真夜中の映画&写真帖 

渡部幻(ライター、編集者)
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ロバート・アルトマンの問題作『ポパイ』は決して「興行的」な「大失敗作」ではない。

2016-02-24 | ロバート・アルトマン


「でもスタジオはあの映画で金を失くしてはいないんでね。ただ期待したほどのヒットにはならなかったというだけのことで。いまや『ポパイ』は驚異の子守映画になっているよ」(川口敦子訳『ロバート・アルトマン/わが映画、わが人生』キネマ旬報より)

 ロバート・アルトマン自身語るように1980年の問題作『ポパイ』は巷で言われるほど客が入らなかった作品ではない。興行成績ではなくむしろ批評が悪かったのだ。「Mojo」によれば1980年のボックスオフィスで年間の12位($49,823,037)をマークしている。
 ちなみに同年の1位は『スターウォーズ帝国の逆襲』。『ポパイ』とシェリー・デュヴァルが主演したスタンリー・キューブリックの『シャイニング』14位だがから『ポパイ』のほうが上なのである。
 前年の1979年に『スーパーマン』がヒットして「アメコミの映画化」の走りの時代であり、それを受けての『ポパイ』映画化だった。ただこの作品は、撮影地に襲来したハリケーンによりセットが吹っ飛ばされ製作費がかさんだり、パラマウントの大物製作者ロバート・エヴァンズが麻薬スキャンダルを起こしたりでトラブル続きだった。会社としては『帝国の逆襲』並みに当たって欲しかったのだろうが、この数字でみるとおり善戦しているのである。



 ついでに「1980年間ボックスオフィス」から気になるタイトルを抜き出してみよう。4位にザッカー兄弟の『フライングハイ』、5位にクリント・イーストウッドの『ダーティファイター燃えよ鉄拳』、10位にジョン・ランディスの『ブルース・ブラザース』、11位にロバート・レッドフォードのアカデミー作品賞受賞作『普通の人々』、18位に『13日の金曜日』、21位にブライアン・デ・パルマの『殺しのドレス』、25位にデヴィッド・リンチの『エレファント・マン』、27位にマーティン・スコセッシの『レイジング・ブル』、31位にジョン・カーペンターの『ザ・フォッグ』、32位にアラン・パーカーの『フェーム』、33位にロマン・ポランスキーの『テス』、34位にケン・ラッセルの『アルタード・ステーツ』……と錚々たる作品群。このなかで低予算映画ゆえに「化けた」と言えそうなのは『フライングハイ』『13日の金曜日』『殺しのドレス』あたりだろうか。



 ちなみに25位の『エレフェント・マン』は日本では翌年に公開。なんと年間Ⅰ位の大ヒットだった。宣伝の巧妙により大化けに化けたわけだが、『ポパイ』のほうはと言えば、やはり81年の公開で年間興行チャートの40位以内にも入っていない(ゆえに何位なのかもわからない)。『シャイニング』が11位なのと比較して大コケであり、「失敗作」の烙印もこのあたりに理由がありそうだ。
 70年代後半から80年代初頭は超大作作家映画時代で、『ポパイ』のほか、コッポラの『地獄の黙示録』、そのコッポラとルーカスが出資した黒澤明の『影武者』、スピルバーグの『1941』、そして老舗ユナイテッド・アーティスツ社の屋台骨を揺るがした真の興行的大失敗作マイケル・チミノの『天国の門』などがあった。
 そんななか1982年に本国でヒットした超大作がウォーレン・ベイティの『レッズ』。この宣伝で日本に来日したベイティが、「日本は『エレファント・マン』がヒットするような国。僕の映画なんて当たらないだろう」と語っている新聞記事を読んだ記憶があるが、実際予言どおり日本ではまるで客が入らなかった。『レッズ』は1917年のロシア革命を記録したアメリカ人ジョン・リードを描いた作品で、いまもって日本ではマイナーな「ベイティ入魂の1作」である。日本では「社会派とコメディは当たらない」というジンクスがあるが、それは21世紀のいまも変わらない。近年だとスティーヴン・スピルバーグの力作『リンカーン』などはいい例だろう。
(渡部幻)

   


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