大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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A,日々の出来事

☆( 1年間366日分の日々の出来事  )

B,日々の恐怖

☆( 日々の恐怖 )

C,奇妙小説

☆(  しづめばこ P574 )                          

日々の恐怖 6月7日 大将軍

2014-06-07 19:09:05 | B,日々の恐怖



     日々の恐怖 6月7日 大将軍



 俺が住んでいる県の内陸部には、大将軍という土着の信仰がある。
陰陽道の神様で、東西南北を3年ごとに移動し、この大将軍が宿る方角の土を動かしてはいけないといわれる。
 具体的には、家の中心から見て大将軍のいる方角は、その年はリフォーム、増築などをしないということだ。
そんな大将軍が発端となった出来事です。

 ずいぶん前の話になるが、小学生の頃、T君という同級生がいた。
彼の家は古くからの庄屋の家系で、でっかい敷地のでっかい家に住んでいた。
庭には池もあって錦鯉なんかもいた。
 そんなT君のお爺さんはY太郎さんといい、地域の顔役として地元では有名人だったが、このY太郎さん、迷信やらそういったことは一切信じない人で、ある年、敷地内の蔵を解体することになったが、その蔵が件の大将軍の方向だった。
 家族や工事業者は時期をずらすようにY太郎さんを説得したが、Y太郎さんは大将軍なにするものぞと工事の強行を指示し、業者も地元の有力者故に逆らえず蔵は解体された。
 それで、その蔵の土台までバラしたところ、石が出た。
実物を見たT君によると、田舎の道端に地蔵と一緒に並んでいるような、石碑状の石が3つほど出てきたそうだ。
 表面は磨耗していて、なにか彫ってあった跡はあるものの、なんと彫ってあるかは誰もわからなかったらしい。
家族および工事関係者は、それみたことかと不気味がり、供養とかお祓いをしたほうが良いのではないか、という話になったそうだが、やはりY太郎さん、そんなものは必要ないと、出土した石を敷地の端にただ転がしておいた。
 そこから一連の怪異がはじまった。
まず、池で飼っていた錦鯉が十数匹、原因不明の突然死をした。
さらに、T君の家の前の国道で、やたらと動物が死ぬようになった。
 この道路は当時オレも通学路にしていたので実際目にしたが、彼の家の敷地が面している数十メートルの範囲内でだけ、10日と待たずに犬、猫、時には野兎や狸までが、車に轢かれ死んでいた。
通学路は1キロ程の道のりだったが、それまでは動物の礫死体など見かけた事もなかったのにである。
 このころから、近所ではこの異変が、Y太郎さんが大将軍に触ったからだとの噂が立ち始めたが、Y太郎さんは気にするでもなく、件の石もそのまま放置され続けた。
 そんなある日、部活で遅くなったオレの姉が、真っ青な顔をして帰宅した。
自転車通学だった姉は、交通量の多い国道を避け、T君の家の裏手を通る農道を利用していた。
 姉がT君の家の裏手を通ったところ、突然低いうめき声のようなものが聞こえたらしい。
誰か倒れているのかと思い、自転車を止めてあたりを見回したが誰も見かけず、聞き間違いかと自転車を漕ぎ出そうとした時に、今度ははっきりと聞こえたらしい。

「 ・・・・Y太郎・・・・。」

もごもごとした声でなにか言っていたそうだが、Y太郎さんの名前ははっきりと聞いたそうだ。
 恐ろしくなった姉はあわてて帰って来たらしい。
他にもその声を聞いた人がいるらしく、さらに姉が声を聞いたのは例の石が放置された場所のすぐ近くだったため、

「 例の石がY太郎さんを呪っている。」

と言う噂が瞬く間に広がった。
が、当のY太郎さん本人はそんな噂さえどこ吹く風だった。
 ところが、そのY太郎さん、石が出てから半年ほどたったある日、突然亡くなった。
動物が変死し、Y太郎さんが無くなるに至って、近所では、

「 ほれ見たことか、大将軍をいじるからだ。」

と年寄りたちが口々に言っていた。
 Y太郎さんは、病気も何もしていなかったし、前日まで全く普通にすごしていたらしく、死因は心不全だか心筋梗塞だかで片付けられたように覚えている。
もちろん近所はおろか学校でさえ「祟りだ!」と大騒ぎになった。
 とうとう人死にがでてしまったため、T君の一族ではそれはもう大騒ぎになったそうで、川向こうの“オナガマ”(おそらく、お仲間。イタコのようなものらしい。神様を降ろしてお告げをしてくれるらしい。)にお伺いをたてた。
 以下、当時小学生だったT君からの又聞きのため詳細不鮮明だが、おおよそこんな感じだったらしい。

