玄文講

日記

ペンギン図

2004-12-01 15:36:46 | バカな話
物理学に限らず自然法則の公式にはいろんな名前がついております。特に多いのがその法則の発見者の名前をつけたもので、ベルヌーイの定理、カルノーサイクル、南部・ゴールドストン模型、ワード・高橋恒等式といったぐあいです。
法則に自分の名前が冠されるというのは学者にとっては非常に名誉なことなわけです。
ですが中にはそんな名誉にはとんと関心のない人もおりまして、こんな話があります。

ある学者先生達が飲み会の席でダーツで勝負しておりました。

「おい、ジョン。この勝負で負けたらお前は今度の論文に必ずペンギンという言葉を使え!」

「ペンギン?物理の論文でそんな言葉を使ってるのは見たことがないよ」
「だからいいんじゃないか。ほら、お前の番だ」

私はその場にいたわけではないので詳しいいきさつは知りませんが、上の会話と似たようなやり取りがされたのでしょう。
そしてこのジョン先生、この勝負に負けてしまいました。それで難儀なことにこの先生、論文のどこかに「ペンギン」という言葉を使わないといけなくなりました。

「さてはて、困ったものだ。共同研究者の名前にペンギンを入れてみるか?いや、駄目だ。このペンギンさんは誰ですか?と聞かれたらどうするのだ。ならば無理矢理使ってみるか?「ここで粒子はペンギンのように崩壊します」。……意味が分からんな。うん、やめよう。あー、どこで使えばいいのだ!?」

「えーい、こうなりゃどうにでもなれ!」

とヤケを起こしたのかどうか、ジョン先生は自分の作った物理学の公式に「ペンギン図」という名前をつけてしまったのです。

ところがこの「ペンギン図」。意外に重要な公式で、あっという間に世界中に普及し、大勢の理論物理学者が論文に「ペンギン」と書き、学会でお偉い先生方が大真面目な顔で

「では、次にこのペンギン図をご覧下さい」

と言う事態が生じたのです。
こうして「ペンギン」は現在理論物理学界で最もポピュラーな動物となったのであります。

このように「ペンギン図」が普及してからのことであります。ある日ジョン先生はさる研究会に出席しました。
そしてその研究会の席にはあのファインマン大先生もいたのです。「ご冗談でしょ、ファインマンさん」という一般向けの自伝や「ファインマン物理学シリーズ」で有名なあのファインマン、マンハッタン計画で原爆の製造に多大なる貢献をしたあのファインマン、そして素粒子物理学の礎を築いたあの大天才ファインマンです。
このファインマンさんの作った公式「ファインマン図」は極めて重要な公式で、この図がなくては今日の理論物理学の発展はありませんでした。
かく言う私も「ファインマン図」には毎日お世話になっております。

そのファインマンさん、ジョン先生の講演中に

「その図はどう見てもペンギンに見えない」

と言い出しました。実は当時ジョン先生、まさか賭けに負けてペンギンと名前をつけたとは言えなかったので、表向きにはペンギンのように見えるからペンギン図と名付けたと説明していたのです。ジョン先生は始めは軽く流していたのですが、ファインマン先生は諦めずに食い付いてきます。

「いや、おかしい。その図はペンギンに見えない。どうしてペンギンなのだね?」

ジョン先生は困ってしまいました。そんな時、その様子を見かねたある老科学者がこう言いました。

「おい、ファインマン。いいじゃないか。私だってファインマン図が君の顔に見えたことはないのだよ」

おあとがよろしいようで。

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