満月と黒猫日記

わたくし黒猫ブランカのデカダン酔いしれた暮らしぶりのレポートです。白い壁に「墜天使」って書いたり書かなかったり。

『バレエダンサー』

2008-02-27 01:22:48 | 

皆様ごきげんよう。いつもの電車に乗り遅れそうになりダッシュで何とか間に合い、ホッとしたものの、乗り継ぎの電車が故障で止まっていて結局遅刻した黒猫でございますよ。わたしのダッシュの労力をどうしてくれる。


で。

今日はこの間の『バレエダンサー』の感想を。

『バレエダンサー』(ルーマ・ゴッデン著、渡辺南都子訳、偕成社)

4人の兄と1人の姉のあとに生まれた末っ子の男の子、デューン。女の子を熱望していた母さんは、姉のクリスタルにかかりきりだし、父さんは八百屋の仕事で忙しいしで、デューンは家族にほとんど顧みられないでいた。
そんなデューンを育ててくれたのは、元サーカス団員で、父さんの店を手伝っているベッポーだった。デューンはごく小さいうちからベッポーに軽業を教わり、身軽さを身につけていたが、ある日、姉の通うバレエ教室についていってバレエに魅せられる。クリスタルしか目に入っていない母さんは気付かなかったが、バレエ教師のミセス・タマラとバレエピアニストのミスタ・フィリクスはデューンの才能を見抜いていた。クリスタルは母親の、デューンは周囲の大人の期待を受け、バレエを続けるうち、クイーンズチェスという王立バレエ学校への道が開けるが・・・?


というようなお話。


盲目的なまでにバレエに情熱を注ぐデューン、自分が一番でないと気が済まない高慢なクリスタル、娘のためなら命までも差し出しそうな母、何事にも寛容だけど、保守的すぎる父。
主要キャラクターがとにかく強烈で面白かったです。

主人公はデューンだと思って読んでましたが、下巻ではクリスタルの心理描写も多いし、原題が「木曜日の子どもたち」というところを考えるに、ふたりともが主役のようです。この原題はマザーグースの歌の一節だそうで、「月曜日のこどもは べっぴんさん、火曜日のこどもは お上品、水曜日のこどもは 悲しみ続き、木曜日のこどもの道は遠く」というのから取ったそうです。デューンもクリスタルも、長く困難な道をゆく木曜日のこどもだそうです。深いなあ。原題のままのほうがよかったのに。日本だとマザーグースの馴染みが薄いのでいまいちインパクトに欠けると思われたんでしょうか。


内容としては、全体を通してお母さんのクリスタルへの偏愛ぶりがとにかくものすごいです。時折デューンをはっきりと邪魔者扱いしていて、デューンはよくグレなかったなあという感じ。デューンなど眼中にない両親に代わってデューンを育ててくれたベッポーも、このお母さんが理不尽にクビにして、追い出してしまうのです。その後デューンが出会った生き甲斐であるバレエも、周囲が明らかにクリスタルより才能があると認めているのに、お母さんはむしろそれが癪に障ってならない様子。両方実子なのに何その扱いの差。
クリスタルが「あんたはホントはうちの子じゃないのよ」と意地悪な嘘をつき、デューンがそれを信じて悩むくだりがあるんですが、そら信じるよなあ、あの扱いの違いだもん。
でもそれを言うと、4人の兄たちはかなりチョイ役なのでもっと可哀想かも。長兄のウィルだけはいいとこ持っていきますが、他3人はほとんど名前もろくに出てこないくらいです(笑)。


かといって、お母さんにとことん甘やかされて育ったクリスタルが幸福かというと、そうでもないようで。
人目をひくほどの美貌に恵まれ、バレエのほうも、デューンには及ばないものの、人並み以上の才能があったものだから、誰かが自分の上を行くのを許せないのです。それを抑える術を誰にも教わらなかったものだから、すごい問題児になります。色々問題を起こしはしますが、時折そんな自分を持て余して葛藤する様子を見せ、最終的にはやや成長します。好感の持てる子ではないですが、でもこの成長過程はちょっといいなと思います。

パっと読むとクリスタルとお母さんが意地悪というか自分勝手なキャラで、デューンが可哀想な感じもしますが、発露の仕方が地味なだけで、デューンも自分のやりたいことに関しては結構我儘です。お話の登場人物としては、みんなかなり人間的でリアルです。いいところももちろんあるけど悪いところ多め、だってにんげんだもの、みたいな。

他のキャラクターもみんな一癖ある人が多く、魅力的でした。デューンの最初のピアノの先生となる職人気質なバレエピアニスト、ミスタ・フィリックスが好きでした。ちょっぴり偏屈な芸術家としていい味出してます。
でも脇役の中で一番うわあと思ったのは、ユリ=コゾルスというプロのバレエダンサー(男性)。天才なんですがすぐ女性を口説く天然のたらしで、それが色々と問題のもとになります。でも芸術家ってこういう、何と言うか道徳感というか倫理感というか、そういうのが欠如してる人いるよなあ、と妙に納得してしまいました。多分デューンは成長したらこういうタイプになると思う(笑)。

しかしひとつの道を追究する者はどの世界もホントに厳しいんですね。デューンとクリスタルがクイーンズチェスで成長する間に、級友たちがどんどん脱落したり転身したりしていくのもシビアでリアルです。

装丁やルビの多さからヤングアダルトに分類されているようですが、全年齢向けだと思います。大人も子供も読むといいよ!
個人的には是非とも山岸凉子さんにアラベスク一部の頃の絵で漫画化してもらいたいです(色々無理)。
コメント
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