ブログ版『ニッポン食の安全ランキング555』を読むにあたって
20年前、わたしはスウェーデンから日本へやって来ました。そのとき、はじめて口にしたお寿司やお刺身のおいしさは忘れられません。日本の食べ物は世界一おいしいと感動しました。煮物やおひたし、漬け物など、日本にはすばらしい伝統食がたくさんあります。
しかし、日本は食料自給率がことのほか低く、「地産地消」が崩れてしまっているうえ、ここ数年は食品業界の不祥事が相次いだことから、食べ物への不安を抱いている人はとても多いことでしょう。また、子どもたちのアトピーやアレルギーの問題も深刻です。
スーパーや食料品店で買い物をするとき、調味料やパン、乳製品や麺類など、安心して購入できる商品はどれなのか? それをやさしくガイドしてくれるハンディーな本があれば、きっと役だつにちがいない。なによりも私自身が、そんな本が欲しくて『ニッポン食の安全ランキング555』を書きました。
この本には、大きな食品企業の代表的な食品から多くの小さな会社の食品まで、まんべんなく調査をし、集録してあります。よく知られている加工食品のほか、インターネットなどでしか買えない食品も調査の対象とし、わたしがおすすめできるヘルシーで安心なたくさんの食品の例をランク付けしました。(ブログ版は基本的に本と同じ内容ですが、ブログの機能面の制約上、イラストをはぶいたり、説明を簡略化した部分があります)
ランク付けは以下のように行ないました
まず、複数のスーパーや食料品店、インターネットの食品買い物サイトを確認し、数百の食品を選抜しました。各商品のパッケージの表示や原材料を読み、詳細をメモしました。原産国が記されているか、食品や原料が国産かどうかについて食品会社が情報提供をしているかについても調べました。
次に、各社のホームページで検索をし、詳細な情報が見つかるかどうか調査をしました。その段階で数種の食品をリストから外しました。判断をするには十分な情報が得られなかったためです。選び出した食品は、よく知られている商品のみに限らず、幅広い食品を含めるように努力しました。国産の食品だけでなく輸入食品も加えてあります。
原材料等の内容は商品を作っている会社のウェブサイトにある発表内容をまとめたものです。表記のないもの、少ないものは、食品そのものを会社が説明していないことを意味します。
総合評価は著者が調べた内容をもとに評定をくだしたものです。また掲載の順番はランクの高い順に著者によって決められたものです。つまり最初に出てくるものが著者の一番のおすすめ商品になります。
ランキング表の基準
以下の基準によって著者は食品の安全性をそれぞれの指標について判断をしております。空欄はどの場合もその食品に関しての情報を著者がウェブサイトなどの調査によって得ることができなかったことを表しております。
ランキング表の表示と説明
農薬使用
使用 使用しているもの
低使用 使用しているが低度であるもの
未使用 使用してないもの
食品添加物
(食品添加物は著者の見解で添加物であるかないかを決めております)
使用 使用しているもの
未使用 使用していないもの
環境影響度
Negative 環境への悪影響があると著者が判断するもの
Positive 環境への悪影響がないと著者が判断するもの
Neutral 環境への悪影響が少ないと著者が判断するもの
地球温暖化影響度
High 地球温暖化への影響が高いもの
Low 地球温暖化への影響が低いもの
Low/Medium 地球温暖化への影響が少し低いもの
Medium/High 地球温暖化への影響が少し高いもの
Medium 地球温暖化への影響が中程度のもの
フードマイレージ
High 食品の輸送にCO2を排出する量が多いもの
Low 食品の輸送にCO2を排出する量が少ないもの
Low/Medium 食品の輸送にCO2を排出する量がやや少ないもの
Medium/High 食品の輸送にCO2を排出する量がやや多いもの
Medium 食品の輸送にCO2を排出する量が中程度のもの
遺伝子組み換え食品
使用 遺伝子組み換えの原材料を使用しているもの
未使用 遺伝子組み換えの原材料を使用していないもの
総合評価の3段階のランキング
★★★ 三つ星の食品は、とてもヘルシーで安心だという意味です。わたしが一番におすすめする食品です。有機栽培による食品は、環境の観点から分析してもとてもよい食べものなので、本書の中では常に三つ星がついています。
★★ 二つ星の食品は、ヘルシーで安心な一般的な食品という意味です。
★ 一つ星のものは、政府によって「一般に安全と認められている物質」で、「基本的には安全」ということですが、健康や環境への視点から考えれば、改善の余地ありという意味になります。
このランキングでは、上記の基準に合った会社の食品の点数を上げています。それらは、健康で安心できて、持続可能な、責任を持った食品加工を実行している会社によるいい例だと思います。もっと多くの会社が、遺伝子組み換え原料を避け、ほかの有害な原料や食品加工をやめることを望んでいます。
法的にも、食品会社には、原料表示の義務があります。しかしながら、長いカタカナで書かれた人工原料は何がなんだかさっぱりわからないことも多々あります。そのような場合には、会社のホームページや消費者サービスセンターで情報を詳しく提供することが求められます。原材料欄に、添加物や着色料など得体の知れない原料名がある食品は、わたしはおすすめしません。特に小さなお子さんたちには、化学合成された添加物入りの食品を与えるべきではありません。
