横浜地球物理学研究所

地震予知・地震予測の検証など

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最近の文化放送の2番組から 〜数々のウソを公共の電波に乗せてしまってよいのか〜(寄稿)

2021年09月06日 | 地震予知研究(村井俊治氏・JESEA)
(BD3様より寄稿頂きました記事を以下に掲載致します。「地震を予測できる」と主張して有料メールマガジン「MEGA地震予測」でビジネスを展開する村井俊治・東大名誉教授がラジオ番組に出演した様子とその考察です。「MEGA地震予測」の実態が良く分かる考察となっておりますので、是非ご一読ください)


1. はじめに

東京大学名誉教授の村井俊治氏は、ご自身が取締役会長を務める株式会社地震科学探査機構のビジネスの販路拡大を目的として、最近はラジオ番組に頻繁に出演して同社の取り組みを紹介しておられます。先日Twitterで告知しておられた文化放送の以下の2番組


・おはよう寺ちゃん:8月23日(月)〜8月27日(金) 「寺ちゃんのビジネス探訪記」 6:57〜7:00前 tera@joqr.net
・文化放送報道スペシャル 長野智子 防災ステーション:9月1日(水) 13:45頃〜13:50頃 special@joqr.net


を拝聴してみました(話す側の立場から「拝聴してください」とは、敬語の使い方を間違えていますね)。

内容の多くが事実に反する村井氏の思い込みやウソばかり、という公共の電波で流すには相応しくないものでしたが、番組をお聴ききの中にはウソを真実と誤認された方々もいらっしゃる懸念があります。特に重要な箇所について、放送内容と、それに該当するMEGA地震予測メルマガ内容でファクトチェックした結果を紹介することとします。おそらく文化放送さんは、立派な肩書きやそれらしい会社名にコロリと騙されて、内容のファクトチェックをまるまる怠ってしまったのでしょう。あらためて自社の放送基準と照らし合わせて過ちを振り返っていただきたいものです。また、上に挙げた番組別E-Mailアドレスで意見を募っていますので、皆さんもご意見を送ってみられてはいかがでしょうか。


2. 予測手法とGPS以外に採用しているデータについて

寺島:画期的な技術なわけですね。なにか加えて最近予測するのに新たなテクノロジーも取り入れたって聞いたんですが
村井:今はやりの人工知能を入れて順位づけをしていますと、その他に、耳に聞こえないインフラサウンドとゆう、非可聴音といいますけど地震の前に全地球を走り巡ります。から気温でさえ変わります
(おはよう寺ちゃん 8/23)

村井:ここ数年間でさまざま研究してますと、地震というのはものすごい複雑で、いろんな前兆が出る、ということがわかっております。地殻変動もその一つ。だけど、理由はわかりませんけども、地震の前にはインフラサウンドとしまして、人間の耳には聴こえない地鳴りみたいなものです。
(防災ステーション)


人工知能を入れて順位づけ:MEGA地震予測2020年11月25日号から2021年6月30日号の約7ヶ月間、全国を14分割した地域に対し「ダイナミックAIによる危険度ランク上位5位」が掲載されていました。ところが2021年2月10日号のように、南西諸島の危険度が全国第1位にランクアップと騒ぎ立てる一方で、従来形式のランクは「要注意」を維持したまま「要警戒」に上げない、といったチグハグな扱いが続いていました。さすがにまずいと思ったのか2021年7月7日号のリニューアル後、ダイナミックAIの言及は、静かにそして完全に取り下げられて現在に至りますが、放送ではしゃべってしまったようです。

インフラサウンド:すでに世界の様々な機関で、地震発生時の地震波そのものや、地震発生後の津波を起源とするインフラサウンドを観測する取り組み(監視網)が存在しますが、地震前兆を起源とするインフラサウンドの存在を主張するのは一部の「自称」研究者だけです。MEGA地震予測2021年2月17日号では、2月13日に発生した福島県沖を震源とするM7.3最大震度6強の地震前兆のインフラサウンドを捉えていたと主張しています。ところが縦軸にも横軸にも目盛がなく、地震当日の地震波そのものの波形を欠いたグラフっぽい図形からは「村井氏の科学者としての資質の欠如」以外に読み取れる情報は何もありません。


MEGA地震予測2021年2月17日号より

気温:擬似気温とは、このブログで2019年7月に紹介 (https://blog.goo.ne.jp/geophysics_lab/e/9fc1330be58fde4f505f91b99ac23623)した、「白金測温抵抗体の異常値」のことです。MEGA地震予測2021年2月17日号では、2月13日の福島県沖M7.3の地震前兆として擬似気温が観測されたと主張しています。また「相関分析を3年近く行っています」と述べていますが、これはあらゆる学術界で一般的に通用している「相関分析」を指しておらず、村井氏が独自解釈でねじ曲げた稚拙な別手法を指しています(後述)。またグラフの縦軸は「擬似気温を示した測候所の個数」とのことですが、擬似気温か否か判定するには全国1,300箇所のAMeDASに人員を配置して、アナログ温度計の目視結果と比較する必要がありますが、彼らは一体どのような方法や基準で判定したのでしょうか。