「 この石碑は○○○を供養していたが、T家の先祖がそれを○○○してしまい、忘れられ上に蔵を建ててしまった。
石碑の○○○はそれを恨んで祟りをおこしている。
社を建ておまつりしろ。」

 それで、T家の敷地のはずれに社が建ち、3つの石碑はそこに収められた。
さらにお祓いだか供養だかが行われ、以来T家の周囲での不審な動物の死は見られなくなった。
 俺は怖かったので,高校を出て家を離れるまで、日が暮れてからT家の裏の道は通らないようにしていた。











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しづめばこ 6月7日 P308

2014-06-07 19:08:43 | C,しづめばこ
しづめばこ 6月7日 P308  、大峰正楓の小説部屋で再開しました。


小説“しづめばこ”は読み易いようにbook形式になっています。
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日々の恐怖 6月6日 事故物件

2014-06-06 19:13:49 | B,日々の恐怖


    日々の恐怖 6月6日 事故物件


 最近体験した話を聞いてください。
今年の5月に某不動産会社のFCに就職したんだけど、仕事の中の一つに物件の写真を撮る、っていうのがある。
大家さんか管理会社さんに鍵貸してもらって、部屋の中の写真を撮って、それをサイトにアップする。
その日も俺はその仕事にまわる事になった。
 で、物件にまわる前には一通り物件の下調べをする。
家賃とか、間取りとか、構造体だとか。
で、その日まわる物件の下調べしてたら、1つ明らかにおかしい部屋があった。
 3DKで駐車場費、共益費込み込みで1万円ジャスト。
いくら俺の住んでる方が田舎だとしても、明らかに安い。
それ見た瞬間に、

“ あー、とうとうキたな。”

と思った。

 速攻で上司にその部屋について聞いてみた。
そしたら、あっさりとその部屋であった出来事を教えてくれた。
簡単に説明すると、

 そのアパートの1階に男が住んでて、ある女と付き合ってた。
でも男は浮気をしてて、それを知った女が自殺を考えた。
で、女はその男の住んでるアパートの屋上から飛び降りた。
恐らく、男の部屋の前(ベランダ側)に向かって。
 でも、女は男の住んでいる部屋の、その上の部屋の人のベランダに落ちた。
落差は全然ないんだけど、プールの飛び込み台の要領で頭から落ちたらしくって、女は即死だったらしい。
で、当然そこの部屋の住人は出て行って、彼氏も出て行った。
それからというもの、その部屋に入った人は1カ月を待たずに出ていく。
 で、家賃は下がりに下がって、1万円になった。

上司の説明は、大体こんな感じだった。

 それで、俺はそのいわくつきの物件に、あろうことか写真を撮りに行かないといけないことになった。
スゲェ怖かったけど、まだ研修生だった身としては、断るわけにもいかない。
まぁ、パートのお姉さんに同行って形だったから、なんとか気を張ってその物件に向かった。
 で、物件に到着。
想像してたようなモノとは違って、案外普通のアパートだった。
2階建てで全8戸の、田舎によくある造りの物件だった。
自分を励ましながら、怖かったけど問題の部屋の前までパートの姉ちゃんと行った。
 鍵を開けて扉を開いたとき、違和感があったのを今でも体が覚えてる。
その日はまさにうだるような暑さだった。
日の差す密閉されたその部屋は湿っている感じがした。
これは嫌だな、と思った。
 それで、いざ中に入って写真を撮るぞって時に、パートの姉ちゃんがポツりと言った。

「 ○○君(俺の名前)、頑張ってね!」

“ はぁ・・・・?”

まぁ、簡単に言えば、

“ 1人で撮ってきてね、私はここで待ってるよ。”

って事だ。
 ちっさくガッツポーズで俺を励ます年上ポニテのお姉さまの姿を見て、カッコつけたくなった俺は、

「 じゃあ、行ってきます!」

と単身で部屋の中へと入って行った。
 デジカメで部屋の写真を撮るわけだけど、3DKだから撮る写真の量が多い。
必然、部屋の中にとどまる時間も増える。
 部屋の写真はまだ良かったんだけど、風呂、トイレの写真を撮るのには勇気が必要だった。
電気がつかない状態で、暗いトイレと風呂の写真をカメラのフラッシュ頼りに撮る。
超怖い。
でもまぁ、なんとか全部を撮り終えた俺は、パートの姉ちゃんに気づかれない程度の速足で部屋を出た。

「 撮ってきましたよ!」

俺はデジカメを姉ちゃんに押し付けると、すぐに扉を閉めて壁にもたれかかった。
 想像以上に疲れていた。
外に出た瞬間に、暑さでどっと汗が噴き出した。
 俺は研修生という身分上、撮ってきた写真をこのパートの姉ちゃんに確認してもらわないといけない。
で、もしもダメだったら撮り直しになってしまう。
だから、全身全霊で完璧の写真を撮って帰った。
 後は姉ちゃんのOKの言葉をもらうだけ。
俺は半ば祈るようにして姉ちゃんの口が開くのを待った。

