ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

瓦版078 元旦の双子誕生

2009年01月02日 | ユクレー瓦版

 予定日の30日になってもマナに陣痛は来なかった。
 明けて大晦日、一昨日から島にいるジラースーは表向き平静を装っているが、内心はソワソワしているに違いない。私やケダマンが声をかけても気付かなかったりする。

 今日はユクレー屋の大掃除だ。マナはもちろんのこと、ウフオバー、ユイ姉、ユーナ、マミナ先生、助産婦さんら女性陣はみな母屋でのんびりユンタク(おしゃべり)しているので、掃除担当はケダマンと私だけ、の予定だったが、ジラースーにも手伝って貰った。どうせ落ち着かないなら、掃除でもやって気を紛らわして貰おうってこと。

 掃除の最中、昼前に助産婦さんが店に来て、ジーラースーに声をかけた。私やケダマンの声には気付かないジラースーも助産婦さんの声には即座に反応する。
 「なんだ、出たか?出るか?出そうか?」と、いつになく早口の質問。
 「そうだね、もうそろそろだよ。今夜遅くか明日の朝には出てくるよ。」と、助産婦さんはニコッと笑って答える。その言葉にジラースーはホッとした顔になる。
 「よろしく頼むよ。こんな時、男は何の役にも立たねぇ。」
 確かに、男は役に立たない。じっと待つしかない。

 さて、掃除は、3人で頑張って、夕方にはいちおう終える。きれいになったカウンターだがしかし、やがてすぐに散らかる運命だ。アルコールタイムとなった。大晦日の夜、年明けを待ちながら、新しい命の誕生を待ちながらの、ワクワクの酒である。
 ユイ姉もユーナもまだ母屋から出てこないので、セルフサービスだ。ケダマンと私はジョッキにビールを注ぎ、カウンターに腰掛け、労働の後のビールを味わう。しかし、ジラースーは、落ち着いて酒を飲む心境に無いのか、ビールを注ごうともしない。
 「ビール、注いでやろうか?今夜遅くって言ってたから、ビールの2、3杯、泡盛の何杯かは飲む時間があると思うよ。」と訊くと、
 「あー、そうだな。・・・いや、ちょっと散歩してくるわ。ケータイ持っているから、何かあったら電話してくれ。」と言って、彼は出て行った。酒を飲むより散歩の方が落ち着くのかもしれない。そして、それと入れ替わるようにしてガジ丸が来た。
 「そこで、ジラースーと会ったよ。今夜遅くなんだってな、予定は。」
 「遅くとも明日の朝なんだってさ。」(私)
 「シバイサー博士はどうしてるんだ?来ないのか?」(ケダ)
 「あのオッサン、人間の子供が産まれるなんてことには興味が無いだろう。まあ、普通に、新年を祝うために遅くなってから来るかもしれん。」(ガジ)
 というわけで、ここからマジムン3匹の大晦日の酒となった。酒の肴はいくつか、既にユイ姉が準備している。楽しみを待ちながら、幸せな時間が流れていった。

 年明け1時間ほど前になってジラースーが帰って来た。シバイサー博士と一緒だった。ジラースーの手には網の袋があり、その中には魚が入っていた。
 「釣をしてたのか?」(ケダ)
 「あー、チン(クロダイ)を釣ってきた。」
 「それで、博士を誘ったってわけか?」(ケダ)
 「違うだろ、尾頭付きで子供の誕生を祝うってことだよ。」(私)
 「まあ、そういうことだ。」
 「いや、私は、その魚に釣られて来たんだが、今、食えないのか?」(博士)
 「博士、悪い、これは後のお楽しみだ。」と言って、ジラースーは台所へ行き、チンを捌き始めた。チンは5尾もあり、どれも大ぶりのものであった。短い時間で5尾を釣る。釣ってやるぞというジラースーの気合がいかに強かったかが窺い知れる。

 台所のジラースーは除いて、4匹となったマジムンたちは酒を大いに楽しんだ。年が明けるちょっと前になって、マミナ、ユイ姉、ユーナの3人が母屋からやってきた。
 「朝になりそうなんだってさ。マナとオバーと助産婦さんは朝に備えて就寝中。」とのこと。3人は我々と一緒に年越しソバを食い、年明けを祝った。
 女3人が母屋に戻り、ジラースーが座敷で仮眠に就く。シバイサー博士もいつものようにトロトロと半分寝ている。マジムン3匹はしかし、飲み続ける。そして、夜明け頃。ユーナがジラースーを起こしに来た。「もうすぐだよ。」

  予定日より2日遅れの1月1日、その早朝、まさに元旦、マナが無事出産した。目出度い正月に、目出度さが重なったわけだが、目出度い出産はまた、Wの喜びであった。双子であった。しかも、男の子と女の子の双子。さらに、母子共に健康だ。

 ジラースーの釣ってきたチンは3尾が尾頭付きの塩焼きにされた。
 「何で3尾?」と訊くと、
 「子供二人とマナの分だ。」
 「だな。子供二人におめでとう。マナにありがとうの意味だな。」(ガジ)
 「じゃあ、何で5尾も釣ってきたの?」
 「ひょっとしたら四つ子かもしれないと思ったからだ。」とのこと。
 塩焼きの3尾もお裾分けに頂いたが、残りの2匹は刺身にしてご馳走となった。さらにもう一つ。この日のために作ったという唄をガジ丸が披露した。良い唄だった。肴に恵まれて、我々の酒は年が明けてからもなお続いた。目出度い正月であった。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2009.1.2 →音楽(交差点の挨拶)