MEGA地震予測2021年2月17日号より

いろんな前兆が出る:「これはもしや地震前兆なのでは?」と目をつけた事象に対し、本当にそれが地震前兆といえるか、発生のタイミングが偶然重なっただけで関係なし、なのかを判定するプロセスを科学と呼びます。研究に取り組む人は誰しも「自説の正しさの実証」を目標にするものですが、その判定〜検証プロセスに私情や想いを混入させると結果をゆがめてしまう弊害を伴うことがわかっています。そのため主観を排除する工夫や、自説に対する懐疑的姿勢というのが科学の根底にある哲学ともいえます。ある事象が前兆かどうかの判定であれば、「2x2分割表」という便利で簡単ですが強力なツールがあり、以下4パターンで拾った回数の値を突っ込むだけで、判定結果が客観的な計算値として導かれます。

前兆と目をつけた事象が…
A) …発生したあと、地震が発生した回数(的中事例)
B) …発生したあと、地震が発生しなかった回数(ハズレ事例)
C) …発生せずに、地震が発生した回数(空振り事例)
D) …発生せず、地震も発生しなかった回数(安全確認事例)

ネットに公開されている誰でも使えるツールに突っ込むだけなので、計算は一切不要です。こういった客観的手法を一貫して拒み続ける村井氏がいう相関分析とは、A)の事例だけ(より正確には「地震の発生後、前兆と目をつけていた事象の事前の発生状況」)拾って自説に不利なB)C)を無視し「過去の大地震X回のうち、その直前に問題の事象はY回みられたので、高い相関あり」とする極めて稚拙な方法であり、ご都合主義です。


3. ピンポイント予測について

寺島:ピンポイント予測というのが先生、あるんですね
村井:はい、最近始めました。予測は「いつ」「どこで」「どのくらい」の地震が起きるかを予測するのが予測の本流ですけれども、なかなか「いつ」といえるような精度が上がらなかったです。それが最近は、その衛星画像を使うことによって「いつ」というのが、大体一ヶ月以内ぐらいには言えるようになりましたね。で、場所もわかりますし、だいたいマグニチュード6、6.5、7ぐらい、プラスマイナス0.5ぐらいで言えるようになりました。それをピンポイント予測とゆうています。
寺島:これはどれくらいの確率で予測できるものなんでしょうか?
村井:えーと今までですね、検証8例しましたけど、約8割ぐらいの確率で思ってます。もちろん見逃しも空振りもありますけれども、まぁ8割ならばもうね、と思います
寺島:ええ、じゃ、かなり高い確率だとおそらくラジオお聴きの方もお感じだと思います
(おはよう寺ちゃん 8/25)

長野:MEGA地震予測のアプリに、ピンポイント予測、っていうものがあるんですが、これはどういうものですか?
村井:地震予測/予知っていうのは、「いつ」「どこで」「どのくらい」の規模で地震が起きるかってのを言い当てることです。今「いつ」っていうのが、だいたい一ヶ月以内、「どこで」っていうのが、まぁ東北地方とか関東地方くらいのレベル、それから「どのくらいの規模」っていうのは、マグニチュードで言えば±0.5くらいの精度で言いあてることができることをピンポイント地震予測、と言ってます。
長野:どのくらいの確率で予測できるんですか?
村井:今は会員に公表している事例では、8事例中6事例の捕捉率を持っています。約75%ですね。
(防災ステーション)


ピンポイント予測:MEGA地震予測メルマガのピンポイント予測配信は2021年6月2日号から始まり、これまで4事例(新規3事例、期間延長1事例)の予測が配信されました。予測の発出状況と結果コメントを拾って突き合わせてみました(ID番号はメルマガにはなく、筆者が独自に設定)。


その結果は、「延長表明1、取り下げ表明1、発生せずコメントなし1、経過観察中1」であり、番組で語られた「8割」や「8事例中6事例の捕捉率」は、根も葉もない真っ赤なウソでした。なお、たとえこの4事例の中に的中実績が含まれたとしても、それは村井氏の予測手法の成果ではなくトリックに過ぎませんので、それを見破る方法と根拠もついでに紹介しておきましょう。
「どこで」について、メルマガの図を拾ってみると以下の通り非常に広い範囲を対象としており、番組で語られた「東北地方とか関東地方くらいのレベル」より遥かに広く、「ピンポイント」のイメージともずいぶん違っているのではないでしょうか。