「 うん、問題ないね.」

カメラから視線を俺に移して、姉ちゃんがそう言った。
俺は思わず喜びで叫びそうになった。

「 じゃあ、とっとと次行きましょう。」
「 あ、でも待って、動画撮れてないね。」

言われて俺は気づいた。
とっとと終わらせたい、と急いでいたせいで、写真の他に室内の動画を撮る事をうっかり忘れてしまっていた。
俺は滅入る気をなんとか持ち直して、再びデジカメ片手に部屋の中へと戻って行った。

 俺は部屋の真ん中でデジカメを動画に変えて再び撮影に戻った。
教えてもらった通り、顔からデジカメの画面を離して、脇をしめて体全体で回るように撮る。
動画は基本10秒まで。
とっとと帰りたかったけど、この10秒はどうにもならない。
とんでもなく10秒が長く感じた。
 長い10秒を終えて、俺は今度は姉ちゃんの目とか気にせず、ダッシュで部屋を出て、すぐに姉ちゃんにデジカメを渡した。
再び姉ちゃんのチェックが入る。
 動画を再生した時、動画の音声にノイズが入っている事にすぐ気がついた。
今までにもけっこう写真は撮ってきたけど、こんな事は初めてで俺も姉ちゃんもビビってた。

「 でもまぁ、なんとか許容範囲だね。」

って事で、デジカメの電源切って車に戻ろうとしたときに、

「 わっ!」

姉ちゃんが突然大きな声を出した。

「 なんですか!?」
「 ねぇ、○○君、君動画撮るときどうやって撮ってる?」
「 はぃ?」

何を言ってるんだ、と思ったけど、俺は動画を撮っている様を身振り手振りで説明した。

「 じゃあ、これおかしいよね。」

そういって、姉ちゃんは動画を最初に戻して再生した。
そして、ここと画面の右端を指差した。
 俺も、指摘されてすぐに気がついた。
画面の右端。
画面を上から下に突き抜ける感じで、長い髪の毛の束が映ってた。
しかも、俺が画面を動かすと、それに合わせて揺れながらついてきてる。
ずっと、画面の右端に髪の毛の束があった。

「 うわ・・・・!」

思わずデジカメを放り出しそうになったけど必死でこらえて、デジカメを姉ちゃんに返した。

「 どうするんですか、これ?消しましょうよ。」
「 いや、一応社長に聞いてみないと・・。」

 他の物件の写真を撮るのを後回しにして、社長に意見を聞きに会社に戻った。
それで、社長との協議の結果は、動画、写真は削除、その物件との仲介も切ることになった。

 その後、その動画を消す前に会社で少し再生して見た。
やっぱりなんかの見間違いじゃないかな~って思って。
 でも、やっぱりどう見ても髪の毛だ。
俺の髪はそんな長くないし、ましてやデジカメの画面を見るように撮ってたから、俺の髪の毛が映るわけもない。

“ なんだろう、これ?”

って、少し見てて、

“ あれっ・・・?”

と思った。
 もう一人のパートのお姉ちゃんを見る。
長い髪の姉ちゃん。
姉ちゃんと動画を見比べて、違和感に気付いた。

“ なんでこの動画、髪の毛しか映ってないんだ?
普通、髪の毛が映るんなら顔なり体なり写るだろ。
どんなアングルだとしても、肩とか、横顔とか。”

でも、何回見直しても写ってるのは髪の毛だけだ。
 そこで俺は思い出した。
この部屋のベランダで死んだ女は、屋上からベランダへ、プールの飛び込み台の要領で落下した。
つまり、頭が下だ。
 俺の全身に鳥肌が立った。
つまり、逆さなんだ。
天井から、頭を下にして、そこにいたんだ。
逆さのまま、俺の目の前に、俺を覗き込むようにいたんだ。
 気づいた瞬間、動画をすぐに消した。
あれ以来、物件を回る時はポケットにお守りを入れて行く。
 不動産入ってから、こんな事が偶に起こる。
明日も写真撮りの仕事が待っている。












