ 最高リスクにおける抗凝固療法と間欠的空気圧迫法の併用及び抗行幸療法と弾性ストッキングの併用 class IIa

高リスク:
40歳以上の癌の大手術、人工股関節術・人工膝関節置換術・股関節骨折(大腿骨骨幹部を含む)、骨盤骨切り術、下肢手術にVTEの付加的な起炎因子が合併する場合、下肢悪性腫瘍手術、重度外傷・骨盤骨折・高齢肥満妊婦の帝王切開、静脈血栓塞栓症の既往あるいは血栓性素因の経腟分娩、静脈血栓塞栓症の既往あるいは血栓性素因の帝王切開術

最高リスク:
静脈血栓症の既往あるいは血栓性素因のある大手術、高リスクの手術を受ける患者に静脈血栓症の既往あるいは血栓性素因の存在がある場合




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2 コメント

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DVTについて質問です (葛西)
2011-03-01 17:36:22
はじめまして
突然ですが、弾性ストッキングと間欠的空気圧迫法との併用による効果はどうなのでしょうか?
re: (管理人)
2011-03-18 23:20:04
2011-03-03 07:18:45
コメントありがとうございます。
どうでしょうか。予防についての分野で必ず文献であると思いますが、私の手元にはありません。私自身も興味がありますが。

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