埼玉大学名誉教授である角田史雄氏が著した、『地震の癖』(講談社+α新書)という本があります。ひと言でいうと、プレートテクトニクスという定説を真っ向から否定する内容です。まとめますと、
・「地震は、プレートの沈み込み運動によって起きる」という定説は、ウソである
・地震は、熱による地殻ブロックの隆起によって、ブロック境界部で発生し、熱の移動とともに震源も移動していく
といった主張がなされています。幾つか有益な考察もあるのですが、総じて本書の内容は信頼できません。「真実を探求すること」よりも、「やみくもに定説に反対すること」を目的としてしまっている感があり、鵜呑みにされないほうが賢明かと思います。
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この本で角田氏は、「従来のプレートテクトニクスは間違いである」、「プレートは海溝部で沈みこんでなどいない」、と一貫して主張しています。そして、「太平洋プレートは、実は時計回りに回転しているだけである」としています。
ところが、その根拠が、たった3点(ハワイ、アラスカ、日本)のGPSデータだけなのです。しかも、「ハワイと日本の間も縮まっているが、ハワイとアラスカの間も少し縮まっているから」、という極めて大雑把な主張を根拠にしています。これでは、信用しろと言うほうが無理です。
ちなみに近年、太平洋上の離島や岩礁にもGPS装置が設置されてきており、角田氏の説に反しプレートは定説どおり動いていることが分かっています。
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また角田氏は、上空からみた視点のマントルトモグラフィー画像を提示し、マントルがもぐり込むなら低温になるはずの海溝部が、高温になっていると指摘します。そして、この事実から、マントルの熱は対流しておらず、プレートは海溝でもぐり込んでなどいない、と断定しています。
しかしながら、マントルトモグラフィー画像で直接的に分かるのは、温度ではなく、あくまで地震波速度です。原則的には地震波速度が遅いほど温度が高いのですが、プレートもぐり込み部は、高圧により低温にもかかわらず地震波速度が遅くなると解釈されています。
なお、上空からではなく、日本を南から断面でみて、プレートもぐり込み部が見事に低温(地震波速度が大きい)になっていることを示す、有名なマントルトモグラフィー画像もあります(近年はどの教科書にも載っています)。ところが角田氏は、こういった画像の存在については全く触れておらず、なぜか本書のどこにも出てきません。
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さらに、プレートが海溝部で沈んでいないとする根拠として、丹沢山地を挙げています。丹沢山地は地質的に、かつて海底であったことが明らかなので、プレートテクトニクス理論が正しければ既に沈み込んでいなければおかしい、というのです。
ですが、この考察はいささか的外れです。たしかに、丹沢山地は海底が隆起したものなのですが、採取される貝や放散虫の化石から、丹沢山地は「温暖な南方から北上して来た」ことがほぼ明らかになっているからです。つまり、角田氏が言うようにその場で隆起したのではなく、プレート運動に乗って北上し、沈み込めずに付加して隆起した付加体であると考えられるのです。
この種の「沈み込めなかった付加体」はあちこちで見つかっていて、実際、日本列島の地質のかなりの部分が付加体であることが分かっています。プレート運動を否定する角田氏の理論では、この地質を説明できません。
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また、中国内陸部で起こる四川地震について、「プレート理論では原因が説明できない」と述べていますが、これも嘘です。
そもそも、四川省一帯の地震は、インド亜大陸を北上させるプレート運動により引き起こされるものとして、従来から合理的に説明されています。さらに、最近の地殻運動の解析によって、中国南部は揚子江プレートという一種のマイクロプレートに乗っており、四川地震の震源はユーラシアプレートと揚子江プレートとの境界付近であることが分かっています。
つまり、プレート理論で、四川地震は説明できているのです。
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そして、角田氏の言う「地震の癖」として、熱の移動に沿って地震が移動しているとしています。その根拠として、日本国内での幾つかの地震が移動しているように見えると述べています。
ところが、その実例として列挙している一連の地震に、M3~4といった微小地震が数多く含まれているのです。そして、自説に都合の悪いM4以上の地震が隠蔽されています。
ご承知のとおり、M3~4クラスの地震は国内のいたるところで毎日のように起きています。ですので、作為的に選べば、さも地震が角田氏の理論通りに移動しているように、幾らでも印象操作できるのです。このようなやり方は、到底容認できません。
なお、この書籍が出版された後、ここ数年の地震についてみても、角田氏の提唱する傾向に、明らかに従っていません。角田氏は、東北地方を地震の波が北上しており、2008年の岩手県内陸地震もその中のひとつであると指摘し、ここからさらに北海道へと北上するだろうと述べています。しかし、2011年に起きた東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の震源は、岩手県内陸地震の震源よりも明らかに南であり、角田氏の理論による予想は完全に外れています。