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日々の恐怖 6月5日 電話

2014-06-05 19:00:39 | B,日々の恐怖



   日々の恐怖 6月5日 電話



 彼女と一緒のときに、見たことない番号から電話が掛かって来た。
間違い電話と思って無視してたんだけど、彼女が、

「 私の前じゃ出られない番号なわけ?」

とか言って、なんか浮気を疑ってしつこいから仕方なく出た。
そしたら、いわゆる架空請求詐欺の電話だった。

「 あなたがご利用になったサイトの料金が未払いです。」

って言っていた。

「 俺、彼女いますんで、そういうとこ見ませんから。」

とか言っても、マニュアル通り、登録ありますんで、の一点張り。
こういうのって無視が一番なのに、彼女まだ疑ってて、

「 代わって!」

とか言って、携帯奪って話し出した。
 相手は空気読まずに、

「 あなたの彼がご利用になった・・・。」

とかまだ言ってて、彼女の顔が青ざめてきた。
浮気の疑い晴れたけど違う意味でピンチ。
 俺が横で、

「 そういうよくある悪徳業者って分かるだろ。」

とか小声で彼女に言っても、益々彼女の表情が引きつってきた。
 せめて詐欺からの電話だけでも終わらせようと、電話取り返したら急に彼女が大声を出した。
電話口で大声出された相手は怒って、

「 ふざけとんのか、クルルァア!」

とかめっちゃ巻き舌で凄むし、面倒くさい状況になってしまった。

「 うちの彼女ちょっとアレな系で・・・。」

とか訳わかんないことを言いつつ切るタイミング計ってたら、彼女が、

「 早く切って、今すぐ!」

と袖引っ張った。

“ 自分のせいで切り難くしといて・・・。”

と思ってたら、携帯を即座に取り上げて切ってしまった。
 俺が、

「 一体なんなんだよ?」

と訊いたら、

「 さっきの電話は聞き続けたらダメ。」
「 そりゃ詐欺師の相手し続けるわけにはいけないけど、そんなに怯えなくてもいいよ。
ああいうのはただの脅しで、こっちの居場所はおろか、名前さえも特定できてやしないんだから、切ったらいいんだよ。」

と説明したら、

「 そっちの意味でヤバいんじゃない。」

 それで理由を聞くと説明してくれた。
彼女が架空請求業者の電話を取った時、初めは女じゃなくてホッとしてたところ、淡々とマニュアル通りの台詞を言ってる相手の声に混じって、もう一人誰かが囁いてる声がする。
 後ろで上司のヤクザが指示を出してたんじゃないかと俺が笑い飛ばしたら、彼女曰く、

「 お婆さんみたいな声だから、そんな筈はない。
それに、童謡みたいな気味の悪い歌を歌っていた。」

直感的に、これは聞き続けたらヤバいと恐怖感が凄まじく込み上げてきて、思わず悲鳴を上げてしまったらしい。
 相手は聞こえていなかったようで、当然俺にもそんなの聞こえなかったから、知らぬが仏で関係ないとか言ったら、

「 でも気付かないからって、無事で済むかどうかは分からないでしょ・・。」

そして、最後まで聞いていたら恐ろしいことが起きそうな予感がして、携帯を強奪して切ったと言うことだった。
 その後、彼女の愛犬が死んだのと、俺がバイク事故で片足骨折したのは、多分それと関係ないとは思うが、そうでないとも完全には言い切れない。










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しづめばこ 6月5日 P307

2014-06-05 19:00:13 | C,しづめばこ
しづめばこ 6月5日 P307  、大峰正楓の小説部屋で再開しました。


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日々の恐怖 6月4日 海を忌む

2014-06-04 21:07:38 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 6月4日 海を忌む



 普段付き合いのいい同僚が、何故か海へ行くのだけは頑として断る。
訳を聞いたのだが余り話したくない様子なので、飲ませて無理やり聞き出した。
ここからは彼の語り。
ただし、酔って取り留めのない話だったので、俺が整理してる。

 まだ学生だった頃、友人と旅に出た。
たしか後期試験の後だったから、真冬だな。
旅とは言っても、友人の愛犬と一緒にバンに乗って、当てもなく走っていくだけの気楽なもんだ。
 何日目だったか、ある海辺の寒村に差し掛かったころ、既に日は暮れてしまっていた。
山が海に迫って、その合間にかろうじてへばり付いている様な小さな集落だ。
困ったことに、ガソリンの残量が心もとなくなっていた。
 海岸沿いの一本道を走りながらGSを探すと、すぐに見つかったのだが、店はすでに閉まっている。
とりあえず裏手に回ってみた。
玄関の庇から、大きな笊がぶら下がっている。
 出入りに邪魔だな、と思いながら、それを掻き分けて呼び鈴を鳴らしてみた。

「 すんませーん。ガソリン入れてもらえませんかー?」

わずかに人の気配がしたが、返事はない。

「 シカトされとんのかね。」
「 なんかムカつくわ。もう一度押してみいや。」
「 すんませーん。」

しつこく呼びかけると玄関の灯りが点き、ガラス戸の向こうに人影が現れた。

「 誰や?」
「 ガソリン欲しいん。」
「 今日は休みや。」

オレが言い終える前に、苛立ったような声が返ってくる。

「 いや、まぁそこを何とか。」
「 あかん。今日はもう開けられん。」

取り付く島もなかった。諦めて車に戻る。

「 これだから田舎はアカン。」
「 しゃーないな。今日はここで寝よ。当てつけに明日の朝一でガス入れてこうや。」

 車を止められそうな所を探して集落をウロウロすると、GSだけでなく、全ての商店や民家が門を閉ざしていることに気付いた。
よく見ると、どの家も軒先に籠や笊をぶら下げている。

