西洋と東洋の狭間

何かにつけ軌道修正の遅い国で有るが一端方向転換すると、凄い勢いで走り出し今までの良き所まで修正してしまう日本文明

「キングス&クィーン」Rois et reine(2004年)

2007-06-16 17:55:24 | 映画
名曲「ムーン・リヴァー」の調べにのせて世界中で感動の涙と称賛を呼んだ本作は、2004年、第61回ヴェネチア国際映画祭では絶賛とともに迎えられた。
2007年、第60回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門へ正式出品された、ジュリアン・シュナーベル監督が実在人物の半生を描いた最新作『潜水服は蝶の夢を見る(仮題)』に主演のマチュー・アマルリックに関係した作品。       
「キングス&クィーン」Rois et reine(2004年)
配給:boid
製作:パスカル・コーシュトゥー
監督:アルノー・デプレシャン
脚本:ロジェ・ボーボ / アルノー・デプレシャン
撮影:エリック・ゴーティエ
美術:ダン・ベヴァン
音楽:グレゴワール・エッツェル
衣装ナタリー・ラウール
出演:エマニュエル・ドゥヴォス(ノラ・コトレル) / マチュー・アマルリック(イスマエル・ヴィヤール) / カトリーヌ・ドヌーヴ(ヴァッセ)/ モーリス・ガレ(ルイ・ジェンセン) / ナタリー・ブートフー(クロエ・ジャンセン) / ジャン・ポール・ルシヨン(アベル・ヴィヤール) / マガリ・ヴォック(“中国女”アリエル) / イポリット・ジラルド(ママンヌ) / ノエミ・ルボフスキー(ノエミ・ルヴォフスキ)/ エルザ・ウォリアストン(ドゥヴィルー医師) / ヴァランタン・ルロン(エリアス・コトレル) / オリヴィエ・ラブルダン(ジャン=ジャック) / カトリーヌ・ルーヴェル(モニク・ヴィヤール) / ジョアサン・サランジェ(ピエール・コトレル) / ジル・コーエン(シモン) / アンドレ・タンジー(おばあちゃん)
解 説
この作品は良質の作品であり、カンヌ国際映画祭などで評価の高い異才アルノー・デプレシャンが監督と脚本を手がけ、緻密な構成を支えるキャストは、実力派揃いだ。
2004年、もっとも優れたフランス映画に捧げられるルイ・デュリュック賞を受賞。デプレシャン映画の常連、マチュー・アマルリックは、2005年のフランスのアカデミー賞とも認識されているセザール賞で、主演男優賞を受賞した。
素晴らしい作品を作るアルノー・デプレシャンの俳優ともいえる15年来の盟友である、イスマエルを演じる、マチュー・アマルリックと同様に主人公ノラのエマニュエル・ドゥヴォスも、フランス映画界の実力派らしく作品に多彩な表情を与えている。ノラを愛し、彼女を悲しみに貶める父親役を演じるのは、映画監督フィリップ・ガレルの父にしてベテラン俳優のモーリス・ガレル。そして、精神病院でイスマエルを見守る女医を、実力派としてのキャリアを重ねるカトリーヌ・ドヌーブが脇を固めた。家族の存在とそれに代わる新たなきずなのあり方を、緻密に構成された脚本とダイナミックな演出で表現した渾身作。