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もちろん、この本すべてが出鱈目だとも言えないとは思います。たしかに、プレートテクトニクス、そしてそれに伴う地震発生や火山活動には謎が多いからです。
しかしながら、GPS観測による定常的な地殻移動や、スラブに沿った地下の三次元震源分布、さらには地震前後の地殻変動などは、地震の原因がプレート運動及び沈み込みであるという定説を強く支持しています。プレートが沈み込んだ上部で火山活動が活発になることも、プレートテクトニクスでおおむね説明できます。最近になって存在が明らかとなったスーパーホットプルームやコールドプルームの存在も、マントルの対流を支持します。一方、角田氏の理論は、これらの観測結果を全く説明できず、明らかに説得力に欠けています。
地震関連の書籍には、危険を煽ったり、定説を否定したりして、ことさらに目立とうとセンセーショナルな内容の本が、非常に多く見受けられます。こうした書籍は、やはり鵜呑みにするべきではないと思われます。
・「地震は、プレートの沈み込み運動によって起きる」という定説は、ウソである
・地震は、熱による地殻ブロックの隆起によって、ブロック境界部で発生し、熱の移動とともに震源も移動していく
といった主張がなされています。幾つか有益な考察もあるのですが、総じて本書の内容は信頼できません。「真実を探求すること」よりも、「やみくもに定説に反対すること」を目的としてしまっている感があり、鵜呑みにされないほうが賢明かと思います。
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この本で角田氏は、「従来のプレートテクトニクスは間違いである」、「プレートは海溝部で沈みこんでなどいない」、と一貫して主張しています。そして、「太平洋プレートは、実は時計回りに回転しているだけである」としています。
ところが、その根拠が、たった3点(ハワイ、アラスカ、日本)のGPSデータだけなのです。しかも、「ハワイと日本の間も縮まっているが、ハワイとアラスカの間も少し縮まっているから」、という極めて大雑把な主張を根拠にしています。これでは、信用しろと言うほうが無理です。
ちなみに近年、太平洋上の離島や岩礁にもGPS装置が設置されてきており、角田氏の説に反しプレートは定説どおり動いていることが分かっています。
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また角田氏は、上空からみた視点のマントルトモグラフィー画像を提示し、マントルがもぐり込むなら低温になるはずの海溝部が、高温になっていると指摘します。そして、この事実から、マントルの熱は対流しておらず、プレートは海溝でもぐり込んでなどいない、と断定しています。
しかしながら、マントルトモグラフィー画像で直接的に分かるのは、温度ではなく、あくまで地震波速度です。原則的には地震波速度が遅いほど温度が高いのですが、プレートもぐり込み部は、高圧により低温にもかかわらず地震波速度が遅くなると解釈されています。
なお、上空からではなく、日本を南から断面でみて、プレートもぐり込み部が見事に低温(地震波速度が大きい)になっていることを示す、有名なマントルトモグラフィー画像もあります(近年はどの教科書にも載っています)。ところが角田氏は、こういった画像の存在については全く触れておらず、なぜか本書のどこにも出てきません。
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さらに、プレートが海溝部で沈んでいないとする根拠として、丹沢山地を挙げています。丹沢山地は地質的に、かつて海底であったことが明らかなので、プレートテクトニクス理論が正しければ既に沈み込んでいなければおかしい、というのです。
ですが、この考察はいささか的外れです。たしかに、丹沢山地は海底が隆起したものなのですが、採取される貝や放散虫の化石から、丹沢山地は「温暖な南方から北上して来た」ことがほぼ明らかになっているからです。つまり、角田氏が言うようにその場で隆起したのではなく、プレート運動に乗って北上し、沈み込めずに付加して隆起した付加体であると考えられるのです。
この種の「沈み込めなかった付加体」はあちこちで見つかっていて、実際、日本列島の地質のかなりの部分が付加体であることが分かっています。プレート運動を否定する角田氏の理論では、この地質を説明できません。
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また、中国内陸部で起こる四川地震について、「プレート理論では原因が説明できない」と述べていますが、これも嘘です。
そもそも、四川省一帯の地震は、インド亜大陸を北上させるプレート運動により引き起こされるものとして、従来から合理的に説明されています。さらに、最近の地殻運動の解析によって、中国南部は揚子江プレートという一種のマイクロプレートに乗っており、四川地震の震源はユーラシアプレートと揚子江プレートとの境界付近であることが分かっています。
つまり、プレート理論で、四川地震は説明できているのです。
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そして、角田氏の言う「地震の癖」として、熱の移動に沿って地震が移動しているとしています。その根拠として、日本国内での幾つかの地震が移動しているように見えると述べています。