「 なんかの祭やろか?」
「 それにしちゃ静かやな。」
「 風が強くてたまらん。お、あそこに止められんで。」

そこは、山腹の小さな神社から海に向かって真っ直ぐに伸びる石段の根元だった。
小さな駐車場だが、垣根があって海風がしのげそうだ。
 鳥居の陰に車を止めると、辺りはもう真っ暗でやることもない。
オレたちはブツブツ言いながら、運転席で毛布に包まって眠りについた。
 何時間経ったのか、犬の唸り声で目を覚ましたオレは、辺りの強烈な生臭さに気付いた。
犬は海の方に向かって牙を剥き出して唸り続けている。
普段は大人しい奴なのだが、いくら宥めても一向に落ち着こうとしない。
 友人も起き出して、闇の先に目を凝らした。
月明りに照らされた海は、先ほどまでとは違って、気味が悪いくらい凪いでいた。
コンクリートの殺風景な岸壁の縁に、蠢くものが見える。

「 なんや、アレ。」

友人が掠れた声で囁いた。

「 わからん。」

それは最初、海から這い出してくる太いパイプか丸太のように見えた。
蛇のようにのたうちながら、ゆっくりと陸に上がっているようだったが、不思議なことに音はしなかった。
 と言うより、そいつの体はモワモワとした黒い煙の塊のように見えたし、実体があったのかどうかも分からない。
その代わり、ウウというか、ウォォというか、形容し難い耳鳴りがずっと続いていた。
そして先ほどからの生臭さは、吐き気を催すほどに酷くなっていた。
 そいつの先端は、海岸沿いの道を横切って向かいの家にまで到達しているのだが、もう一方はまだ海の中に消えている。
民家の軒先を覗き込むようにしているその先端には、はっきりとは見えなかったが、明らかに顔のようなものがあった。
 オレも友人も、そんなに臆病な方ではなかったつもりだが、そいつの姿は禍々しいという言葉そのもので、一目見たときから体が強張って動かなかった。
心臓を鷲掴みにされるってのは、ああいう感覚なんだろう。
 そいつは、軒に吊るした笊をジッと見つめているようだったが、やがてゆっくりと動き出して次の家へ向かった。

「 おい、車出せっ。」

友人の震える声でハッと我に返った。
 動かない腕を何とか上げてキーを回すと、静まり返った周囲にエンジン音が鳴り響いた。
そいつがゆっくりとこちらを振り向きかける。

“ ヤバイっ!”

何だか分からないが、目を合わせちゃいけないと直感的に思った。
 前だけを見つめ、アクセルを思い切り踏み込んで車を急発進させる。
後部座席で狂ったように吠え始めた犬が、ヒュッ、と喘息のような声を上げて、ドサリと倒れる気配がした。
 思わず振り返った友人が、

「 ひぃっ。」

と息を呑んだまま固まった。

「 アホ、振り向くなっ!」

オレはもう無我夢中で友人の肩を掴んで前方に引き戻した。
 向き直った友人の顔はくしゃくしゃに引き攣って、目の焦点が完全に飛んでいた。
恥ずかしい話だが、オレは得体の知れない恐怖に泣き叫びながらアクセルを踏み続けた。
 それから、もと来た道をガス欠になるまで走り続けて峠を越えると、まんじりともせずに朝を迎えたのだが、友人は殆ど意識が混濁したまま近くの病院に入院し、一週間ほど高熱で寝込んだ。
 回復した後も、その事について触れると激しく情緒不安定になってしまうので、振り返った彼が何を見たのか聞けず終いのまま、卒業してからは疎遠になってしまった。
犬の方は、激しく錯乱して誰彼かまわず咬みつくと思うと、泡を吹いて倒れる繰り返しで、可哀そうだが安楽死させたらしい。
 結局アレが何だったのかは分からないし、知りたくもない。
ともかく、オレは海には近づかない。

 以上が同僚の話。
昔読んだ柳田國男に、笊や目籠を魔除けに使う風習と、海を見ることを忌む日の話があったのを思い出したが、今手元にないので比較できない。












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日々の恐怖 6月3日 塾のトイレ

2014-06-03 19:09:22 | B,日々の恐怖


     日々の恐怖 6月3日 塾のトイレ


 私が小6の頃に通ってた大きい塾には、男子トイレと女子トイレの他に、もうひとつトイレがあった。
そのトイレは教室から一番遠いところ、塾内の一番奥にあり、そのせいか誰も使おうとしなかった。
別に先生用のトイレという訳でも無いらしい。
 塾の先生曰く、

