「短い小説」岳 洋著

ひとり静かに過ごす、土曜の夜のひと時・・・

 

ケチンボ青春旅行 3

2018-07-14 23:51:24 | 日記

吾々の規則はまず幹事を決める。幹事に予め旅行資金を預ける。壱銭なりとも隠し現金携帯は厳禁と厳しく守る。行き先不明となれば当然泊りも不明となる。この旅行の醍醐味はここにある。車の燃料や昼飯も飲料も全て幹事の一存で支給される決まりの「ケチンボ青春旅行」である。

この物話は昭和39年の東京オリンピックが終わり日本中の街々が落ち着きを取り戻した頃の長閑な平和な当時の若者の五人組が織なした青春物語である。

旅に出発する吾々にとっては、いつものことで気にしていない。だが、周りは噂を耳にして余りにも滅茶苦茶な無鉄砲だと思うらしく気になるようだ。

明日から大型連休が始まる前の日、社員食堂から昼食を終えて戻ってくると、待ち構えたかのように

 「ドライブに行くそうだけど何処へ行くのだい」

課長は書類を見ながら聞いてきた。

 「まだ、決めていません」

書類を机の上に置きながら

 「北か南くらいかは決まっているだろう」

 「それも、決まっていません」

噂を耳にしていたのだろう一瞬呆れた顔を・・直ぐに笑顔で・・

 「気を付けて 元気に 行って来い・・」

空は五月晴れ。

全員が駐車場に集合した。ガソリンは満タン万事往来。

運転は一人50㎞で交代。

さて、行き先は・・・国道何号線を走るかでその方向にある泊まる温泉地が決まる。

弥次喜多の時代で言うならば甲州街道かそれとも中仙道と来るが、現代のいま流では国道2号線にするか、それとも国道4号線にするかで日本列島を南北に大きく分かれることになる。

誰言うとでもなく

 「何号線を走る どうする」

 「17号線を走ろう 信州は春がいいぞ~」

 「決まり 他になければ国道17日号線で決まりだ」

何時もの通り誰もが議事進行して決めるのが吾々のやり方だ。

 「じゃ~決まり。俺が運転するよ」

こうして手際よく、それぞれの役割分担が決まり車は5人を乗せて人通りの少ない、静かなオフィス街をスタートした。

車内で資金の千円が幹事の猿ちゃんに手渡された。

つづく


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