真夜中の映画&写真帖 

渡部幻(ライター、編集者)
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「Purple」 テリー・リチャードソンの白痴エロス Model:camille rowe

2012-02-11 | ファッション写真









テリー・リチャードソンという人は好き嫌いを超えて評価せざるを得ない。真似している人は多いが、明らかに彼に追いついてはいない。テリー・リチャードソンの写真世界は、そこがあたかも精神病院でモデルたちが患者であるような雰囲気がある。これは精神病院で夜な夜な巻き起こった狂態の記録なのだと、そう妄想させるのである。
ある夜、誰も来ない病院の密室のそのまた一室のなかで一切の社会性を奪い去られた精神科医=写真家とは患者=モデルたちが白色の蛍光灯の下でエロスを解放する。いっけん知性のかけらも見られない写真だが、しかしよく見るとその構図はまるで冷静沈着なのである。白痴のフリをした写真家は山ほどいる。だが、テリー・リチャードソンは本物の白痴になれる。白痴となりエロスの解放者としての自身を演じながら、同時にそのエロスを解剖医の眼差しで冷静に記録しているのである。


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