「 幽霊が出るからあのトイレは使うなよー。」

とのことだった。
まぁ確かに、そのトイレは誰も使用してないためか、なんだか薄暗く気味が悪かった。
 3月になり、塾のその年度の最終日だった。
教室で生徒の1人がこう言った。

「 塾今日で終わりだし、授業終わったら、皆であのトイレに行ってみない?」

おもしろそうと思った私達はその提案に乗り、

「 ホントに幽霊出るんじゃねー?」
「 まさかー。」

と、今日で最終日というテンションもあってか、妙に騒がしくしてしまった。
 教室に入ってきた先生が、そんな私達の様子を見て、

「 おい、トイレに行こうって言い出したヤツ誰だ。」

いつもフランクな感じの先生が、初めて私達に怒鳴った。
一斉に静かになる教室。

“ あ、先生に近づくなと言われてるのに、肝試しなんて・・。”

と、少し申し訳ない気持ちでいると、

「 いや違う。
怒ってるんじゃないんだ。
ただ誰が言いだしっぺなのか、ちょっと教えてくれ。」

と、今度はいつもの先生の口調で言った。

「 Aが言ったんじゃない?」
「 俺じゃねーよ、Bが言ったんだろ。」
「 え、俺は誰かが言ったのに乗っただけだけど・・・?」

言いだしっぺが見つからない。
でも確かに、生徒の誰かが提案したはず。
 次第にざわざわしだす教室。
先生は、

「 静かに!」

と、ひとつ溜息をついて、

「 やっぱり、誰が言い出したか分からないんだよな~。
ま、そういう事だから、お前らあのトイレは使うなよ。」

それだけ言って、先生は授業を始めた。











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日々の恐怖 6月2日 巫女

2014-06-02 18:21:09 | B,日々の恐怖




     日々の恐怖 6月2日 巫女




 地元の寂れた神社の話です。
延喜式的にはそこそこのランクらしいが、社務所もなく神主は常駐していない。
 それで、一人でこの神社に入ると、必ず女性が掃除している。
いつも同じ、夜会巻きみたいな髪型の20チョイ過ぎの女性だ。
神社の前を通って中を覗くだけ、他の人と一緒に入る時は見かけないが、一人で入った場合は例外なく必ずいる。
 神社以外で見かけたことはなく、間違いなく地元民ではない。
神主の親戚縁者でもないことは確認済み。
自分だけでなく地元の友人勢も、同じ条件下でのみ彼女と遭遇している。
 会釈すれば相手も会釈を返してくれるが、言葉を交わしたことはなく、こちらが、

「 こんにちは。」

と言っても、返ってくるのは会釈のみだ。
 遭遇が度重なって、どういう人なのか気になったため両親に訊いてみると、そういう人は知らないとのことだった。
 父曰く、父が高校生になるあたりまでは、よく似た女性がいつも掃除してくれていたが、何処の誰かは不明という話だった。
 結局どういう人なのかは判らなかったものの、父の話を聞いて自分が見かけるのはその人の娘さんか何かだろうと取り敢えず納得した。
とはいえ、遭遇回数と見る時と見ない時の条件に例外が一切無いことから、不思議を通り越して若干気味が悪くなってきて神社に近付かなくなった。
ここまでが、小学校高学年くらいまでの話です。

 中学二年あたりから個人塾に通うようになったのだが、中三のある時帰宅がえらく遅くなった。
塾を出たのが夜の12時ちょっと前だった。
 神社を通り抜けすると大分近道になる。
早く帰りたかったし、その頃は正直女性のことは忘れていたので自転車に乗ったまま通り抜けようとしたところ、夜中だというのに例の女性がいた。
以前見た時同様、竹箒で落葉を掃いている。
 鳥居をくぐってすぐに気付き思わず急ブレーキした。
女性は本殿近くにいたので結構距離はあったはずなんだが、何か言おうと口を開いたのが見えた。
 普通に考えたら、夜遅くまで危ないとか、そういうことを言おうとしたんだろうと思うが、その時は、

“ この人の声を聞いたらいけない。”

と強く感じ、慌ててターン。
 今まで怖いというのではなく、何か危ない人なのではないかという怖さだったんだが、この時は、

“ この人絶対人間じゃない。”

