机の上

我、机の上に散らかった日々雑多な趣味(イラスト・劇画・CG・模型・HP・生活)の更新記録です。

匂いのはなし

2019-04-26 06:15:00 | 楽描き
 環境にも匂いがある。
当たり前の話だが、そこに住み慣れた人には何でもない匂いでも他の人には苦痛の場合もある。

 結婚して間もない頃、会社の二階の住宅に住んでいた。
階下のシンナーの匂いが女房には苦痛らしくこぼしていた。
言い忘れたが当時の仕事は看板屋であった。
特に妊娠時にはつわりも手伝って深刻であった。
その事を何気に社長の奥様に言ってしまった。
同情されるかと思ったら、逆ぎれされて「ふんっ私なんかそういう環境で子供を育てあげた」みたいな事を言われ往生した事がある。
自分の生まれ育った境遇や環境をとやかく言われるのを嫌がるのはどうやら人の常らしい。

 女房の実家は酪農を営んでいる。
もうおわかりだと思うが、環境はおせじにも良くはない。しかし生まれ育った者にはあの家畜や糞の匂いも神聖なものなのだ。
以前に母と妹にドライブがてら女房の実家に牛でも見にいくかい、と誘った事がある。
二人は首を横に振り「私あの匂い嫌い」と二人は拒否をした。
そういう母の実家は漁師町である。そこはそこでけっこう個性のある匂いがして他所をとやかく言える立場ではないと思うのだが・・・・・。

 子供の頃、夏休みには母の実家によく遊びにいったものだ。
駅を降りると一番最初に磯の匂いがして次に魚の腐った匂いがした。
思い出の匂いで気にもならないが、観光客には苦痛らしく顔をしかめていた。
母はそこで生まれ育っているから気にはならないだろう。

 青年時代の大半を過ごした町は港町で、これまた独特な匂いがした。
往来を魚を大量に積んだトラックが何台も行き来して魚の匂いが町中いっぱいであった。
時々荷台から魚が落ちて、それをまた違う車が踏みつぶすという事態になり匂いは益々増すばかりであった。
カモメが魚を狙って群れ飛び、その糞があちこちにこびりついていた。
魚カスの肥料工場が町の外れにあり、その匂いが堪らないものであった。
引っ越して間もない頃は慣れるまで大変であった。

 匂いというものは奇妙なもので、ある人には苦痛でもある人には快感であるという場合がある。
猫の足裏の匂いが好きとか、使い慣れた枕の匂いが好きとか、人の趣味嗜好には謎が多い。

 昔、会社の先輩方の世間話をなんとはなしに聞いていたことがある。
その話というのはこうだ。
事務の女性の脇臭が凄いというのだ。手前は無頓着であまりそういうことには気にしない。
さらに付け加えると美人には匂いが臭い人が多いと言うのである。
確かに事務の女性は美人の部類に入る。
もちろん毎日風呂に入りきちんと化粧をしてでの話だ。
そういえば飲み屋での世間話で外国女性も匂いが独特だという話を聞いたことがある。
外国人は総じて男も女も匂いがきついらしい話は聞いたことがある。

 これも聞いた話で恐縮だが、もともと男女が抱き合ったり接吻をしたりするのは相手の匂いや味を確かめる為のようだ。
お互いの相性を確かめるために恋愛期間中にそういう営みをするのは人間の本能なのかも知れない。
確かにお互いの皮膚の味や匂いが気にならないのであれば、これからの長い期間も円満に添い遂げられる訳だ。

 無頓着な手前であるが一人だけ気になる女性が過去にいた。
その方は美人で長身でスタイルも良く教養もあり素敵な方であった。
しかしその方の側に寄ると独特な匂いがした。
なるほど、これが世にいう美人の匂いか。
悪い匂いではないが好みではなかった。いくばくかの恋心も失せてしまった。

 その後、彼女はどうしたかというと外国人と結婚された。
親御さんの反対もあり紆余曲折があり無事結婚されたと聞いた。
なるほど外国人か、と思い納得した。彼女の匂いは外国人から比べれば淡泊そのものであろう。
それは良かった。心で思った。

 あれから数十年、彼女も還暦を過ぎたであろう。元気であろうか。
スペインのアンダルシアの風は彼女に似合う。

 あなたの匂いを、もう一度嗅いでみたいと思った。



絵は当時の彼女をイメージして描いたもので、別項で記したものからの再録である。


 

 


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