ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「沈むさかな」

2010年05月26日 | 書籍関連
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急死した父親が或る企業スキャンダルの当事者で在った事から、地元から離れた場所でアルバイトをしていた17歳の高校生・カズの所へ、幼馴染みの英介が訪ねて来る。彼はカズの父親の死には裏が在り、その謎を解く鍵が海岸沿いに建つクラブに在る事を教えてくれる。カズはクラブで働き、真相を探る事決意するが、糸口さえ見えないままに事件は起き、英介が命を落してしまい・・・。
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第1回(2002年)「『このミステリーがすごい!』大賞」の優秀賞を受賞した「沈むさかな」(著者:式田ティエン氏)は、海辺を舞台にした海洋ミステリーで在ると同時に、17歳の若者を主人公に据えた青春小説という性格も有している。「子供」と言うには年嵩が行っているし、法律面を含めても「大人」とは言えない年齢の17歳。唯でさえ将来に対して希望と不安を同時に抱え持つこの年頃だが、父親を急に失った上に、その父親に関する疑惑で世間から好奇眼差し晒される事となったカズは、不安と挫折感を抱えての日々を送っている。そんな彼が幼馴染みの死や知人からの裏切り等、幾つものトラブルに直面して行く過程で成長して行く。良く在るパターンと言えば、その通りだろう。

この小説で特筆すべき点は、海に纏る事柄の描写の素晴らしさ。海そのもの、海洋生物、スクーバダイビング等々、兎に角描写が詳細にして繊細で、著者の「海に対する思いの深さ」が犇々と伝わって来る。まるで自分自身が海中に身を置いているかの様な感じが在り、この描写だけでも読む価値が。

「謎解き」という面ではやや疑問に感じる部分も無くは無いが、世界で問題となっている或る事柄を盛り込んだり、主人公に関する意外な事実が最後に明かされる等、処女作にしては”可成りのレベルに在ると思う。

「『このミステリーがすごい!』大賞」の記念すべき第1回で金賞を得た「四日間の奇蹟」、そして銀賞を得た「逃亡作法 ~TURD ON THE RUN~」はそれぞれ“賞の格”からすればこの作品よりは上という事になるけれど、個人的には「完成度」や「面白さ」に於て寧ろ「沈むさかな」の方を高く評価したい。

総合評価は星3.5個

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