と感じた。
 背筋を寒気が上るというか血の気が引くというか、とにかくちょっと不気味なんてものではなく身体が本能的に何かを拒絶した感じだった。
全速力で家までこぎ続けたが、神社の周りを走る形になるのでえらい怖かった。
 後日、昼間に一人で神社に行ってみたが、女性はいなかった。
以来、一度もあの女性は見かけない。
その後、友人たちにも聞いてみたが、今も見るという人と見かけない人とがいて、高校に上がる前後までには全員見なくなっていたと思う。

 それで、最近実家に帰ったら、自分に懐いてる近所の中学一年生男子から神社で掃除をしている女性の話を聞かされた。
聞けば、容姿や外見や年齢は約15年前自分が見た女性とよく似ている。
聞く限り、遭遇条件も、かつて自分たちが経験したものと同一だった。
 地元以外の熱心な信者一家だとか、全員が同条件下でしか見ないのは単なる偶然だとか、 あの夜あんなに恐ろしく感じたのはシチュエーションに惑わされただけだとか、年齢を感じさせないタイプの人だっているとか、まあ幾らでも説明はつく。
ただ、とりあえずよく似た女性を、一定条件下でのみ、高校に上がる前後までの歳の子だけが何十年も見続けているようだ。













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しづめばこ 6月2日 P306

2014-06-02 18:20:44 | C,しづめばこ
しづめばこ 6月2日 P306  、大峰正楓の小説部屋で再開しました。


小説“しづめばこ”は読み易いようにbook形式になっています。
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日々の恐怖 6月1日 クズ

2014-06-01 20:17:50 | B,日々の恐怖


    日々の恐怖 6月1日 クズ


 今から10年位前の話。
オレは学生だった。
アルバイト先の居酒屋で知り合った二つ上の女。
Yとしとこうか。
 今はクズだけど、当時は普通の学生だった。
Yとは何となく気があって付き合い始めた。
オレは地方から出てきてアパートに独り暮らしだったから、バイトが終わったら、週に1~2回くらいウチに遊びに来ていた。
ウチでは一緒に酒を飲んだりしながら、取り留めのない話をよくしていたな。
Yも地方から出てきて、妹と一緒に住んでいると言っていた。
 当時は普通の学生と言ったが、やっぱり当時もクズだったよ。
Yが妊娠した。
もちろん生めるわけないさ。
2人で相談して堕ろしたよ。
それから何となくぎくしゃくしちゃって、Yとは別れてしまった。
 結局付き合った期間は、9ヶ月くらいだったかな。
Yはこのバイトが生活の基盤になっていたから、辞めるわけにはいかない。
結局オレが辞めた。
クズなりに罪悪感もあって、部屋も引っ越したし携帯も変えた。
Yに関するものは全て消して、やり直すことにしたわけ。
やっぱりYのことは好きだったしな。

 それから5~6年経ってから突然、新しいアパートに女がやってきた。
どこからどうやって調べたのか分からないが、その女はYの妹と名乗った。
オレにしてみれば、これ以上気味が悪いことはない。
アルバイト先の同僚達とは完全に縁を切っていたから、オレの新しい住所が分かる筈がないんだ。
 Yの妹は、Yが死んだと言った。
病気か事故か自殺か分からない。
オレは聞こうともしなかったし、Yの妹も言わなかった。
もちろん、死んだのはオレのせいなんて言わなかった。
 当たり前だ。
一応お互い納得して別れてるんだし、それに別れて何年経ってると言うんだ。
Yの妹は、

「 お願いだから一度墓参りに行って欲しい。」

と言い、オレに墓園の住所のメモを渡した。
その場は分かったと言ったが、行くわけないよな。
 Yの妹には、

「 墓参りには必ず行く。ただYのことは正直思い出となっていた。勘弁して欲しい」

と、暗にもうオレのところには来ないで欲しいとお願いした。
 もうオレにとっては過去のことだったし、それに仕事だってある。
Yの妹には悪いが、正直気持ち悪かったからメモもすぐに捨てた。
確かにYを好きだった時もあったが、その時はもう別の彼女もいたしな。
 念のためオレはまた引っ越したよ。
万が一また来られたらイヤだからな。
 その時付き合っていた彼女をAとさせてもらうが、Aは会社の同僚だった。
Aは事務職でオレは営業。
オレは帰りが午後10時過ぎになるのは当たり前だった。
会社が休みの前には、Aは時々メシを作りにウチに来て、泊まっていっていた。