ところが、その実例として列挙している一連の地震に、M3~4といった微小地震が数多く含まれているのです。そして、自説に都合の悪いM4以上の地震が隠蔽されています。
ご承知のとおり、M3~4クラスの地震は国内のいたるところで毎日のように起きています。ですので、作為的に選べば、さも地震が角田氏の理論通りに移動しているように、幾らでも印象操作できるのです。このようなやり方は、到底容認できません。
なお、この書籍が出版された後、ここ数年の地震についてみても、角田氏の提唱する傾向に、明らかに従っていません。角田氏は、東北地方を地震の波が北上しており、2008年の岩手県内陸地震もその中のひとつであると指摘し、ここからさらに北海道へと北上するだろうと述べています。しかし、2011年に起きた東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の震源は、岩手県内陸地震の震源よりも明らかに南であり、角田氏の理論による予想は完全に外れています。
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もちろん、この本すべてが出鱈目だとも言えないとは思います。たしかに、プレートテクトニクス、そしてそれに伴う地震発生や火山活動には謎が多いからです。
しかしながら、GPS観測による定常的な地殻移動や、スラブに沿った地下の三次元震源分布、さらには地震前後の地殻変動などは、地震の原因がプレート運動及び沈み込みであるという定説を強く支持しています。プレートが沈み込んだ上部で火山活動が活発になることも、プレートテクトニクスでおおむね説明できます。最近になって存在が明らかとなったスーパーホットプルームやコールドプルームの存在も、マントルの対流を支持します。一方、角田氏の理論は、これらの観測結果を全く説明できず、明らかに説得力に欠けています。
地震関連の書籍には、危険を煽ったり、定説を否定したりして、ことさらに目立とうとセンセーショナルな内容の本が、非常に多く見受けられます。こうした書籍は、やはり鵜呑みにするべきではないと思われます。
東大名誉教授・村井俊治が警告する
「南海トラフ巨大地震来年3月までに来る」 ttp://gendai.ismedia.jp/articles/-/37571
コメント誠にありがとうございます。
まさにご指摘いただいた村井俊治氏の研究について、次のエントリで取り上げていますので、ぜひご参照ください。
プレートテクトニクスが真性の理論だと言うのなら、仮説に仮説を上塗りするようなことをしないで、
まず、根源的なものを立証して欲しい。
それは、固体であるプレートが移動する仕組みを提示することです。
文中でも指摘されている通り、現在では、地球上のいたる所にGPS装置が設置されています。
それらの数値を見ると場所により様々な方向を指しています。しかも、日々一定とは限りません。
つまり、球面上のプレートがバラバラな方向にバラバラな距離動いているのです。
さあ、動かしてください。
そのように動く模型を目の当たりにしたら、少しだけプレートテクトニクスを見直しましょう。
プレートの内側はかなりの高熱ですからドロドロしているでしょうが、
上面は熱いでしょうが、固体です。下敷きのように薄ければ、少しは可能性があるかも知れませんが、
何十kmもあるという話じゃないですか。
そして、問題は、その原動力。マントル対流とか言われています。
まあ、それもバカバカしい話ですが、
とにかく、そのマントル対流で様々な方向に様々な距離だけ動かして欲しいものです。
大地震が発生する度にTVにおいて、地震学者が弾性反発やアスペリティの説明をしているのを聞いていると悲しくなって来ます。
甚大な被害をもたらした東北地方太平洋沖地震は、何の前触れもなく、突然のM9.0の巨大地震でした。
11日、本震の後、15地から24時までの9時間、M5以上の地震だけでも、岩手、宮城、福島、茨城の内陸、近海において177回も発生しました。
これらの余震の発生原因も弾性反発やアスペリティに依ると言うのだろうか?
プレートの時速(プレートが動いていると言うのなら)なんてタバコの煙の微粒子程度です。
たった9時間で177回です。これも弾性反発やアスペリティに依ると言うのであれば、
年がら年中、いたる所で大地震が発生しても不思議ではないのではないか。
私は、プルームテクトニクスをプレートテクトニクスとリンクさせずに究めていけば、
地球科学も地震学も真の発展を遂げられるのではないかと思っております。
私は、意図があって、ここを訪れたわけではありません。検索結果による偶然の訪問です。
ただただ、地震学の進展を願っている者です。
突然の強弁、失礼しました。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42004
という記事を見て、先日、長野市に住む親族に地震に注意するように電話をした所、
昨日の11月22日22時にM6.8、震度6の地震がおきました。
それから角田史雄氏の事が気になって調べていた所、こちらのサイトに辿り着いたのですが
>自説に都合の悪いM4以上の地震が隠蔽されています。
M6以上の予測を事前に警告されていましたので、それは違うと思います。
御岳山の噴火があってから角田氏のいう「地震と火山はペアで起こる」は実際に起こっているのです。
多くの研究者が皆色々な事をおっしゃって、予測が当たったり外れたりしておりますが
否定ばかりでなく、様々な角度から可能性を見つけて頂きたいと切に願います。
説明が出来ていないから予想が出来ないのではないですか?