アルノー・デプレシャン
”トリュフォーの再来”と呼ばるアルノー・デプレシャンの5年ぶりに日本に届いた新作。1960年、ルーベ生まれ。両親はベルギー人。1984年、イデック(IDHEC/パリ高等映画学院-現FEMIS)を卒業。演出と撮影技術を専攻。学友であるエリック・バルビエ「La face perdue(失われた顔)」、エリック・ロシャン「女の存在」などの短編に協力しながら、数々のTVコマーシャルにカメラ・オペレーターとして参加。
83年には自身の中篇作品「La polichinelle et la machine a coder(道化と暗号機械)」を完成させトゥールとリールの短編映画祭に出品。85年には16mm長編「Le couronnement du monde(世界の戴冠式)」をカンヌやオルレアンの映画祭で発表。一方でロシャンの長編デビュー作「愛さずにいられない」の脚色も担当する。
91年に若手俳優(ティボー・ド・モンタランベール、エマニエル・サランジェ、マリアンヌ・ドニクール、エマニュエル・ドゥヴォスら)を大挙起用した中篇「二十歳の死」をアンジェ<プルミエ・プラン>映画祭に出品し、熱狂的な反応を引き起こす。同作品で最優秀ヨーロッパ長編映画作品賞、もっとも期待される若手に送られるジャン・ヴィゴ賞を獲得。92年に初の長編「魂を救え!」(カンヌ映画祭正式出品)を発表。95年にはマチュー・アマルリック、キアラ・マストロヤンニら若手のホープを起用した「そして僕は恋をする」を完成させその評価を不動のものとした。
監督のテーマ
テーマは「養子」なのだと監督は言う。確かに養子問題が、すでに別れたカップルの「その後」を繋ぐ。別の男と3度目の結婚をしようとする主人公のノラとその2番目の夫(未入籍)が、ノラの最初の夫との息子を巡って、それぞれの家族の特殊事情やら彼らの現在やらが絡まって、さらに物語は大きく膨らむ。
2時間30分という恋愛映画にしては長い様に感じられる上映時間をとことん使って、この映画は語れるだけの物語を語ります。画面の片隅に映る細部の細部までがそれらの物語のかけらとなって、そこでは実際に語られていない物語の背景をはっきりと形作る。つまり、私たちが生きる現在がいかに多くのものによって存在しているか、そしてそのためにいかに多くの人が死に、悲しみ、喜び、歌い、踊り、怒り、闘ってきたかが、そこでは語られる。・・・誰もがそれらの「養子」であるのだと。

