玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

虹を予知する

2009年04月15日 | 日記
 先月二十一日から二十九日まで、市内新橋の文学と美術のライブラリー「游文舎」で開かれた市内石曽根出身、高橋和子さんの写真展に深く関わった。高橋さんは、創風システム社長の石塚修さんの幼なじみであり、写真展の開催は石塚さんの存在なしにはあり得なかった。
 高橋和子さんの写真は「游文舎」始まって以来の、五百人に迫る来場者の心に深い感動を与えた。未だ“ひと”が見たことのない風景を執拗に追い求める姿勢、そして写し取られた写真の切れ味と完成度の高さに、多くの人が「すごーい」の声を発せざるを得なかった。
 写真展が終わり、作品が撤去された今も、高橋さんの写真の数々が鮮明に脳裡にこびりついて離れない。これまで「游文舎」では絵画を主体に展示を行ってきた。絵画でも具象よりも抽象を好むから、もともと即物的な表現は苦手で、写真の良さもよく理解できていなかった。
 「夢」と題する作品がある。北海道の広大なジャガイモ畑に無数の花が咲いている。畑はなだらかに傾斜した斜面の上に拡がっていて、その上に虹が懸かっている。強い光を発する虹で、それだけでも夢のように美しいのだが、その上にもうひとつ、淡い色の虹が見える。二重の虹の出現を捉えた瞬間なのだ。
 こんな風景を普通“ひと”は生涯かかっても見ることはないだろうし、それを写真に撮るとなれば、さらに可能性は低くなる。でも高橋さんは“虹の出現を予兆できる”のだという。鼻のあたりがムズムズしてきて、“あ、虹が出る”と分かるというのだから、ものすごい。
 風景写真を撮る人は、気象条件を知り尽くしていなければならないのは当然のことだが、それが“本能”のように身に備わってこその、あの写真なのだと思う。恐るべき写真の数々を見せてもらって感謝に堪えない。

越後タイムス4月3日「週末点描」より)



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