玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

8グラムへの挑戦

2009年07月11日 | 日記
 高柳町門出の「越の生紙工房」で、トキめき新潟国体天皇杯、皇后杯の表彰状用紙を漉くというので取材に行った。小林康生さんが紙を漉くところを初めて見せてもらった。
 専用の枠が八万五千円もし、簀が三万八千円もするというのに驚いた。A3の賞状用だから小さなものだ。枠が高すぎるので、代用品を購入したというが、木の乾燥が十分でなく、漉いているうちにゆがみが生じてくるらしい。
 ガムテームで補正しながら、作業は進んでいった。紙漉きの技法などはまったく知らないが、小林さんによれば、最初薄く均一に簀の上に材料をのばして、基礎をつくるのだという。それから何回も漉く操作を繰り返して厚みを出していく。
 小林さんは、「紙屋にとって何回やっても分からないのが厚みだ」と話す。今回は一枚八グラムの紙を三枚重ねて二十五グラム程度の表彰状に仕上げる。八グラムといっても乾燥した状態での八グラムだから、どう加減して八グラムの紙を漉くのか、素人には想像もつかない。最も熟練を要する部分なのだろう。
 また、三枚重ねにする場合、簀から離して重ねる時に正確に紙の位置が一定していなければならない。特別にガイドをつけて作業していたが、ちょっとでも手元が狂えばずれてしまう。これもまた、むずかしい作業で、紙漉きの奥の深さを感じさせるのだった。
 一般の洋紙は百年ももたないという。小林さんは千年経ってもしっかり残る“生紙”にこだわり続ける。しかし、新潟県はともかく、全国的には和紙業界は衰退の一途をたどっていて、後継者もほとんどいないのが現状だという。ところで、千年後に残す価値のあるものを、現代人が和紙に記したり描いたりできるのだろうか。

越後タイムス7月10日「週末点描」より)



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