(下記、記事の紹介)
作中、死を目前にした父親が我が子に対して遺した言葉があります。
「お前はエゴイストだ。今の私は、静められないお前への怒りで一杯だ。」
心臓を打ち抜く拳銃よりも強力な、まるで鋭利な刃物のような言葉。彼が自分の人生をテーマに書き続けてきた作家だということを差し引いてもこれほど凶暴な言葉があるでしょうか。
でもこの台詞、僕には只の憎悪の言葉には聞こえませんでした。映画を見終えて改めて反芻してみて(決して無理矢理に映画の中に希望を見出そうとしたからではなく)これは彼女を愛していなければ決して言えない言葉なのだと。
愛することと憎むことが凄まじく渦を巻いているような父親の感情。彼らは間違いなく血の通う親子です。映画が主人公格のノラの独白で進行する形式には最初から一種の「危うさ、疑わしさ」のようなものが漂っていたのですが、彼女の独白に対して、父親の方も、より辛辣で凶暴な独白で応えてみせたのでした。
もうひとつ大好きな場面
人格破綻者のビオラ奏者イスマエルがエリアスに真摯に語る「人生について」。
義理の親子であったこともある二人ですが、イスマエル自身が語っていたように彼ら二人は「親友」です。
「夜の子供たち」のラストでも年の離れた男同士が心を通わせるシ ーンがあるのですが、こちらの二人は「同志」という感じでした。
小さな雑貨屋を営むイスマエルの父親が強盗3人組を前に貫禄を見せつけてくれたシーンそして、その直後のジムでのトレーニングシーン。(ここは、笑えるシーンでありました)二人もまた紛れもない親子なのだとしたら、彼もまた意外としぶとく生き残っていくのかもしれません。エリアスの良き親友として彼の力になっていけるのかもしれません。
エマニュエル・ドゥヴォス(ノラ)EMMANUELLE DEVOS
1964年5月10日、フランス・パリ生まれの女優。。本名はカルラ・エマニュエル・ドゥヴォス。1983年より、コート・フロランでフランシス・ユステールに師事し、舞台などに出演する。1986年、ユステールの初監督作「ON A VOLE CHARLIE SPENCER!」で映画デビュー。
1990年には短編「Dis moi oui, Dis moi non」の主演で注目されるようになる。
1991年、アルノー・デプレシャン監督の「二十歳の死」に出演。以来、デプレシャン作品の常連俳優となる。1992年、同監督の「魂を救え!」でミシェル・シモン賞候補に選ばれた。
1996年、同じくアルノー・デプレシャン監督の「そして僕は恋をする」で、主人公の奔放な恋人役を演じた。セザール賞有望若手女優賞候補になる。
2001年、ジャック・オーディアー監督の「リード・マイ・リップス」で、出所したばかりの粗野な青年に惹かれていく難聴の女性を繊細に演じきり、2002年の「セザール賞主演女優賞を獲得。この作品で広く知られるようになった。
現在、苦悩を抱えた内向的な女性から、愛に溺れるヒロイン像まで、さまざまな女性を演じる演技派女優のひとり。
マチュー・アマルリック(イスマエル)MATHIEU AMALRIC
1965年パリ郊外ヌイイ=シュル=セーヌ生まれのフランス人俳優。ル・モンド紙の新聞記者である両親のもとに生まれる。映画監督。FEMISの教授。
1984年、19歳のとき、オタール・イオセリアーニ監督の「Les favoris de la lune」で映画デビュー。当時はまだ俳優を志していたわけではなく、1987年、ルイ・マル監督の「さよなら子供たち」ではアシスタントとして撮影に携わっている。
オタール・イオセリアーニ、アルノー・デプレシャン、ウジェーヌ・グリーン、アンドレ・テシネ?といった監督の作品に次々出演。
彼は、 1990年頃、自身も短編映画を監督し、セザール賞は1996年「そして僕は恋をする」で三人の女性との恋に悩み、仕事も恋愛も煮え切らない若者を演じた。この作品は、パリの若者たちに爆発的な人気を呼び、有望若手男優賞。2002年「運命のつくりかた」等、インテリ的な役柄の生き方を演じ、
2004年『キングス&クイーン』で主演男優賞を受賞。
『キングス&クィーン』と云った素晴らしい作品を作るアルノー・デプレシャンの求める実力派俳優とも云える様です。
フランスのみならず、2005年にはスティーヴン・スピルバーグ監督の「ミュンヘン」、2006年にはソフィア・コッポラ監督の「マリー・アントワネット」など、ハリウッド映画にも出演。
私生活では、「そして僕は恋をする」で共演したジャンヌ・バリバールとの間に2児をもうけたが、その後破局している。
ナタリー・ブトゥフ(クレール)NATHALIE BOUTEFEU
1990年にマチュー・アマルリックが監督した短編で映画初出演。その後、オリヴィエ・アサイヤスの「イルマ・ヴェップ」をはじめキャリアを重ね、2001年にはジェローム・ボネルの「Le Chignon d'Olga」、2005年「明るい瞳」で主役を演じる。ジェローム・ボネル監督とは短編時代の1999年「Fidèle」からコンビを組んでいるが、それ以外に、シェロー「ソン・フレール」といった作品に出演。
アルノー・デプレシャン「王たちと王妃」ではエマニュエル・デュヴォスの妹役を演じていた。作品によってかなり印象の異なる女優で、新作は、デプレシャンの『Rois et reine』で、マチュー・アマルリック、カトリーヌ・ドヌーヴ、エマニュエル・デュヴォスらと共演している。2007年、「J'attends quelqu'un」がフランスで公開。
ノエミ・ルボフスキー(ノエミ)NOEMIE LVOVSKY
1964年、フランス生パリ生まれ。今回、彼女はデプレシャン『キングス&クィーン』にマチュー・アマルリックの姉役で出演していた。99年に製作されたそんな彼女の3作目の長編である。『キングス&クィーン』繋がりで言えば、舞台女優を目指していたエマニュエル・ドゥヴォスがそもそも映画の世界に入ることになったのは、ノエミのFEMIS卒業制作に出たことがきっかけだったようだ。

あらすじ  
オープニングのパリの街並みに映画『ティファニーで朝食を』の主題歌「ムーン・リバーが」流れるシーン。
〈第一部:ノラ〉
ノラ・コトレル、過去二度の結婚暦?の35歳。パリで画廊を営む彼女は、実業家、ジャン=ジャックとの3度目の結婚を控えているが、ノラにとってジャン=ジャックとの結婚は、財力によるところが大きかった。彼女には今は亡き最初の夫で、事故死したピエール(ジョアサン・サランジェ)の間に生まれた10歳の息子エリアスがいるが、現在グルノーブルの父親の元で面倒を見てもらい暮らしている。父親の誕生日に二人を訪れるノラだったが、再会も束の間、そこで彼女は突然父が末期のガンに冒され、余命幾ばくもないことを知る……。家でひとり途方に暮れるノラ、そこに妹のクロエが何も知らず送金して欲しいと連絡してくる。
その後病院に戻りベンチで眠気に襲われる。そこに死んだはずのピエールが現われるのだった。彼の葬式、エリアスの出産、そしてピエールの子として育てる事から、どうしても息子エリアスを夫の籍に入れるために、必死で役所と闘い、認知を勝ち取り、彼の死後正式に入籍したこと……必死に暮らしてきた日々を彼女は涙ながらに訴えたのだった。

