Das Mondlicht

月の光の天使の梯子。

断片創作(schwarze Katze)

2008-10-18 | 創作
「クロ、ご飯」

 奈央が近所のペットショップで買ってきてくれた青いトレーに、レトルトパウチのキャットフードをあける。
 1袋150円、それも毎日2回。
 一人暮らしの恭一にとっては痛い出費だが、クロに残された時間を思うと迷ってなどいられなかった。
 にゃあ、と近寄ってきた黒猫の小さな頭をなでてやる。

「お前には、幸せになる権利があるんだよ。幸せになんなきゃいけないんだよ」

 少なくとも、母と妹を『殺して』しまった自分よりは。

「……なんでなんだろうな。なんでお前が……」

 その先はもう、言葉にならなかった。



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大学の小説創作の授業の没ネタ。
恭一はなにやら抱えています。
奈央は恭一の彼女さんで、もんすごい愛情深い人。
タイトルは即席なので、いいの思いついたら変えますww

断片創作(Ich bin hier)

2008-10-15 | 創作
もう一緒にいられないけど

手を繋いだり、隣を歩くことはできないけど

でも、忘れないで

忘れないで



あいしてる



 ……この言葉たちは、どれだけ鈴音の心に届くのだろう。

 遥樹はボールペンを置くと、ベッドで眠る鈴音に手を伸ばす。
 さわれないと解っていて、さわろうとしてみる。
 今日も彼女の頬には涙の跡。

『ごめんね、鈴音』

 これしか言えない。
 本当に伝えたい言葉は、こんなものじゃないはずなのに。



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遥樹視点から鈴音への想い。
物体には触れられても、一番愛しい人には触れられない。

断片創作(Ich bin hier)

2008-09-07 | 創作
 サイドボードの上のガラスビンには、睡眠薬。
 全部取り出して数えたことはないから分からないけど、たぶん300錠くらい。
 病院で「効かない」と繰り返して、強いのを処方してもらった。

 ペンケースの中には、新しいカッターナイフ。
 工作で使うような顔して、近所の文房具屋さんで平然と買ってきた。

「ハルちゃん……」

 後を追いたくなるのはいつものことで。
 でもそのたびに誰かが寸前で私の手を止める。

 あの夜、涙腺が壊れるほど泣いたのに、まだ涙は涸れていない。

 苦しいのに笑って名前を呼んでくれた彼の声が、まだ耳に残ってる。



 ――すず、すずね、鈴音。



 もう二度と聞こえない声が、死へ向かう私の手を狂わせる。

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 鈴音はハルちゃんに相当依存していたようです。

断片創作(僕と彼女の日常草子)

2008-08-04 | 創作
「私、誰かにつけられてるみたいなの。だから、一緒に帰ってくれる?」

 目が点になった。

「それでね、もし私が襲われそうになったら……あなた、私の盾になってくれる?」

 更に点。

「えっと、あの……」
「馬鹿ね、冗談よ」
「……だろうと思った」

 よく僕はこうやって彼女にからかわれている。
 いつもは大人びている彼女の瞳は、こんな時だけ年相応(もしくはそれより下)に輝く。
 くすくす笑って、そりゃあもう嬉しそうに。

「私が本気であなたを盾にしようなんて思ってると?」
「いやそれは思ってないんだけど」
「お願いだから、私が頼んでもないことはやらかさないで頂戴ね」
「分かってるよ」
「何があっても守るとか、無責任なこと言わないで頂戴ね」
「言わないよ。だってそれは君が一番嫌うことじゃないか」
「人間なんて、所詮は自分が一番可愛い生き物なんだから」
「知ってるって」
「もしあなたが死ぬか私が死ぬか、どちらかしか選べないなら私は生き残るわよ」
「……改めて宣言されると傷つくな」
「だって」

 彼女は緩やかな曲線を描く胸を、空に向かって大きく張る。

「あなたは私を犠牲にしてまで、自分が生き残ることなんて望んでないでしょう?」

 自信満々だ。
 だけど、僕は彼女自身の答えも知っている。

「君も僕を犠牲にしてまで、自分が生き残ることなんて望んでないよね」

 簡単。
 僕らは二人とも、お互いがいない世界なんて無意味だと思っているから。

「共倒れね、私たち」
「せめて心中って言ってくれないかな。美しくない」

 それでも僕らは、生きることにしがみつくのだろうけど。


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『僕』は『彼女』にめろりんこ。
『彼女』も『僕』にめろりんこ。
ドライでウェットな、そんな関係。

断片創作(Ich bin hier)

2008-08-03 | 創作
 朝起きて、ダイニングテーブルを見たら、青いお皿の上にサンドイッチ。
 私が苦手なみみの部分は切り落としてあって、パセリまで飾ってある。
 たまごサンドと、トマトハムサンド。

「……ハルちゃん?」

 私は彼の名を呼んだ。
 なあに、とキッチンの陰から笑顔で答えてくれそうな気がした。


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恋人のハルちゃん(遥樹)を亡くした私(鈴音)。
ハルちゃんはもう死んでるんだけど、鈴音が心配で化けて出ちゃうの。