大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

☆奇妙な恐怖小説群
☆ghanayama童話
☆写真絵画鑑賞
☆日々の出来事
☆不条理日記

日々の恐怖 6月2日 巫女

2014-06-02 18:21:09 | B,日々の恐怖




     日々の恐怖 6月2日 巫女




 地元の寂れた神社の話です。
延喜式的にはそこそこのランクらしいが、社務所もなく神主は常駐していない。
 それで、一人でこの神社に入ると、必ず女性が掃除している。
いつも同じ、夜会巻きみたいな髪型の20チョイ過ぎの女性だ。
神社の前を通って中を覗くだけ、他の人と一緒に入る時は見かけないが、一人で入った場合は例外なく必ずいる。
 神社以外で見かけたことはなく、間違いなく地元民ではない。
神主の親戚縁者でもないことは確認済み。
自分だけでなく地元の友人勢も、同じ条件下でのみ彼女と遭遇している。
 会釈すれば相手も会釈を返してくれるが、言葉を交わしたことはなく、こちらが、

「 こんにちは。」

と言っても、返ってくるのは会釈のみだ。
 遭遇が度重なって、どういう人なのか気になったため両親に訊いてみると、そういう人は知らないとのことだった。
 父曰く、父が高校生になるあたりまでは、よく似た女性がいつも掃除してくれていたが、何処の誰かは不明という話だった。
 結局どういう人なのかは判らなかったものの、父の話を聞いて自分が見かけるのはその人の娘さんか何かだろうと取り敢えず納得した。
とはいえ、遭遇回数と見る時と見ない時の条件に例外が一切無いことから、不思議を通り越して若干気味が悪くなってきて神社に近付かなくなった。
ここまでが、小学校高学年くらいまでの話です。

 中学二年あたりから個人塾に通うようになったのだが、中三のある時帰宅がえらく遅くなった。
塾を出たのが夜の12時ちょっと前だった。
 神社を通り抜けすると大分近道になる。
早く帰りたかったし、その頃は正直女性のことは忘れていたので自転車に乗ったまま通り抜けようとしたところ、夜中だというのに例の女性がいた。
以前見た時同様、竹箒で落葉を掃いている。
 鳥居をくぐってすぐに気付き思わず急ブレーキした。
女性は本殿近くにいたので結構距離はあったはずなんだが、何か言おうと口を開いたのが見えた。
 普通に考えたら、夜遅くまで危ないとか、そういうことを言おうとしたんだろうと思うが、その時は、

“ この人の声を聞いたらいけない。”

と強く感じ、慌ててターン。
 今まで怖いというのではなく、何か危ない人なのではないかという怖さだったんだが、この時は、

“ この人絶対人間じゃない。”

と感じた。
 背筋を寒気が上るというか血の気が引くというか、とにかくちょっと不気味なんてものではなく身体が本能的に何かを拒絶した感じだった。
全速力で家までこぎ続けたが、神社の周りを走る形になるのでえらい怖かった。
 後日、昼間に一人で神社に行ってみたが、女性はいなかった。
以来、一度もあの女性は見かけない。
その後、友人たちにも聞いてみたが、今も見るという人と見かけない人とがいて、高校に上がる前後までには全員見なくなっていたと思う。

 それで、最近実家に帰ったら、自分に懐いてる近所の中学一年生男子から神社で掃除をしている女性の話を聞かされた。
聞けば、容姿や外見や年齢は約15年前自分が見た女性とよく似ている。
聞く限り、遭遇条件も、かつて自分たちが経験したものと同一だった。
 地元以外の熱心な信者一家だとか、全員が同条件下でしか見ないのは単なる偶然だとか、 あの夜あんなに恐ろしく感じたのはシチュエーションに惑わされただけだとか、年齢を感じさせないタイプの人だっているとか、まあ幾らでも説明はつく。
ただ、とりあえずよく似た女性を、一定条件下でのみ、高校に上がる前後までの歳の子だけが何十年も見続けているようだ。













童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ




コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« しづめばこ 6月2日 P306 | トップ | 日々の恐怖 6月3日 塾の... »
最新の画像もっと見る

B,日々の恐怖」カテゴリの最新記事