「どこで」の範囲をこれだけ広げると、昨年末までの36ヶ月間(2018/1/1~2020/12/31)でM5.5以上の地震は、以下の通り21回発生した実績がありました。平均すれば年間7回の高頻度で発生した実績のある範囲ですから、予測期間を1〜2ヶ月程度に広げておけば、地震予測手法を使わず下駄を放り投げる占いでも、「的中」は、向こうのほうから勝手に転がり込んできてくる、というのが村井氏のトリックの種明かしです。みなさまくれぐれも騙されないようにしましょう。

(出典:気象庁提供データを用いた、東京大学地震研究所鶴岡氏の地震活動解析システムhttp://evrrss.eri.u-tokyo.ac.jp/db/index-j.html から、左「N-T図」、右「HYPO図」)


4. 「人の命を救う」という使命について

寺島:地震科学探査機構を作ったきっかけ、教えてください
(中略)
村井:もうひとつは人の命を救うと。ですから毎週水曜日、約4万人の会員に配信しております
(おはよう寺ちゃん 8/23)

村井:(ピンポイント予測の実績コメントの続き)それから一ヶ月から三ヶ月くらいの◯◯(聴き取れず)ですと約85%の補足率を確保しております。
長野:つまりその、日々観測したものを我々がキャッチして、ええっと備えられるということですね?
村井:そういうことです。それが命を救うっていう我々の使命、会社の使命に一番あってると思ってるわけです。
(防災ステーション)

寺島:政府は首都直下地震は今後30年以内に南関東でマグニチュード7クラスの地震が起きる確率70%と発表しています。村井さん、これはどうお考えでしょう
村井:国民はですねぇ、30年間に70%と言われても具体的に準備ができない、備えができない
(中略)
寺島:そうですか、あと南海トラフの方ですが、今後30年以内の地震発生確率60%から70%と言われています。こちら村井さん、いかがですか
村井:はい、もし、南海トラフが起きたら、30万人の犠牲者が出ると言われてますよね。国民の大関心事ではあるわけです。で、それで60%70%言われてもどうしていいか判らないわけです
(おはよう寺ちゃん 8/27)


人の命を救う:そのためにはまず地震災害の死因を知っておく必要があります。多くの死者を出した5つの地震の原因別死者数をまとめた資料をご覧ください。


自然災害科学J. JSNDS 35-3 203-215(2016)「平成28年熊本地震による人的被害の特徴」より

ここに計上されているのは、地震そのものが直接的な死因となった方々で、地震対策として一般にイメージされがちな防災グッズや非常食の出番の前に、すでに命が奪われてしまっていることに特に留意いただきたいです。短期的な発生予測によって地震災害から人の命を救う対策とは、倒壊/土砂/火災に巻き込まれない避難行動の発動を意味しますが、長野さんの「備えられる」というコメントや、MEGA地震予測のメルマガで毎回のように繰り返されて、もはや狼が来る少年状態に陥っている「警戒を怠らないで」「注意が必要です」「変動に異常値が検出されました」といった呼びかけを受けて、こうした避難行動を発動する人など、誰一人いないはずです。
人の命を救うことを目的とした「予測」であるためには、これら避難行動のトリガーとして使える精度で「いつ」「どこで」「どんな規模」の三要素が絞り込まれている必要があります(水害や土砂災害の避難情報をイメージするとわかりやすでしょう)。2021年7月7日号のリニューアル後でも、MEGA地震予測の発信内容は「マグニチュード6.0以上について、いつ=数週間〜1ヶ月/どこで=全国14区分」という粗い内容のまま精度向上は見送られましたし、放送で盛んに宣伝していた「ピンポイント予測」にしてもその化けの皮は上で剥がした通り、いずれも人の命を救える実用性には全く及ばない代物です。8/27の番組の中で村井氏がいみじくも述べられた「具体的に準備ができない、備えができない」「言われてもどうしていいか判らないわけです」という言葉は、ご自身が販売する情報の内容に対するご自身による評価として、謙虚にそして重く受け止めるべきでしょう。

気象庁のWEBサイト「日本付近で発生した主な被害地震https://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/higai/higai1996-new.html」のリストから拾うと、2013年2月のMEGA地震予測のメルマガ開始以降、被害地震は38回発生し、負傷者4,353人、死者322人を数えます。人の命を救うことがJESEAの使命であるなら、その実力の実績として拾うべきは、この38回の被害地震において、メルマガ情報をトリガーとした事前避難行動によって死傷から救われた事例であって、上で正体を暴いたトリックまがいの「捕捉率」などではありません。そして、その実力/実績は、いまだにゼロである現実としっかり向き合うべきでしょう。


5. 最後に

村井氏はメルマガ読者数について2019年春の書籍で5万人と書いておられましたが、今回の放送では4万人と述べておられることから、この2年で2割近い解約者があった模様です。会社名に科学を含めながら、それに反して哲学なき科学から導かれた彼らのインチキビジネスの実態を見抜ける方々が増えつつある成果がここに現れていると考えられます。今後もそういった方々がひとりでも多く増えることを願ってやみません。
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