日々の恐怖 10月15日 ノックの音(2)
ノックの音がまたなって、意を決した俺は恐る恐るノックを返すと、今度は心持ちさっきよりも強くノックされたように聞こえた。
“ 人がいるのか・・・・?”
と思って、もう一度ノックをすると、返事をするようなタイミングで板の向こうからノッがあった。
焦った俺は、物置は外から錠の下りてたのに人がいるわけなかろう、という当然の事にも気づかないで、戸惑う弟に無理やり祖母を呼びに向かわせた。
ノックの主が泥棒だとか、ましてやイタチや猫なんて発想が全くなく、何とかして開けて出してやらねばという気持ちに駆られて、恐らく内に開くであろうドアをガンガン奥に蹴った。
ノブが無いのでしょうがなかった。
築二世紀近いおんぼろの物置はガタガタ言うのだが、ドアは蹴破られる様子がなく、その間もノックが断続的に続いて、助けを求められてるような切羽詰まった気持ちになった俺は、足がだめなら膝で 膝でだめなら肩でと、ついに扉に体当たりをする形になり、木材同士の強い摩擦音と一緒に、ドアが少しずつ奥に沈んでいった。
ひと際強く体当たりして、開いた小さい隙間から光が漏れた。
奥はまた小さい物置かなんかだと思った俺は途端に違和感に気づいて、一歩引いて扉を見た。
ちょうど扉の周りを光の線が囲んでいる。
“ 物置の二階に何故か外に続く扉があり、外からノックがある。”
という異常な事態に気づいた俺は、急にノックの音が怖くなった。
すると後ろから怒鳴り声がして心臓が止まりそうになった。
祖母が急すぎる階段に、床板から顔だけを出す形で俺を怒鳴っていた。
俺はひとまず扉から離れるために、訝し気な祖母の横を急いで一階に下りた。
祖母から、
「 二階の物に触っちゃいかんよ、上がってもいかん。」
と怒られた後、先ほどの話をすると、
「 あそこは扉だってとっくにないし、イタチも猫もいるからね。」
とだけ返された。
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