この調査では、フード・マイレージと気候変動問題に対する影響についても評価しています。遠距離の国から輸入される食品は、フード・マイレージが「高」、そして国産のものは基本的に「中」や「低」としてあります。「低」の評価が好ましいということです。フード・マイレージに関する論争(「大地を守る会」より http://www.food-mileage.com/)が広がっているのはよい兆候です。外国から食べものを輸送することで環境にどのような影響があるのでしょうか。わたしたちの食卓に食べものが届くまでに、いったいどのくらいの石油やガスが無駄に使われるのでしょう。「地産地消」の大切さを思い出さなければなりません。
地球温暖化(気候変動)は、深刻な問題です。空輸される食品は、船で輸送されるものよりはるかに多くのグリーンハウスガス(温室効果ガス)を排出します。それから多くの食肉製品は、気候変動に影響を与える評価として「高」をつけています。肉牛は多くのメタンガスを排出します。この問題の根底には、牛にとっては不自然な食べものである大豆が与えられていることがあります。牛は草をはんで生きる動物なのに。冷凍食品も「高」の評価をしています。わたしとしてはあまりおすすめしない食品です。食品会社が原料の出所を公開しないことには、わたしたち消費者にはエネルギーの無駄な消費に歯止めをかけることさえ不可能なのです。地球温暖化の問題に対処することが容易ではないのです。
評価が可能な場合には、農薬が使われているか、遺伝子組み換え作物由来の原料が使われているかについてもその情報を加えました。農薬使用欄に「高」の評価がある食品は、農薬の残留値が高いということを意味しています。農薬散布や遺伝子組み換え作物の栽培は、野生生物や土壌の肥沃さなど、栽培地の自然環境に影響を与えます。日本で遺伝子組み換え作物の商業栽培は行われていませんが、特にトウモロコシや大豆、ナタネは、北アメリカから輸入され、大きな問題を起こしています。食品会社は、遺伝子組み換え原料の使用について明確な態度をとるべきです。わたしたちには何を食べているのか知る権利があります。遺伝子組み換え作物由来の原料を避けるというはっきりとした方針をもっている会社には、ヘルシーで安心な食品欄に高い評価(星)をつけてあります。
(遺伝子組み換え食品について、詳しくは「グリーンピース」の『トゥルーフードガイド』http://www.greenpeace.or.jp/campaign/gm/truefood/を参考にしてください)
農薬や、遺伝子組み換え作物は、作物が育つ土地の生態系や土壌の肥沃さに悪影響を与えています。遠くから水を引いて灌漑用水を使って作物を育てている国もあります。そのような地域で長期の干ばつが起こったら、作物を育てることが不可能になります。大規模生産の農場では、飛行機で農薬を散布し、無差別に多くの植物を枯らします。これもたいへん好ましくありません。このような農業のやり方は、地域の環境に「悪影響」を与えると評価してあります。
一方、有機農業は、土壌の状態をよくし、自然界の多様性を守ります。家畜動物の飼育に関する有機基準を決めることは必要だと思います。肉を食する人間にとっても動物愛護の考え方は重要です。日本では、有機食品に「JAS」基準が適応され、それには検査も伴います。輸入される有機食品は、各国の有機認証団体によって管理されています。評価は、ヘルシーで安心欄で、「高」をつけました。これは、生産者や食品会社によるとても特別で肯定的な取り組みだからです。ほとんどの場合、有機農家は小規模です。だからこそ、土壌の肥沃さが保たれ、生物の多様性も保全されるのです。次世代のためにも。そのような地域で作られた食品は、地域環境への影響欄で、「肯定的」とランク付けしています(更なる情報については、IFOAM〈国際有機農業運動連盟〉のホームページを参照してください)(IFOAMジャパン http://www.ifoam-japan.net/)。
安全な食品は、コーデックス委員会やISOなどの国際基準や国際規制を作る機関にとって重要な課題です。さらに、「自然な食べもの」や「自然な味」については、大量生産される加工食品とは切りはなして語られるべきだと思います。ときに食べものは、とても奥深い精神的な体験になり得ることもあります。
2008年に石油が値上がりし、それにつられて食品の価格も跳ね上がってきています。石油の価格はピークをこえて下がりましたが、問題が解決したわけではありません。日本の食はどうなるのでしょうか。食品はどのように輸送されるのでしょうか。生産者は、化学肥料、温室、貯蔵庫、それから化石燃料やコンバインやトラクターなどを使う農業を続けることが可能なのでしょうか。食糧輸出国との競争は激しくなるでしょう。日本は今からそのようなことに備えた準備をしなければなりません。手遅れにならないうちに。
わたしたち消費者も何かできるはずです。少しずつでもいいからなるべく地域のものをいただくようにしましょう。
実際のところ、わたしたちは、テレビの広告によって作り出された幻想の世界の住人にされているのです。すべての牛は、美しい山の頂上で緑の草を食んでいるのだと思い込まされて。
スウェーデンから日本に越して来たことは、わたしにとって大きな冒険です。20年が経過した今でも、新しい日本の味に出会うことがたびたびあります。日本には素晴らしい食の文化があります。この小さな本を通して、わたしの経験をみなさんと分かち合うことができることに喜びを感じます。どうぞお楽しみください。どんどん利用してください。みなさんの食への関心がますます増していきますように。
日本には世界に誇れる健康によい伝統的な食べものが揃っています。農業にたずさわる人たちは、日本で長い間、受け継がれてきた素晴らしい風味と美しく飾られた食べもの文化が失われないようにしてきました。
それから、食べものに対して尊敬の気持ちをあらわすこと、例えば、食べる前に「いただきます」と感謝を表現する習慣もとてもいいと思います。
日本についてのわたしの第一印象は、「目と舌、両方へのごちそう」でした。
マーティン フリッド
飯能 埼玉 2009年5月
醤油からご覧ください