仮説を否定する事は素人でも出来ます。 重箱の隅を突けば良いだけですから・・・。
何十年も自分の足で調べてきた人に対して読んだだけで否定しているのだから、あなたも根拠ある持論を展開して頂かないと読んでいる方も納得出来ませんよ。
今迄の科学は否定から産まれて来ましたか? 私は最初から否定したら何も生まれて来ないと思いますけど、科学や理学は否定から入るのが常識ですか?
上から否定するだけでなく、もっと視野を広げてみては如何でしょう。
批判するのは科学(学問)の常道であって、批判なしに、客観的な成果は生まれません。
なんだか、批判と、非難もしくは否定を混同している人が多いですね。
このサイトに書かれていることは真っ当な批判であり、批判されている方々こそ、まず、ここの批判にこたえるべきでしょう。
それが科学(学問)の道です。
地震予知教みたいなものは要りませんし、地震予知は信じるものではなく、広く批判に耐えうる科学(学問)として確立されるべきです。
科学理論は批判なくして発展はありません。どんな理論でも、検証に検証を重ねて(その過程で当然も批判を検証するわけですが) 研鑚を重ね、現代科学が培われてきたのです。
科学は仲良しクラブのなれ合いではないのですから、それは当たり前の事じゃないでしょうか。
「否定」と書いているれる方が多く散見されますが、このサイトで主張されている事は「批判」です。それを混同するコメントが多くて驚くばかりです。
私は地震学も火山学も門外漢の文系の人間ですが、それでもここで書かれている内容が、理論的に納得できるものであることは読んでいて感じることが出来ます。
それを「仮説を否定する事は素人でも出来ます。 重箱の隅を突けば良いだけですから・・・。」としか感じられるようでは、話はかみ合いそうもありませんね。私にはとうていこのサイトの重箱の隅をつつくことなど出来ませんけどね。
それこそ貴方がここのサイトの重箱の隅をつついてご覧なさい。素人でも出来るなら、理路整然と、角田氏の説などを支持してここのサイトの重箱をつついて説明することが出来るしょう。「コンプレックスの塊」運分というのは、内容とは無関係の中傷でしかありません。私から見ればね。
あと長野の地震の件ですが、会員登録していないと詳しく見られないようですね。公開されているところだけでをみるかぎり、あれを予測と言うには無理があると思います。
予測というなら、少なくとも日時や地震規模も書いてなければいけないでしょう。あれでは「東京はいつ直下型地震に襲われてもおかしくない」と言った発言と同レベルのように感じられました。
また「地震と火山はペアで起こる」という話ですが、そう言うケースもあるだろうとしか言えない話ではないでしょうか。
もちろん私は、火山噴火に誘発されて地震が起きることはあり得ると思っています。しかし今回の御嶽山噴火と長野の地震を結びつける考えにはも安易に飛びつけません。ケースバイケースではないでしようか。
年中噴火している桜島やハワイは、地震多発地帯ですか? そう言った可能性を考慮しながら批判と検証を進めていくのが科学だと私は考えています。
種を明かせば余震でなんちゅうこともないんですが、、、。
さすがに本年春以降はほとんど当たらなくなりました。
信者様になるきっかけはそんなものじゃないでしょうか。そして、信者様になれば多少の日にちや規模のズレなど、「当たった」ってことになるのでしょう。
色々批判を展開している手前、否定的なご意見も勿論掲載致しますので、ぜひ皆様ご教示のほど宜しくお願い致します。たとえ罵倒的な表現であっても、何かしらの気づきがあり、議論の種にもなり得るので、助かります。
角田氏の理論は、100km/年の速度で熱が移動し、地殻が変形して地震が起こる、というものだと理解しています。頭ごなしに否定するわけではありませんが、もし11/22の長野北部の地震が、角田氏の理論どおりだと主張されるのであれば、
(1)熱移動で地震が起こるなら、なぜ今回11/22の長野北部の地震ような、強烈な東西方向の圧縮力による逆断層の地震が起こるのか
(2)白馬村は御嶽山から約100km離れていますが、噴火から2ヶ月も経っていないのに、100km/年の速度であるはずの熱移動が、なぜもう到達したのか
等々の疑問(ほかにも色々あるのですが・・)にぜひ答えて欲しいと思います。特に(1)は、角田氏が否定するプレート理論のほうが、極めて合理的に答えられるわけですが・・・。
また、そもそも11/22の長野北部の地震は、角田氏が指摘(予測)した信濃川断層帯とは、別の断層帯です。