玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

「北方文学」第76号発刊

2017年12月30日 | 玄文社

 

「北方文学」76号が発行になりましたので、ご紹介します。今号は先号が338頁の超大冊になり、次は書き手も量も減るはずと思っていたのですが、あに図らんや今号も先号に迫る330頁となりました。内容も先号に勝るとも劣らぬものとなり、同人雑誌としてはその充実を誇っていいのではないかと思っています。
 巻頭を飾っているのは先号に引き続いて、館路子の詩「地に這うものへの謝辞を込め」です。このところ動物をモチーフにした作品が続いていますが、今回は地に這うカナヘビやヘビ、オオクロアリが登場します。地に這う者たちを隠喩として言葉に回収しようとする試みと言えます。ところで蜥蜴は鳴くのでしょうか?
 俳句が二人。大橋土百は「薔薇の精」。ニジンスキーの句もあります。「終焉は破局破滅か冬薔薇」のような観念的で重い作品から、「温といなぁふふふふふふふ猫の夢」のようなおどけた作品まで、自由自在であります。米山敏保は「沢の螢」。螢にモチーフを絞った22句。
評論が続きます。トップは徳間佳信の「閻連科との公開対話会「『愉楽』(《受活》)はどう読まれたか」」。2016年9月に「日本中国当代文学研究会」が主催した、中国人作家、閻連科との公開対話会の記録である。徳間は研究会の一員として鼎談に加わった。日本でも翻訳されている閻連科の『愉楽』をテーマに中国文学の現状と可能性を追究しています。
 2年ぶりに霜田文子は「立原道造の〝内在化された「廃墟」〟をめぐって(二)」で、連載を再開しています。日本で初めて建築論に〝廃墟〟という言葉を導入した立原の議論を追究。今回のキーワードは〈建築体験〉。精神的体験としての建築の問題を言語芸術との関連から考察しています。
 鎌田陵人の「サピエンス・モノ・コトバ」は、昨年ベストセラーになったユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』に触発されて書かれたもの。結局は人間の問題は言語の問題に収斂されていくということを言っています。言語によってのみ可能な〝否定命題〟が中心的なテーマ。
 柴野毅実の「ロベルト・ボラーニョと恐怖の旅」は、2003年に50歳の若さで亡くなったチリ生まれの作家、ロベルト・ボラーニョの最後の作品『2666』についての批評。エピグラフとして掲げられた、ボードレールの「旅」の一節「倦怠の砂漠のなかの 恐怖のオアシス」を手がかりに超大作を読み込んでいます。
 今号の寄稿は山内あゆ子訳、スティーヴン・マクドナルド作の戯曲「ノット・アバウト・ヒーローズ」の第一幕。第一次世界大戦時のイギリスを代表する戦争詩人、シーグフリード・サスーンとウィルフレッド・オーウェンの詩を通した友情を描いた作品。二人の日記や書簡をもとに、二人の友情を克明に描きます。本邦初訳。
 先日、玄文社からハーリー・グランヴィル=バーカーの訳述書『シェイクスピア・優秀な劇作家から偉大な劇作家へ』を上梓した、大井邦雄の次の対象は『マクベス』。グランヴィル=バーカーの「役者のためのシェイクスピア」シリーズの一冊「『マクベス』序説」の訳述です。
鈴木良一が書き継いでいる「新潟県戦後詩史」も、先号から現在も活躍中の詩人たちが登場してきて、俄然興味深さを増しています。今号は1966年から1970年までの後半。
 今年7月に私が刊行した『言語と境界』について、徳間佳信が詳細な解説と批評を書いてくれた。題して「言語――「精神」のありか」。『言語と境界』は決して読みやすい本ではないが、その言わんとするところを余すところなく、徳間は紹介し、論じています。この文章があれば私の『言語と境界』はなくてもいいほどです。
 福原国郎の「文平、隠居(下)」は古文書から読み解く地方史であり、人物伝でもあります。古文書の読み込みに関しては他の追随を許さない福原の独壇場。江戸末期の農村経済が手に取るように分かります。
 このところ凄い小説を連発している新村苑子の「花束」は、テーマを老人介護と思わせておいて、実は団塊の世代の夫婦のあり方にテーマをおいている。小品ではあるが、主人公の人物像がくっきりと浮かび上がってくる佳品です。
 魚家明子の「眠りの森の子供たち(三)」がラストです。連載三回目でいよいよ小説は佳境に入っていきます。かんたの母親の書いた長い文章がこの小説の中のもう一つの物語となって、これ以降のスト-リーを先導していく予感を感じさせます。魅力的な人物が沢山登場してきます。

目次を以下に掲げます。
館 路子*地に這うものへ謝辞を込め/大橋土百*薔薇の精/米山敏保*沢の螢/徳間佳信*閻連科との公開対話会 『愉楽』(《受活》)はどう読まれたか/霜田文子*立原道造の〝内在化された「廃墟」〟をめぐって(二)/鎌田陵人*サピエンス・モノ・コトバ/柴野毅実*ロベルト・ボラーニョと恐怖の旅--大長編『2666』について--/榎本宗俊*歌について/スティーブン・マクドナルド 山内あゆ子訳*ノット・アバウト・ヒ-ローズ --シーグフリード・サスーンとウィルフレッド・オーウェンの友情--/ハーリー・グランヴィル=バーカー 大井邦雄訳述*『マクベス』序説(1)/鈴木良一*新潟県戦後詩史 隣人としての詩人たち〈10〉/徳間佳信*言語--「精神」のありか 柴野毅実『言語と境界』のために/福原国郎*文平、隠居(下)/新村苑子*花束/魚家明子*眠りの森の子供たち(三)

お問い合わせはgenbun@tulip.ocn.ne.jpまで。

コメント   この記事についてブログを書く
« オテロ・シルバ『自由の王』... | トップ | マイケル・タウシグ『ヴァル... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

玄文社」カテゴリの最新記事