ミュージシャンでヴィオラ奏者のイスマエル。国税局から逃げ回り、だらしない生活を送る彼の元に突然二人の男が訪れる。ただちに精神病院に連行され、強制入院させられてしまった彼は、そこで「第三者による措置入院」である事を告げられる。自由で気ままな生活を送る変人だが、「自分は狂ってはいない!」と言うものの、医師(カトリーヌ・ドヌーヴ)らにも相手にされない。8年間通っている著名なカウンセラーの名前を出した途端、病院側が急に態度を変える。カウンセリングのための外出を許可し、お金まで貸してくれたのだ。そこで様々な人たちと出会いながら、「休暇」を楽しげに過ごすことになる。
どうにか悪友にして弁護士のママンヌと落ち合うことができた彼は自分の退院に協力してもらい、この入院を理由にして国税局から逃げられないかと提案される。そして弁護士からは、この入院には黒幕がいるのではないかと聞かされる。

エリアスに祖父の病状を伝え、パリに向かうノラ。彼女は必死で車を走らせながらジャン=ジャックにイスマエルを捜索させていた。ノラとイスマエルは一年前まで夫婦同然に暮らしてきた仲であり、自分の息子同然にエリアスを育ててくれたイスマエルは祖父以外に息子がなついた唯一の男性だったのである。
イスマエルの居場所を突き止め病院を訪れたノラは、そこで唐突に「エリアスを養子にして欲しい」と切り出す。


〈第二部:解放される恐ろしさ〉
グルノーブルに戻ったノラは父の死を自宅で迎えようと介護士を雇う。そこにちょうど父の編集者が現われ、「孤独な騎士」という日記集の校正依頼をしていく。
父は起き上がり、本の校正を始める。死の淵にいながらも必死に本の校正を始める父のその姿に、たった一人でまもなく迎える父の死という辛い現実に向かい合うことに、いたたまれなくなったノラは、亡き夫ピエールとの激しい喧嘩を思い出す。ノラは家を飛び出してしまう。彼女がたどり着いた先は、父の家だった。
実は、ピエールはノラの目の前で衝撃的な死を遂げていた。彼を愛していたのに…。事情を隠すノラだったが、知らないでは済まない状況に立たされそうな娘のために、父は証拠隠滅を施しに行ってくれていた…。
ピエールの死の真実、父がノラのためにしてくれたこと、イスマエルへの告白……。
苦しみ続ける父を見兼ね、ノラはついに大量のモルヒネを父に投与してしまう。そして父の葬式、ようやく戻った妹に父の死を責められながらも部屋の片づけを始めると、小説家だった父の遺稿を整理していたノラは、衝撃的な文章を発見する。それは父から娘へのあまりにも残酷なメッセージだった。彼女に宛てた父からの衝撃的な文を目にする。彼女は、そのページを破り捨て、焼いた。

「中国女」と呼ばれる常連入院患者のアリエルや看護士の女性と親しくなるイスマエル。彼もまた再び訪れたカウンセリングの場でノラとの別れの場面を思い起していた。そんな彼に「あなたに養子なんて無理よ」とだけカウンセラーは告げる。そして精神病院での生活にもそれなりに順応してきた頃、退院の日を迎えることになる。
姉の元を訪れ強制入院の真実を知るイスマエル。その黒幕である同僚のクリスチャンを訪れると、彼は楽団を一方的に解雇されてしまう。家を差し押さえられ、自分のヴィオラすら失ったイスマエルは途方に暮れて実家に戻ることになる。しかしそれはエリアスを養子にとるための書類に父のサインを頼むためでもあった。

ノラの結婚パーティに父の編集者が現われる。遺稿を手渡すも、抜け落ちたページを指摘され動揺するノラ……。一方イスマエルは退院時に唐突に愛を誓いながらも、その後冷たい態度をとってきたアリエルの元を訪れ、ふたりはついに結ばれる。

〈エピローグ〉
エリアスを人間博物館に連れ出すイスマエル。そこで彼はかつて親子として暮らしたエリアスに養子について、ある重要な人生のアドバイスを、真摯に語る。
逃げ続けてきたノラだが、二人を待つノラは、明るい陽射しの中、駆け寄ってくるエリアスとイスマエルを笑顔を見た時、自分もまた救われ、彼女もまた大切なことに気がつくのだった……。