日々是好日日記

心にうつりゆくよしなしごとを<思う存分>書きつくればあやしうこそものぐるほしけれ

わが青春の大江健三郎

2023年03月20日 08時30分42秒 | 政治
 ノーベル賞作家=大江健三郎さんが身罷ったという。学生時代、大江さんの処女作「死者の奢り」に始まり「芽むしり子うち」・「飼育」などという作品をそれらが出版される度に買って電車通学の車中で読んだものだ。爾来60余年、筆者はほとんどこの作家の作品は買い込んでは読んできた。いまこれを書いている椅子の後ろの書架には1メートル幅にわたって初刷りまたは早期の版数の大江作品が並んでいる。
 ここ5、6年、氏の存在が話題になることがなかったので時折気にはなっていたのだが86歳を一期にして亡くなられたという。先ずは心からお悔やみ申し上げたい。ハヤブサに追われる小鳥はカラスを探してその傍に留まるという。大江氏は、文学界のみならず思想界においても「カラス」の役割を期待されていたようで、ラジカルな政治問題が論争の的になるたびに氏が発する「見解」は強いメッセージとして筆者は聞いてきた。それだけに安倍内閣の一連の「戦争法制」の国会前デモが喧しくなってきたころから氏の姿が見えなくなってきたのが大いに気になっていたのだが、その時期が死への始まりの時期であったらしいと今更に気がついた。
 筆者の青春時代は何といっても日米安保条約改定問題という巨魁=岸信介が突き付けてきた「戦前回帰」という挑戦に、どう対抗していくかが当時の大学生一人一人にとって最大の問題として受け取られていた。まさに文字通り「政治の時代」であったから、この作家の作品は当時のこれにあらがう青春にとって暗夜の航路を照らす灯台の光の役割を果たしていたように思う。
 その抗いの戦記物語が「万延元年のフットボール」、「洪水はわが魂に及び」、「同時代ゲーム」等々、四国愛媛の山間の集落を舞台にした「新しい神話の創造」でもあった。そこでは谷底の部落の外側に巨大な外部世界が存在しているのだが、それはそのまま巨大な核武装された東西世界の隠喩であり、この作家にとって世界の核兵器問題は常に大きな作品テーマであった。「ヒロシマノート」や「沖縄ノート」はその文学でなく直接的な異議申し立てであった。いま、ロシアvs.ウクライナで起こっている戦争、日本政府の軍事予算2%の政策変更等々はすぐ近くに「核戦争」が息をひそめて待っている。大江さんは「これをどう見るか?」と訊きたかったが、今となってはただただ残念である。
 それにしても、この作家に同調する者も、また徹底的に拒否する人も、それぞれが夫々に強烈な影響を受けていたという意味で大江健三郎という作家は紛れもなく不世出の作家であった。訃報を聞いて、「巨星落つ」というのが筆者の率直な感想である。かくなる上は誰か「新しい人よ目覚めよ」と祈るばかりである。
 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