 Yの妹が現れてから1年経ったか経たないかといった辺りの夏。
フラフラになって帰ったら、Aがメシを用意して待っていた。
風呂から上がって、テーブルでビールを飲みながらAを見たら、何かAがおかしいんだ。
Aがダブって見えるんだよ。
オレは近視で眼鏡を掛けており、風呂上がりで眼鏡を外していたのと、疲れ目でダブって見えたのだと思った。
 でも何か違うんだ。
Aとほとんど同じサイズの人間が、20~30㎝くらい近づいたり離れたりしてるんだ。
ピンぼけ写真を見ている感じなんだよ。
 あれれ?と思って眼鏡を掛けても見えるんだ。
Aはその手の話がまるでダメなので、オマエに被さって女が見える、なんてとても言えない。
どうしてじっと見てるの、何か顔に付いてる?って顔をしてる。
 しかも、ダブっているのはAじゃない。
全く知らない女の顔なんだ。
その時は電気が点いて明かりが煌々としてるから、怖くも何ともなかった。
とにかく不思議だっただけ。
 午後10時まで仕事なんてブラック会社に比べれば大したことないだろう、と言われりゃそれまでだが、オレにしてみたら、仕事のしすぎで幻覚が現れたと思ったよ。
多分、それが見えたのは30秒間くらいだったと思う。
じっとAを見ていた筈なのに、そのダブった女はいつの間にか消えていた。

 本格的にそれが出てきたのは、更に半年くらい経ってからだった。
泊まりに来ていたAとベッドで寝ていた時、深夜2時頃だったと思うが、正確な時間は分からない。
酔ってもいたしな。
 Aが突然オレを起こした。
何だと思ってAを見たら、Aの頭が変なんだ。
右側(オレから見たら左側)が大きいんだよ。
 不思議に思ってよくよく見たら、ゆっくりAの頭の右から又あの女が出てきたんだ。
オレの目の前30㎝くらいにだ。
そして、その女はにやにやしながらオレを見た後、どうしたと思う?
ゆっくりAの頭を喰いだしたんだ。
 喰ってたとしかオレには見えなかった。
もちろん実際に喰ってた訳じゃないから、Aの頭が食いちぎられてはいないんだけど、目だけオレを見据えてAの頭を喰いながら、Aの頭に重なって沈んでいくんだ。
 うまく説明できないが想像してくれ。
女の頭だけ、Aの頭に潜ったり出たりしているんだ。
女がAを喰う度に、Aが苦しそうに目を瞑るんだ。

「 なんかすごく頭が痛い。」

とAが言うのだが、オレは金縛り状態になっていた。
 女は最後にもの凄い笑顔をして、舌を出しながらAの中に入って消えた。
この時に、この女がYの妹だと分かった、と言うか頭の中で理解した。
1回しか会っていないし、まともに顔を見ていないから、(と言うか、オレを訪ねてきた時には、まともにはYの妹の顔を正視できなかったから)、初めて出てきたときには分からなかったんだ。
 あれはきっとYの妹の生き霊だったんだろうな。
そうとしか思えない。
それからAはひどい頭痛持ちになった。
Aには全く関係無い話だし、正直言わせてもらえればオレにだって関係無い。
こういうのを逆恨みと言うのだと思う。
 それからAに会う度、ほんとに突然Yの妹が出てくる。
Aが風呂から上がった際、トイレから出てきた際、ウチの中だけじゃなく外で会っている時もだ。
1回はキスしようとしたら、いきなりAの顔がYの妹になったので、思わず、

「 ひっ!」

と言ってしまった。
今までのことで分かる通り、そんなに強いハートじゃないオレは、Aと別れざるを得なかった。
 でも、その後も3~4日に1回はYの妹が出てきた。
毎日出てくる訳じゃないし、どのタイミングで出てくるか分からないので、逆に毎日の生活がもの凄く怖かった。
 鏡を見るのも怖い、仕事が終わってアパートに帰ってカーテンを閉めるのも怖い。
時々窓に映った。
電気を消して眠ることが出来なくなった。
電気代は毎月1万円近くなってしまったよ。
 とりあえず何をしたかと言うと、Yの妹を捜したよ。
会ってどうなるものでもないかもしれないが、Yの妹がオレを恨んでるなら、ひたすら許しを請うつもりだった。
だけど名前も連絡先も知らないし、思い切って昔のバイト先に行ってもみたが、当時のバイト仲間は誰もおらず、社員も異動してしまい、誰もYのことは分からないと言う。
 次に頼ったのは霊能者だった。
あいつらはオレ以上のクズだな。
最初は1~3万円くらいで対応してくれるが、すぐに10~30万円くらいの本格的な除霊を勧めてくる。
しかも効果は無いに等しかった。
 最後は病院。
初めからここにしておくべきだったよ。
薬は最初はエビリファイ、次にジプレキサになった。
おかげでこの頃は大分楽になってきた。
Yの妹も最近はほとんど見なくなった。
 仕事も辞めて、親元に帰ったのも良かったと思う。
親には仕事のストレスで鬱になったと説明している。
今はコンビニでバイトをしているよ。
30超えてるし病気持ちだから、多分まともな就職は無理だろうと思ってる。











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しづめばこ 6月1日 P305

2014-06-01 20:17:24 | C,しづめばこ
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